第22話【情報】
誤字脱字・表現の誤りにはご容赦願います。
日が暮れた頃、我が家がある都市に俺達は戻って来た。
夕食と情報収集を兼ねて酒場(傭兵ギルド)へ俺達は向かった。
酒場へ入るといつもより随分賑やかな雰囲気になっていた。
3割増ぐらいに多いかもしれない。
大体、混んでいるといっても空きの席がパッと見ても分るぐらいだったが、今回は空いている席が見当たらない。
「何かあったのだろうか?」
「さぁね。それよりも私は空腹だわ。早く席に着きましょ?」
「ああ…。でも、空いてるか?」
「探せばあるわよ。私は席探しておくから、アキラはギルドで情報仕入れてきたら?」
「ああ、わかった」
俺はアヤカと別れ、傭兵ギルドの受付カウンターへ向かった。
前に会った職員と違う人だった…交代制なのだろうか。
「ようこそ、傭兵ギルドへ。今日はどういった御用件ですか?」
「闇の森についての情報と関連する依頼があれば紹介して下さい。
登録番号は、390067581です」
「少しお待ち下さい…………。
お待たせしました。その前にアレックス=ナインライドの討伐をされていますよね?
これが報奨金となります。お受け取り下さい。」
「あ、いや。ボクは討伐していない。アヤカ=ツキカゲが討伐した事になってる筈ですが」
「ツキカゲ様のご要望により3分の1は、あなたに入るように手続きされているようですが?」
「そうなのか?分った受け取っておくよ。
ボクとアヤカの報奨金は、1000Gだけ手渡しで残りは口座へ振り込んでおいてくれ」
「分りました。……それでは、これが1000Gです」
俺は、ギルド職員から1000Gの入った袋を2つ受け取る。
「では、闇の森に関する情報ですね」
「ああ」
「現在、闇の森は一般人の立ち入りを禁止しております。
アースガント族の1人が、足を踏み入れた者に無差別で襲っているからです」
「ちょっと待ってくれ。確かそれは2、3ヶ月前にも聞きましたけど?
騎士達に討伐命令が出されていた筈」
「はい。何度か騎士達の討伐作戦が決行されました。
ですが、討伐どころか騎士達に大勢の負傷者が出まして、
現在その討伐は傭兵の方へ依頼として回って来ております。
騎士からの止む得ない依頼という事もあり、以前よりも報奨金が上乗せされ19200000Gとなっております」
「それだけの額だと誰か討伐しに行った傭兵がいるんじゃないですか?」
この額だと、上位ランクの傭兵が討伐しに行っても不思議じゃない。
「はい、そう思って現在ノースブレイ王国に滞在している上位ランクの傭兵に
ご推薦しようと思ったのですが…。
残念ながら雷迅ヴォルトを含めほとんどの上位傭兵が出国されておりました。
アヤカ=ツキカゲ様に連絡しようと思ったのですが、タイミングが悪かったようでして…」
「ん?なら、アヤカを呼んで来ましょうか?
酒場の方にいますし…」
「あ、いえ。伝言だけお願いできますか、後日お返事を頂ければ良いので…」
「分りました。そうします。じゃ、情報の方を教えて下さい」
「まずは、依頼などに関しての情報です。
1つ目は、行方不明になった人達の捜索です。
これは、恐らくですが、アースガント族と連動する依頼だと思います。
彼に襲われたであろう、商隊や傭兵の行方が分らなくなっており、その捜索ですね。
生死は問いませんので発見しましたら、連れ帰って下さい。
死亡していた場合は遺品だけでも持ち帰ってください」
アヤカがアースガントの依頼を受けたら、ついでに受ける感じで良いな。
というか、傭兵まで行方不明になっているのか…。
「2つ前は、レッドアイベアの討伐です。
レッドアイベアの親子熊の目撃情報があり、闇の森近くの民家が襲われたという報告が入っています。
母親熊と見られる熊は、体長3mほどあると言われており、早期討伐を望んでいます。
なので、ご依頼を受けてから報告までの期間が短ければ短いほど報奨金が上がります。
注意して頂きたいのは、受けてから1ヶ月過ぎますと依頼放棄となりまして罰金が発生します」
レッドアイベアは、個体差によるレベル差が激しいMobの筈だ。
改変前なら下はレベル30ぐらい、上はレベル80ぐらいだった。
レベル30ぐらいの熊はいわゆる小熊だ。
体長は、1.50mぐらいで大きくはないが、凶暴なのは変わらない。
レベル80ぐらいにもなると体長が3mにも及ぶ、そこらにいるエリアボスよりも強い。
「3つ目は、ウッドウルフの討伐です。
実質的な被害報告はないのですが、ウッドウルフの毛皮をご所望してる商人の方の依頼です。
大体30枚ほどで良いそうですが、1枚ずつ増える毎に追加報酬を払うそうです」
ウッドエルフは、闇の森で一番生息数が多くレベルの低いMobだ。
大体、レベルは40ぐらい、まぁレッドアイベアの小熊よりはレベルが高い。
ウッドウルフは、生活のほとんどを木の上で暮らす狼には稀な存在だ。
しかも、群れで生活しているのですごく厄介なのだ。
毛皮の色は、緑と茶色のツートーンの迷彩色なので目視で見付けるのは難しい。
襲われるのを待つしかないのだ。
まぁ、気配察知やディテクトを使えば難しくはないのだが…。
「4つ目は、トレントの討伐です。
目撃情報が少ないので、私どもからもあまりアドバイス出来る事は少ないです。
過去の目撃情報では、トレントの周りに異常と言えるほどのウッドウルフが群れていると聞いた事があります。
討伐依頼はありますが、ここ6,7年誰も目撃していませんし期待はしておりません」
改変前だと、ウッドウルフを100匹近く狩ると出てくるエリアボスだった筈だ。
トレント本体も厄介だが取り巻きのウッドウルフとレッドアイベアの方が脅威だ。
なんせ、レベル45~50ぐらいのウッドウルフが30匹ほどとレベル90のレッドアイベアが2匹なのだ。
それだけじゃなく、周囲100m以内のウッドウルフを呼び寄せる「遠吠え」スキルを持っているのだ。
レッドアイベアの方も、「威圧」という、自分よりレベルの低い相手に対して一時的に能力を下げるスキルを持っている。
トレントは、地属性の魔術と射程の長い根による攻撃を多用する。
しかも、魔術は無詠唱ときている上に、取り巻きMobを巻き添えにして使ってくる。
乱戦だと危険な存在だが、木なので火属性の魔術に弱いのが唯一の救いだな。
「こんなものですね」
「なるほど、良く分りました。取り合えず、1つ目以外は全て受けておきます」
「では、ここにサインをお願いします」
俺は、依頼書の受領欄に傭兵登録番号と名前をサインする。
「1つお聞きしたいのですが…」
「何でしょうか?」
「闇の森に精霊がいると聞いた事があるのですが何か知りませんか?」
「精霊ですか……、そうですね。
数百年前まで闇の森には、闇の精霊ベルセウスがいたと伝わっております。
闇の森の由来でもありますね。今もまだいるかは分りません。
石碑の場所は確認されておりませんし、精霊使いが訪れたという話も聞いた事がありません」
「そうですか…。ありがとうございました」
「お役に立てませんで申し訳ありません」
俺は席を立ち礼を言い、その場を離れ酒場の方へ向かった。
アヤカはどこにいるかなっと。
俺は酒場の中を見渡すと、奥の角にあるテーブルでアヤカが手を振っているのを見つけた。
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「お待たせ」
「もう料理の方は注文してあるから…」
「ふむ。なぁ、アヤカ。
傭兵ギルドの職員がアヤカにアースガント族の討伐を依頼したいそうだ」
「ああ、あの…。まだ、討伐されていないんだ?
というか、私じゃなくてもこの都市ならいくらでも上位ランクの傭兵いるでしょ?」
「いや、今は狩る事が出来そうな傭兵はアヤカだけらしい…。
俺の予想でしかないが、ヴォルトと同様でフィレシェット大陸に向かったんじゃないかな」
「なるほどね。ま、後で話だけは聞いてくるわ。
で、こっちの話なんだけど…。
この満席状態の原因は…ほら、あそこ…カウンター前にいる人。
あの人が原因みたい。
何でも改変によって変わった事の情報を世界中で集めているらしいわ。
んで、今、あそこで情報の提供と収集をしていて、人だかりが出来ているの…。
テーブルにいる人達は、順番待ちがほとんどかな」
アヤカが指差した先には、人だかりがあり、その中心にフード付きのコートと大型のリュックを背負った人がいた。
その服装は、長距離の冒険や旅行する際のオーソドックススタイルだ。
世界中を旅しているのは間違いなさそうだ。
「そうなのか…。という事は、ここにいる人達は全員プレイヤーって事か…」
「みたいね」
「ま、気になりはするが、まずは腹ごしらえだ。
腹減って仕方ない」
「ふふ、そうね。あ、来たみたいよ…料理」
アヤカの視線の先には、人だかりを器用に避けてこちらへ来るウェイトレスがいた。
テーブルに色とりどりの料理が運ばれてきた。
そして、アヤカの前にはワインが俺にはコーラっぽい炭酸飲料が置かれた。
「なんで俺だけジュースなんだ?」
「アキラは未成年でしょ。それにお酒飲めるの?」
「飲めないな…」
確かこのキャラになってから一度だけ酒を試したが、すぐに酔い潰れた気がする。
リアルでもあまり酒は飲まなかったしな。
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「大分、人が減ったわね」
「そうだな」
情報交換の時間が終わったのだろうか。
俺達が夕食を食べている間にあれだけ満席だった酒場内は、人も疎らになり厨房内の食器を洗う音が聞こえるほど静かだった。
「こんばんは。少し宜しいですか?」
その時、俺の背後で男が声を掛けてきた。
さっきまでの人だかりの中心にいたプレイヤーだった。
「ああ、良いですよ。で、ご用件は?」
大体、察しは付くが一応聞いてみた。
「私と情報を交換して貰えればと思いまして…。
先ほど交換してませんよね?」
「そうですね」
あの人ごみには入りたくなかったし、空腹だったのもある。
「早速ですが、まずは私の話を聞いてもらえますか。
OS社が発表していた情報とプレイヤー達から集めた情報を合わせた話になります。
その上で、あなた達が持っている情報がその中になければ私に教えて下さい」
「わかりました。どうぞ…」
「はい」
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彼の話は、大体30分ほど掛かった。
その中で俺達が知らない情報がいくつかあった。
大体察しは付いていた事だが、デスゲームであるとの事。死亡したらゲーム内から存在が消えるらしい。
これはOS社の調査により改変後閉じ込められたプレイヤーの人数が減少している事から間違いないとの事。
ただし、24時間以内に蘇生法術を施せば生き返る事が出来るらしい。
魂のような存在になり、その場で蘇生されるなで漂うらしい。
改変前は、2時間半以内に蘇生されれば生き返った事から、
その10倍時間が遅い改変後は23時間もしくは24時間以内だろうとの事だ。
今までゲーム内に存在していなかった街や都市が各国に出現しているらしい。
ノースブレイでいうアビスタのような街なのだろうな。
恐らくだが、データとして存在していたが何らかの理由で実装されなかった街やイベント限定の街らしい。
これは、OS社に確認を取ってるので間違いないようだ。
それにともなって、今まで”要塞都市”と固有名称のなかった街や都市にも名前が付いたらしい。
改変前、この都市は”傭兵都市”と呼ばれていた…。
というか、今も俺はそう呼んでいるが、「ヴェユス」という名前が付いたようだ。
それと良く似ている事では、データとして存在していたが何らかの理由で実装されなかったアイテムや実装前のアイテム、さらには構想段階のアイテムまでも実装されているようだ。
ぶっちゃけ、改変前でもアイテムの数が膨大でほとんど把握仕切れていなかった。
どれが実装前からあった物なのか、なかった物なのかが分らない。
武器限定で言っても、伝説級は今の所アヤカの持つゴッドブレスだけしか発見されていないし、
比較的簡単に発見できると言われている唯一級でさえ一部しか発見されていない。
魔法や精霊にもそれは当てはまるとの事だ。魔法は俺も知っていたが、精霊もなのか…。
禁呪習得クエストが無くなったらしく、禁呪習得法がまだ発見されていないようだ。
いつか来るかもしれない対ヴィーナス戦に備えて禁呪の習得したいところだ。
何とか見つけ出したいな。
5年継続報奨のNPC種族ドラゴニアと10年継続報奨のNPC種族グレゴリの目撃情報があったらしい。
まだサービス開始から3年なので、NPC種族としてもまだ未実装段階だった筈なのだが…。
とすると、新たな国家もしくは地域が出現している可能性があるな。
その辺は、OS社もまだ確認出来ていないらしい。
新しいカテゴリーの武器が実装されたようだ。
機工武器いわゆる剣と銃が合体した様な2種類の武器を合わせたハイブリット武器だ。
機械の義手で銃が内蔵されている防具は、次回アップデートで実装される筈だった。
機工武器は、それよりも後に実装される筈なのに改変によって同時に実装されてしまったらしい。
これに伴って機工技師というロールが実装されているらしく、プレイヤーの中にはすでになっている人もいるとの事。
ちなみに、モルディオ自治領区でしか販売されていないらしい。
モルディオ自治領区は、フィラシェット大陸に一番近い国家でカルディア王国領内にある。
リアルな地理的にハワイの位置にある。
島全体が都市で出来ており、港が島内部にある。
分厚い外壁に覆われて、島と海を唯一繋いでいるのが港のみと徹底されている。
船舶の造船も出来るようになったようで、それに伴って船舶の種類と船大工も実装された。
船舶のデータはデータ内にあったが、プレイヤーが利用できる船は限られていた。
船大工はそれ自体実装される予定もなかった。
E/O発表時のPVでちょっと出ていたが、”この映像は開発段階であり云々”通り実装されなかった。
それと改変前と改変後のデータ量の差異は大体40Gほどで、約1.5倍ほどに膨れ上がっているらしい。
彼の話によると情報屋をしているプレイヤーとOS社が協力して情報を集めているそうだ。
情報屋が情報を集め、OS社がデータとの照合と確認をしているらしい。
他にも色々気になる情報があったが、まぁこんなものだろう。
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「気になる情報はありましたか?」
「ええ、やはりデスゲームだったのね」
「まぁ、蘇生できるなら良いんじゃないか…」
「その辺に関しては、死亡する確率を極力控える為に、みなさんはクランを結成したらしいです」
「クラン?」
アヤカは、E/Oが初めてのMMOだから聞きなれない言葉のようだ。
俺は、まぁ学生の頃UO2に出会う前はネット難民だったし、
色々なゲームに手を出していたからクランの事は知っている。
実は、E/O特に傭兵をしているプレイヤーはソロプレイが基本だ。
俺やアヤカのように師匠と弟子の関係にあるようなペア狩りをする者達がいる。
組んだとしても少人数のパーティなのだ。
騎士には、システム上”騎士団”と呼ばれるパーティが存在するが、傭兵にはないのだ。
あえて言うなら、依頼の人数指定によって一時的パーティを組まざる得ない時のみ集団行動をしている。
システム上、パーティがない傭兵には集団で行動するメリットはほとんどないと言えるな。
傭兵の中には1つの目的を達成する為、行動を共にする者達がいるがかなり特殊だ。
例を挙げるならば、”龍殺し”を専門にする集団や戦争時の傭兵騎士団あたりだな。
ちなみに、”八迅”のメンバーは、戦争時に一時的に組んだ傭兵騎士団の仲なのだ。
お互いフレンドであったが、パーティやクランを結成していた訳ではない。
戦争に勝利するという目的があったからこそ、一時的に組んだに過ぎないのだ。
「ええ、他のゲームでいうギルドですよ。
傭兵ギルド等と差別化する為にクランと呼んでいますが、行動を共にする仲間と言ったところでしょうか」
ちなみに、このゲームのギルドは、傭兵ギルド、魔術師ギルド、職人ギルドがある。
プレイヤーが作れる商会や情報屋のネットワークもギルドに含まれる。
「なるほどね」
「では、そちらの情報を教えて頂けませんか?」
「教えて頂いた情報に少し近い情報ですが…伝説級の上に神話級というランクが実装したみたいです」
「神話級ですか…?」
情報屋は、なんだそれ?みたいな表情を浮かべた。
「それは、見たのですか?それとも入手したのですか?
入手したのなら、如何程の性能なんですか?」
疑っているようだが、興味はあるみたいだ。
「入手しましたが、使用は出来ないです。
性能は、伝説級を大きく上回りチートと呼ばれてもおかしくないですね」
「使用できないとはどういう事ですか?」
「鞘がないと焼け死ぬ仕様のようです。
恐らくですが、これ以外に神話級があったとしても何らかの理由で使用できないのではと思います。
まぁ、推測ですけどね」
「なるほど…是非ともその武器を見たいですけど、今回は諦めましょう。
取り合えずは、それ以外に何かありますか?」
「先ほどの話にMPを使い切ると気絶するという話がありましたが、
SPが切れても同様に気絶しますよ」
「それは実践した結果という事ですか?」
「はい、まぁ、SPを使い切る技がありまして…」
改変前なら一時的な行動不能だったので自然回復でも余裕だったのだが、
さすがに気絶は良くないよな…ほんと。
要改良だ。
「これだけですね。後は、あなたの情報に類するものばかりです」
「貴重な情報ありがとうございました。それでは、私はこれで…。
あ、私の名前はヒューイ=カーバインです。
次お会いした時は是非とも神話級を見せて下さいね」
ヒューイと名乗った情報屋は、俺達に手を振り出口へ向かっていった。
「じゃ、私達も出ましょうか」
「ああ、そうだな」
「私はギルドへ寄って行くからアキラは先に帰っておいて…」
「了解」
俺は、酒場を出て1人で我が家に帰った。
どうだったでしょうか
前話から大分、間を空けてすみません。