第19話【蛇腹】
誤字脱字、表現の誤りにはご容赦願います。
数度、アレクと剣を交えていたので本気と言っても、要は間合いに入らなければ当たらないという事だ。
だが、やはり今までと比べ物にならないぐらいの鋭さがあり、ギリギリで避けるのがやっとという状況だ。
「これも避けるか…。あんたやるじゃないか。
間合いの方は、大体把握したが見えない刀身ってのも奇妙だぜ…」
まだ、喋る余裕があるのか…。
俺は、アレクの袈裟斬りを最小限の動きで避ける。
まずは、そっちにも余裕はない事を教えてやらないとな…。
『居合・壱之太刀』
結構、不意を突けたと思ったのだが、ギリギリで気付いたようで避けられる。
「ぐっ…」
完全には避けきらなかったようで、左脇腹から出血した。
アレクは追撃を警戒したのかバックステップで間合いを空ける。
「どういう事だ…?」
出血した脇腹を手で押さえながらアレクは後ろを振り向き、扉に真空波で付いたであろう斬り傷を見る。
「なるほどね。あんたも一筋縄ではないという事か…。
本気だけでは勝てそうにないな」
??本気以上に何かあるというのか…。
アレクは再び脇構えに構えなおし攻撃体勢に入る。
俺はアレクの言葉の真意を確かめる為に、回避に集中する。
アレクは、間合いを詰める為に1歩前へ出る。
そして、さっきまでと変わらない鋭さで横薙ぎを仕掛けてきた。
俺はすでにアレクの間合いは把握していた為、縮地を使わず大きくバックステップをした。
「いづっ!」
しかし、避け切れなかったようで俺の鎖骨と胸の中間を掠り横一文字に肌が切れた。
「え!?」
間合いは完璧だった筈なのに何で…。
「完全に避けたと思ったのか?」
俺の困惑を見透かしたのかアレクからの攻撃が激しくなる。
俺が間合いを読み誤ったのかと思ったが、どうもおかしい。
さっきよりも余裕を持って避けた筈なのに、それでも当たる。
くっ、考えても仕方がない。
避ける事が出来ないなら、攻撃できないように攻勢に出るしかない。
アレクが俺の首元付近に攻撃をしてきたので、伏せる事で回避しカウンターをお見舞いする。
『居合・伍之太刀』
低い姿勢から放たれた草薙の真空波はアレクの足元を薙ぎ払う。
しかし、至近距離で放ったにも関わらず、剣を地面に突き刺した後、棒高跳びの要領でそれを避けた。
「ひゅ~、あぶねぇ。そんな体勢から攻撃する奴なんて初めて見たぜ」
剣を肩に担ぎ、まだまだ余裕と言わんばかりの笑みをしていた。
「っ…」
俺はそんな態度のアレクを睨む。
「ん?ああ…。こんなに死合が楽しいのは久々だからよ…つい笑ってしまった。
ところで、俺の間合いは把握したか?」
「………」
「ふ、その様子だとまだみたいだな。
そろそろ、あんたの命を貰うとするか…」
俺とアレクとの距離は優に3mは離れていたにも関わらず、アレクはおもむろにその場で剣を振った。
嫌な感じがした俺は咄嗟に天井に付く程度にジャンプすると、何かが俺の足元を薙ぎ払っていった。
一瞬で何だったのか分らなかったが、それがアレクの攻撃だと何となく分った。
そしてその何かはアレクの手元で方向を変え、ジャンプしていた俺に目掛けて迫ってきた。
俺は、身体を捻り攻撃を避けたが、少し間を置いて背中に刃物が突き刺さるような激痛が走った。
「あぐっ!?」
俺の背中を抉るような何かに引っ掛けられ、床に叩き落された。
その時、アレクのいる場所あたりから『ガキンッ』という硬い物がぶつかる様な音がした。
「……っ」
俺は激痛に耐えながら立とうとするが、背中が焼けるように熱くすぐには立てなかった。
というか、視界がぼやけてきた。これヤバイかもしれない…。
俺は状態異常の確認すると「猛毒」「出血」状態になっていた。
残りHPが985…大体半分以下になっており、さらに3秒間に20ぐらいのペースでHPが減り続けていた。
アレクが追い討ちをしようとしているのか、こちらへゆっくりと近付いてきた。
早く、回復させないと…
「女神…ヴィーナスの名のもとに…我が身…」
アレクは俺の目の前に来て、剣を振り下ろす。
俺は、残った力で何とか剣の直撃は避けれたが、右腕を貫いた。
「あぐっ」
アレクは、俺の右肩に足を置き、一気に右腕から剣を抜いたので周囲に血を散らした。
残りHP582…本格的にやばい。
「ハァハァ…を…蝕みし負の力を浄化させたま…え」
アレクは再び振り下ろそうという時に詠唱を終え、残るはスペルを言うだけになる。
「ちぃ」
アレクは舌打ちの後、今度こそと俺の心臓目掛けて振り下ろしてきた。
俺は身体を捻りながら右手に持っていた刀を振るいアレクの剣を弾く事で軌道を逸らす事に成功する。
「キュア…ライト!」
残りHP378で何とか「出血」と「猛毒」の猛威から避ける事が出来た。
でも、視界は赤く危険信号が出ていた。
「はぁはぁはぁ…」
「その状態で法術を使うとはな…」
アレクは俺の髪を掴み上げ俺を立たせると、左腕で俺の首を絞める。
少しずつ首を絞める力が増していき、俺の意識が失われようとしていた。
このままでは本当に死んでしまうかもしれない…なら一か八かだ。
運が良ければ、少しHPが残りアレクにダメージを与えられる。
運が悪ければ、クリティカルダメージで死ぬだけだ。
俺は、刀を俺の右脇腹に剣先を付け、自分の身体ごと密着状態のアレクに向かって鍔の辺りまで深く突き刺した。
「ぐはっ…!??な、なにぃぃ」
激痛ととも自分の身体とアレクの身体を裂く感触と共に、突き刺した箇所が焼けるように熱くなる。
アレクの腕が首から離れたタイミングで縮地を使い大きく離れた。
残りHP16…急所を避けたとはいえギリ過ぎる。視界がほとんどないほど真っ赤に染まっていた。
そして、俺は早口で治癒魔法を詠唱する。
「主神ガディウスに慈悲を請う。大いなる祝福と愛を以って我が身を癒し給え。ヒーリングブレス」
これは、基本法術の上位治癒魔法だ。
本来、俺は中位までしか使う事が出来ないが、種族属性のお陰で上位まで使用できる。
MPを大量に消費する代わりにHPを全快してくれるだけでなく、部位欠損以外のあらゆる傷も治してくれる。
ちなみに、状態異常は治せない。
俺の視界が回復したので、アレクの方を見ると傷口を押さえながらこちらを睨んでいた。
「……自分の身体ごと俺を貫くか……」
アレクは今まで見せていなかった怒りにも似た感情のまま剣を構えた。
どうやら、アレクは「出血」の状態異常のようで足元に血が滴り落ちていた。
アレクには自身の傷を治す手段がないのか、止血しないまま構えた。
「俺には時間がないらしいな…
お互い出し惜しみなしだ。早々に決着を付けさせてもらう!」
その言葉を合図に俺とアレクは持てる力を出し切るかのようにお互い怒涛を攻撃を繰り返した。
まともに討ち合って気付いたが、アレクの得物は蛇腹剣だ。
いわゆる、刀身が分割し鞭のように使用する剣だ。これを使いこなすにはかなりの技量が必要な筈で簡単には使えない。
2年目の戦争でこれを使ってるプレイヤーを見かけた事があるが、ここまで鮮麗された技は見た事がない。
アレク自身の実力なのか、流派の特性なのか…かなり厄介なのは間違いない。
数十回の討ち合いの後、俺自身満身創痍だったが、それ以上にアレクの顔に血の気がほとんどない事に気付いた。
「…これで…最後だ」
アレクは今までの構えとは違い、脇構えをより深く構えた剣先が正面になるまで身体を捻った感じになっていた。
アレクが最後の技を出すのだと俺は判断し対抗出来そうな技を出す準備をする。
『レギアス流奥義……朧龍水月・大蛇』
『居合・蜂之太刀』
アレクから放たれた技は、手元から8つに剣身が分れ(たように見える)、八方から龍の鎌首が襲い掛かって来た。
そして、俺の技は、居合による袈裟斬りからの連続斬撃だった。
お互いの技が交差し決着が付いた。
俺自身が前に出た事によって、アレクの技の収束点から外れ大きなダメージを負わなかった。
とはいっても、左右首筋両肩両脇腹両脚計8箇所に抉ったような切り傷が付いたので無傷でないが…。
アレクの攻撃は自身が動かない技だったので、俺の攻撃をまともに喰らい大ダメージを負っていてよろけながら壁に背をもたれさせた。
「っは!……。ま、負けたのか…」
「ああ」
何とか勝てたが満身創痍だった。
HP全快だった筈なのに、さっきの攻撃を掠っただけで3分の1辺りまで減っていた。
まともに喰らっていたら死んでいたな…。
俺は血振りをして鞘に納めようとした時、思わぬ事態が起こった…。
夢幻刀が、ピシッという小さな音と共に折れ床に落ち砕け散った。
ここで折れてしまうとは…。
ノースブレイを出るまでは使い続けるつもりだったのに残念だ。
「ふん、どうせ…俺はこのまま死ぬ身だ。船長とやるんだろ?
ならば……、これを…持って行け…」
アレクは自分の剣である蛇腹剣を俺に託した。
それと、血まみれの手で何かをメモ書きした後、俺に渡した。
「レギアス流は……零細道場なんだわ……俺が、死んだ…ら、跡継ぎ……が、い…なく…なる。
頼めた…義理で…は、ないと…思うが後は頼…んだ………」
アレクはそう言い残し息を引き取った。
渡されたメモ書きには、ラキノイア王国にいるシャーネ=レギアスを尋ねろと書かれていた。
むぅ、身勝手な奴だな…。
でも、自流派に掛け合わせる流派を何にするか迷っていたし、この際だレギアス流?でも良いかも知れないな。
が、その前に蒼の海賊の船長とやり会わないとな。
俺は、身体についた傷を法術で癒した後、気付いたが上半身の防具が壊れていた。
戦闘終了とともに耐久が残っていれば、自動的に見た目が修復する筈なのに破れたままだった。
上半身の防御力がなくなると共に、複数個所破れているので裸同然になっていた。
偶々リュックの中にあった包帯を露わになった胸にグルグル巻きをして隠した。
まぁ、サラシみたいな感じだな。
その後、メモ書きを懐にしまい金属製の重い扉を開けて3階にある船長の個室へ向かった。
どうだったでしょうか。
ナインテイルを犠牲にしてまで修理してもらった刀があっさり折れましたが気にしないで下さい。
相変わらず、戦闘表現が下手で申し訳ないです。
脳内でイメージは出来るのですが、上手く表現できないもので…