第16話【海賊】
誤字・脱字、表現の誤りはご容赦願います。
今朝、アヤカと共に当分の食料と道具を買い込み、今は船でユルギス島へ向かっている最中だ。
ユルギス島に行くには、海賊船がいない時間帯を選ばないといけない。
狙われて危険とかではなく、ノースブレイやハイランドの軍船とドンパチを始めるからだ。
海賊船は、大体深夜に出港し夕方に入港するので朝と昼を安全なのだ。
基本、海賊船は街の港には入港しない。
ユルギス島を拠点としている海賊は街の反対側にある断崖絶壁をくり貫いた専用の港がある。
ちなみに、大きく分けて5つの海賊が存在している。
確か…、海賊の本拠地はインスタントダンジョンになっていたな。
設定では、1つの海賊が100~200人規模で構成されている。
Lv40前半の下っ端の海賊は無限湧きだったな。
下っ端を10人倒す事にLv45~46の少し強い海賊が、さらにその海賊を10人倒すとLv49~50の幹部が出現した筈だ。
幹部を3人倒すと船長のいる大部屋へ通路が開かれた。
確か、船長はLv55~60辺りだった筈だが、改変後どうなってるのだろう。
NPCが改変後プレイヤー同様レベルアップしているという情報もある事から、改変前よりもレベルは上と思っていた方が良いかもしれない。
海賊の本拠地へ行く前にその辺の情報を仕入れるとするかな。
と、そろそろ港に着くな…。
「まずは、宿屋を探しましょうか…」
「そうだな」
港に降り街中に入るとそこは普通の街と違い、空気が濁ったような感じで、あちらこちらから香水とアルコールの臭いが漂っていた。
見渡す限り、娼館、酒場、賭博場など普通なら表通りにはないような店ばかりが並んでいた。
改変前もこういう感じではあったのだが、娼館は無かった筈だし、酒場と賭博場は2・3軒ほどしか入れる店がなかった。
街の中にいる人も半分以上は、娼婦を連れた海賊でプレイヤーらしき人影はなかった。
それに、場違いな俺とアヤカをジロジロ見る目が鬱陶しい。
「いよう。お嬢ちゃん達、幾らで出来るんだ?」
俺達を娼婦と勘違いした酔っ払いの海賊が声を掛けてきた。
口臭がアルコール臭い…。
「死にたいのですか?」
アヤカがおもむろに弓を構え、酔っ払いの前に突き出した。
「ひょえ~」
素っ頓狂な声を出し酔っ払いは、一目散に逃げていった。
雑魚なのか酔っ払っているからなのか…呆気なさ過ぎる。
でも、さすがに武器を構え続けるのは歩が悪い…。
無駄に敵を作りかねない。
「アヤカ。仕舞った方が良い」
チラ見していた海賊達から殺気というのか悪意のような視線を感じる。
「そうね…」
「ぉ、アレ、宿屋じゃないか?」
これ、営業する気あるのか!?っていうぐらいボロっちい宿屋が数軒先にあるのを見つけた。
「これ…って、宿屋なの?」
「さぁ」
俺達は、営業しているのかしていないのか分らない宿屋っぽい店舗の中に入った。
そこには目つきの悪い無愛想なおっさんがカウンターに座り、新聞と思われる紙媒体を見ていた。
「………泊まりか?」
聞こえる聞こえないか微妙な声で聞いてきた。
「一週間ほど泊まる事は出来ますか?」
取り合えず、一週間泊まる事にして足りなければ延長すれば良いだろう。
「…鍵は、開いている…。好きな部屋を使え…」
え…、開いている?って、鍵を掛ける事が出来ないという事だよな…。
「…金は、チェックアウトする時で良い…」
「わかりました。では、お借りします」
宿屋のおっさんは、少し俺の方を見た後、すぐに新聞へ目を向き直し一切喋らなくなった。
了解という事か…。
用心の為、俺とアヤカは同室に泊まる事にした。
やはり、部屋には鍵らしい物がなかったが、部屋の奥にかなり巨大な宝箱…もとい金庫があった。
貴重品はここへ入れろって事だな。
宝箱ごと盗まれたら意味が無くないか?と思ったが、良く見たら宝箱の底と床が一体になっていて盗み出せないようになっていた。
さらに、錠前もかなり特殊で、ピンキングツール程度では簡単に開かないような構造になっている。
ご丁寧に施錠の魔法も掛けられている。
ちなみに、この魔法は法術に分類されるが、改変前はなかった魔法だ。
恐らく、神話級などと同じで、データにはあったが結局は実装されなかった魔法ではないかと思う。
改変後そういうのが結構あるらしく、酒場での情報交換で色々報告が上がっていた。
この改変後のE/Oこそが本来の姿なのではないかという噂があったりする。
単なる噂と思いたいな。
まぁ、それは置いていて…、これなら荷物を預けても安心できるな。
取り合えず、3日分の食料と道具を除いて、後は宝箱に預けた。
ちなみに、食料などは1週間分持ってきている。
足りなくなれば、この街で購入するか、酒場で食事する事になっている。
俺とアヤカは荷物を持ち、宿屋を出て今、街の出口に立っている。
用心の為、俺がザキラとノックさんを召喚し、アヤカは水華という名前の上位精霊ウンディーネを召喚した。
アヤカは精霊使いという訳ではないが、一通りの精霊を召喚できる。
特に四精霊と呼ばれている炎・水・地・風の精霊は上位から下位まで揃えているようだ。
計3体の精霊を護衛に付け、俺達は街から離れて行く。
ユルギスの街と海賊達の本拠地の間には、小高い丘が幾つか聳え立っている。
その1つの頂上で野営を作ろうと思う。
見晴らしが良いから防犯には打って付けだろう。
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そして、5つの海賊の内の1つで、蒼の海賊と呼ばれている奴等の本拠地が見下ろせる丘の上に野営を設置した。
基本的にアヤカと精霊達はこの野営に止まり、俺はその麓で下っ端海賊を狩り続ける予定だ。
今日は無理だが、折を見て本拠地にも潜入するつもりだ。
ちなみに、野営地にはテントと焚き火とイス代わりの岩を置いてある。
「さて、俺は行くとするよ」
「気をつけてね」
「ああ」
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俺は丘を下り、本拠地の入り口で見張りをしている海賊に目を付ける。
足元にあった小石を拾い、その海賊2人に投げる。
「ぃてえ、どこのどいつだ!」
「こっち、こっち」
2人は周りを見渡した後、丘の麓で手を振っている俺を見付ける。
「てめぇ」
よし、2人連れた…。次は本拠地の周りを巡回している海賊もいる筈なので、そいつらも巻き込もう。
今回は、集団戦と出来るだけ急所攻撃を意識して戦っていこうと思う。
ぉ、30m先に巡回中の海賊を発見。
「てめぇ、待ちやがれ!」
後ろの方で息切れ気味の海賊が追いかけているが気にしない。
体力のない奴等だな。
勢いを落とさないまま、巡回中の海賊達の脇を通り過ぎる。
何事かよく分っていない彼らは反応できなかったようだが、
追いかけていた海賊と合流し慌てて追いかけてきた。
その後、2グループを巻き込み海賊達の人数は計13名となった。
その殆どがレベル40~43で俺と同じか1つ上だった。
改変してレベルが上がっているかと懸念していたが、そうでもなかった。
海賊達は俺を取り囲もうと少しずつ間合いを詰めてきた。
「良いのかなぁ?それボクの間合い内だよ」
俺の夢幻刀の刀身が海賊には見えていなかった為、間合いを読み誤ったのだろう。
まぁ、離れていても縮地を発動させるのだが…
『居合・壱之太刀』
俺は、縮地を発動させず少し腰を落として前に踏み込み真正面の2人に相対する。
今回は、急所への攻撃を意識していたので極力、真空波に頼らず刀本体で斬って行こうと思う。
「っが…」
俺の振り抜いた刀身は、虚を突かれた海賊2人の首を斬り落とす。
防具がなく防御力の関係のない場所である首元の攻撃はクリティカルダメージとなり、一撃で2人は死んだ。
振り抜いた刀を鞘に納めず、2人の右にいた海賊に対してそのまま突きを繰り出す。
その攻撃は、防具を無視し心臓に突き刺さった。
そして、そのまま左にいた海賊に対して唐竹割を繰り出す。
『居合・参之太刀』
その攻撃は、海賊を頭部から下半身まで真っ二つにし、
その後ろにいた海賊を真空波で巻き込み計2人は死亡する。
前方にいた5人の海賊は一瞬で倒れたの見て、他の海賊は動揺する。
「な!?」
「あいつの剣どうなってんだ!?」
「一瞬で5人も…」
今まで視認出来なかった刀身が血で濡れて形が露わになる。
「!」
その光景を見て残った海賊達は後退りした。
正面に4人か…。俺は縮地を発動し、距離を詰める。
真正面の1人の首に剣を突き立てる。
同様し反応が遅れたようで、すんなり攻撃が当たり体が崩れ落ちる。
「っ!?」
「てめぇ!」
残りの3人が各々攻撃態勢に入るが、俺はそれを予想していたので新たに技を繰り出した。
『居合・玖之太刀』
これは一撃目こそ居合による攻撃だが、その後は乱撃だ。
真空波がある為、180度前方に対しての無差別攻撃と言えるかもしれない。
左の海賊は振り上げた腕が斬り落ち、右にいた海賊は首が飛び、
その横にいた海賊が真空波が掠り右脇腹をバッサリと切り裂いた。
最後の海賊は即死ではなかったが、大量の出血によるショック死した。
残り4人…どうしようかと考えていると、海賊達は背中を向け逃げていった。
次の段階へ進む為に、後1人は確実に殺しておきたいな…。
『居合・伍之太刀』
這うような真空波は、一目散と逃げていく2人の海賊の足を薙ぎ斬る。
他の2人は、別の方向へ逃げてしまったので今回は諦めよう。
足が無くなり身動きが出来なくなった海賊に歩み寄る。
「ま、待て…」
「ひぃぃぃ、た、助けてくれ…」
俺は刀の刃を下に向け、2人の心臓目掛けて突き刺す。
「ぎゃ…」
「ぎっ」
海賊は、短めの悲鳴と共に事切れた。
10人の下っ端海賊を殺した事で、改変前と同様なら少し強めの海賊が出てくる筈だ。
そして、1分ほど待ったが海賊の出てくる気配がない…。
「変わったのかな?」と思った瞬間、状況が一変した。
本拠地からゾロゾロと下っ端海賊とその上の少し強い海賊と思われる集団が現れた。
改変前なら少し強いのが1人と下っ端10人しか出てこない筈なんだけど…これ軽く40人超えてるように思える。
それに本拠地の窓らしき所から複数の銃がこちらを向いているし、テラスからは弓使い十数人いる。
非常にまずい状況だ。
ちなみに、E/Oの世界に登場する銃はリアルの第一・第二次世界大戦中に登場した銃を模した物が多い。
中には現代の銃も一部登場している。
改変前はMobが銃を使おうとした場合、狙われた方は撃つ方向を視覚的に認識できた為、タイミングさえ合えば避けるのは差ほど難しくなかった。
改変後は、五感が鋭いようで何となく来る方向が分るようになっている。こっちも改変前と同じで避けるのは差ほど難しくない。
まぁ、自分が狙われていると認識出来ている場合によるが…。
生存スキルに「第六感」というのがある。これは、銃や弓など飛び道具を撃つ場合、方向を悟られないようにする事と、認識していなくても避けるタイミングが分るというレアスキルだ。
まぁ、これがあったら良かったなぁと言う話だ。気にしないでくれ。
いや、そんな事はどうでもいい…。
さすがに、蜂の巣を突いたように海賊が出てくるとは思っていなかったが、
幸いな事に3人いる幹部の内1人しか現れていないのが救いだな。
船長もいないとはいえ、総勢70人から80人ぐらい…その内半分は本拠地内…。
さて、どうする。
「嬢ちゃん、俺達に何か恨みでもあるのかい?答えによっては命か身体で答えてもらう事になるが…」
幹部の海賊が喋りだした。
「……」
俺は何も言わず睨み返す。
「ふ、まぁ答える気はないわなぁ。お前達傭兵は俺達を殺る理由なんて1つだよなぁ?」
金の為…普通は。
実際、要塞都市には海賊討伐の依頼が常に張られている。
当然、俺達はその依頼を受けている。
ただ、狩るよりも依頼と併用すれば一石二鳥だからだ。
「だったら、俺達がお前を殺しても誰も文句言わないよな。ま、ここには法がねぇ。
いや、むしろ、ここでは俺達海賊が法だからよ」
後ろの丘にいるアヤカの方を少し見ると、本拠地へ向けて弓を構えていた。
海賊達はまだアヤカには気付いていないようだ。
ここは頼りにさせて貰うとしよう。
「野郎共、殺すなよ。殺る前に船長の所を連れて行くからな。
ああ、それと船長からの伝言だ。捕らえた奴には一番手の権利を与えるとよ」
ウォォォォォ!!
海賊達は雄たけびを上げ、ギラついた目を俺に向ける。
「へへ、俺が一番手を貰う」「いや、俺が…」みたいなやり取りが海賊達の間で交わされている。
何の一番手か何となく分った途端、俺は身震いした。絶対に勝たないと…。
さて、覚悟を決めるか…。
「ふぅぅ…」
ジョーイ=シムス戦以来、久々の命がけの戦いだ。
俺は、縮地で海賊達の方向へ駆けて行く。
どうだったでしょうか