第15話【狙撃】
誤字脱字、表現の誤りはご容赦願います。
今回は少し長いかもしれません。
俺達2人は、南アビスタから帰るついでにギルドの出張所で何か依頼がないか寄ってみた。
良い忘れていたが、俺の本拠地がある都市には傭兵ギルドのノースブレイ支部があり、それ以外の都市(王都を含む)には出張所…所謂、窓口と掲示板のみの簡易店舗しかない。
ここでは主に依頼の受注と支払いしか出来ず、賞金首関連は全て支部で行われる。
依頼と違い、賞金首の金額が桁違いに多く出張所では払いきれない為である。
依頼書が貼ってある掲示板には目ぼしい物がなかったので、直接職員に聞いているところだ。
「ん~残念ながらないですね。昼頃、街道付近に出没していたオーガが討伐されましたし…」
来る時に倒したオーガの事だな。
「そうですか…」
「要塞都市方面なら幾つかありますが、どうします?」
と、職員は依頼書を3枚、目の前に出した。
「1枚目は商隊の護衛です。今要塞都市方面が少し物騒でして…」
商隊の護衛か…基本、馬車での移動となりそうだし楽が出来そうだな。
「2枚目は、シーウルフの討伐ですね。海に隠れる習性があるので少々厄介ですね」
シーウルフか…あまり戦った事はないが、見つけるのも戦うのも厄介な相手だったのは覚えている。
「3枚目は……こちらもあまり情報がないのですが、狙撃手の排除という依頼があります」
「どういった狙撃手ですか?」
「実は誰も姿を見ていないのです…。狙撃された方は全員亡くなっておりますし…
ただ、得物は銃ではなく弓だという事は分っています。
それと、山側から無差別に狙撃していると言う事ぐらいしか現在は分っていません」
「山側というと…山から何ですか?街道沿いの林からですか?」
「わかりません。被害者に傭兵も含まれていますので街道近くではなく林奥か山でしょうね」
「ふぅむ」
「3枚ご紹介させて頂きましたが…恐らく最後の3枚目を解決しない限り1枚目も2枚目も簡単には出来ないでしょう」
「ですね。護衛中や討伐中に狙撃されたら洒落にならないですものね。少し連れの者と相談しても良いですか?」
「ええ、構いませんよ」
俺は賞金首リストを眺めていたアヤカに相談した。
「ああ、これか~」
「知っていたのか?」
「ええ、実はアキラと別れた後に受けようと思っていたのよねぇ。
どこから撃たれたかも分らない程の弓使い…興味があるわね」
「そうか、じゃぁ俺は受けない方が良いな…このまま直帰しよう」
「いえ、私が受けるわ。折角、アビスタまで来たしね」
「そうか、分った」
「じゃ、受けてくるわね」
アヤカは出張所のカウンターで依頼を受ける旨を伝えた後、戻って来た。
「行きましょうか。まずは北アビスタに移動よ。今回はトンネルを使わず山越えルートで行くわ」
「え、山越えルートなんてあるのか?」
「ええ、ただし徒歩だと6時間から8時間かかるから馬車で移動する事にするわ」
「馬車か…」
「ええ、北まで直行便だから大体2時間ほどで着くと思う。ただし、乗り心地は最悪だけどね」
「何でだ?」
「山越えルートにもMobが出るのよ。しかも厄介な事に大型の有翼Mobで魔法まで使用するのよ。道幅が広いから、かなりスピードを出して駆け抜ける感じよ。風景を楽しむ余裕なんてゼロね」
山越えと言っても山頂まで上るのではなくて、五合目まで上った後は、谷を抜ける感じで駆け抜けまた下って行く感じだとか…
「山を越えて北アビスタに着いたら、そこで宿を取りましょう。多分、夜になってるだろうしね」
北のアビスタは交易街としても中々盛んで南よりも良い宿屋が何軒かあるらしい。
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で、今、山越えの馬車の中にいる。
聞いていた以上に最悪な乗り心地だ。
幸いな事に客は俺達2人しかおらず、俺の醜態を他人に見せる事はなかった。
ぶっちゃけ吐きそう…。
なんで、アヤカは平気なんだ?
「ねぇ、アキラ」
「ん……ぉぇ…」
「吐くならあっちを向いてね…。
まぁ、それは置いといて、ワーグナーさんから貰った刀見せて貰って良い?」
「ん、かっ……て、に、見tryぅおぇ!!」
俺は、アヤカにあの刀を渡そうとしたが…やばい、アレが喉から込み上げて来た。
両手で口元を塞ぐ…。
俺の手から落ちた刀をアヤカは受け取った。
「んぐっ…」
ぶち撒けそうになったアレを飲み込む。
アヤカは、そんな俺に気付いていなかったようだ…。
「な、なにコレ!?」
あの出鱈目な数値とコメントを見て驚愕しているのだろうが、俺は今それ所ではない。
「………魔力-800、常に装備者へダメージ?
神話級って何よ…それに禁呪ワンスペル発動!?」
俺も似たような所で驚いたな…。
それよりも、飲んだアレが嗅覚を刺激し涙が出てきた。
「鞘がどうとか話していたのは、これかぁ…。
で、アキラは【鞘】を探す旅をするのよね?」
アヤカが俺に何かを聞いてきているが、またアレが込み上がってきて内容を把握できなかった。
「…っごく…ぅぇ…で、何か言った?」
もう、限界だ。飲んでも飲んでもアレが…(自主規制
「………いえ、着いてからで良いわ」
俺の行為を目撃し、呆然とした後呆れたように言った。
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そして、北アビスタに着いた。
馬車内にアレをぶち撒ける最悪の事態だけは何とか防いだが疲れた。
俺はフラフラになりながら馬車から降りる。
「じゃあ、宿を探しましょうか…」
「…だ、な」
北アビスタ…賑やかな街だな…。南とは正反対な雰囲気だ。
街灯が5m置きに設置されてある上に道沿いにある店から漏れる光が町全体を明るく照らしていた。
南にも街灯があったが確か10~15m置きぐらいだったし、店もそれなりにあったが夜も赤々と付けているような所はなかった。
簡単に言えば、北は歓楽街、南は住宅街って感じだな。
北は漁業の街と聞いていたのだが、どういう事だろう。
「なぁ、アヤカ。ここって漁業の街じゃないのか?」
「ええ、そうよ」
と、視線を左上に向けたので、俺はそっちを見た。
すると、今いる場所から少し離れた高台にポツポツと小さな灯りが見えた。
「あそこが漁師達の町よ…。副業でこの歓楽街の経営もしているみたいね」
なるほど、そういう事か…漁師達が街から追いやられたのかと思った。
今、俺達が歩いている通りは街の中でも特に賑やかな所で、要塞都市方面には交易所やら土産物を扱う店が多い。
奥に行けば行く程、空気が変わってきて酒場や賭博場などの娯楽施設が多くなる。
その中に宿屋も数軒混ざっている感じだ。
ちなみに、賭博場は、犬・鼠・豚などを競わせるレースが主で直接金銭を賭けるようなものはない。
と言っても、裏に行けばそういう施設は幾らでもあるが、この街に限っての話ではない…。
「ぉ、アヤカ。あそこ宿屋っぽいぞ」
10mほど先に宿屋の看板が立っている店舗があった。
他の店舗に隠れるように建っているが、返ってこっちの方が良い感じがする。
「ええ、そこにしましょう」
俺達が入った宿は、この街にはあまりない地味目の宿であったが、寝て泊まる分には十分なところだった。
「お食事の方はどうなされますか?こちらで粗食ではありますがご用意出来ます」
「ええ、お願いします」
「では、こちらへ」
案内された食堂は、ローグライト家の食堂よりも狭く円卓が2台あり、それぞれ4人ずつ座れる感じだった。
俺達は手前の円卓へ着く。
「ねぇ、馬車の中で一度聞いた事なんだけど…まぁ、アキラはそれどころでなく聞いてないと思うけど…」
「ん?」
何か言ってたかな?
「アキラはこの後【鞘】を見付ける旅をするのよね?」
「ああ、そうだな。でもまだ先だな。この国でやる事があるし」
「やる事?」
「ああ、前に言ったと思うが闇の森へ行って精霊を見つけないとな」
「そういえば、言っていたわね」
「まだ、このレベルで十分と言えなし、せめてレベル50近くにはしたい」
「レベル50か…後、どのくらいなの?」
「えーと、あと8ぐらいだが…まぁ、詳細に言えば腕力と脚力と敏捷あたりを重点的に上げたいな」
「夢幻刀の耐久が減ってきた辺りから魔法重視に重点置いてたから、そっち系は結構育っているしな。そろそろ、近接の方も鍛えようかと思う」
「うん、良いんじゃないかな。具体的にどうするの?」
「確か、要塞都市から北西に船で向かった先に海賊の島がなかったか?」
「…あるわね。」
「あそこで夢幻刀の耐久が赤くなるまで狩り続ける。その後、またワーグナーさんの所で刀を直した後、闇の森の攻略へ向かう」
「異議はないわ。この辺でレベル50まで上げれるのって海賊だけだものね」
大体、20分ほど席で話していると、女将が料理を運んできた。
「粗食と言っていた割には、すごく美味しそうだね」
「ええ、そうね」
「これは、アビスタ伝統の郷土料理です。アビスタは昔から漁業の街として栄えてきました。その為、多くは魚を中心とした料理なのです」
それらの出された料理を美味しく頂き一息ついたところで女将がまた料理を持ってきた。
「これは、東方の国の料理でサシミと呼ばれているものです。先月、行商をしている方に教えて頂いたのですよ」
「おお、刺身があるのか」
「刺身は久しぶりね…」
ここに閉じ込められてから初めて日本食を食べるな…。
そういえば、醤油とワサビはないのか?
「ところで女将、醤油はないのですか?」
俺が聞きたかった事をアヤカが言ってくれた。
「ショーユ?」
初めて聞く単語なのか?もしかしたら…
「その行商をしている方には、調理法しか教えて貰っていないのですか?」
「え、もしかして、あの黒い液体ですか?」
「多分、それです。刺身はその液体に漬けてから頂くものなんですよ。
ちなみに、刺身以外に色々な料理に使えますよ」
「ああ、なるほど。だから、そのショーユを売った後、サシミを教えて頂けたのですね」
商売上手だな…その行商…多分、プレイヤーだろうな。
「ところで、ワサビはあったりします?」
「ワサビ?ですか…。いえ、それは知りません」
それは残念…。
ライスのおかわりをした後、刺身を美味しく頂いた。
刺身の魚はバードフィッシュと呼ばれる白身魚で鮭のような味でコリコリとした食感だった。
俺はそのまま割り当てられた部屋に向かい、アヤカは醤油を使った料理の調理法を女将に教えに行った。
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すでに、俺達は宿から出て北アビスタ東門に来ていた。
本来、ここを通る者は商隊に混じるなどして海路を使い要塞都市へ向かっているらしい。
その為か、門の所から要塞都市へ向かう街道の先を見たが人っ子1人いなかった。
恐らく、謎の狙撃手の性だろうな。
中にはそういう事情の知らない商人や腕自慢の傭兵がこの街道を使っているようだが、尽く狙撃手に殺されている。
「最後の確認よ。私が攻撃、アキラが守備だからね。私達に飛んできた矢を斬り落とすだけで良いから…。何度か射ち込まれるとは思うけど、場所さえ分れば私が仕留めるわ」
「了解」
この誰もいない街道に2人で歩けば嫌と言う程目立つだろうから会わないという事態だけは避けれそうだな。
俺達は周囲を警戒しながら要塞都市へ向けて歩き出した。
途中、シーウルフの死骸やらが傭兵と思わしき死体などが散乱しており、どれも矢が刺さっていた。
「良い腕ね。全て頭部に命中しているわ」
「大丈夫なのか?」
「問題ないわ。逆に言えば頭部の高さに矢が来ると思えば斬り落とし易いでしょ?」
「ああ、確かにそうだな」
俺は、傭兵の首からタグを回収した。
さすがに死体を運ぶ事は出来ないが、少なくともこれで身元が分るだろう。
「アヤカ…気配は感じるか?」
「いえ、でも見られているわね」
「…そうか」
「もう少し歩きましょうか…」
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それから2時間、昼を過ぎた頃、街道の大体3分の2に到達しようかという時、狙撃手が仕掛けてきた。
出来れば、昼飯食った後にしてくれれば良かったのに…
宿を出る時に女将から貰ったオニギリを食べれるのはもう少し後になりそうだ。
ちなみに、オニギリはアヤカが昨日教えたらしい。
鋭い風きり音と共に1本の矢がアヤカに向けて山なりに飛んできた。
この角度だと相当遠くから射ているな…。
俺はすぐにアヤカの前に出て、飛んできた矢を斬り落とす。
まぁ、斬り落とすというより真空波で射ち落としているに近いが…。
「大体、南東の方向ね…でも、どこから射ているのかしら…」
「取り合えず、山へ向けて射てみては?」
「そうね」
すると、アヤカは神弓を構え、魔法力を指先に集中させていく。
アヤカの動きを察知したのか、また矢が飛んできたが、また斬り落とす。
「まだか?」
と、聞いたと同時にアヤカは光の矢を放つ。
その矢は矢とは思えない軌道を描き、一直線で南東の山頂へ向けて飛んでいく。
2秒経つか経たないかの間に山頂へ着弾?し、爆発のようなモノが輝いた。
「相変わらず、凄い威力だな」
「そう?さっきの速射と貫通を重視した矢だから、もっと魔法力貯めれば山肌を削るくらいの威力になるけど…」
着弾してから、彼是10秒近く経ってるが反撃して来ないな…。
もしかして、当たったのか?
「射て来ないわね。また歩くとしましょうか」
「だな」
1分ほど歩いたところで矢が飛んできた。
今度の矢は全部で5本ほどか、精度に目を瞑って速射してきたか…。
それでも、どれも標的である俺達からほとんど離れていない所に飛んできそうだな。
『居合・死之太刀(対空)』
俺は斜め上に向けて居合をする。
一薙ぎで前方3本の矢を切り返して後方2本の矢を射ち落とした。
射ては切り落とし射返しを数度繰り返した後、かったるくなったのかアヤカは精度よりも威力を重視する様になり最終的には計8本の光の矢が指先に集まっていた。
「大体、場所が分ったわ。少なく見積もっても山頂付近なのは間違いないようね…適当に炙り出しましょうかねっ!」
アヤカから放たれた8本の光の矢は円状に飛んで行き、数秒後山頂辺りに着弾した。
ここからだとよく分らないが、大体直径300mほど円で山肌が崩れていった。
いわゆる山滑りってやつか?
恐ろしすぎる…。あの辺って人住んでないよな?
「ん?アヤカあそこ!」
崩れた山肌の瓦礫から這うように人影のようなものが動いた…。
「ええ」
アヤカはまた集中し始める。
「アキラ、私があいつを追い込むから捕まえに行って!」
「了解!俺に当てないでくれよ…」
「分ってるわよ。でも、当たったら事故だからね!」
と、アヤカは第一射を放った。
俺はほぼ同じタイミングで駆け出した。
恐らく、街道沿いの林にはMobがいるだろうが、一気に駆け抜けるのみ…
俺が林を駆けている際、ほぼ5秒置きに光の矢が狙撃手に向けて放たれていた。
完全に捕捉しているみたいだな。
む、前にブラッディウルフの群れが…
『居合・壱之太刀』
行く手を阻んでいた数匹だけ切り伏せ、そのまま駆け抜ける。
数匹が追いかけてきているが気にしないでおこう。
何れ諦めるだろう。
山麓へ着くまでにブラッディウルフの群れ2、ボアベア3匹に出会ったが一太刀当ててそのまま駆け抜けた。
そして、アヤカは俺が着くまでの間、計20本近く光の矢を射ていた。
さて、ここからが本番だ…。今度は山を駆け登らないといけない。
と言っても、リアルみたいに走って登るのではなく、ほとんどはジャンプで登っていく。
ここで脚力がものを言うのだ。
ちなみに、俺の脚力は120に近いので、大体12mの高さを跳び越えるという訳だ。
捕捉ではあるが、走った際の歩幅もこの場合12mになる。
そして、その1歩毎にSPが1減る仕組みだ。その為、ジャンプも走る事も永遠には出来ないのだ。
この世界の人々はプレイヤー・NPC問わずリアルの人間よりも身体能力が高く設定されている。
どの種族の15歳のキャラでも初期能力が8以下にはならないようになっている。
簡単に言えば、走った際の歩幅が80cm以下にはならないという事だな。
ついでに言うとジャンプと走るは、SPと脚力と敏捷の3種を普通に歩くよりも大きく成長する。
そうこうしている内にアヤカの放つ矢の着弾する音が大きくなってきた。
そろそろ山頂か…。
すると、前方20m先で着弾音と爆発と共に人影が吹っ飛んでいくのが見えた。
ここで走る速度を落として捕まえるタイミングを計る。
まぁ、その間、狙撃手はアヤカの矢に弄ばれているのだが…。
直撃しないギリギリで当てている…考えただけで恐ろしいな…。
狙撃手が俺の前方5mの辺りへ落ちたので、急いで駆け寄りアヤカへ合図を送った。
アヤカが弓の構えを解いたのを見て、狙撃手の方を向いた。
「……ご愁傷様…」
狙撃手は死んではいなかったがボロボロの状態で、裂傷・打撲・骨折・火傷?ありとあらゆる怪我を負っていた。
俺はリュックに入れていたロープを取り出し、奴の腕を腰の後ろにした後にきつく縛った。
まぁ、この状態で抵抗できるとは思えないが用心の為だ。
捕捉しておくが、このロープは捕縛用ではないからな。
ちなみに、狙撃手はダークエルフのプレイヤーの様だ。ボロボロの状態で判別し難いが肌が黒いし間違いないだろう。
この状態でなければ、さぞかし美青年であろうに…。
数分後、アヤカがこちらへ合流した。
「あら、やり過ぎたかしら?」
ああ、そうだな。
「ところで、こいつの得物はどこだ?」
周りを見渡すが近くにはなさそうだった。
得物と矢筒を回収しないと、こいつが狙撃手なのか騎士は判断できないだろう。
「落ちているとしたら、あの瓦礫の中だろうな…」
俺は直径300mほど崩れた山肌を見下ろす…
「凄いわね…。誰がやったのかしら」
「お前だ」
「冗談よ…。さて、探しましょうか…」
「ああ」
その後、1時間ほど掛けてやっと見つける事が出来た。
と言っても、弓は半分に折れ、矢筒の中には矢が入っていない状態で矢はあちこちに散乱状態だったが何とか数本回収できた。
ついでに、弓を分析もとい鑑定して見ると、結構良い品だった。
聖弓・シューティングスター
ベース:スナイプボウ
生産者:なし
耐久:0/500
攻撃力:600
必要能力:腕力160、体力130、器用210、視力240、
備考:唯一級効果、射程+20%、命中+30%
聖弓効果、クリティカル率+30%、狙撃+Lv1
生産者コメント:放たれる矢は流星の如き聖なる弓
壊れてしまったが、これが良い弓なのは間違いない。
プレイヤー生産品ではない事から見ても価値は相当あるな。
狙撃+Lv1ってのは、弓術の流派スキルである「狙撃」のスキルレベルを1上げるという効果だな。
大体、この必要能力だとレベル80~90中盤といったところだろう。
ちなみに耐久が0になったアイテムは、腕利きの職人であろうと完全に元へ戻す事は出来ない。
0から修理をして見た目が元通りだろうと、最大耐久は半分に減ってしまうのだ。
この場合は250になるという事だな。こうなると元の価値はなくなってしまう。
壊れるまで500本射てる弓と250本射てる弓では随分と価値が違う。
耐久が減る条件は攻撃だけではなく、武器で防御した場合も減る。
そのアイテムに設定された、武器なら攻撃力・防具なら防御力以上のダメージを食らうと耐久が1減るのだ。
設定された数値の倍食らうと耐久は2、3倍食らうと3減る仕組みになっている。
さて、アヤカの攻撃で何倍のダメージを食らったのだろうな…。
と、説明している間に、要塞都市西門に着いたな…。
西門から要塞都市の中に入ってすぐの駐屯所へ向かう。
駐屯所の前にいた騎士に話を通し、責任者を呼んで貰う。
すると、しばらくして中から団長らしき騎士が出てきた。
「”狙撃手の排除”の依頼で犯人を捕まえ連れて来ました」
「ほう、それは真か?」
「ええ、これが証拠のアイテムよ。被害者に刺さっていた矢と照合すれば分ると思うわ」
団員の騎士は弓と矢(矢筒)を受け取り駐屯所の中へ入っていった。
犯人も俺達の前へ突き出し騎士に渡した…。
「あれ?団長…」
「ん?どうした」
「こいつ、確か賞金首ですよ…」
「ほう…」
「え、でも確か賞金首リストに、こいつは張って無かったわよ」
「確か、名前はアレックス=ナインライドで、ユーフォリア大陸で指名手配されていた筈です」
ユーフォリア大陸は、このオーランド大陸の北にある大陸だ。
リアルで言えばユーラシア大陸の事だな。
「む、奴はハイランド王国に潜伏している筈ではないのか?」
ハイランド王国は、大体イスラエル・サウジアラビア辺りからトルコ・イラン辺りまでの領地を有している国だ。
ノースブレイ王国の宿敵とも言える国で、長年資源を巡って戦争をしている。
と言っても、ハイランド王国が一方的に侵略しているだけだが…。
今は表向き和平を結び同盟国となっているが、列強の時代になればまた攻めて来るのは間違いない。
ちなみに、ヴォルトら”八迅”が生まれた戦争イベントの内容は、戦後の時代に宣戦布告なしでハイランド王国がノースブレイ王国に侵略してきたという設定だ。
プレイヤーはハイランド王国かノースブレイ王国かのどちらかの陣営を選べる。
ハイランド王国が圧倒的有利な状況かつノースブレイ王国の5倍近い兵力を持って進軍という構図だった。
功績は欲しいが死にたくない連中がハイランドへ、功績と力試しがしたい連中はノースブレイへという流れだった。
まぁ、八人の廃人プレイヤーのせいでノースブレイ王国が圧倒的な勝利をしたのだけど。
企画したGMが、かなり驚いていたのを今でも覚えている。
「その筈なんですが…。あ、基本的に掲示板の張り紙は、我が国に入国したと確認された者のみなんですよ。そうでないと、掲示板から張り紙が溢れ返りますからね」
「なるほど、そういう事か…」
改変前は、確か地域別で検索して見れただけど、改変後は、現在いる地域のみしか見れない訳か…。
変な所でリアルにしやがって…。
「まぁ、良い。矢の照合と奴の身元がハッキリしたらギルドの方に連絡しておくが…ここの出張所で良いのか?それとも支部の方が良いか?」
「えーと、支部の方でお願いします」
「了解した」
俺達は駐屯所を後にしギルド出張所へ向かった。
街道を通っている最中に回収したタグを届ける為と、報告をする為に…。
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「これが、傭兵タグです。全部で6人分あります」
俺は職員に傭兵タグを渡し、遺体のあった場所を地図で示した。
「わざわざ、ありがとうございます」
「それと、途中、シーウルフが弓で狙撃され死んでいるのも見ました。
恐らくですが、狙撃手に暇つぶしで殺されたものと思います」
「そうですか。では、貴方達の報酬にその分を上乗せして貰うように手配して置きますね」
「あ、いや。そういう風に言った訳ではないのですが…」
「でも、貴方達が狙撃手を討伐したのですよね?でしたら、問題ないですよ」
そう…なのか?
「ああ、そうそう。狙撃手とシーウルフの依頼以外にもう1つあったでしょ?あの依頼なんですが、取り下げられました。今朝、海路を使ってこの要塞都市へ来たみたいです」
「そうなんですか…残念」
俺達は、一連の報告が終わったので、このまま宿屋へ向かった。
ここは、北アビスタと違って娯楽施設が皆無なので宿屋も容易く発見できた。
まぁ、宿屋の質はかなり下がるのだけど…。
メシは付かないし部屋はベットとランプがあるだけという簡素にも程があるだろう的な宿ばかりなのだ。
まぁ、寝られれば文句はないのだけどね。
どうだったでしょうか。
名前付きキャラが出てきましたが、彼はここのみの登場です。