第14話【神話】
誤字脱字・表現の誤りにはご容赦願います。
「おまたせ」
「そんなに待ってないよ」
「じゃ、こっちよ。付いて来て」
アヤカの後を付いて行き辿りついた家は、至って普通の家屋だった。
言っていた通り、看板などはなかった。
「ワーグナーさん、いますか?アヤカです」
アヤカは戸口の扉を叩いた後、中にいるであろう人物に声か掛けた。
「む、ツキカゲ殿か…開いておるぞ」
「失礼します」
「お邪魔します」
声を掛けて、アヤカの後から入った。
パッと見た感じ、普通にある家の中だが、奥の方に如何にもと言わんばかりの扉があった。
恐らく、あそこが鍛冶場なのだろう。
「む、連れがおるのか。まぁ、良いわ。で、何用じゃ?
数日前にツキカゲ殿の弓を直したところじゃろ。
無理な使い方をせん限り修理が必要とは思えんのだが…」
「今日は、この娘の武器を直して欲しいの」
「ふむ、いくらツキカゲ殿の頼みでも無条件で修理はせぬぞ?
わしを納得させる程のモノを持って来ておるのじゃろうな」
「ええ。アヤカ?」
「えっと、これです。どうですか?」
俺は、布に包んで持ってきた魔刀・ナインテイルを包みから広げて見せた。
「ほう…これは…。ふむ。なかなか良いものよな。
呪い付きか…それを差し引いても伝説級に匹敵する性能があるのぉ」
「どうです?」
「ふむ、良い物じゃなコレは…」
「じゃぁ」
ワイン必要なかったかも知れないな…。
「じゃが、ダメじゃ。わしが見たいのは伝説級じゃ…。
確かにこれは良いものじゃが、過去に叙事詩級は何本も見ておる。残念じゃが…」
「まぁ、そうくると思いましたわ。では、これならどうです?」
アヤカは、後ろに隠していたワインを出し、ワーグナーさんの目の前に置いた。
「!?……こ、これは……まさ…か、いや、見間違う筈はない。
いや、しかし、もう生産はしておらん筈じゃ…。じゃが、これは間違いない。
こ、こ、こ、これをどこで手に入れた?ツキカゲ殿!これはどこにあったのじゃ!」
さっきまで、叙事詩級を見ても全く動じなかったワーグナーさんは、信じられない物を見たような凄い驚きと興奮を見せた。
こんなに凄いワインだったのか…
「これは、この娘…アキラの持ち物ですよ。どうします?ワーグナーさん」
「ぐぬぬぬ、わ、わしのポリシーを曲げる訳にはいかん!」
と、言いながらもワインを凝視している。
「じゃ、要らないのですね」
アヤカは、ワーグナーさんの前に置かれていたワインを掴み、後ろの方へ持って行こうとした。
「ま、まて。要らんとは言っておらん。もちろん、要るに決まっておる!
はぁ~、お主らには負けたわい。特別に良いじゃろう…ほんとに特別じゃからな」
「本当に良いのですか?撤回は出来ませんよ」
アヤカは念を押す。
「ああ、しかし、条件がある。その魔刀・ナインテイルをわしに譲る事が出来るのならば良いだろう」
「え、こいつをワーグナーさんにですか?」
「そうじゃ、その魔刀ともちろんこのワインもじゃ…どうじゃ?
わしに直して欲しいのじゃろ?その刀を…それとも叙事詩級の方が惜しいか?」
惜しいに決まっている…しかし、夢幻刀は俺にはまだ必要な刀だ。
この世界にこれを鍛え直せるのは、この人しかいない。
…魔刀は…俺には使えない…。
ここでワーグナーさんとコネクションが繋がれば今後はここで修理が出来る。
メリットの方が大きい……ような気がする。
「良いです。ナインテイルはワーグナーさんにお譲りします!」
「え!?良いの?さすがにこの条件はどうかと思うけど…私は」
「交渉成立じゃな。こいつの修理には4時間ほど掛かる。外で暇を潰しておれ」
と、俺とアヤカは外に追い出された。
「良かったの?ナインテイルと名刀じゃ価値が全く違うのに…」
「良いさ。どうせ、俺には使えないし、他のプレイヤーの交換材料にもなりやしねぇ」
叙事詩級以上のアイテムは市場破壊し兼ねない程の価値がある。
おいそれ売る訳にも行かないし、これに匹敵する価値のあるものは同じく叙事詩級ぐらいしかない。
さらに、ダークエルフの刀使いなんているかどうかも分らない。
どうせ、倉庫の肥やしに戻すなら、ワーグナーさんとの交換材料として使っても問題ないだろ。
「まぁ、そうね。アキラが良いって言うなら、もう私は何も言わないわ。
で、どうする?」
「んーどこかに食堂ぐらいあるだろ…そこで時間潰すか?」
「そこで時間潰すぐらいなら、アビスタトンネルに行かない?」
「アビスタトンネル?」
「そ、アビスタ内にあるダンジョンよ。この南アビスタと向こう側の北アビスタが繋がっているわ。
不死系が多いけど…どうする?」
「向こうまでどのくらいかかるんだ?」
「3~4時間ってところかな。Mobを無視するなら、もっと早く着くけど…」
「ん~、じゃ、ダンジョンの途中まで行って引き返すか…」
「そうね。それが良いかも」
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アビスタトンネルに行く途中に聞いた話だが、アビスタトンネルは改変前からあったそうだ。
クエスト終盤で、要塞都市⇒アビスタトンネル⇒南アビスタ(クエスト専用の街)を経由して
ワーグナーさんに会ったらしい。
アビスタトンネル南アビスタ側入り口にボス級のMobがいたらしいが、見た感じいなさそうだな。
「ここが、アビスタトンネルか…」
「そ、昔は直線のトンネルだったらしいのだけど…。
500年ほど前に落盤事故が多発した結果、不死系のMobが蔓延したっていう話よ…
クエストによれば。
脆い岩盤を避けて横道作ったせいで、すごい入り組んだトンネルになったみたい。
まぁ、それでも先人が正規ルートに松明置いてくれてるみたいだから迷いはしないと思うけど」
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俺はアヤカと会話しながらトンネルに入った。
中は意外と広い横幅3~5mと均一ではなかったが、十分戦闘が出来る広さだ。
等間隔で松明が掛けられており、この通りに進めば北アビスタへ行ける。
「出現するMobは大体Lvが20~25よ。高くてもLv30あるかないか。
アキラなら余裕だと思うけど油断しないでね」
最初に中で遭遇したのは5体のスケルトンだった。
俺は目に入った瞬間、中位法術で不死系に特効効果のある【レクイエム】を唱えると、一瞬で灰に返った。
次に遭遇したのがブラインバットいわゆるコウモリとスケルトンの混合パーティだった。
スケルトンは俺がコウモリはアヤカが仕留め、これもほとんど遭遇してすぐに終わらせた。
その後も、約20近いMobパーティを難なく狩り続けた後、アヤカが何かを思い出した。
「あ、言うの忘れていた…というより、すっかり忘れていた事なんだけど…
スケルトンとブラインバットをそれぞれ100体狩ると、エリアボスみたいな特殊なMoB出現するから気をつけてね。
ちなみにスケルトンの方はもうすぐ出ると思う。【レクイエム】で一撃死しないから…」
アヤカによると南アビスタに着くまで、スケルトンのエリアボスには2回、コウモリのエリアボスには1回遭遇しているらしい。
まぁ、今回は途中で引き返しているしコウモリは精々60体ほどしか狩っていなかった。
「はあ!?【レクイエム】で一撃死しないのか?」
「そ、ダメージはそこそこ与えられると思うけど、攻撃魔法を当てた方が有効だと思う。
それと、倒れてもまた生き返るから…対処法は木っ端微塵か【ターンソウル】」
アヤカの場合は、神弓での木っ端微塵を選んだそうだ。
「【ターンソウル】なら使える問題ない」
本来、俺の法力なら中位が限界だが、種族属性のお陰で【ターンソウル】のような上位もなんとか使える。
そう言っている間に、またMobパーティに遭遇した。
スケルトン3匹、俺はすぐに【レクイエム】を唱え排除した。
すると、進行方向の向こう側から何やら巨大な影が動いたのが見えた。
しばらくして、壁に架かっていた松明の灯りに照らされて巨大な影の正体が映し出された。
言ってみれば、巨大なスケルトン…手には巨大な剣を持っている。
刃こぼれがかなり酷いのを見ると刃物というより鈍器に近いかもしれない。
「スケルトンキング…。それと後ろに従えてるのはスケルトンナイトよ。
ナイトの方も【レクイエム】が効かないけど、【ターンソウル】は必要ないわ」
エリアボスであるキング1体に、取り巻きであるナイト6体という訳か・・・
「例の如く、私は手を出さないからね」
「了解。龍神メシアの名の下に、神に仇成す亡者の魂よ、我が神の槍により裁きを下さん!ホーリーランス!」
法術の中で数少ない攻撃魔法の1つで、直線上にいる敵性に対してダメージを与える中位法術だ。
さらに、不死に対して2倍の効果があるオマケ付きだ。
俺は、【ホーリーランス】をキングとその後ろにいるナイト2体を巻き込むように放つ。
すると、キングは仰け反りナイトは大ダメージを食らい1体は消滅、もう1体は後ろに吹き飛んだ。
しばらく、キングと吹っ飛んだナイトは攻撃してこないだろう。
なら、今こちらに迫ってくるナイト4体を相手にしよう。
「女神ヴィーナスの名の下に、現世に彷徨いし命亡き者に安らぎを、慈悲なる鎮魂歌!レクイエム!」
ナイト4体には、大したダメージが入っていなかったが動きが止まった。
十字隊形で迫っていたので、真ん中を狙ってホーリーランス】を唱えた。
至近距離で食らった1体と後ろの1体は消滅し、両端の2体は余波で吹き飛び壁に激突し
幾つかの骨パーツを散らした。
それでも立ち上がって来たので、激突のダメージが残っている間に【レクイエム】を放って止めを差した。
残るはキングとナイト1体…。
良く見ると、右上の壁が火花を散らしていた…。
俺は危険を察知し後ろへ跳ぶと、今まで居た辺りにキングの剣が通過していった。
キングはそのまま切り返す体勢になったのを見計らって地属性魔術【アーススパイク】を俺と剣の間に出るように放つ。
岩の槍が丁度出現したのと同時にキングの剣が返ってきて攻撃を防いだ。
良い感じに剣が岩にめり込み抜けなくなってたのでチャンスと見て俺はまた【ホーリーランス】を唱える準備をした。
「龍神メシアの名の下に、神に仇成す亡者のt…!?」
詠唱に集中し過ぎて、キングが剣を手放していた事に俺は気付いていなかった。
キングの足が俺の真上に来た事で出来た影により俺は気付いてバックステップをしたが少し遅かった。
ステップした事と足に弾き飛ばされた事が重なり、結構な距離を吹き飛ばされた。
「あぐっ…」
俺の体は後方にあった壁にまで吹き飛び激突した。
視界が歪んだが、赤くはなっておらず瀕死だけは免れた。
俺は懐からHP・MP回復ポーションを取り出し一気に2つとも飲み干す。
ただでさえ、美味しいには程遠いのに2つだと色んな意味でヤバイ…。
混ぜるな危険とか書いてないよな?
ま、まぁ、それは置いといて、俺は今使える最大級の法術でケリをつけようと思う。
まずは、自己バフで法力強化だ。
「主神ガディウスの名の下に、我、眠る隠されし力の開放を願う、我が欲するは魔なる力!ハイマジック!」
まずは、これで自身の法力を強化…。
念のために言っておくと、これは法力だけでなく魔力や霊力や神力などの魔法全般を底上げする魔法だ。
大体、現能力の+20%と言ったところだ。ついでに言うと能力値の大小によって効果は変わらないが持続時間が増える。
ちなみに、現在の俺の能力から言えば、おそらく20分~30分だろう。
習得してから初めて使ったので正確な時間は分らない。
「女神ヴィーナスの名の下に、現世に彷徨いし命亡き者に安らぎを、慈悲なる鎮魂歌!レクイエム!」
そして、迫ってくるキングの足止めのために、また【レクイエム】を使う。
キングも大分ダメージを負っているようで、今度は【レクイエム】で肩膝を付いた。
これは行けそうだ…。
「龍神メシアの名の下に、神に仇成す亡者の魂よ、我が神の槍により裁きを下さん!ホーリーランス!」
先ほどまでの【ホーリーランス】より2割増のサイズの槍が出現し、キングを貫いた。
もし、法力がカンスト近くになれば【ホーリーランス】は槍からレーザーに進化するかも知れないな。
俺の知り合いに法術師がいなかったから、どうなるのか少し楽しみが増えた気がする。
キングの骨が関節部からバラバラになり、床へ散乱したのを確認し、次の法術で止めを差す。
「主神ガディウスの名の下に、現世に止まりし命を繋ぐ、彷徨える命は来世へ送る、神の慈愛は命を救う!ターンソウル!」
キングの骨は一瞬光り輝き灰となり、どこからか吹く風に乗りどこかへ消えていった。
ターンソウルとは、基本法術系統の最上位法術に位置する魔法だ。
あくまでも基本なので治癒法術や強化法術に位置する上位法術はこれよりももっと難易度が高い。
効果は、死亡した者を蘇らせるのだが、死後硬直前の状態に限る。所謂、死亡してから時間の経った者の蘇生は不可能という事だ。
それと、今回のように【レクイエム】があまり効かない不死への対抗策ってところだ…。
【ターンソウル】のお陰で戦争時に死亡とカウントされた者がかなり少ない。
戦争開始前、部隊長に選ばれた者に死亡した者をすぐさま野戦病院に送るアイテムが配布される。
ただ、死亡した者が全くいないという訳ではなく、隊から放れた者や撤退戦では死亡する事が多い。
ちなみに、E/Oの世界では死亡=キャラロスだ。
キャラロスした場合は、子供キャラが居れば繰り上げ操作する事になる。
年齢が15歳未満の場合、強制的に15歳へ変更される。
いない場合は、養子というシステムで補間されるが【血の記憶】が継承されない。
と、長々と説明している間に、トンネル入り口まで戻って来たな。
丁度、良い感じの時間だ。
このまま、ワーグナーさんのところへ行くかな。
ワーグナー邸の扉を叩き中に入ると、丁度、夢幻刀を鞘へ納めている所だった。
「丁度良い時に来寄ったな…。ほれ、修理完了じゃ」
ワーグナーさんは俺に刀を渡す。
「視認出来なくなるまで薄くしたオリハルコンを修理するのは初めてじゃったが、良い経験になったわい。
ほんと、この刀は良いモノじゃな」
と、ワーグナーさんは満足した表情で話した。
「おおと、そうじゃそうじゃ。ほれ、修理代のお釣りじゃ。受け取れ」
と、後方にあった剣立ての中から何やら武器を1本見繕って俺に投げてきた。
「え、お釣り?」
投げてきた武器を受け取る。
「魔刀とあの酒を足せば、伝説級の武器より価値がある上に頂戴しておるからのぉ。
遠慮せずに受け取れ。どうせ使えんしのぉ」
え、使えないの?
俺は、渡された武器(…刀にしてはかなり長いが…)目を凝らし分析した。
すると、俺の目に信じられない数値が飛び込んできた。
◆冥刀・闇焔
ベース:なし
生産者:不明
耐久:???/???
攻撃力:????
必要能力:不明
備考:一度限りの封印(鞘なし効果、魔力-800、常に装備者へ炎ダメージ9999)※封印状態
神話級効果、対神特効、耐炎効果無視、炎によるダメージ追加+9999、禁呪ワンスペル発動。
冥刀効果、防御力無視、クリティカル率+100%、クリティカルダメージ+100%、
封印魔法:【永遠なる闇に潜む煉獄の焔】
生産者コメント:全テヲ焼キ尽クス冥界ノ黒キ炎
封印者コメント:鞘を見付けるまで、絶対に封印を解くな
な、なんだ…????とか9999ってのは!
いや、それ以上に神話級??聞いた事がないぞ。
それはまだ良い、封印者コメント?…絶対に封印を解くなだって!?
「あ、あの~。これは何ですか?恐ろしい数字とコメントが付いているのですが…」
数字だけ見れば伝説級がおもちゃに見える…チートか?これ…。
「見ての通りじゃが、おかしいところでもあったかいのぉ?」
「いや、全てがおかしいですよ」
装備者へ9999のダメージとか禁呪をワンスペルで発動出来るとか…必要能力さえ明記されていない事とか。
「それに気になる事が、この刀身を包んでいる布はなんですか?なにか文字らしきものもが書かれてますが…」
「それは、封印じゃよ。それは言わば抜き身の刀じゃからな。危険なんじゃよ。
死にたくなければ【鞘】を見付けるまで決して使おうとするんじゃないぞ。
使えば、鞘なし効果に書いておる事が起こるからの」
抜き身?鞘がない…?
「では、鞘があって完成品って事ですか?」
「まぁ、その状態でも完成品なのだろうが、焼け死にたくはないじゃろ?
予想に過ぎないが、この刀を使わせない様に鞘を隠したのだと思うのじゃ。
恐らく、封印した者か創った者のどちらかが…」
「では、その鞘ってのはどこにあるのです?」
「知らん。知ってたらその状態ではないわ」
「それは、そうですね」
「簡単には見付からんじゃろ…。
もし、見付ける事が出来れば伝説級とは比較にならん程の強力な武器なのは間違いないじゃろ?」
「はい、そうですね。では、有難く頂戴します」
改めて長刀を見る…俺の背丈より長くないか…?
「話は付いたみたいだし、私達はもう行きますね。
今日は有難うございました。失礼します」
「おぅ、また修理が必要なら2人とも遠慮せずに来るんじゃぞ」
ワーグナーさんは、ドラゴンブレスを片手に持ち、手を振って見送った。
前へ振り返る直前、栓を開けていたのが見えた。
俺は、長刀を背負い横目に見ながら街の出口を目指す。
対神特効、これの言う神とは何だろう。
もし、神=四神の事ならヴィーナスに対抗出来るかも知れないな…。
と、俺は妄想めいた事を思い浮かべていた。
どうだったでしょうか。
戦闘の表現が上手く書けてませんね。
2章が終わったら、最初から通しで修正していこうと思います。