第7話【精霊】
誤字脱字・表現の誤りはご容赦願います。
今回も戦闘があります。
「ほぉ~10年ぶりの客だ…」
と、言ったのは俺の目線で漂っている精霊だった。
なんだ、この臭い上にだらけた精霊は……
肥えに肥えた主婦がテレビの前のソファーで寝ながら尻をボリボリと掻くその姿に酷似している。
「おぃおぃ、最近の精霊使いってのは精霊に対してそういう態度を取るのか?」
そういう態度ってのは鼻を詰まんで汚れたものを見る目の事だろうか…
「申し訳ありません。あまりにも臭いので…」
「だっはっは、正直な嬢ちゃんだ。そういうのは嫌いじゃねぇぜ。」
あまりにも砕け過ぎだろ…俺の精霊に対するイメージが変わった。
「言っておくが、精霊がみんな俺様みたいな奴ではないからな。」
あ、自覚あるんだ…。
というか、話しながら鼻くそをほじるのは止めろ。
俺は自然と嫌そうに顔をしかめていた。
「ん?おぉっとすまねぇ。生ゴミに埋もれたせいで10年間誰も来なかったからよ。
暇で暇でつい癖になっちまった。唯一の楽しみと言えば、その辺にいるチンピラ共の殺し合いぐらいだしな。」
あぁ、なるほどね。こういう殺伐したところに10年も放って置かれたらこうなるわな。
大方、チンピラはこのゴミ捨て場に散見されるまだ使えそうな代物の取り合いをしていたんだろうな。
「で、契約するかい?」
え?そんな簡単に契約できるのか?
「あ、勘違いするなよ。嬢ちゃんを信頼した訳じゃねぇからな。こんな所から連れ出してくれるなら誰でも良いんだよ。」
なんていう正直な精霊だ。
俺もこういうのは嫌いじゃない。
「それならば、よろしくお願いします。」
「おぅ、なら、名前を決めてくれや。俺様は風の精霊ソードレスだ。それで契約完了だ。」
名前どうしようか…喋り方がヤクザやヤンキーみたいな感じだし、そういうニュアンスで付けてみるかな。
ふむ、決めた。これで良いだろう。
「古の誓約に基づき風の精霊ソードレスと契約を結ばん。汝の名はザキラ。我が名はアキラ=ローグライト!」
俺と精霊はそれぞれ光の柱に包まれる。
その光が落ち着くと風の精霊は姿を消すと同時に、突風が俺を包み込む。
そして、空気に溶け込むかのように消えていった。
ふぅ、終わったか。さぁ帰ろう。
俺は、ゴミ捨て場の出口へ向かう。
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「あれ?」
どうしたのだろう…何故か足が進まない。
と、厭な視線なんていうレベルじゃない明確な殺気と共に、ゴミの山の陰からチンピラ?が1人出てきた。
「クックック、話し声が聞こえると思えば面白いものが見れたぜ…。」
なんだ、こいつは…
「あれか…さっきの言葉は精霊と契約でもしたのか?ん、アキラちゃ~ん?」
男は値踏みをするかのように俺の全身を下から上まで眺める。
「くっ…」
「ああ、そうか。俺だけ名前が知ってるのもなんだな。俺の名前はジョーイ=シムス、簡単に言えば賞金首、PKをやってる。よろしくな。」
何故か、自己紹介してきたその男、ジョーイ=シムス…どこかで聞いた覚えがある。
前時代、賞金首を専門に狩る有名なパーティを一人で壊滅させた上に身包みを全て剥ぎ取った賞金首がそういう名前だった。
その後も、目に付く傭兵を狩り続けた結果、「傭兵狩りのシムス」なんていう呼ばれ方をされていた筈だ。
「傭兵狩り…」
確か、こいつはアキレウス族の筈だ、魔法が一切使えない代わりに身体能力が非常に高い種族で、特に近接武器のエキスパートと呼ばれている。
しかも、前時代から引き続いて今の時代をプレイしている。レベルは恐らく100を軽く超えている廃人プレイヤーの1人だ。
今の俺にとって最悪の相手が目の前にいる…
「ほ~、俺を知っているという事は前時代に傭兵でもしていたのか?」
少し驚いたシムスは、腰に差してある剣に手を掛けた。
「なら、少しは楽しめるかもな…。なぁに、気にするな。ただの暇つぶしだ。
お前がただの糞ガキだったら、犯して犯しまくって俺の奴隷にした挙句に苦しませて殺してやろうと思ったけど…
そうだな、俺を少しでも楽しませる事が出来れば、苦しまずに殺してやるよ。」
シムスは理不尽極まりない言葉を吐く。
俺には死ぬ選択肢しかないのか?
「どうした、構えないのか…?」
シムスの姿が俺の視界から消える。
「だったら、死ぬ事になるぜぇぇ!」
シムスの声が俺の背後から聞こえてきた。
「!?」
は、速い。
「くっ」
俺は咄嗟に腰に差してある杖を振り上げる。
ガチィ!と鈍い音と共にシムスの剣が杖と交差する。
「ぉ、良い反応するじゃねぇか?」
シムスはそういうと俺の腹部を足の裏で蹴る。いわゆるヤクザキックというやつだ。
何気ないそのキックも俺にとっては非常に強力な打撃で、俺の体は軽く吹っ飛び後ろの壁に激突する。
「かはっ!?」
くぅ、視界が赤い…さっきの一撃で俺のHPはほとんど削られたのだろう。
足もまともに働かない、プルプル震えてまるで生まれたての小鹿のようだ。
「おいおい、今ので瀕死かよ…お前どれだけレベル低いんだ。」
一桁だよ、こん畜生ぉぉ!
俺はポシェットにあるHP回復薬(小)を1本一気に飲み干す。
これで俺のHPは全快だ。
そして、俺はシムスに向きなおす。
「ひゃはは、お前さっきのHP回復薬の一番初期のやつだろ?お前もしかしてレベル20にも満たないのか?」
そうだよ、20どころか10にも満たしてないよ。悪いか…。
「そんなレベルで、さっきの一撃を防いだのか…手加減したとはいえ信じ難いぜ。
ひゃははは、マジかよ。有り得ねぇぇぇ。お前凄いな。」
シムスは腹を抱えながら大笑いをする。
非常に悔しいがこの隙を狙うしか俺には活路がなさそうだ。
そして俺は【縮地Lv1】を発動させ、男の脇をすり抜ける。
「おおぉっと、逃がさねぇよ!」
脇をすり抜けようとした俺の足を狙いシムスは素早く剣を振るう。
そして、シムスの剣が俺の足を掠める。
激痛が走り、俺は縮地の勢いのまま地面に転ぶ。
「イッつ…」
掠めただけなのにかなり痛い…それに傷口が濃い紫色に変色している。
毒?
「注意しとけよ。俺のこの剣には猛毒が付加された特別な剣なんだ…掠っただけでも10分足らずで死亡確定だ。
あ、お前程度なら2分ぐらいか…」
だ、だめだ。力が出ない…視界も暗くなってきた…。
くぅ、生き返る確証がないんだ、こんな所で死ぬ訳にはいかない!
俺はポシェットにあるHP回復薬(小)をまた一気に飲む。
でも、これだけじゃダメだ。猛毒を何とかしないとタダの延命措置にしかならない。
俺は朦朧とする意識の中で、治癒の法術を唱えた。
「女神ヴィーナスの名のもとに、我が身を蝕みし負の力を浄化させたまえ!キュアライト!」
俺の体を蝕んでいた猛毒は綺麗さっぱり霧散していった。
「ほぅ、お前法術使えるのか…こりゃ驚いた」
あんまり魔法は使いたくなかった…。なぜならMP残量が最大の3分の1にまで減っていたからだ。
誤算だ。チンピラしかいないと思っていたからMP回復薬を買っていない。
「じゃぁ、純粋に殺戮を楽しもうじゃないか!」
シムスは余裕な表情で俺に向かって走ってきた。
だが、俺には余裕はない。
そして、最も有効でシムスから逃げ果せる方法を考えた…
居合で奴に隙を作り後退したところを魔法で吹っ飛ばす。そして、そのまま一目散で逃げるのがベストだと…
そして、俺は杖を腰に差し直してシムスが間合いに入るのを待つ。
「ヒャッハ~!」
シムスは上段で構え俺を頭から真っ二つにするかのように振りかぶった。
今だ!
『居合・壱之太刀』
シムスを後退させたら儲けもの、どうだ!
俺の刀はシムスの腹を横薙ぎし、さらに生じた真空波がやつの傷口を抉って行く。
「ぐぅうっ!?」
シムスは傷口を押さえ蹲る。
よし、行ける!俺は次に中位魔術【ファイアボール】を唱えようとする。
だが、その時、奴の腕が伸びてきて俺の喉を掴む。
「ぐぎっ…」
「っっ、やらせねぇよ!」
怒気を含んでシムスはそう言うと俺の喉を掴む腕の力をじょじょに強くしていく。
く、苦しい。息が出来ない。意識が飛びそうだ…。
「やるじゃねぇか…そんな隠し玉があったとはな…さすがの俺もこれは防げなかったぜ。
くくく、楽しいな…」
もう…ダメ…だ…。
「おおっと、ここで殺したら勿体無い。」
シムスは手を放す。
「くはっ…ひゅーひゅーひゅー……」
視界が歪む、奴の笑みも歪む…もう俺にはほとんど力は残っていない。
回復薬を飲む隙なんて恐らくもうないだろう…俺はここで死ぬのかな。
「どうした?回復薬はもう飲まないのか?」
え?どういう意味だ?
「もっと、楽しもうぜ。おら!早く飲め!」
シムスは俺に蹴りを入れると回復薬を飲む様促す。
ただでさえ、残りHPが少ないというのに回復薬を飲ます為に蹴りを入れるなよ…と薄れ行く意識の中で思った。
って、ここで死ぬ訳にはいかない。震える手でHP回復薬(小)を掴んで口に持って行く。
震えていた為、口から少し零れHPが全快しなかったが、意識ははっきりとしたものに戻った。
「おら、立てよ。」
シムスは俺の顎を爪先で持ち上げ立つように言った。
俺はシムスを睨みながら立つ。
「良いねぇ。その目。ゾクゾクするよ。俺の息子も勃ってしまいそうだ。
こんだけ遊んでやったのに、まだその目が出来るとはな。」
残り、回復薬1本。次、致命傷になる攻撃を受けたら本当に死んでしまう。
俺、どうする!?
(はぁ~、俺様の事忘れてるんじゃないだろうな…呼び出せ!嬢ちゃんが逃げる時間ぐらい稼いでやんよ。)
俺の心に先ほど契約したザキラがため息をつきながら呼び掛けて来た。
く、他に手はなさそうだ…ザキラの提案に乗るか…。
なら、全は急げだ。俺は【縮地Lv1】を発動させ、2m奴から離れる。
「ん、縮地を連続で使用して逃げるつもりか?無駄だから止めとけ。お前のSPなんざすぐに尽きるぜ。」
「そんな事はしないっ!」
俺はシムスを睨みながら精霊魔法を詠唱し始める。
「我は望む。我が親愛なる…風の精霊ソードレス。我の呼びかけに応えよ!我の名はアキラ=ローグライト!汝の名はザキラ!」
すると、俺とシムスの間に強い旋風が発生し、その中心からあの風の精霊が実体を持って姿を現した。
「やっと、自由に動けるぜ…嬢ちゃん全て俺に任せな。」
ザキラは俺を横目で見ながら、リーゼントでガチガチに固めた自慢の髪を両手で整える。
……なんていう、時代遅れのヤンキー。
「なんだ。こいつ…雑魚臭しかしねぇ…」
俺も同意見だ…
ヤンキー漫画とかで、主人公に喧嘩を売って一瞬で散っていく名前もない雑魚キャラにしか思えない。
「なっ!?失礼な奴だ…」
ザキラは憤慨しながらシムスを睨む。
「おら、嬢ちゃん早く逃げな…」
ザキラは俺を逃がす為笑顔で促す。
そして、油断しているシムスに向かい直す。
「やぁあってやらぁぁぁ!」
まるで、ヤクザ映画の鉄砲玉のような台詞を吐き、精霊らしからぬ突進攻撃を繰り出す。
それ死亡フラグじゃないのか?
「ありがとう。後はお願いします。」
お前の事は忘れない…
俺は彼らに背を向けて後ろには目もくれず逃げ出した…。
悔しいが、俺ではシムスには勝てない…。
ゴミ捨て場のある広場を抜けた辺りで、ザキラがシムスに葬られる叫びが聞こえたが気にせず走り抜ける。
このままでは追いつかれる可能性があった為、俺は残りMPで使えそうな風の魔術の1つを唱える。
「谷の風よ、強く強く吹き荒れ敵を惑わす霧を広げよ!ウィンドミスト!」
俺を中心に濃霧が発生し視界を妨げる。
何も見えなくなるが、シムスにも何も見えない筈…
俺は必死に走った。この淀んだ空気が薄れていく方向へ…
そして、息は切れ切れ、足もガタガタもう走れないと思った瞬間、表通りに出る事が出来た。
どうだったでしょうか。
主人公アキラは廃人ではありますがレベル差には敵いません。
魔法の詠唱文は仮です。
もうちょっと飾り気のある文にしたかったのですが、思い付きませんでした。
今回は誤字脱字が多いと思うので随時修正していきます。
出来れば、次回も読んで下さい。