こういうのもあり
「私、セックスが怖いの。」
「人前では甘えれないわ。」
「男の人、苦手なのよ。やらせなかったら、乱暴になるし。」
「結婚とか、子供とか、もういいから。」
「時々あって、こうして触れ合って。それだけでいいの。」
10歳年上の彼女
約1年間に及ぶ遠距離交際は、彼女の結婚で幕をおろした。
お見合い結婚だったらしい。
コミュニケーションサイトのビアンコミュニティで彼女と出会い、意気投合して仲良くなった。
そしてお互い惹かれあい、付き合うようになり。
遠距離だった為、会うのは2ヶ月に1回程度だったが、満足だった。
旅行とデートを兼ねたそれは、いつも新鮮味があり、ワクワクさせる。
セックスが苦手という彼女の身体を少しずつならしていくのも楽しかった。
結果的にそれがきっかけで彼女はお見合いを受けたのだが。
「うまく利用されちゃったわけね。」
「絵里、ストレートに言い過ぎ。」
同じくビアンサイトで仲良くなった絵里。
たまたま住みが近くて、お互い好みのタイプを語るのが好きで仲良くなり、今では男友達の様な関係になった。
見た目は仕事の出来るキャリアウーマン
言い方もサバサバしてる
エロばなし大好きだが、恋愛には不器用でヘタレ
そんなギャップがツボ
「皮肉なもんよねー。セックスが苦手とかいって、克服出来たら結婚なんて。」
「絵里、頼むから傷口に塩を塗りこむ様な真似をすんなよ。」
「それを散々夜を共にして、家に帰った後にしらされるなんてねー。」
「・・・・絵里。」
「しかもすでにお見合い成立して、三ヶ月もたってたなんて。」
すっかり顔をあげる気もうせた。
そう、彼女はお見合いの返事をして、その男とすでに付き合い始めていたのだ。
いつものデートを終えて、家に帰り着くとメールでそれを伝えられた。
意味が分からず慌てて電話すれば、すでに着信拒否されており
唯一繋がりのあるメールを何度も送ったが、返事はなかった。
ショック過ぎて、現実味をおびていなくて
泣く事もできなかった。
心許せる絵里とこうしてビアンバーで飲み交わすも、こうしていじられては凹むばかり。
絵里は大袈裟なため息をつき、カクテルのおかわりを頼んだ。
「恋の痛手は恋で治す。それしかないでしょ。」
「その恋もする気になれない。」
「可愛い女の子におっぱい挟まれたら元気でるんじゃない?」
「このエロ親父。」
絵里はいつもこんな感じ。
面食いで胸が大きくておしとやかな、でもエッチな子がタイプ。
理想が高過ぎてまだ誰とも付き合った事ないが、よくモテる。
言い寄られることも多い。
特に人妻に。
「ねーね、一緒に飲まない?」
ほら来た。
胸が大きいからタイプだろうな。
声をかけて来た女性2人組に絵里が笑顔で返す。
大体は絵里が狙いだから、私はしばらく傍観者となる。
「こんなに胸開いてたら、触られちゃうよー?」
お酒も入ってか、絵里のセクハラはます。
つんつんと露出されてるわずかな膨らみをつついても、嫌がられないのはいつも凄いと思う。
「えっちー。」
「触られたいくせにー。」
盛り上がる2人。
かなり相性はいいみたいだ。
「蘭さん、何か飲む?頼んでくるよ?」
派手めな相方よりもやや大人しめの彼女に声をかけた。
やけにスタイルがいい人で、ついミニスカートから伸びた美脚に目がいってしまいそうになる。
「あ、私もいきます。」
カウンターについてくる彼女。
「由希奈さんは、恋人いるんですか?」
「いないよ?蘭さんは?」
「付き合って3ヶ月の子がいます。」
正直、驚いた。
声をかけて一緒に飲もうという事は、少なからずフリーだと決めつけていたから。
だが、変な期待や下心をださなくてすむ。
逆に、安心した。
お酒をもって席に戻ると、今にもキスをするんじゃないかと思うぐらいの距離でいちゃいちゃしている2人がいた。
絵里の難点は、女たらしなのもある。
付き合った事はないが、遊ぶのは大好きなのだ。
「なんだか、私達お邪魔みたいですね。」
「ですね。」
やれやれと再びカウンターに戻った。
もう2、2に分かれて飲むしかない。
「由希奈さん、女の人と付き合った事あります?」
「うん。三人ぐらいかな・・。」
「じゃあ、私より先輩ですね。私、今の人が初めてなんです。」
「そうなんだ。てか、敬語やめようか。」
あまり改まって話すと、緊張してしまう。
蘭さんは綺麗な足を組み替え、テーブルに肘をついて見上げて来た。
そして、テーブルの下でそっと私の足に手を置く。
「由希奈さんみたいな人、私タイプなんです。」
「え?でも、彼女いるんですよね?」
「それとこれとは、別。」
誘うような瞳
危険信号がチラチラみえた。
「浮気は駄目ですよ。」
流されてはダメだ。
必死に自分を抑え、目を逸らす。
すると、彼女は椅子を近づけ脚をピタッとつけてきた。
そして、私の手を取りストッキングの上におく。
滑らかな手触りと感触に思わず欲情してしまう。
「ホテル、行きたいな。」
今まで絵里と一緒にいて、誘われる事はあったが、こうもストレートに誘われたのは初めてだった。
しかもこんな美人に。
もし彼女がフリーなら迷わず飛び込んでいただろう。
寂しい気持ちも癒してもらいたくて。
「ごめんね、無理。」
「私に彼女がいるから?割り切れない?」
つまり、遊びだと割り切れと。
確かに遊びでもこんな綺麗な人と出来たら満足なのかもしれない。
でも、でも
「虚しいだけだよ、そんなの。」
「真面目なのね。絵里さんはああなのに。」
ちらりと絵里の方を見れば、すでにそこにはいなかった。
「出て行きましたよ。行き先はわかってるけど。」
私も分かってる。
なんであいつはコリもせずああなんだろう。
「まあ、そういう訳だから。他あたって。」
「つまんない人。」
ぐさっ
どうせ私は意気地なしですよ
もし自分が二十歳前後であれば、迷わず食いついただろうが。
もったいない気持ちもありつつ、店をでた。
もうこのままいるわけにもいかない。
「あー、私、このまま恋愛出来るのかなー。」
夜空を眺めながら、呟く。
こんな夜は人肌がやけに恋しい。
けど、やっと少しだけ心の傷がいえたきがした。
こうやっていつか、思い出しても痛みがしなくなる日がくるのだろうか。
「やっぱりもったいなかったかな?」
くすり、と笑って頭をかいた。
こういう事で笑えるだけ、まだいいか。
「由希奈さん!」
「え?」
呼ばれて振り返れば、蘭さんがいた。
走ったのか、呼吸が荒い。
「え?なに?」
会計は済ませたし、荷物も忘れ物はないはずだけど。
心当たりを自分の中で当たっていると、彼女はずいっと距離を縮める。
「別れてたんですね、彼女と。」
「え?!なんで、それ・・・。」
「さっき京子から電話があって、教えてもらいました。」
京子?ああ、さっきまでいた相方の子か。
「私、由希奈さんに近付きたくて、今日は2人きりにしてもらったんです。でも由希奈さんに彼女いるの分かってたから、遊びでもって思ったけど・・・別れてるなら、いいですよね?私がアタックしても。」
「いやいやいや!え?でも彼女いるって。」
「あんなの・・嘘です。その方が割り切って付き合って貰えるかと思ったから・・。」
なんだこの展開!
信じていいのか?!
いや、その前になんで自分こんなに舞い上がってるの!?
「まだ、蘭さんの事好きかも分からないから・・。」
「これからでいいです。意識していってください。」
「でも、そんなの。」
「私は由希奈さんの事が好きです。」
真っ直ぐに。
はっきりと。
まだ彼女のことが好きかは、分からない。
でも彼女の事を知りたいと思えた。
「じゃあ、友達から・・よろしくお願いします。」
「お付き合い、前提として、こちらこそよろしくお願いします。」
くすくすと笑いながら、すでに彼女のペースに引き込まれているのがわかる。
でも悪い気はしなかった。
こういうのも、悪くない。