お昼は一緒に食べよう
会議はこうして幕を閉じた。
何のためにここまで来たのか。
自分が大和に背を向けてまで覚悟を決めようとしたのに、昨晩の大泣きも何だか馬鹿みたいだったと思えてしまう。
一二三も会議室から出ようとしたときだった。
背後から暁久の、兄としての声がかかる。
「――もうじき昼の時間だね。せっかく顔を合わせているのだから、一緒に何か食べないか?」
一二三は最初、声がけするそれを無視して立ち去ろうとしたが、さすがは長兄。
暁久はじつに一二三の誘導を心得ている。
「たまにはカツでもどうかな?」
「――カツ?」
「忙しくて直截店に出向くことはできないけど、出前を取って……ね」
こう誘われると、食べ盛りの少年としては足を止めないわけにはいかない。
ここで喧嘩別れをして、ひとり寂しく道中のそば屋ですするより、はるかに有意義な話だ。
一二三はわずかに考える。
そして、すこしだけ意地悪くその話に乗った。
「言っておくけど、ボク。いまは大川屋のヒレカツソース丼じゃなきゃ食べないからね」
ヒレカツソース丼とは、部位がヒレ肉の、白米の上に千切りキャベツを載せた、ソースとケチャップが絶妙なタレとなる店独自の秘伝の味だ。
一二三は幼いころから、この店の丼を贔屓にしている。
一方で、
「いまはまだ寒い。戸田屋の卵とじかつ丼のほうが温かく、美味しいと思うけど」
これは通常のとんかつと玉ねぎをだし汁と卵とじにした丼で、暁久はこちらを贔屓にしている。
カツを食べるということで一致したのに、その食べ方の考えも異なるなんて、まるで先ほどまで激しく論じていた内容の延長ではないか。
先ほどの軍事作戦の優先順位は、そちらに譲った。
なので、お昼の内容まで相手に譲るわけにはいかない。
「兄さんは帝都にいるんだから、いつだって戸田屋は食べられるでしょ? 今日はボクに合わせてよ」
むぅ、と唇を尖らせると、暁久も小さくため息をつく。
「帝都にいても、戸田屋はしばらく口にしていない。こういう機会だからこそ食べようと思ったのに……」
「だーめ! ボクは大川屋じゃなきゃ食べないからね」




