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帝国国国策遂行要領

挿絵(By みてみん)


 ――この正和時代。


 大日本帝国陸軍は大陸を相手に異常な固執を棄てきれず戦争をはじめてしまい、大日本帝国海軍は米国をはじめとする大東亜地域に植民地を持つ、あるいは占拠する連合国を排除しようと大太洋戦争をはじめてしまい、双方ともに後には引けぬ状態となっていた。

 抵抗はたったひとつの身しかないのに、軍事面で支える陸軍と海軍はとにかく仲が悪い。

 それでも国際社会からの孤立が決定し、「国」として生き抜くためには安定供給が望める資源地帯の確保が何よりも重要で、そこだけは両者とも一致しているが、それはあくまでも図面上のこと。


 ――もとより、帝国海軍は率先して戦争などやりたくはなかった。


 何より、維新後から大陸に異常な執着を抱く陸軍の暴走の尻拭いが嫌だったが、資源や重油がなければ海軍は存在自体が成り立たない。

 おまけに帝国陸海軍大元帥でもある皇家(こうけ)筆頭の今上帝(きんじょうてい)を傀儡にされては、軍隊組織としては逆らう術がない。

 それで練りに練ったのが「帝国国策遂行要領」で最たる目的が国の存続を懸けた資源地帯確保の「南方作戦」だった。

 でもそれは、追い払った連合国に代わっての事実上の占領行為。

 誰が理解してくれよう?

 だが、この「帝国国策遂行要領」のおかげで陸軍もすこしは大人しくなるかと思えば、海軍を完全に手足と思い、暴虐のかぎりをし尽くすのだった。


 ――それが帝国海軍の作戦思想を二分させてしまう。


 軍令部は全体的に身の丈に合った「南方作戦」を従来どおりに進めたかったのだが、それで南方方面ばかりに意識を向けていては、十年前に国際非難の警告として放たれた帝都大空襲の二の舞を踏むことになる。

 帝国……帝都はすでに煉獄を経験している。

 それを危惧する聯合艦隊司令部がハワイ方面からの横槍を恐れて、黒真珠湾奇襲攻撃案を打ち出し、これを「帝国国策遂行要領」に盛り込むよう迫り、軍令部が仕方なく承諾。

 実際、余計な手間暇を……と思われていたハワイ作戦だったが、ふたを開ければ大成功で、それが南方作戦にとっても快進撃につながる成果となった。

 これには国中に歓喜がひびき渡った。

 これで軍需産業が盛んになって、好景気がやってくる!


 ――身を挺して護るべき帝国民は、いったい、何を言っているのだろう?


 表面上は敵基地を奇襲して破壊する、その行為自体は成功したのだが、帝国海軍は肝心の動く飛行場――空母の撃破には一隻も至っていない。

 もとより資源豊富な大太洋艦隊だ。

 回復にも時間はかからない。

 それを忘れたかのように、国策は南方作戦の第一段階が修了すると、今度は大東亜地域特有の多島群伝いに米国が北上する動きを阻止するため、大東亜地域の最短にある豪国と米国の海上交通網遮断を狙い、ニューギニア方面でMO作戦を展開。


 ――至急これに艦隊を編制せよ!


 命令は下るが、この時期、聯合艦隊司令部はまずはインド洋にあるセイロン島を攻略して、古くからこの地域に強固な植民地を持つ大英帝国東洋艦隊壊滅を目指し、先の黒真珠湾奇襲攻撃で活躍した第一航空艦隊を出撃させていたので、軍令部が望む編制には相当苦労していた。


「大日本帝国を護る」


 これこそ考えは陸軍以外は一致しているのだが、


「では、どのようにして護るのだ?」


 その方向性がまったく異なっていたため、帝国海軍は早くも軍令部と聯合艦隊司令部の衝突で溝が深まり出している。

 戦闘面で成果が上がると、誰もが聯合艦隊司令長官が偉いと思いがちになるが、実際、軍隊組織の命令系統では軍令部に権限がある。


 ――その軍令部は、帝国海軍として大日本帝国に仕えている以上。


「帝国国策遂行要領」に則った作戦を進めていかなければならない。

 軍令部総長はどんなに異論を腹に抱えようと、帝国が方針と定める軍政にはけっして逆らわず、今日まで軍政と軍令の均衡を保ち、抵抗海軍を護ってきた。

 その信念が帝国海軍の絶対となっている。


 ――その軍令部総長であるのが、長兄の暁久(あきひさ)

 ――聯合艦隊司令長官であるのが、弟の一二三(ひふみ)


 どれだけ兄弟仲がよかったとしても、公的立場が自然とそれを削いでいた――。

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