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吸血鬼の街  作者: 旅人凛人


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3/3

第三話 帰り道


 思わず右の首を勢い良く抑える。いつの間にマーキングなんてされたんだ!?


「別に害とか無いから!むしろ、他の吸血鬼に襲われなくなるんだよ。人の食べかけをわざわざ選ぶやつ居ないから!」

「なるほど……?」


 食べかけと示すものなのか。よく分からないけど、ここでこれ以上深掘りすると、周りに聞こえる可能性がある。後で話すのが懸命かもな。


「すみませんが、時間的にもうお帰りになった方が……」


 急に図書館のスタッフさんが声をかけてきた。確かに、帰った方がいい。スタッフさんに不信感を抱かれてしまうし、閉館時間もある。


「分かってます。今……」

「大丈夫です!私たち吸血鬼に襲われないので!」

「何言ってんだよ!?」

「ここに泊まっていかれるとか……?」

「いえ!夜に帰ります!」

「……???」


 スタッフさんは困惑の表情を浮かべる。そりゃそうだ。


「……分かりませんが分かりました。失礼しました。」


 スタッフさんは困惑の表情を諦めの表情に変えて、去っていった。


「ダメだろ、スタッフの人を困らせちゃ。」

「本当のことを言っただけだよ?夜に帰るし、吸血鬼に襲われないじゃん。」

「……襲われないって、本当なのか?」

「それは私が言っても……確かめるしか無いでしょ?」

「……そうだな。」


 俺は諦めた。吸血鬼と一緒に居る時点で、もうおかしい。ここまで来たのなら、流れに身を任せるべきだ。変に(さか)らってはいけない。

 俺はその後キルシーに読解のコツを教えたり、ワークの問題を解いたりして時間をつぶした。


「……もう日が落ちるね。」

「……」

『閉館時間となりました。今持っている本は、借りるか元の本棚に返却してください。』


 閉館時間のアナウンスが流れる。そういえば、ここで働いている人はどうやって帰っているのだろう。泊まっているのか?

 様々な疑問が頭の中で浮かび上がり、少し俯いて考える。


「おーい。生きてる?……血吸っていいってこと?」

「……そんな訳あるか。考え事をしていただけだ。」

「ちえっ。……帰ろっか。」


 ちえっとか言うなよ。俺がキルシーに吸血を許すなんて事は、もうしない。

 キルシーと並んで図書館の大きなガラスの自動ドアをくぐると、空が真っ赤に染まっていた。太陽と逆方向を見てみると、かすかに星の光が見える。


「……本当に夜だな。」

「当たり前でしょ?むしろ、私にとっては朝なんだけど。」

「なるほど。吸血鬼って昼夜逆転したみたいな生活習慣なのか。」

「そう。昼間とか(ねむ)すぎて、力なんてまともに使えないよ。擬態で精一杯だね。」


 じゃあ、毎日徹夜しているようなものなのか……?俺が疑問を口に出す前に、キルシーはマスクを顎まで下ろし、にやりと八重歯を見せつけてきた。


攷晴(こうせい)の前だと、擬態とかしなくていいから楽だね。」

「隠す努力はしろよ。」


 この状況を誰かに見られたら、どうするつもりなんだ……?


「大丈夫。見つかったら、そいつを殺すか拉致して監禁するから。」

「怖っ。俺もそうなる可能性があったのか。」

「無いよ?喰うつもりだったもん。」


 素直(?)な告白だ。今すぐに全力疾走で逃げ出したい。が、あの羽で追いつかれるのは分かりきってるか……


「……なあ、夜の幻現から逃げる時、羽を撃たれたみたいだけど大丈夫なのか?」

「心配してくれるの?」

「違う。気になっているだけだ。」

「うーん……血を吸えば一瞬で治るけど、今日ぜんっぜん血を吸えなかったから、治らないかなー……。」


 こちらを上目遣いで見てくる。そんな目をしても、俺の血は一滴もやらないからな。


「……血液パックでも吸っとけ。」

「新鮮な生き血じゃないと、傷は治せないよ。」

「でも今元気そうじゃね?」

「羽にちっこい穴が空いた程度でどうにかなるほど、吸血鬼は弱くないからね。」


 穴が空くってだいぶ重症だと思うんだが、吸血鬼にとってはそうでは無いらしい。吸血鬼は生命力が強いのか。


「……でも痛いものは痛いよ?擦り傷をうっかりお風呂に浸けちゃった時ぐらい痛い。」

「それってだいぶ痛くね?」

「痛いよ!銃で撃たれても平気とか言うおばけは居ないよ。たぶん。」

「多分?」

「人間を喰いまくって、生き血を吸いまくってる吸血鬼なら有り得るかも。吸血鬼は生き血を吸えば吸うほど強くなるから。」


 知らなかった。じゃあ吸血鬼になりたてっぽいキルシーは、弱い吸血鬼ということか。


「……あれ?俺生き血吸わせちゃったよな。」

「うん!養分になってくれてありがとう!!!」

「くそが。」


 キルシーは、にぱーと満面の笑みを浮かべて感謝した。ふざけんなよ?そういうのは吸う時に伝えろよ。


「……どれくらい強くなったんだ?」

「うーん。1.05倍くらい?」

「強いのか弱いのか分からないな。」

「これが初回で、二人目以降どんどん効果が薄まっていくんだよ。」

「……どういう理屈だ?」

「絵の具を混ぜる感覚だよ?最初は混ぜた色の特徴が出てて、混ざったってよく分かるけど、だんだん黒くなって、一色の影響力が弱まっていくんだよ。」

「なるほど。」


 血が混ざることで、ひとつひとつの影響力が下がる。だから一人分の生き血の効果が薄くなっていくのか。


「だから最初に吸った生き血の影響も徐々に薄まっていくの。」

「それが理由で、好きな人の血だけ吸って、好きな人の血を体内に残したら、あとは誰も襲わないみたいな、色々と重い吸血鬼も居るよ。」

「重いな……」

「……え、キルシーって俺以外の血、吸ってる?」

「生き血は吸ってないよ。」

「……」

「……勘違いしないで欲しいから言うけど、私は重い吸血鬼だよ?」


 キルシーはふふっと笑った。見た目だけは、普通の可愛い女の子に見える。


「……なあ」

「んー?なに?」

「キルシーはなんで――

 

キャハハハハハハハ!!!!!!


 高らかな笑い声が、静かな夜の街にこだました。


「何だ!?」

「吸血鬼の笑い声だね。」

「笑い声?」

「そう。夜に人間の生き血を吸うと、昼間と比べてそりゃもう最高に気持ちいいらしいんだよね。だからたまに奇声をあげちゃうって、知り合いが言ってた。」

「もし今攷晴の血を吸ったら、私も奇声をあげちゃうかも。」

「吸うなよ。」

「……俺の血って美味しいのか?味に個人差はあるのか?」


 地味に気になる。キルシーは昼間美味しいと言っていたが、どんなやつの血でも、生き血なら美味しいのでは……?

 というか、今吸血鬼の奇声が聞こえたってことは、誰かが生き血を吸われたってことだよな……。


「美味しいよ!普通は昼間に生き血を吸っても、ジュース飲んでる時ぐらいしか快感無いのに、攷晴のは奇声をあげたくなるくらい美味しかった!」

「だから、今飲んだら確実に昇天する。」

「そんなにか……。」

「……奇声って、どの辺からだった?」

「うーん……ここのすぐ近く? 」

「近く!?どのくらい近くだ?」

「東に200mくらい。」


 近っか!?確かにかなり大きな声だったからな……200mか。


「なあ、その吸血鬼と出くわしたりしないよな?」

「分からないけど、すぐには出くわさないと思うよ?まだ生き血を吸ってるだろうし、しばらくはとどまってるんじゃないかな。」

「一人分の血を全部吸うのは時間がかかるからね。」

「確かに、全部吸おうと思ったら、相当かかるだろうな。」


 人体にある全ての血を合計すると、だいたい4~5L。これだけの量を飲むのには、時間がかかるだろう。


「だいたい5分くらいかな?」

「5分……?1分で1L飲むのか?」

「そんなものだよ?夜間の吸血衝動は、昼間とは比べ物にならないくらい強いからね。」

「私も今唾液ダラダラだよ。」

「……」


 隣の危険人物(吸血鬼)に最大限警戒しつつ、俺は無事に家に着くことが出来た。奇声をあげていた吸血鬼と出くわさなかったのは、運が良かったからだろう。


「……着いたね。」

「ああ。マジで襲われないとは思って無かったよ。」

「言ったでしょ?」

「……でもなんでだ?キルシーはまだ吸血鬼になりたてぐらいの、弱い吸血鬼だろ?キルシーより強い吸血鬼なら、マーキングを無視して襲ってきそうなものだが。」

「それは……」





 

 

「……私が強いからかな?」

「なるほど?」


 キルシーが強いのか、弱いのか。俺はまだキルシーが全力で戦っている姿を見たことがない。見ていたところで、他の吸血鬼より強いのかどうかは、分からないだろう。


「……少し気になったんだが、なんで吸血鬼は室内まで襲って来ないんだ?調べてるから分かるけど、屋内での吸血鬼の被害って、かなり少ない印象があってな。」

「それはね?吸血鬼の掟があるんだよ。」

「吸血鬼の掟?」

「そう。招待されていない建物には、吸血鬼は無断で侵入出来ないの。」

「無断で入ると、サラサラの灰になって死ぬ。」


 なるほどな。だから吸血鬼は屋内に入って来られないのか。招待されていないから……


「でも、コンビニとか誰でもウェルカムな建物にも侵入出来ないのか?」

「いや、コンビニには人間に擬態してれば入れるよ。中で吸血鬼になった瞬間死ぬけど。」

「コンビニは人間ウェルカムだからね。吸血鬼にはウェルカムじゃないでしょ?図書館も、擬態してたから入れたんだ。」


 なるほど。なら、どうやって吸血鬼は屋内での事件を起こしているんだ?

 入った瞬間すぐに死ぬなら、どう足掻いても事件を起こせないはずだ。


「じゃあ、屋内での事件はどう説明するんだ? 」

「うーん……場合によると思うけど、友達になって家に招待された時とかかもしれないね。」

「招待された瞬間にだけ擬態を解いて吸血鬼になれば、吸血鬼が招待を受けたって事になるから。」

「あとは、家族を襲った場合もあるかも?」

「なるほどな。つまり俺は絶対にキルシーを家に招待してはいけないのか。」

「えー!招待してよ!」

「絶っっっっ対にしない。」


 乾いた死体になるのは御免(ごめん)だ。


「……分かった。玄関前で我慢することにしておくよ!」

「そうしてくれると助かるな。家の前に張られている時点で助からないが。」

「でも、そう言うからには、これから誰も家に招待しちゃだめだよ?」

「え?」


 キルシーは急に真剣な表情になった。さっきまでおちゃらけた少女だったのに、急に大人びて見える。


「私のマーキングがついている以上、あなたが吸血鬼と何かしらの関係を持っているって、他の吸血鬼にはすぐに分かるの。」

「だから、学校に潜んでいる他の吸血鬼が、攷晴と関わりを持とうとしてくるかもしれない。」

「……じゃあ、キルシーの方で先にその吸血鬼をどうにかしてくれよ。」

「無理。擬態してる吸血鬼と人間の見分けなんてつかない。それこそ、マーキングされている人間でも居ない限り分からない。」

「本当に気をつけてね?私にはどうしようもないし、攷晴が自分で気をつけるしか無いんだから。」

「……分かった。」

「……じゃあ、お願いね!ばいばーい!!!また明日!!!」

「……ああ。」


 俺は笑顔で去っていくキルシーに軽く手を振り、玄関の扉を閉めた。


「ただいま。」

「おかえり!!!もう、夜になんで外出なんてしてるのよもう!!!死にたいの!?」


 母が物凄い勢いでやってきた。うるうるした目を見れば、どれだけ心配していたかが分かる。


「違う違う。……でも、これからは夜中でも外に出られそうなんだよ。心配させてごめん。」

「無事に帰って来てくれたら、それでいいんだけど……どうやって?」

「それは……」


 どう答えればいいんだ……?吸血鬼の友達が守ってくれるとか言うか?いやいやそんなの言う訳には……


「……分かったわ。とにかく、ちゃんと無事に帰ってくること!乾いた死体になった息子なんて、見たくないの。」

「もちろん、死体になる気は無いよ。」

「分かってくれたなら、よし!夜ご飯もう出来てるけど、お風呂先にする?」

「飯食ってからでいい。」


 母が察してくれて助かった。いつも思うが、この母の深く追求しない姿勢は、とてもありがたい。


 俺は素早く夕飯を食べ、風呂に入って寝ることにした。


 部屋に戻った俺は、ベッドに仰向けで横たわり、今日の出来事を思い返していた。


(今日は濃い1日だったな……)


 学校ではキルシーに吸血されるし、放課後は図書館で勉強しまくって、夜中に帰るとかいう前代未聞の行動をした。

 吸血鬼についても、キルシーから色々聞くことが出来たな。吸血鬼は招待されていない家(建物)には入ることが出来ない……か。

 他の弱点とかも聞き出せれば、キルシーに反撃……


「……は、今のところしなくていいか。」


 攻撃されている訳でもない。それ以上に、学校にいるキルシー以外の吸血鬼の方が問題だ。

 今日は何も無かったが、明日からも見つかる可能性は十分にある。


(……とりあえず、もう寝るか。)


 室内に入ってくる吸血鬼が絶対に居ないという事実を知れた俺は、いつもより深く眠ることが出来たのだった。

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