第9話 婆ちゃんの墓 1
俺は、ダイニングに行く皆を見送り、龍影の方に振り向いた。
龍影は人造人間…、つまり…不老不死なんだが…、記憶を思い出して気づいたけど、どーー考えても、老けたよな…。
確か龍影を造った時って、今の人間で言う30代前半だったと思うが…、今は50代後半で大柄ながしっしり体型の見た目だよな…。何故だ?
……ま、俺も造られて死んでるし、多少老けるんだろ…。それに、コイツの場合死んでも直せるし。大した事じゃない…。それよりも…
「龍影、今も"転移"って皆に内緒にしてるんだろ?」
昔は、移動が楽過ぎて、エネルギー消費を抑えてしまうからっていう理由で、内緒にしてたもんな…。なんせ、"この星の連中は、有り余った体内エネルギーを消費しないと老化一直線"だからな…。
「はい、"当時の御命令は全て継続しています"。…主よ、墓までは10km以上の距離が御座いますので、転移で直接"結陽の墓"にご案内出来ますが、どうされますか?」
結陽は、結衣の祖母の名前だ。全く…、"灯台もと暗し"ってか…?国王…、結月…てめぇ、もう一度半殺しにされたいか…?
「そーいや、そうだったな…。」
当たり前過ぎで遠いとも思った事なかったけど、翌々考えたら15kmちょいはあったな…。
流石にこの体力だしな…。
「よし、転移にするか…。龍影、"本殿手前"に転移しろ。」
流石にな…。春華大国国王家である、"春野家代々の墓"だ…。いきなり墓の中枢に行くとか、気分的に嫌だ…。散々墓参りに行っていたしな。
でも…まぁ、国王の言い方的に、きっと、本当は違うのかもな…。実際、"結月"って…昔の名前と違うしな…。きっと、この件が由来なんだろ…?
…ん?て言うか、結陽と結月…?
ゆうひ、と、ゆづき…?
夕陽と月…、夜…、黒………俺…か???!
「かしこまりました。転移、発動致します。」
ブゥン!!
足下に黒い渦が現れ、3m程の直径に広がり、俺達を一瞬にしてシュンッ!と吸い込んだんだ。
ーー春野家代々の墓がある神殿、"メル"の入口前ーー
ブゥン!!
転移の黒渦が現れ、3人は立ったまま排出された。
グギャアオオオオオオオオ……!!!
「ん?」
空から猛獣の鳴き声…。"久しぶりだな"…。
俺はつい、にやけてしまった。
この鳴き声、"何度も聞いた事のある大好きな奴だ"…。ヨダレが出てくる…。
俺はチラッと龍影と国王を見たんだ…。そーいや、この2人って今は無帯刀だよな…。はぁ…"仕方がない"…、空腹には勝てん…。俺がやるか…。
俺は、空から急降下して来る"家畜獣"に向かい合い、右手先を太刀の形に変形させ、目を閉じた。
"より鋭く…、より頑丈に"…。
右手に集中し、その形はイメージ通りになっていったんだ。そして、俺は家畜獣から目を離さずに、龍影に命じた。
「流石に…お腹が空いた。俺が狩るから、"調理は任せるぞ"…。今回は黒胡椒だけで良い。」
俺の目には、夕日のせいなのか、赤茶色に反射された、鱗のある大きな龍族のような翼と、その翼を支え動かす筋骨隆々な筋肉…、そして、その鋭く大きな牙を持つ口が見えたが…、何よりも…
"引き締まった体でありつつ、その腹はフクヨカだった"んだ…。ククク…、あれは美味いだろうな…。
ヤツは必ず俺を狙って飛んで来る…。
"必ずだ"…。それがここの、絶対不変のルール…。この裏庭の家畜獣共の本能は、"弱っている者の気配を感じると、どんだけ遠くにいても狙いにやってくる"と言う本能だが、実際は弱ってる者に対し、家畜共が自らやって来るという、"狩の手間が省ける自動招集システム"なんだ…。
そして、上空を飛んで来たこの家畜獣の名は、"レックス"…。昔の名で言うと、"進化版ティラノサウルス"なんだ…。
この裏庭は"食の博物館"であり、古来より、"俺が気に入ったモノ"を、より美味しく食べれるように、龍影が実験を繰り返し、大概の家畜獣達は原型の数倍大きく、数倍美味しく育つようになったんだ…。
だから、俺は飛ばなくとも、奴が勝手に"間合いに入って来てくれる"…。ククク…、"楽なもんだ"…。
俺は、右手を一旦左腰に添わせ、少し腰を低くし、構えた。
レックスは地面衝突をしないよう、徐々に地面と並行になりながら突っ込んで来る。
今の俺は、"ひ弱"に見えるわな…。散々力使って、疲労困憊なのは事実だしな…。
だがな…、"だからこそなんだよ"。その速度、"利用させてもらう"。
太陽が殆ど沈み、家畜獣達は"活発な時間"に入る。
そして、それに伴い、メルが自動で外壁硬度を上げる為、メルが青白く光始める…。
その光は月のように明るく、俺を背中側から照らし、伸びた影はレックスに向いた。
身長より伸びる影…、間合いより少し遠いが、レックスは殺気を全開にし、フルスピードで突っ込んで来ている。
ククク…、"龍輝と殺りやった時が懐かしい"…。
はぁ…
俺は静かに息を吐き、一瞬息を止めた。
そして、嗅覚の間合い2mに来た瞬間、一気に息を吸い、全身にレックスの匂い情報を巡らし……
刃渡り82cmと俺の腕の長さと踏み込み、合わせて170cm……"参る"!!
目を見開き、両足に力を入れ、レックスの大きく開けた口先が当たる直前に、踏み込み刀を抜いた。
スッ…
龍影がニヤけた。
「流石は主…。"後はお任せを"。」
龍影の声が後ろから聞こえた。
俺は、久しぶりに"心から安心してしまった"んだ…。
身体が震え、フラフラする…。声が出ない…。
今の"居合一閃"で、力を使い切ったか…?
刃を通す際、この身体の能力である"吸収"を利用して
、一緒に"完璧な血抜き"をした…。
はっきり言って、レックスの血は思った以上に栄養満点で、"この身体に染み渡っているのが、良く解る"…。正直、極わずかだが、腹の足しになったのは事実だ…。
後ろで、龍影が力を使って調理してくれているのは解るが、"今は見たくない"…。
"本当に怖いんだ"…。
また、心臓が高鳴る…。もう過ぎた…、もう終わった事なのに…。
息が荒れる…。
他の家畜獣達が寄ってくる気配がする…。
くそっ…。"今はもう"……
スタスタスタ……
国王が俺の2mより少し前に出てきた。
「調理には少し時間がかかりますので、少し、"仮眠"をなさってはいかがですか?」
複数の気配がそこまで迫る中、国王の口元は優しく微笑みを見せてきた。
「!…"5分だ"。それまでは、俺の眠りを邪魔するなよ。それと…、夕食まではこのレックスだけで良い。後は追い払え。」
そーいや…そうだったな…。
俺はその場に座り込み、目を閉じたんだ。
何気に国王は、"体力はほぼ満タンだったな"…。
「"仰せのままに"…。」
国王の声が一瞬遠くに聞こえたが、俺は直ぐに気を失ったんだ。
ーー5分後ーー
あまりの良い匂いに、俺の身体が反応し自然に起きた。
そして、目の前に龍影が跪いてきた。
「主よ…、"お待たせ致しました"。大きめブロック肉のサイコロステーキが完成致しました。骨は全て取り除いていますので、"そのままお召し上がり下さい"。」
「ああ…ありがとう。龍影、お前もかなり消耗してんだろ…。夕食の事を考えると1人でコレは多いから、一緒に食べないか?」
俺の技を全力で受けてるしな…。
「!」
龍影は目を見開き、少し涙を滲ませた。
「あ、ありがとうございます…!」
龍影は頭を深く下げた。
俺はついでに国王を見たんだ。
「お前は要らないよな?」
国王は俺の足下に跪いた。
「はい…。この後の夕食の時にでも...」
あ…
国王は、思わず龍影の顔色を確認してしまった。
「っ……主よ、さっきは"例外"と仰っていましたが、どうなさいますか?」
正直…もう、結月に料理を作りたくないんだが…。
「…"夕食の時に考える"…。ま、お茶ぐらいは出してやれ。」
龍輝の事もあるしな…。
「承知しました…。」
お茶は出すんだな…。………後々許す可能性があるって事か?
龍影は、この2人に関連する記憶を一瞬で全て思い出し、頭をフル回転させたんだ。
……まぁ、"可能性としては、ゼロではないな"…。
こうして、私達はレックス肉を囲い、龍影はお茶とお手拭きをそれぞれ用意したんだ。
私が結月にお手拭きを渡すと、かなり目を見開いて驚いて私を凝視してきたが、私は声をかけずに軽く頷くだけに留めたんだ…。
別に、私は国王を許すつもりはない。今の私にとって、結月は国王として操り人形的お飾り及び、主の接待役の一人として居てくれたら、それで良い…。今の私にとっては、"主が全て"なのだ…。だから、主がお茶を言われた以上、従者として、"客人としてもてなしただけ"だなんだ…。
俺は2人の行為を見ていて、僅かに口角を上げたんだ。
そして、有り余ったレックスの骨何本か手に取り、圧空拳の要領でガッチガチに圧縮し、形を整えて箸にしたんだ。
昔の修行の時は、当たり前にこの箸を作ってたんだ。
「龍影、これ使え。」
俺は、白い1膳の箸を龍影に渡したんだ。
「!あ、ありがとうございます。」
この箸、懐かしいな…。
俺達はそれぞれ手を合わせたんだ。
目の前には、肉汁が染み出してきてるレアブロックサイコロステーキの山がそびえ立っていた。
「「いただきますっ…!」」
俺達は箸を持ち、無我夢中で食べまくったんだ。




