第8話 つかの間の温もり
俺は風呂場に入り、シャワーの蛇口を捻った。
ッシャァァァー!!
久しぶりに、シャワーのお湯を浴びた…。
暖かい…。だが、……その温もりを「心地よい」と感じている自分を、……どこか遠くで客観的に見ている自分がいる。…殺されて、無理やり起こされたもんな…。
…俺の目じりは、また熱くなった…。
さっき、もし母さんに触ることが出来たら…、
どれだけ”温もり”を感じることができたか…。
そう思いながら、身体を洗い、湯舟に浸かった。
以前は”潜るな”と言われたが…、今は俺専用の湯舟だ…。
ジャポン…。
俺は、仰向けになって潜った…。
水面に光か差し込み、揺れている…。
はぁ~…、気持ち良い…。最高だ…。
…やっと、"ちょっと帰れたかな"…。
でも…やっぱり、こんな俺を本当に受け入れてくれるのは、家族の皆でも、もうちょっとかかるよな…。
雷虎の耳も、虎耳と人間の耳が出てたし…。
あの時は、俺はそんなつもりは無かったけど…。
…あれ、絶対に怖がらせてしまったよな…。
…気をつけよ…。
俺は、右手の人差し指を浴槽の縁まで伸ばし、そこから呼吸をして、ゆっくり10分程浸かったんだ。
指呼吸…、まさか、結衣の時の潜水の夢を…こんな形で叶えるとはな…。正直、めちゃくちゃ便利な身体だが…それでもな…。
"俺はもう、結衣じゃない。…化け物なんだ"って、思い知らされるよ…。
俺の涙が、お湯に溶けていく…。
…本当に、不安で不安で堪らないんだ…。
でも、頑張って前を向こうとは思えてきたんだ…。
ガラガラガラガラ……
俺は浴室から出て、身体を拭き、浴衣に手を伸ばした…。
浴衣は150㎝用と160㎝用が準備されていた…。
あぁ…まさか、150㎝用を着る事になるとはな…。獣化の時はもう少し身長もあったから、国王を見下していたのに…、今ではコイツを見上げる事になるなんてな…。
俺は等身大の鏡で、自分の体を見た…。
テレビに映るような王子様系のイケメンではないが…
堀はやや深めで、二重で黒の短髪で…体は細マッチョ的な感じだ。
うん…、見た目は本当に”男子中学生”だ…。だが…、その目だけは、幼さなんて微塵もない…。化け物とディオラが混ざってる黒々とした目だ…。
「国王…、風呂に入って良いぞ…。俺は、お前が出るまでここで待ってるからよ。」
今度は俺が後ろを向いて、目を閉じた。
「…ありがとうございます。なるべく早く出ます。」
国王の声が聞こえた…。
…5分程で出てきて、浴衣に着替え、長い髪をドライヤーではなく、”能力”で一瞬で乾かした…。
「お待たせ致しました…。」
…もうちょっと、ゆっくり入っていても良かったのに…。まぁ、良いか…。
「さて、行こうか…」
俺は脱衣所の扉を開けた。
「なんだ…、皆速いな…」
実は皆、物凄い速さでお風呂に入っていたんだ。
”主を待たせたくない”という思いと、”人間の姿を見たい”という思いで…。
湯舟に入っていたのは”10秒”だけだったが、”一瞬の戦い”の時間を過ごした皆にとっては、十分過ぎる時間だった。
スタスタスタスタ…
龍輝がやってきて、俺の前で跪いた。
「食事の用意が出来ましたので、お呼びに参りました」
「分かった…、ありがとう。龍影と国王以外は、先にダイニングに行っといてくれ。俺達は"用事"を済ませてから行くからよ…。」
俺は龍影に目線を移した。
「龍影、"裏庭の婆ちゃんの墓に行くぞ"…。…婆ちゃんが何者だったのか、話してもらうからな?」
龍影は完全に味方だと思ってた…。
お前は…、何処まで知っていて、何処まで関わっているんだ?
龍影はその場で跪いてきた。
「承知致しました…。」
……ああ…、やっぱり"心当たりがあるのか"…。
俺は少し、ショックを受けたんだ…。
"家族でいてくれ"って言ったのに、コイツも頭を下げてきた…。
確かに、龍影だけは他の家族と関係は違う…。龍影は、その昔…俺が組手相手目的で造った、"人造人間"だ…。
でも…、結衣の時は、"育ての父親だった"んだ…。まぁ、当時は「龍影さん」って呼んでいたがな…。龍影に「私は本当の父親ではない」と、散々言われて育ったもんだ…。当時は…父さんの顔なんて、覚えてなかったのにな…。
もう…、結衣の時の関係には…、戻れないのかな…。
龍影の目も…表情も…、もう、「龍影さん」じゃない…。ディオラとしていて生きていた時の「零ノ宮龍影」だ…。
俺は…また、少しシュンと落ち込んだんだ…。




