第7話 肌の温度
更衣室に入ると、床の上の服入れ用のカゴに、国王用の浴衣がセットされており、棚の最も取りやすい位置に俺用の浴衣が用意されていた。
さて…
「国王、お前は後ろを向いてろ。…人間の姿ってどうやってなるんだ??」
やり方はなんとなく想像できるけど…
国王は俺に対し反対方向に向き、その場で正座した。
「人間のイメージをしつつ、人間の体には無い大きめの部分は折りたたんでしまい込み、小さい部分は、そのまま身体にしまい込むイメージです」
…ざっくりだな…。
つまり、折りたたみながら、生え方に沿って凹ましていくイメージか…?
とりあえずやってみるか…。
…!!
イメージ通りに、身体が変化していく感じがした…。
これ、なんか気持ち悪いな…。
尻尾はちゃんと尾てい骨に沿って凹んで行った。
なるほど…、"理にかなってるな"…。
背骨の神経が、そのまま尻尾まで来てたのか…。
そら〜コレで吸収したものは、直ぐにこの身体に還元されるわな…。
…だが、待てよ?
コレって考え方によっては、かなり応用が効くんじゃないか??さっきの腕の変化もそうだったしな…。
「なぁ国王、尻尾の役割って他の部分でも出来るのか?」
出来たら便利だよな?
「…できます。貴方様の体の部位は、それぞれが体全ての役割を担っています。つまり、どの場所からでも、尻尾の役割をするモノは出せます。例えば指でも可能です。」
国王は淡々と説明してくれた。
えっ…?…???!…凄くね……!?
俺は、目をパチクリしてしまっていたんだ。
奴隷兵を造るのに使ったこの尻尾が、全身で使えるだと…!?…マジか…。これ、相当凄いぞ…?
…後で、使う練習をしよう。というか、全身操作の練習をしよう。多分、これはかなり役立つぞ…。
「なぁ、頭の部分のそれぞれの“毛”っていうのは、“出す”イメージか?」
もはや、確信犯的な感じで国王に聞いた。
「…その通りでございます。」
俺は目を閉じ、イメージしながら出したんだ。
…人間の“男”の姿になれた…と思う。
俺は自分の体を見るより前に、後ろ向きで立っている国王を見た。
!!…これ、絶対国王より身長低いよな…。
国王って160㎝だったよな?っていうことは…この目線的に、150㎝…だよな…?せめて160は欲しけど…、理想言えば170㎝は欲しい…。
「なぁ、国王。この人間の姿って、身長伸びるのか?」
…これで止まりとかだったら、かなりショックなんだが?
「年齢に応じて、伸びるようになっております。今の貴方様は、成長期真っ盛りなので…。」
でた!男子中学生の成長期!!
これは、あれか!卒業までにめっちゃ伸びるやつか?!そうであればかなり嬉しいけど…今は、こいつより、身長が低いっていうのが…
やっぱり結構凹むんだが…?
「…なるほど…成長期か。まぁ…なら、とりあえずこれで過ごすか…。」
…仕方ない…。これは妥協しよう…。
久しぶりに人間の…、自分の手足を見た…。
…生えてるよな…?動くよな?
俺は両手を見つめながら、掌を握ったり開いたりしたんだ…。
…動いた。
そうそう…、この感覚。この肌触り…。
人間の肌だ…。戻った…!!!
俺はかなり…いや、めちゃくちゃ嬉しくて、両手に力を入れ、下を向いて涙目になっていた。
さて…、この姿で、国王を…他の人達を見ることが出来るのか…?目を合わせ…、触れられるのか…?
…俺の脳裏に、闇の世界で過ごした日々が蘇る…。
…怖い…。怖かったんだ…。
目の前に、求めていた”最強の母さん”がいるのに…、”黒幕で…元凶”だった…。
そんな人を…俺は、触れられるだろうか…。
「国王…目を閉じて、こっちを向いてくれ…。何も…”力”を使うなよ…。」
心臓の音が高鳴る…。高鳴るのに…、血の気が下がりそうだ…。
「…はい…。」
国王は俺の方を向いた。
国王の姿は見えている…。見えているが、国王は目を閉じ、そこに居ないと思ってしまうぐらい、気配を抑えてくれていた…。
"俺に対し、一切刺激をしない為の判断"だ…。
…助かる…。…けど…、やっぱり…怖い。
さっきまでは”怪物の体”だったから良かったものを…。”人間の体”になったとたんこれだ…。
俺に”ディオラの記憶”が戻っても…、今の俺は”結衣の記憶”の延長にいる…。結衣の記憶や人格が無くなったわけじゃない…。
俺は…俺の記憶では、昨日殺されて、今朝生まれた状態だ…。…まだ、1日も経っていないんだ…。
…怖すぎる…。
けど…、"母さん"だ…。
俺は、頑張って母さんに近づいた…。
目の前にいるのに、かなり遠くに感じる…。
…俺は、母さんの体に手を伸ばした…。
…触れない…。さっきは、思いっきり風穴を開けたのに…。今は…、無理だ…。
「"ごめん"、国王…。やっぱり、一人で風呂に入るわ…。お前は、俺の後に入れ。俺が浴衣を着るまでは、後ろを向いて目を閉じていろ。」
…この姿では…、近くにさえ、いられない…。
俺は、風呂場に入ったんだ。




