第6話 つかの間のいやし 1
雷虎は雷の如く、奴隷達に伝えに行ってくれた。
雷虎は、八獣界の虎猫大国の元国王だ…。ま、結衣だった時は、ただの"元国王の球技大得意パワフル爺ちゃん"だったがな…。ディオラの時はめっちゃ剛毛だったが、歳のせいかそれなりモフモフだ…。……"抜けたんだな"…。ま、ハゲてはないし、実際あのモフモフの獣人化のお腹の毛の上で、よく昼寝をしていたもんだ……。
今回の気絶寝は数日は確実だろうから、また2-3時間の昼寝の時に頼むか…。
俺は雷虎の背中を眺めながら、思い出に癒されていたんだ…。
……"本当に…、戻れるのかな"……。
こんな化け物なのに…、怖がらない理由が無いじゃないか……。口で言って、耳で聞いていても…、あの手紙は襲撃以前に書かれたものだ……。"心移り"をした者が居ないなんて…、とても思えない。
クラスや学校の皆を信じていない理由じゃないけど……、それでもな…。
俺は国王の方に振り向いたんだ。
"裏切られたばっかりなんだ"…。
信じる事が如何に難しいか…、"分かってくれ"…。
ま、雷虎のおかげで、俺の怒りは少しマシになって、落ち着いてきたがな…。
さて…やっと風呂に入れる…。
半年ぶりの風呂だ……。風呂に入れず死んで、この身体になった……。ああ…、身体に付いた血は、さっきの蘇生で全部使ったから見た目はキレイだが、それでもな…。
俺は左手の人差し指を軽く鼻に当て、少し吸ったんだ…。
…うん…、やっぱり嫌だな…。
そうだ…、"敢えて、コイツに洗わせるか"…。
今の国王は奴隷だ…。敵意は一切ないし、俺に再び殺意を向ける事がどういう事なのか、コイツはわかってるしな…。……まぁ信頼はしていないが、"これが事実"だ…。事実なんだ…。
「国王…、"お前のせいで、この身体が汚れたんだ"…。お前が洗え。」
「!?…か、かしこまりました…。」
大丈夫…なのかしら?私は構わないけど…触れても大丈夫なのかな…?
こうして、俺と国王は浴室に向かった。
ちなみに、雷虎は素直に命令に従っていたが、頭の中では?マークが飛び交っていた。
浴衣を用意したが、人型になれるのか??というか、さっきまで"冷酷"そのものだったのに、「ありがとう」って…。どうなってるんだ??しかも!この手紙の内容!!俺でも何一つ知らない情報ばっかなのだが!?
とりあえず、皆にこれを見せねば…!そして、風呂に入ろう…!実は、かなり入りたかったのだ…!
それにしても、…ご主人様…なんか…、優しくないか?
…"冷酷な怪物"を…演じていた???
…解らん…!全然答えが出ない!!
とりあえず、一旦考えるのを止めよう…。
こうして、雷虎は皆に知里からの手紙を見せ、龍輝以外の奴隷達はダッシュで浴室前に向かった。
国王と俺は一切会話をする事なく、浴室に向かっていて、ようやく浴室が見えてきたが、その浴室前には、龍輝以外の奴隷達が全員跪いていた。
「…何だよ、お前ら…、もう、読んだのか??」
わざわざ跪かなくても良いんだけど…?
先に入っていて良かったのに…
奴隷を代表して、雷虎が口を開いた。
「はい、皆、読ませて頂きました…。内容につきましては、後程お聞かせ願います…。…我々に、入浴の許可をして頂き、ありがとうございます…。」
雷虎達は俺に震えていた…。
俺は皆の前にしゃがみ込んだ。
「…別に良いよ。後…、さっきは皆を傷つけてごめん…。俺には、こうするしかなかったんだ…。本当にごめん…。もう、俺を怖がらなくても良い…。俺は、世間では“怪物”とういう立場だ。…今の俺が、お前達をこの星の人々から守るには、奴隷にするしかなかった…。それに、奴隷にした方が色々都合が良かったんだ…。だから…せめて、この“従者がいない時間”は、俺の“家族”でいてくれ…。頼む…。」
俺は結局、"家族を求めてしまったんだ"…。
転生前の…俺の全ての人生を思い出しても尚…、今の俺は"結衣の延長なんだ"…。
…誘拐されたのが、中1の時の11月下旬の雨の日の放課後で、化け物として外に出たら、桜は殆ど散っていたんだ…。だから、半年は経ってる…。
俺は、ディオラを思い出したが…、正直、今は結衣としての精神を土台としたうえで、ディオラでいる。…こんな感覚なんだ…。
だから…、ちょっとでも…"元に戻りたいんだ"…。
俺は皆を見渡した。
皆は肩を震わせながら、涙を流してくれていた。
「「はいっ!!勿論です!!」」
本当は皆と抱き合いたかったが、流石にちょっと恥ずかしかったから止めた…。それに…まだ、"全員じゃない"…。
俺は国王に振り向き、睨み付けたんだ。
「国王と龍輝は今回の“元凶”だから、例外な…!」
流石に…、今は家族として受け入れられない…。
無理だ…。
「はい…、承知しております。」
国王は俺の足元に跪き、深く頭を下げた。
「さて、風呂に入ろうか…。クタクタだ…。」
俺は浴室に入ろうとした。
「あの…、本当に浴衣で宜しかったのですか?」
雷虎が言葉を選びながら聞いてきた。
「フッ…!おい、皆はタメ語で良いぞ…!」
「人間の姿になれるらしいからな。けど、本当にその姿になれるかどうかは分からんが、やるだけやってみようと思ってな。」
俺は、雷虎の言葉選びに吹いてしまった。
やっぱり、固いのは嫌だな…。
雷虎は、この一瞬で頭をフル回転させた。
これは…"どっちだ"!?お、恐らく御主人様の言葉通りで良いんだろうが、一言でも間違えたら"即死だって有り得る"…。油断など出来ない…。今、俺は御主人様の"地雷の上に居る"んだ…。
この御方は昔からそうだ…。普段は良いが、精神が不安定な時や公の立場の時は、地雷が敷き詰まれやすいんだ…。
返事は決まったが、出そうとすると声が震えそうになる…。だが、極力震えないように…。
なんせ…本当に辛いのは、この御方だ…。
きっと、"根元には結衣もいる"…。あの子が、これだけ勇気を出して言ってくれているんだ…。"応えてやりたい"…。
「わ…わかった…。」
雷虎は本当にタメ語で話して良いのか?と、かなり迷った様子で、俺に返事をしてくれた。
ダメだ…笑転けそうだ…。
俺は頑張って笑うのを耐えていた。
「じゃあ、後でな。あ、…能力もそうだが、覗くなよ…!」
俺は微笑みながら軽く手を振って、国王と一緒に浴室用の更衣室に入ったんだ。




