第3話 知里からの手紙
俺は、生前の自分の部屋の前に立っていた…。
本当は…、知里からの物が無ければ、自分の部屋に入る気なんて無かったんだ…。
そもそも…、自分の事を"俺"と言っているのも、自分自身に少し違和感がある…。
…男としての時間が圧倒的に長いが、それでも、直前まで"結衣"として過ごしたんだ…。
まぁ、転生はこれで3回目だがな…。前回以外は、男として過ごしていたし、今回…、起こされた瞬間に"全てを思い出した"からな…。
でも…、思い出したからこそ……、事実が残酷過ぎて…受け入れられなくて…、ここに来る直前に、父さんをこの手にかけたんだ…。
体が"男である"のと"雌の姿になることはできない"と言われなければ、俺は"女の心のまま"過ごすことができたし……、"戻りたかった"んだ…。
だが、こうなった以上、後戻りは出来ない…。進むしかないんだ…。恨まれてたって良い…、怖がられても良い…。
"孤独には慣れてる"…。
…だから…、今の俺に、"知里の物を見る義務"はないし、…実際、入らなくても良い…。
俺が一言、「この部屋のモノを全て処分しろ」と言えば、もう…、結衣の記憶に縛られることもない…。
ついさっき…、"冷酷な神"として、皆が見たはずだ…。
そんな奴が、"一緒のクラス"にいたら、嫌だろ?
…勿論、本当は皆の元に戻りたい…!
けど…な?…戻れる訳…ないじゃないか…!
俺は…自分の部屋の前で、立ったまま下を向き、手を震わせて泣いていた…。
1番楽しかった記憶だ…
そう簡単に捨てれる訳がない…!!
戻りたい…!戻りたいよ…!
俺は、自分の部屋に入れずにいたんだ…。
…カツッカツッカツッ…
足音が俺の方に近づいて来た。
「…入られないのですか?」
国王だった。俺は事情を説明した。
「…おそらく、本当の意味で戻れないことはないと思いますよ?貴方様がいたクラスの一部は、ただの秀智院の学生ではありません。」
「ん?…どういう…ことだ?」
俺は涙を拭った。
「貴方様に…もう、隠す必要はありませんが…せめて、知里の物を御覧になられてから、説明をさせて下さい。」
そう言うと、国王は俺の生前の部屋を開けた。
しっかりと掃除された部屋の…俺の机の上に、分厚めの封筒が置かれていた。
「あの封筒は、誰も開けて見てはいません。ですが、本人より何が入っているのかは聞きました。知里は…いえ、皆は…貴方様を"待っています"。」
「!!…っ…」
限界だった…。気づいたら、俺は右手で"元凶の顔を思いっきり殴っていた"んだ…。
だが、俺の力はほぼ底をついていたから、殺傷力なんて無い…。
こいつをKOにすら出来ない微力しか出せなかったが、国王はその場に倒れ込み、意識を朦朧とさせた。
「お前なあ!!!…"どの口が言ってんだよ"!!"母さんのせい"で!!こうなったんだろうがよ!!"」
「俺は!!…人を傷つけた“化け物”なんだぞ!?皆、さっきのを見てるだろ!!"母さんのせい"で!!俺は全てを捨てたんだぞ!!!」
俺は涙目になりながら、右手で大きく振り払うように、国王に怒りをぶつけたんだ…。…"母さん"って、言うつもりは無かったんだがな…。
「…私の責任である事は…、重々…理解しております…。ですが…だからこそ、知里の手紙を読んで頂きたいのです…。そして、その後…、この件について、詳しく説明をさせて下さい…。」
…"母さん"って言ってくれた…。でも…、そうだよね…。"分かってる"…。
"もう…、母親じゃないよね…"。
国王はゆっくりと起き上がり、その場で化け物に土下座をしながら、涙を流していた…。
「…私は此方で控えておりますので…、どうか…中で手紙を御読み下さい…。」
母さんの身体は小さく見え…、震えていた…。
…ああ…、やっぱりそうなんだ…。
もう…、"母さんじゃないんだ"…。
"これが…、俺達の関係なんだ"…。
俺は目を閉じ、鼻から小さく息を吸い、深く息を吐いたんだ…。そして、再び目を開け、足下の"奴隷"を冷たい目線で見つめたんだ…。
「…分かった…。"そのまま待っていろ"…。」
俺は視線を部屋に移し、中に入ったんだ…。
そして、部屋の奥にある机に向かい、封筒を開けた。
中には手紙と分厚い本が入っていた。
本は…、アルバムだった…。
ーー俺は手を震わせながら、手紙を開けた。
結衣へ
良かった…。
この手紙を読んでいるって事は、本当に生きてるんだよね…?
結衣が居なくなったあの日から、私も、中学校の皆も、凄く心配していたんだよ…。
でもね…、結衣が居なくなって少ししてから、私を含む、ソフトボール部の2年生は全員凄い頭痛に襲われて、1週間気を失っていたの…。それで、目を覚ました時、皆…思い出したんだよ…。
生前、結衣に…いえ、ディオラ様に仕えていた事を…。
私は"一ノ宮 桜蓮"だったことを…。
約2000年前、ディオラ様が亡くなったあの日、零隊長以外の私達隊長は、貴方様の母君であるローラ様に、半分冗談で、”来世もディオラ様に仕えたいです”と言いました。そしたら、"本当に皆がそう思うなら、仕えられるように出来なくはないよ"と…。それから、今まで知らなかった”神の世界”や”魔神との決戦”、"竜王様とローラ様の関係" について教えてもらいました…。
そして…ディオラ様が生まれ変わった後、”この国が滅びるような大事件が起きる”ことも…。
その黒幕がローラ様であること、ディオラ様の来世の身に起こることも…、その時知らされました。
正直、私達隊長は、ローラ様はとても恐ろしい人だと思いました…。だけど、それと同時に、ローラ様が物凄い覚悟をしているのも解りました…。
ローラ様は私達に…
「全ては私の責任です。貴方達も、主を苦しめる私を怨むのなら、怨んでもらって構いません。」
「ですが、一つお願いがあります。来世で”我が子”とこの…”怪物”の居場所になってもらいたいのです。」
…と、言ってきたのです。
…私達は、ローラ様の"共犯者"です。
私達は貴方様が苦しむのを、貴方様が生まれる前から知っていたのです。
知っていて…、記憶を伏せられ、本能のまま…結衣と出会ったのです。
知里として、結衣は私の“親友”でした…。
過去を思い出した今の私は、“親友を苦しめた罪悪感”でいっぱいです。私達に力があれば、決戦にも一緒に出陣出来たはずなのに…、生前、ローラ様は“皆では力不足です”と…。私達は従うしかありませんでした…。
今、手紙の前の貴方様は混乱していると思います。
私達に怒る気持ちを持つかもしれないと…、覚悟しています。
今のソフト部の2年生は全員、当時の隊長達の生まれ変わりです。
そして、記憶が戻った今…、ローラ様の許可を得て、国王様・黄鱗龍輝校長と共に、中等部全員にこの事を伝えました。勿論、”他言無用”と付け加えて…。
今の貴方様は…、”余計なお世話だ”と…呆れるかも知れません…。ですが、これは”共犯者になってしまった私達の責任の取り方”なのです…。
…貴方様を決して!孤独には致しません。生前、私達は貴方様を”敬愛”しておりました。ずっと、一緒に居られたらと…どれ程思った事でしょう…。
貴方様は…もしかしたら、私達を許してはくれないかもしれません。
そして、貴方様自身もきっと、”怪物”となった自分自身を許せないでしょう…。
それでも…もし、叶うのなら、もう一度”親友”になっては頂けませんか…?
もう一度、”クラスメイト”として、”仲間”として、一緒に手を取り合ってくれませんか?
皆、待っています。
貴方様のタイミングで構いません…。
また…一緒に、通学しませんか?
一ノ宮知里より。
…お前ら…なんて事をしてくれたんだ…!!
俺は…、その場で泣き崩れたんだ…。




