第24話 氷結前編 (依代7)
コキッコキッ…
結斗が首を左右に傾け、首筋を鳴らした。
「さて、"怒気が戻ってくる前に蘇生させるぞ"。」
結斗は気を引き締めなおし、"本題"へ意識を向けた。
そう…、この世界は"球体"だ。つまり、怒気が宇宙球を通り抜けて壁に当たったら、その怒気は勢いのまま上下に別れ、上下の頂点に集まり、勢いの逃げ場として、球体の中心に戻ってくる。
つまりーー
怒気は逃げ場を失い、最後には"結斗の下に戻ってくる"。
結斗と結月はこれが分かっているし、"前回もそうだった"のだ。
ピッ…
結斗は龍影にテレパシーを繋げた。
「龍影、結斗だ。母さんが上手い事やってくれたが、"まだ終わっていないから"、他の奴らは宇宙球から出さないでくれ。それと、龍影は氷婆(結氷)を連れて、ここに転移で来てくれ。あ、龍影は母さんと同じような"極炎熱無効の戦闘服"に着替えて来いよ。"お前に頼みたい事があるんだ"。」
結斗は少し口角を上げた。
「!?しょ、承知致しました!」
い、今の状態で…こ、"こんな私でも"本当に役立てれるのか!?
龍影は嬉しさと不安が入り交じっていたが、とりあえず通信機のガレラを呼び出した。
「はい、龍影副議」
「ガレラ!"まだ終わっていないから、全員待機だ!私も出る"!!通信機は置いていくが、映像の転送は続けてくれ!家族が見てるからな!」
ガレラの返事を遮ってしまったが、今は仕方がない!
"終わっていない"という事は、それなりに余裕は無いはずだ!
「!?"了"、御武運を!」
ガレラは背筋を伸ばし、右手を額へ上げ、その場で敬礼をして部分通信画像を消した。
ブゥン。
画面が消え、それと同時に龍影は右手で転移孔を開け、極炎熱無効の戦闘服を転移で呼び寄せた。そして、身体の周りに青色のオーラで長方形型の簡易更衣室を組み立てた。
シュルッ…………パリンッ。
1秒…と少しはかかったが、更衣完了だ。服装は基本的に結月と同じだが、防護目的もあって、生地は結月の物よりもやや分厚く作ってあるのだ。
……そもそも、あの女(結月)の身体自体"炎熱無効"なのだ…。だから、結月の服は"服さえ炎熱に耐えれたら良かった"のだ…。だが、私はそうもいかん!…と思う…。ビッグバン直後の中心地に行くと言う事は、"測定不能な程の高温地帯に行く"と言う事だ…。
正直、"怖くないと言えば嘘になる"…。
"怖気付きそう"…というのが、マジの本音だ…。
だが、この身体は"主が造ってくれた物"であり、その主が"来い"と言っている…。主を信じるが、この身体が"熱を感じる身体"というのは日常的で、良く分かっている…。
……身体の周りに結界を張って、行こうかな…。
主と結月が"私にとっても、次元の違う行為をした後"だ…。自信なんて失くすさ…。
私はチラッと結氷様の方を見た。
あっ…!
ふと閃いた。
結氷様と一緒に結界に入り、そのまま転移をすれば良いんだ…。
そうすれば、結氷様の魂も守れるし、私自身も、これで耐えられる場所なのかを自分で判断出来る…。
これが"最適解"だろう…。
龍影は結氷に近づいた。
「結氷様、"お待たせ致しました"。それでは参りましょう。」
「!はい、宜しくお願い致します。」
遂に、この時が来たのね…。
龍影は、結氷様と私を結界で覆い、その状態で主の下に繋がる転移孔を開けて転移した。
ブゥン!
ーーービッグバン中心地ーーー
ブゥン!
ゴォオオオオオオオオオオオオ…!
ん!?
龍影達の目に飛び込んできたのは、5mの青白く輝く正方形結界と、獣人化中の主が、その上で結界に尻尾を刺して座っていた。ちなみに、結月は先に来ていて、主の左側に浮遊しながら控えており、轟音は主の結界から聞こえていた。
そして、私が驚きで声を出せずにいると、主は少し口角を上げ、私を見てきた。
「…"お前の和装姿"、久しぶりに見たな。…"懐かしい"。」
2000年前は、まだ春華の国民は着物が主流だったからな…。だが、八獣界の国々と交流をするようになって、それぞれの文化が入り交じり、現代では服や色々なモノが多様化している…。まあ、城の寝巻きは基本浴衣だが…。しかし、現代の龍影の服装といえば、浴衣かスーツかワイシャツ姿だ…。結衣の頃はどんな仕事をしているか聞いても上手い事隠されていたが、コイツの事だ…。"絶対色々やっているだろうな"…。
「!…ええ、まぁ…。"こっちの方がやる気が出ますので"…。主よ、お待たせしました。それで…"私に頼みたい事"というのは、何でしょうか?」
凄い気になるのだが…?
「ああ、氷婆蘇生後に、3人で"俺に怒気封印をして欲しい"んだ。前回ビッグバンをした時は、冷えるまで結構かかったけど、"今回はそうも言っていられない"しな…。」
俺はチラッと母さんを見たんだ。
「はい。宇宙交易をこれ以上禁止していては、流石に宇宙経済に影響が出てきます。それと、現在、怒気の主要波はそれぞれ世界の壁に当たり、上下に別れ始めたところですので、これが上下の頂点に辿り着いた瞬間、"上下からここにビッグバン光砲"として戻って来ます。正直、その威力は"先程のビッグバン放熱を超えます"。ですので、光砲の威力制御と怒気封印は私が主で行いますので、御二人には、"測定不能の高温エネルギーを冷やしてもらいたい"のです。」
「他の者なら、ここに来た瞬間に"灰"ですが、龍影様の御身体は"そんなヤワではありません"し、結氷様の身体も、主様の分身体を依代にするのなら、その高熱に余裕で耐えられます。」
「"主様が今されているように"、青色オーラで熱を吸収し、怒気と分離させる事で、"純粋な冷めた怒気"として、主様に封印出来ます。また、高温に関しては怒気が離れる事である程度冷めますし、今の主様であれば、熱をそのまま食べる事も一応可能ですが、"食べにくい"ので、オーラで"調理"をして頂き、純エネルギーとして、主様の体内へと戻したいのです。」
!?
龍影と結氷様は驚きで口を閉じるのを忘れ、言葉を失っていた。
「あ、あれだけの高エネルギーを…"私達だけで制御する"なんて…。せ、せめて"他の家族も一緒に"…龍輝や陽毬なら、炎熱操作は得意ですし…。」
主がぶっ倒れ直前ってのは分かりきっているが、結月も見た目以上に消耗してるじゃないか…。結氷様は蘇生直後、私だって全快じゃない…。そんな中で"ビッグバン光砲"だと?!全員全快じゃない状態で、ビッグバンエネルギーの凝縮砲を相手にするのだぞ?!勘弁してくれ…!!
これが、龍影の本音だった。
主と結月は目を合わせ、結月が左手を顎に当て深く考えながら口を開いた。
「主様、"確かに、良い機会ではあります"…。ですが…それで光砲エネルギーを制御するには、"私は他の方々とオーラで連結をする必要がある"ので、大罪人の私と
今更連結が上手くいくとは」
結月の手が震えている中、龍影が口を挟んだ。
「結月…"今回だけは"、私も皆も、お前を信じている。それに、"アイツらだって、オーラでの調理は得意"だ。それは、お前も分かってるだろ?それに、皆主の奴隷だ…。"主の命令なら、必ず従う"。それが、奴隷ってもんだ。」
実際…雷虎でさえ、そうだったしな…。結月は震える両手をそれぞれ握り締めた。
「"ありがとうございます"。……主様、私にこれ以上、異議異論はありません。」
「…分かった。まぁ、きぃ婆(陽毬)も来ないと蘇生が見れないしな…。母さん、皆が来たら"それぞれ身体に沿った結界を纏わせてやってくれ"。流石に身体は生身だ。結界はオーラ由来だから、それで"遠隔連結も可能"だろうよ…。」
!?
龍影は耳を疑った。"身体に沿った結界"だと?!
私は結月を凝視してしまった。
結界って、そんな事出来るのか!?初耳だぞ!?
「"承知しました"。龍影様、彼らの"防護服の中に"酸素ボンベを入れておいて下さい。…時間がありません…。今、放熱の先頭は赤道面から頂点までの半分に達しています。…"練習が出来ない一発勝負"です。放熱が頂点に達した瞬間、噴火の様に、"ほぼ同時にここに高速で来ます"。」
「!?"失礼"!」
ブゥン!
龍影は氷婆を置いて、慌てて他の家族の下に転移で戻った。
…コンコン。
俺は、右手で結界を鳴らし、触れた。
もう、かなり冷えてきたな…。間に合いそうで良かった。…これ、名前考えないとな…。
あ、その前に、皆に声をかけておくか。
俺は龍影を含め、家族全員に一方的にテレパシーを送った。
ピッ
「皆、結斗だ。"悪いが、龍影の指示に従って全員こっちに来て手伝ってくれ"。焼け死なない様にはするから、そこは安心してくれ。皆、母さんとオーラで連結してもらうが、"今だけは信じろ"。それが、成功の鍵だ。」
俺は返事を待たず、テレパシーを終了した。
皆直ぐ来るだろうが、それまでちょっと休憩しよう…。
俺は目を閉じ、足下の結界の事以外は、脳と身体を休めたんだ。
一方、その頃龍影は、大慌てで家族用の酸素ボンベと極炎熱無効の服を用意し、皆の着替えを手伝っていた。
陽毬を入れて9人。しかも、全員獣人化だ。
力だけなら獣化一択だが、オーラで冷却処理をするのなら、繊細な作業が必要となる。だから、獣人化になってもらったんだ。…というか、"こんな場所"で全員が獣化したら、建物が壊れるわ…。勘弁してくれ…。
皆、主からのテレパシーに戸惑いつつ、"主が言うならば"と、進んで準備をしてくれていたが、龍輝と陽毬だけは、手は動かしつつも、微妙な顔をしていた。
2人は被害者であり、加害者だ…。無理もない…。こんな状況じゃなかったら、"2人は無理して参加しなくて良い"と言ってやりたいが、火炎の操作の達人種族である龍国の王と妃だ…。正直、さっきのビックバン光砲の話で結月が上下の頂点に達したら"ほぼ同時に来る"と言った時点でだいたい想像はついていたが、恐らくその正体は"レーザー光線"だろう…。
だとすると、龍影としては"絶対に参加して欲しい"のが本音になってしまう…。
はぁ…、ついさっき、この2人にはキツく当たってしまったばっかりなんだけどな…。なんなら、陽毬に至っては、私がさっきの尋問で1回殺してるしな…。"本人の望み"だったとは言え、やり過ぎたか…。
私が龍輝と陽毬を見ていると、2人がこちらに気づき、一瞬目を逸らして2人が目を合わせて、陽毬は下を向き、龍輝が少し暗い顔でこちらを再び見てきた。
「龍影…様、"炎熱操作が必要だから"、ワシらも協力に参加させて頂ける…、という事ですよね?」
龍輝は両手を強く握り、拳を震わせていた。
これは、どういう思いで、震えているんだ?龍影への恐怖か?それとも、主への恐怖…、大罪人となった今でも、"自分を必要としてくれているかも"という、希望か?
「"そうだ"。この世界は"完全な球体"で、先程の放熱が壁に当たり、上下頂点についた瞬間、"おそらくレーザー光線様になる"。それを、全員で冷やしつつ怒気とエネルギーに分け、怒気を封印する。だから"2人には特に協力して欲しいんだ"…。時間が本当に無くて悪いが、"私からも是非お願いしたい"のだ。」
龍影はその場で上半身を90度に折り曲げ、深く頭を下げた。
「!?…上下から来るソレを、ワシと陽毬が最初に受け取るのですか?それとも、」
ピッ
結月から、テレパシーでこの場に居る家族全員に"怒気封印計画と現在の放熱状態の詳細"がイメージとして送られてきた。
その内容は"全員が絶句"する程で、腹をくくり、気を引き締めるには、これ以上ないものだった。
龍輝は再び龍影を見つめた。
手の震えは消え、龍輝の瞳孔は人の黒目から、龍種の縦長になり、瞳は火の性質と同様で、青水色ではなく、オレンジ…しかも黄色寄りになっていた。
皆"本気"だった。
「……"参りましょう"…!」
陽毬を含め、この場にいる家族全員が強く頷き、龍影は「ありがとう」と皆に伝え、家族を覆う大きめの結界を張り、結斗の下へ転移して向かった。




