第19話 龍妃の罪(依代2)
「主よ…陽毬に対し、“オーラを使用した読み取りの許可を申請します”。」
龍影の低く重たい声だけが、この場に響く。
ヤバい…。龍影の奴、相当怒りに蓋をしてるな…。
「…"許可しよう"…。但し、24時間以上続く副作用と後遺症は認めない。…"好きにしろ"。…もしやり過ぎたら、"俺が治してやる"。」
これ、龍影のガス抜きをしといた方が良いよな…。好きな様にやらせよ…。
どっちもどっちだった。俺達は、"既に限界を越えていた"。
龍輝を含め、他の家族の顔は青ざめていたが、陽毬だけは顔色を変えず、龍影の方をじっと見ていた。
きぃ婆、肝座ってんな…。
俺は本気で思った。ま、龍影の両手から青緑のオーラが溢れ、龍影の肩の高さまでメラメラ燃えているように見えるがな…。
凄い質量だが、オレンジ色の炎じゃなくて良かった…。
俺は改めてきぃ婆の方に向いた。
「きぃ婆、悪いが“自首をしてくれた”とは言え、“龍影の尋問”は受けてもらう。覚悟しておけ…。脳と身体には、相当な負荷をかけてしまうからな…。」
なんせ、脳を…記憶を、直接見る行為だからな。龍影のオーラなんて、左右が頭部分で繋がっているからな…。正直、俺でもドン引きなレベルだ…。
きぃ婆は龍影から目を一切逸らせずに、口を開いた。
「“覚悟は出来ています”…。どうぞ…、ご覧下さい。」
きぃ婆の“覚悟”は本物だった。そして、これを聞いた龍影は僅かに口角を上げたのを、主は見逃さなかった。
「陽毬…、“良い覚悟だ”。遠慮無く、“本気で”させてもらうぞ。2000年など、"私には短期間だ"…。」
龍影は目を見開き、瞳が“青緑色に変わり“、宣言通り本気モードになった。
そして、龍影は大きな両手の親指を陽毬の眉間に当て、両手小指を両耳に当てるように、陽毬の頭を覆ったんだ。“龍影の尋問”は特別だ…。と言っても、龍影が尋問を行う場合は、だいたいの該当者の場合は、該当者の身の安全確保の為に、全身麻酔もしくは気絶をさせて行うが、“今回だけは違ったんだ”…。
安全確保の理由…それは、龍影のオーラは脳の神経細胞の表面と内部を這って刺激を行い、該当者に死ぬ直前の擬似体験をさせ、走馬灯を見させた瞬間に、オーラでその記憶を全て読み取る、という…俺からしても結構エゲツないもので、これをされた該当者は“超強烈な脳震盪”のような状態になるんだ…。
死ぬ直前まで追い込まれる…。つまり、意識を保ったまま…脳に、龍影の怒りで殺されるという恐怖を直接植え付ける行為でもある……。
きぃ婆の脳は高速で小刻みに揺れ、瞳も揺れている状態から、上に向き始めた。
「あっ……あがっ……。あ……ぁぁ……。」
龍影の眼力は更に強くなり、一切瞬きをしていない…。
きぃ婆の鼻から血が一筋出てきて、瞳は半分以上昇ってる…。だが、きぃ婆の意志と龍影の意志が、"気絶なんてしない、させない"と……無理やり、きぃ婆は起こされている状態で、この尋問でこの状態は"既にきぃ婆の覚悟が強い事を証明していた"んだ…。
この間、"僅か1分"だったが、この尋問の副作用として、"体感時間は、覗かれた期間である2000年と同等"なんだ……。
しゅぅぅぅ…………。
龍影のオーラが退いていく。終わったのか…。
尋問が終わり、きぃ婆の目は虚ろだったが、龍影と目を合わせーーーー
僅かに口角を上げた。
「りゅ…えい、"ありが、とう…。結衣、ごめん、ね"…。」
瞳は完全に昇り、意識を失い、フラつき……
ガタンッ…
椅子から崩れかけたが、それは龍影がちゃんと受け止めた。
俺は椅子から立ち上がり、龍影達に近づいたんだ。
「龍影、"ちゃんと読めたのか"?」
全く…、こんな状態だったら、24時間過ぎるんじゃないか?
龍影は満足そうに、ニヤッとしながら俺の方を見てきた…。だが、目の奥は業火のような怒りに蓋をしているのが分かってしまった…。
「"勿論です"…。主よ、一応…"起きるまで寝かしときますか?"」
本来なら、起きるまでは寝かすのもアリなんだが……。
「フン…、"ここまでしてか"?全く…、"待つのは基本嫌いなの、知ってんだろ"?」
俺は、龍影に陽毬を床に寝かせるように促し、人差し指の先に僅かに力を込め、青緑色のオーラを出したんだ…。そして、そのまま軽く陽毬の眉間に触れたんだ。
ボアッッッ!!
陽毬の全身が青緑色のオーラに包まれ、全身の検査と治療を開始した。
全く…、きぃ婆の身体、パッと見はちゃんと健康管理が出来ているが、今回の尋問以前に、ストレス過多で色々ダメージが来てるじゃないか…。
これ…、思ったより余命が近いぞ?
5年……無いんじゃないか?
ま、あれだけの覚悟を見せたんだ…。この2000年間、それなりに…負担はやっぱり凄かったんだな…。
…辛い思いを…させてしまったな…。
俺は少し、ゆっくりと瞬きをしながら歯を食いしばったんだ…。
……刑罰は刑罰だ…。龍影の内容を聞いてから考えよう……。
そして、"俺もちゃんと責任を取ろう"…。それが、俺の償い方なんだ…。
俺は、心に決めたんだ…。
……
さて、治療はだいたい終わったな…。このまま過度なストレス無く健康に過ごせば、後10年は確実に生きられる…。だから、それまでに出来たら…極力刑罰を早く終わらせて、スッキリさせたいのが正直なところだ…。
まぁ…今の俺でも、“10年しか伸ばす事が出来ない“んだけどな…。
孫として…家族としては、もっと一緒に居たいな…。
…出来た。これで、勝手に目が覚めるまで待つと言う選択肢も無いわけではないが、目を覚まさせる為に治療をし始めたしな…。
俺は雷虎の方に向いた。
「雷虎、"お前の電気で起こせ"。」
雷虎は不意を付かれた様に驚きつつ、チラッと龍輝の方を見ると、龍輝の顔は真っ青で引きつっていた。
俺は龍輝を横目で見たが、同情する気は無い…。なんせ、ぶっちゃけ"心臓は止まっているんだ"…。電気ショックが必要不可欠な事くらい、皆分かるだろ?ま、オーラで無理やり心臓マッサージはしてるがな…。
雷虎は俺の方を向いた。
「わかった…。」
雷虎は俺達の側に歩み寄ってきて、俺がきぃ婆の胸の中央に指を指すと、察してくれた。
そして、俺は雷虎に交代し、雷虎は右手を心臓部分に置き、青緑色のオーラを出して、雷虎なりに心臓の状態を把握していた。
「!?…全く…、通常の電気ショックじゃ、起きねぇ心臓の強さだな…。流石、"龍王の王妃"だ…。2人とも、少し離れていくれ…。」
俺と龍影は一瞬顔を見合わせ、コクっと頷いた。
そして、4m程離れたんだ。
雷虎は両手に青緑色のオーラを纏わせた状態で、体表にバチチッと電気を走らせ、次第に白髪の髪が雷雲の成長を思わせるように徐々に黒くなっていった。
そして、体表を走る電光が青白く光始め、雷虎の周りの空気がその電光に焼かれ、焦げ付くような臭いが漂い始め……雷虎が居る足元の床が、ピシピシピシッッとヒビが入った。
俺達は一瞬床のヒビに気を取られたが…この瞬間、雷虎の瞳が強い金色に染まった。
そして、雷虎は陽毬の心臓部分の斜め対角線上に両手を置き、手元が青白い閃光を放った――
音は、遅れて来た。
ビシィィィィィッ!!
ーーーー
誰もが目を見開き、一瞬息を止めた。
まるで、目の前に落ちる“雷そのもの”だったんだ。
雷虎の瞳の色は元の黄色に戻り、皆…陽毬に注目した。
ピクッ……
右手の指が少し動き、瞼にグッと力が入る。
陽毬はゆっくり目を開けたが、その目はぼやけ、僅かに虚ろだ。
「…ん…?」
陽毬は龍影と目が合い、その目を大きく開いた。
陽毬の脳裏には、数分前に自分に頭を下げた主の姿がフラッシュバックする。
(あんなに……あんなに申し訳なさそうに、私に謝ってくれたのに……)
「あ……あ、ああああ……っ!!」
龍影と目が合った瞬間、陽毬は獣のような悲鳴を上げた。
単なる死への恐怖ではない。
"善意で土下座までした主を、裏切り続けていた自分"を、この国の法務大臣に完璧に「定義」されてしまった絶望だ。
ガダガダガダガダ……
その絶望故に、息をするのを忘れ、身体が小刻みに震え、顔が強ばる。
「ころ……して……お願い、殺して……っ!!」
土下座までしてくれた相手を騙していた自分が、今更どんな顔をして生きていれば良いのか。
死はもはや、私にとって唯一の"謝罪"の形だった。
ーー夫が二度敗北し、事実を話せないまま、夫婦でこの城に住むようになって、"図書室"の存在を知った時、私はこの国の法律書を読み漁って計画したのにーーー
その時に知った、"法務大臣の権限"…。
龍影の特別尋問…。この国の…零ノ宮龍影法務大臣による特別尋問は、その内容次第では……"そのまま死刑が執行される"。
明らか…あの時、私の心臓は止まったのが分かった…。だから、御礼と謝罪の意味で、"せめて"と思って伝えたのに…。
どうして……?
陽毬は龍影から目が離せなかった…。
すると、龍影は優しい顔になり、口角を上げた。
「"これが"、主の判断だ。」
……え?
私が戸惑っていると、龍影を筆頭に全員が主の方を向いたため、私も釣られて主の方に向いた。
すると、主は穏やかな表情で、無言のまま、肩を落としながら溜息を着いた。
「"ちゃんと、1回死んでるぞ"…。我が国が誇る法務大臣が、罪人と確定した者に対し、"オーラでの読み取り尋問をわざわざ法務大臣として高位者に申請"し、尋問を行った。この時点で、"完全に臨時公務"だ。そして、法務大臣は"死刑執行の許可が出せる唯一の大臣"であり、そんな中、"法務大臣が尋問して心停止及び呼吸停止を起こした"んだ……。瞳孔は瞳が完全に上昇して見れなかったが、雷虎による"全力放電の心肺蘇生が必要だった"という事実まである以上、俺は"死亡と判断せざるを得えない"ってワケだ。」
……
「それに……、俺は、"不自然過ぎる完璧な幇助"と聞いて、ある程度察したしな…。2人は他人じゃない。"俺の婆ちゃんと爺ちゃん"だ…。龍影は尋問後、"怒りを引っ込めていた"から、それ程の事をしてくれたんだろ?…ククッ……、"俺の龍影を甘く見るなよ"?」
俺はチラッと龍影を見たんだ。そして、龍影は頷き、周りを見渡してから俺に改めて跪いた。
「尋問の御報を告申し上げます。」
1. 「陽毬への暗示」: 実は龍輝が、妻である陽毬に「自分が悪役になるから、お前は結衣の心を守る最後の砦になれ」という強力な精神暗示をかけていたことが判明する。
2. 「結衣の食事の秘密」: 陽毬が作った料理には、実は結衣の肉体を削がれた際に再生させる為の成分だけでなく、"苦痛を和らげる聖属性のハーブ"が、バレないように極微量ずつ混ぜ込まれていた。
3. 「誘拐直前の会話」:息子が結衣を誘拐する直前、陽毬は裏で「私を殺して結衣を逃がして!」と龍輝に懇願していたが、国王にバレて、誘拐成功までは拘束されていた。
「陽毬は2000年前から…、"ずっと知っていた"のは事実であり、結衣が誘拐される前に私に言ってくれれば、高確率で防げた可能性は否めません…。ですが、陽毬は……"共犯などではありません"。彼女は、龍輝と国王の狂気の中で、唯一、“母親の代わり”になろうと足掻き続けていた……。 彼女が沈黙を守っていたのは、そうしなければ結衣がもっと酷い目に遭うと脅されていたからです……。」
俺は、座り込んだまま涙を流すきぃ婆を見る。
続けて、龍影がまた口を開く。
「陽毬は自分の功績をひた隠しにし、ただ"罪人として裁かれること"で、死んでいった孫や息子への贖罪にしようとしていた…。これが、"真実"でございます。また、入城後間もなく法律書を読み漁っている記憶があり、それによって"今回の不自然な幇助計画"を企て、死刑を熱望。あまりにもその希望が強かったため、主の事前の許可も得ていましたので、"やり過ぎてしまいました"。」
龍影は頭を深く下げた。
「きぃ婆…皆、俺は"龍影の調査資料を絶対資料とし"、結衣が誘拐される事を龍影に言えたのに言わなかった事及び、誘拐されて、自肉用に削がれる際に再生を促す成分を事前に普段から密かに入れていた事は、"幇助及び共犯罪"とし、"龍影による死刑執行は妥当だと認める"。だが…それ以上に、"迷惑をかけてしまったし、それなのに出来る事をしてくれた"。だから、"蘇生させてもらった"んだ…。」
……
「それに……これは"完全に俺の我儘"だが、…"結衣の延長として…また、家族として一緒に居たかったんだ"…。でも、まあ……無理強いはしない…。本当の原因は俺だしな…。」
無意識に、両手をそれぞれ握り締めてしまう…。
「休暇の話も、そのままきぃ婆の判断に任せる。好きにしろ。」
締めとしては弱いかもしれないが、そもそも今の俺は強く言えないしな…。言いたい事はだいたい言った。
"だいたい"だ……。
きぃ婆は声を殺して泣いていた…。
俺はそんなきぃ婆が見ていられなくて…、罪悪感が一杯で耐えられなくて、立ち上がって後ろを向いた。
そして、両手をそれぞれ握り締めながら、その瞳に力を入れた。
「きぃ婆…皆…、"見ててくれ"…。この手に枷は無くても…"国を滅ぼした罪"は、神としてやれる範囲で償っていくからさ…。」
この瞬間、皆はハッと目を見開き、"自分達の主が如何に罪の覚悟を背負っているのか"を、改めて悟った。
誰も言葉を発さなかった。
ただ、その背中だけが――あまりにも大きく見えた。
そしてーーーー
一同はその背中に跪き、頭を垂れた。
俺は自身の墓の入口に向かい、その手前で止まった。
「そうだ…龍影、"外の奴らに、各宇宙結界から出るな。邪魔になる"って伝えておけ。蘇生が終わったら解除な。この場で連絡しても構わん。その手続きが終わり次第、"始めよう"。氷婆は、合図したら入ってきてくれ。」
60億℃……、"最低60億℃"だろ?しかも、依代に見合った鉄だ…。もう少し、温度が高くなってもおかしくない…。食事が取れたとは言え、ぶっちゃけ疲労困憊なのは否めない。だが、"今なら熱源は確保出来る"。今しかない…。
俺がそう思っていると、龍影は右手を浴衣の胸の部分に入れ、平な丸型モニターを取り出し、画面を触った。
ブゥン…
一瞬画面が青緑色に光り、次第に頭部が人間の倍は縦長い緑色の人物が表示された。
「"龍影副議長"、お勤めご苦労様です。御要件をお伺い致します。」
龍影の周りは、明らかにこの龍華人ではない人物が、龍華の言葉を話し、龍影に敬意を払いつつ、堂々と対応しているのに度肝を抜かれていた。しかし、誰一人として、声を出さなかった。
「ガレラ、"我らが議長からの命令だ"。今から一時の間、全宇宙間の出入りを絶対禁止とし、パトロール隊も全部隊最寄りの宇宙結界の内側に入れ。"議長が中心で御力を行使する"。誰も邪魔しないように。ガレラよ、待避までどれくらいかかる?」
「!?、了。"後30秒"で全待避完了予定。再度完了通知出しますので、しばしお待ち下さい。一時離脱、失礼致します。」
ブゥン。
通信が途切れ、龍影は主の方に向いた。
「主よ、"お聞きの通りです"。」
「分かった。じゃあ、"待ちながら出来る範囲で準備をしよう"。」
俺は入口を眺めつつ、右膝を軽く曲げ、そのままストンっとその場であぐら座りをして、その場で目を閉じ、僅かに震えていた両手に力を入れて止め、座禅に入り、"集中"を始めたんだ。




