第22話 白と黒(依代5)
「うおおおおおおおおおお!!!」
一方、その頃の結斗本人は、ヘム鉄用の鉄生成を1分半でちゃんと終わらすつもりだったが、100億℃を超えた現在、"直感がこれではダメ"だと言っていたため、延長していた。
くそっ…、何かしっくり来ないんだよな…。
後もう少し…、後もう少しなんだ…!
目が霞む…っ…。
お腹が空いてきたが、"やってしまいたい"…!
…怒気封印残り5%開けるか…?
いやいやいやいや…、流石に理性飛ぶよな…。
今でもかなりギリだ…。
龍影に"理性は失くさない"と言ってしまったしな…。
空元気でも何とかなると思ったが、ならん!!
だが、普通の食材だったら、一瞬で黒焦げて灰だ。
どーする?!"そんな都合の良い食材"なんて!
流石に思いつかんぞ!!
キラキラキラキラ…
ん!?えっ…"何でここに"!?
結斗の目に、数多くの宇宙球結界の破片が目に留まり、瞳を大きくしてガン見してしまった。
俺は、この何も無い虚無空間に、"自分の意に反して"自分のオーラの破片が向かって来る事に、理解が出来なかった。
そんなバカな…!
こんな膨大な量の破片…、ま、まさか"宇宙球が破裂したのか"!?
ピンッ
脳内にテレパシーの着信音がなった。
「結斗様、結月です。"御安心下さい"。怒気封印解放に伴い、60億年程前に張った結界が揺らぎ、破裂寸前でしたので、現在の結斗様に適した補給も兼ねて、龍影様に許可を頂き、"私のオーラで全宇宙球の結界を敢えて粉々にして、張り替えました"。ですので、こちらの心配は要りません。その破片は、存分にお召し上がりください。今のお姿であれば、"全身で食す事が可能です"。」
「それともう1つ…。"分身体を依代にするのなら、ご自身の身体を客観的に解析するのも、1つの大切な手段"でございます。後は、"貴方様の御力次第……そこは、この世界の原点"でございます。……"もう、一息です"。補給後、結斗様は"周りを気にせずに、好きなようになさって下さい"。ーーー"主様、記録はしっかりとしていますので、何なりと御命令して下さい"。」
フッ……
俺は国王からのテレパシーに、少し口角を上げてしまった…。
「"母さん"…。それ、母さんの受け売りだろ…。"向こう側の白い世界"で母さんが初期に独りでやってきた事を、俺が"この虚無の黒い世界でほぼ同じ事をする"…。今、"わざと、俺の事を名前じゃなくて主様って敢えて呼んだろ"?」
結斗はニッと口角を更に上げ、その姿を霊視した結月の目から、一筋の涙が溢れ落ちた。
そして、結月は手を小刻みに震わせ、それぞれ軽く…強く握った。
「…"否定は、致しません"。……こんな時に、出しゃばった真似をしてしまい、申し訳ありませんでした…。"私は、主様の奴隷です"…。何なりと、お申し付け下さい。」
結月はテレパシーを送りながら、その場で土下座をしていた。
俺は、テレパシーを少し無視して、怒気解放を計96%に引き上げ、身体から緑のオーラを噴出した。
ブワッッッ!!
オーラは身体を包み込み、身体の構造を読み取った。
国王の言う通り…"分かった気がする"。
キィーーーーィィーンン………。
ピタッ。
俺は球体を力づくで止めたが、引力に吸い寄せられてきた"食材"は、そのままこちらに向かってきていた。そして、俺はじっとその破片を見つめながら、テレパシーを続けた。
「…なぁ…命令じゃないけどさ…、俺はこんな"化け物"だけど…、"もう一度、俺の母親になってくれないか"?…まだ、許したわけじゃないし、奴隷のままだけど…、"やっぱり、俺はあんたの子なんだな"…って思ってさ…。」
俺は大分勇気を出して言った。正直、"怖くないと言えば嘘になる"…。けど…やっぱり、"俺の母さんだから"…。
ポタッ……ポタッ…
結月の涙が頬を伝い、結界に落ちる…。
「結斗様…、"先に謝らせて下さい"…。私は、貴方様を怒らせる為に、"敢えて"その姿を化け物と言いました…。申し訳…ありませんでした…。"こんな私を…また、母親として認めて頂けるなんて"…。本当に…本当に宜しいのでしょうか?」
怒気が97%に上がった…。怒って当然…だよね…。
「"ああ"…。それに…刑罰が終わったらちゃんと"許す"よ…。"母さん"……頼みがある。"ビックバン放熱"をするから、各宇宙球に当たらないように“放熱を斬ってくれないか”?ラスト、101%まで上げるからよ…。浴衣…流石に動き辛らかったら、"龍影に用意させるぞ"。母さん…"頼めるか"?今なら、着替えの時間くらいはあるぞ。」
!…
結月は両手をそれぞれ強く握り、"覚悟"を決めた。
「"御用意、お願い致します"。全力で…させて頂きます…!!」
主の…いえ、“息子の頼み”だからね…。息子が全力を出すのに、この私を“母として再び頼ってくれた“…。ただ、“それに応えたい“!それに…元を辿れば、全ての元凶はこの私だしね…。自業自得…責任は取らないとね…。
!…
結斗は少し口角を上げた。
「…分かった。一度龍影のところに戻ってくれ。」
“母さんが全力で相手をしてくれるなんて“…。
俺は、正直めちゃくちゃ嬉しかったんだ。
“あの母さんが全力で”って…。本当に認めてくれたんだ…。やっと…手が、届いたのかな…。
…“ありがとう”…。
俺は101%で理性を失うかと不安だったが、その不安は“今”…、確実に失くなった。
「承知しました。」
ブゥン!
結月は龍影のもとに戻った。それと同時に、結斗は龍影にテレパシーを繋げた。
ピッ
龍影の脳内にテレパシーの着信音が鳴り響く。
「龍影、結斗だ。“母さん”に、極炎熱無効の戦闘服を渡してくれ。今から101%ビックバン放熱をするから、それを母さんに対処してもらう。…龍影、“過去は消えないし、その点はまだ許していないが、今は、俺は母さんをもう一度信じる”。頼む。」
!?…
ギュゥ…。
龍影は下を向き、また、両手をそれぞれ強く握って、震えてしまっていた。だが、直ぐに両腕の力は抜け、両手の拳を軽く解いた。
そして、戻ってきた結月を力なく目だけで見つめた。
「…了解しました…、“我が主よ”…。」
主以外、誰も聞き取れないような小さな声だった。
胸がキリキリ締め付けるように痛く、意識をしなくとも、呼吸が浅くなる…。
足が重く、動きづらい。
だが、その重たい足に力を入れてでも、“動かねば”…。
龍影はゆっくりと、それでも確実に一歩…また一歩と、結月の方に向かって歩き出した。
龍影の心はズタズタだった。
自分が無力である事…、大罪人を信じる屈辱…。そして、最大の被害者である主が、“自分が認めたくない相手を認めた事”…。自分は間違っているのでないかと…、自分を疑いたくて仕方がなかった。
結月にもう一度“あの笑み“を見せられたら、膝から崩れ落ちる自信がある…。それくらい…、この女は怖く…恐ろしいのだ…。
結月…お前はまた…、“この私を嘲笑うのか”?
結月はその場で土下座をしていたが、龍影が前に立つと上半身を起こし、“目を開けて”私を見つめてきた。
!?
その瞳はオーロラ色をしており、笑みはせず、真剣そのものだった。
「主から事情は聞いた。…“主はお前を信じる”と言っていた…。」
ギュゥッ…
龍影はまた、無意識に両手に力を入れ、その拳を振るわせ、結月に睨んでしまっていた。
だが、手の力を解き、結月用の極炎熱無効の服が入った紙袋を転移で呼び寄せた。
「…“主の頼みだから用意した”…。勘違いするな…。ここの…“誰も”、まだ、お前を許してはいない…。だが、現時点で動けるのはお前だけだ…。私は…お前の笑みに怯え、こんな時に何も出来ない…“足手纏い”だ…。」
龍影の手は僅かに震えていた。
だが、結月は一切口角すら上げる事なく、ずっと真剣に見つめてきた。
「…足手纏いではありません。ただ、“役が違うだけ”です。貴方は国を守り、結斗様に…“息子”に、寄り添い続けて下さっている…。今日は…、“それで十分なんです”。これは私の責任ですので、“私にさせて下さい”。それが、“母としての責任であり、大罪人としての償い”です。これが…、“今の私の役”なんです…!」
!!
結月のこんな真剣な顔、"初めて見た"…。
…私は、"無力"ではないと…?
これで…"主に寄り添えている"と……?
……"分からない"…。本当にそうなのか…?
龍影は結月に紙袋を渡した。
「"役"…か…。なら、"その役目、果たしてこい"。」
結月は両手で紙袋を受け取り、その目はギラギラと強い意志を宿していた。
「"ええ"。」
結月は強く頷き、その場で自身を包む長方形型のオーロラ色の結界を張った。
シュルッ。……パリンッ。
1秒もせずに結界が割れたが、この一瞬で結月は極炎熱無効の白い着物に黒の袴、黒いブーツを履いていおり、左手には鞘に入った愛刀の"彩光"を持っていた。
「御用意、感謝致します。"本気で…、全力で行って参ります"。」
結月の目は本気だった。
そして、これを見た龍影以外の家族は、"理解し切れないまま"、ただ、本能的に"敵じゃなくて良かった"と安堵しつつ、"本当に龍影が恐れる程のヤバい人物だったのだ"と、改めて認識していた。
ちなみに、龍影の手の震えは止まっていた。
安堵でも、諦めでもない。ただ、"これが今の自分の役目"なんだと自分に言い聞かせ、"無理やり自分を納得させていた"。
「"本気で…全力"か…。結月、"主を頼んだぞ"。」
龍影は真っ直ぐ結月を見詰めた。
結月が"本気で全力"と言った…。こんな事、"私は聞いた事も見た事もない"…。だが、"結月は本当に本気で、冗談じゃない事くらい分かる"…。
……"今回だけは信じてやる"。
コクッ。
結月は笑みを見せる事なく、真剣な眼差しのまま強く頷いた。そして、結月は第零宇宙球の頂点へと転移で向かった。
龍影は投影の方に振り返り、その画面を見詰めた。
ますます…青白い光が強くなっている…。
やる事はやった…。"覚悟は出来てる"…。
頼むぞ…結月。
主よ…、"今度は必ず帰って来て下さいよ"…。
【怒気解放98%】
一方、結月は転移先の場所で熱気を感じつつ息を止め、一度右手で剣を全部抜き、剣身をまじまじと見詰めていた。
やっぱり、"コレでは駄目ね"…。放熱には耐えられない…。……"仕方がないわね"…。あまり使いたくなかったけど……、"この力は今回で最後かな"…。
結月は肩幅より少し大きめに足を広げ、剣先を床面となっている結界球側面に突き立て、愛刀の"彩光"に剣先まで濃度の濃いオーラを流し込み、オーロラ色をしていた剣が、淡く…眩しい白い光を放ちながら、剣から片刃の刀へとその姿を変えた。
"創造力の行使"…。殆どの創造力を初期の息子にあげちゃったから、手元に残っていたのは本当に僅かな力だけだったけど…、剣を刀に変える程度の力は残ってた…。
これで…私は、"創造力"を行使出来なくなった…。
でも、後悔はない。
私は、息子の奴隷…。創造力は、"息子が継いでくれたから、それで良い"…。
私は…生まれて、善悪が分からなったから…息子二人に創造と破壊の力の一部をそれぞれ与え、様子を見ようと思った…。
それが、"最初だった"…。
2人とも…"こんな母親でごめんなさい"…。
仲の良い兄弟だった二人を…、引き裂く結果になってしまうなんてね…。
【怒気解放99%】
結月は更に両目に力を入れつつ、瞼を閉じて、全力で霊視をしていた。そして、各宇宙球の中央正面に転移の穴を開け、更にその転移穴の僅か中央寄りにもう1つ転移穴が直ぐに開けれるように、空間に目印を行った。また、結月自身も、第零宇宙球結界の中央部の頂点前まで降り、浮遊しながら放熱に備え、本気の全力抜刀の構えをした。
"修行をしていたのは…、息子だけじゃないのよ"。
ピッ
結月は結斗にテレパシー通信を送った。
「結斗様、"お待たせ致しました"。準備、万事整いました。」




