第20話 償いと依代 (依代3)
ピピッ…。
家族の呼吸と心音だけが聞こえる中、
龍影の通信機が鳴った。
誰も言葉を発しない。
声を出せば、何かが壊れてしまいそうだった。
龍影は通信機のモニターをチラッと見た。
『"完了"、待機中です。』
短文通知。だが、今はこれで良い。
これ以上求めてはいない。
龍影は勿論、他の家族の皆の鼓動が高まる。この通知の意味を、皆理解しているから…。
息を飲み、つい呼吸が止まってしまう。
「主よ、"お待たせ致しました"。」
右手は僅かに震え、通信機は手汗で濡れていた。それだけ、"この私が緊張してしまっている"んだ。
主はゆっくり目を開け、瞳だけこちらに向けてくれた。
「"分かった"。龍影、この墓の水の作り方や材料って、メモってあるよな?」
一応確認しておこう…。これはこれで使える時があるだろうしな…。
「"勿論"でございます。裏庭の人工海水に一手間加えれば、作れます。」
主の口角が僅わずかに上がる。
「そうか。なら、"ここにある分は、遠慮なく使わせてもらうわ"。」
俺は立ち上がり、左手で浴衣の襟を緩め、右手に力を入れ、青色のオーラを出現させ、胸の中央に当てた。
"怒気封印、三割部分解除"ーーーー
ドッックゥンッッ!!
心臓が高鳴り、その音が皆の鼓膜に響く。
胸が熱を発し始め、腕や手、目元の血管が浮き出て、目が充血を始めるーー
俺の怒り…。この城に帰ってきた直後の怒りなんて、"比べ物にならないレベル"の怒りの封印を開けた。
俺の…"積み重なった原初の怒り"だ。
本来は魔神との決戦時に、一気に開放をするつもりだったんだがな。丁度延期になったし、"国王のせいで怒気が漏れていたから、ガス抜きをしつつ、締め直したかったんだ"。
「皆…、"この怒りを皆に向けなくて良かったよ"…。龍影……、俺が国王の心臓を握り潰す前に、"俺を止めてくれてありがとうな"。」
潰していたら、戻れなかったよな…。
龍影は口角を上げた。
「"いえ"…。私は、元々国王を見殺しにするつもりでしたので、"あのタイミングは私の甘さ故の失敗"でした……。"後で叱って頂けませんか"?」
(直訳本音: 怒りで理性を失わないで下さいね?)
「!…フッ…。"ばーか"…。龍華の神として、"それは不問確定"だ。お前はもう、"自分を責めるな"。あれで良かったんだ…。」
(直訳本音: ばーか…。"もう理性は失わねぇよ"…。)
龍影め…。怒気封印一部解除をしたから、"敢えて"、理性をちゃんと保ってるか確認したな?
俺の読みは当たっていたんだ。龍影は俺が叱らない事を分かりきっていて、"敢えて"発言をしてきたんだ。俺を…僅かにでも笑わせ、リラックス出来るように…。より理性を保ち、超繊細な作業が行えるように…。
全ては、"蘇生の成功率を上げるため"。
この会話により、俺はより集中力を上げる事が出来たんだ。
俺は、右手で墓の入口の半透膜の結界の壁に触れ、結界の"用途"を変えた。
「今、この結界を通る事が出来るのは、"氷婆だけ"だ。他は何一つ、''一切通さないからな''。」
……いや、待てよ…?
水ごと転移した方が早いし、力を余分に使わなくて済むよな…。でも、それだと皆は見れないし…。
せっかくだから、見せたいよな…。
俺は左手を顎に当て、ちょっと深く考え始めた。
……ん?"居るじゃねぇか"…。
俺は国王の方に近づき、目の前にしゃがみ込んでじっっと国王の目を見詰めた。
「国王…"お前なら、霊視で俺を見れるよな"?」
向こう側の状況を把握していたくらいだからな…。
「"可能"でございます。ですが、貴方様の高エネルギーを直視しますので、並列で皆様の脳に直接お見せする事は、お勧め致しません。」
特に陽毬…陽毬様にはキツいでしょうし…。
ニッ……
俺は口角を上げたんだ。
「"アンテナ"になってくれたら、それで良い。後は"俺が繋げる"からよ。結界の下に来てくれ。」
????
国王を含め、全員に?マークが浮かんでいた。
そして、俺は皆の疑問を他所に、独り嬉々としてテンションが上がっていたんだ。
怒気封印部分解除により、一気に血流が早くなったからな。龍影に笑わされた今、"心に余裕が出来たし、頭もさっきよりは冴えてる"。…ぶっちゃけ、結構駄目元で部分解除をやってみたが、これはこれでアリだな。やっぱり力が湧いてくる。…まあ、反動はそれなりに疲労として出るがな…。氷婆の蘇生の為なら、文句はない。
それに、去年…だったかな。
まだ結衣だった頃、初めてテレビモニターセットを買ってもらって、自分で映画再生機とかゲームとか色々接続して、楽しんでたからな…。城から殆ど出れなかったから、そういう娯楽で暇を潰してたんだ。
世間を殆ど知らず…教えてもらえなかったから、散々、映画を見たり漫画を読んだり、ゲームをしていたんだ…。
こんな世界があったら良いなって、無力な頃は思っていたが…、"今なら本当に出来そうだ"。
だから、"楽しいんだ"。
俺は国王を結界の右下に座らせ、右手でもう一度結界に触れ、その性能を変えた。
"結界式特大モニター"だ。そして、左手を1本の先が広がる筒状の触手に変えて、国王の頭頂部から目元までを覆った。
「国王、そのまま俺や皆を客観的に霊視し、その見たものをオーラを使って俺に流してみろ。」
さてと、俺の考えが正しければ、コレを利用すれば出来る。なんせ、国王のオーラ色は"オーロラ"だ。全ての色がある。つまり、"そのオーロラ色を利用して、結界モニターにカラーで映し出す"って事をやってみたいんだ。
結界も元はオーラ由来だからな。
国王のオーラを俺が分配・再配列すれば、モニターに映し出せれるかも?って事だ。
正直、ちょっと…いや、かなりワクワクしてる。
まあ、オーラ科学なんて始まったばかりじゃないし、寧ろ原始科学だから、龍影達ならもう発明しているかもしれないがな…。この2人だし…有り得る。
俺はチラッと龍影を見た。
キラキラキラキラ…
ん?…んん!?
龍影は目を見開き、瞳どころか全体的に"新しいのキター!!!"みたいな顔してる…。え…?
……まぁ、確かに、全色のオーラを出せるの、国王だけだし…。俺含め、他は青・赤・緑だけだし…。テレビも他の機会も、動力源は皆が扱いやすいように、今は電気が主流だしな…。俺もテレビを接続する時、コンセントを挿したし…。まぁ、オーラを電気に変換する技術なら、この国にはあるが…。
"そんなにか"…?
……
「龍影、"録画したければして良いぞ"…。なんなら、後で国王に観測データを詳しく聞いてくれ。国王、お前も龍影に全面協力してやれ。」
龍影って、昔っからこういう科学実験大好きだったよな…。
国王は口角を上げ頭を下げた。
「承知致しました。私は"全方位同時霊視が可能"ですので、この方法であれば、後々"私の記憶データを開示出来ると思います"。」
ん??!!!!!
この瞬間、"全員の脳内がフル回転したんだ"…。
い、今、どえらい"爆弾発言"をしたよな!?
「主よ!!!」
ビクッッ!!
声を張り上げたのは、龍影だった。
「な、何だよ…?」
一瞬頭がショートしかかったんだが?
「主よ、一緒にこの"メル"に入って直ぐに、主は「お前なら、国王を自由に使って良いぞ"。但し、"肉体的にも精神的にも傷つけるな"。それが条件な。大切に使ってくれ」と仰って下さいましたが、"この条件下なら、この透視と結界モニターの件、詳しく精査や応用会議をしても宜しいでしょうか"!?この能力!!"使い勝手良過ぎ"ですよ!?」
主がこんな状態だが!!流石にこの機は逃せん!!!
「……まぁ…せめて、"食事と睡眠、風呂や休息はちゃんと与えてあげてくれ"…。霊視の規模や見方によっては、"それなりに疲れるだろうからな"…。なぁ、国王?」
俺はチラッと国王の方に向いた。え、だって霊視って結構えげつない集中力がいるぞ?
「主様、"御配慮ありがとうございます"。主様のお考えは的を得ていますが、補足をするならば、自分が今いる場所から結界や異世界壁越しへの霊視は、条件によっては体力をごっそり減るものもありますが、基本、貴方様が作られたこの世界の中であれば、"霊視距離問わず、全方位霊視の消費カロリーは1分間で約ご飯1口分"です。ただ、ここに"今回用の超精密観測霊視とオーラ出力"を組み込むとなると、外で食されたレックス(家畜獣ティラノサウルス)15匹でも足るかどうかというのが本音でございます。ちなみに、"体内への透視も可能ですが、繊細な透視が必要になるため、これも内容によっては、大幅な体力消費に繋がります"。」
………意外とコスパ良かった!!!
これが、俺達が素で思ってしまった本音だった。
「…国王、龍影達には霊視や透視の事を言って無かったのか?国王の立場なら、龍影に言っても良いと思うが…。」
しまった…。言ってから気づいてしまった…。
国王は口角を上げるのを止め、そのまま下げた。
「貴方様を…いえ、"結衣を監視し、誘拐するタイミングを見計らっていた為"でございます。この霊視・透視能力は、"私の初期能力"です…。生まれて…誰もいない、何も無い空間での孤独の中、自己を認識する為に得たもので、呼吸をするように扱える能力です。ですから、"監視カメラ"の発案のきっかけとして、龍影様には断片的には教えましたが、シナリオが終わるまで…壊れるまでは"この事実の完全公開は秘匿にしておりました"。」
……俺はゾッとして、全身に寒気が襲い、鳥肌が立ってしまった…。怒気封印を三割とは言え、"開けている"のにだ…。
「国王……"答えろ"。俺の…結衣の通学路にあった大量の監視カメラ…。不自然にあったカメラの穴…。あの穴の場所で"結衣は拐われた"…。1番油断をした瞬間だった…。…"お前は、霊視で見ていたのか"……?」
通学路の固定監視防犯カメラは、1000台を超えていた…。学校もそうだ…。教室の四隅や通路にもあった…。"ずっと見守っているよ"と、小学部入学前に実際に守衛室に行って教えてくれたのに…。"そういう事だったのか"!?
「"はい"。龍影様や他の方々には"防犯目的として"、通学路や学校の利用場所にカメラを付けると伝えていましたが、本当の目的は"穴を隠すため"。そして、小学部入学前に守衛室を見せたのは、表では"ずっと見ている。危ない事があっても見つけれる"と伝えましたが、本音は"何処に居ても隠れれない"という意味であり、そこまで管理すれば"いつか自由を求める"。だから穴を敢えて開けて、そこから出入りをするように仕向け……"雨が降りそうだった特に暗い冬の夕方に、遊びに行った帰りも、穴を通ると分かっていたから"……、実行させました。」
「私は…今の主様には敵いませんし、奴隷として"全ての命令には従います"…。ですが、当時は何も知らない無垢で純粋な13歳…。…"貴方様がゲーム発売日にダッシュで監視カメラの視界から消え、店に行って購入してあの穴の入口に戻ってきた瞬間"……。貴方様は…いえ、結衣は"監視カメラのスリルと購入時の楽しみで優越に浸っていたので、その隙を狙いました"…。」
ッパアァァァァンーーー!!!
俺はほぼ無意識に、国王の頬を右手で叩いてしまっていたんだ…。
そして、国王を睨み付けたまま、口だけ開いた。
「龍影…、国王の霊視と透視の件、"さっき言った条件で認める"。他の家族達もその会議には全員参加してくれ。元各国の王として、意見を龍影に言って欲しい。だが、氷婆の蘇生が終わって俺が寝落ちから起きるまでは、きぃ婆は自室とは違う部屋で軟禁、国王と龍輝には"地下牢の掃除"をさせておけ。中の処刑虫は、もう要らない…。"殺処分"な。この2人なら"丁度良いだろ"?」
右手が痛い…。ジンジンと響いて軽く痺れてるのに、国王は頭部を固定しているとは言え、左頬を赤くするだけで、正座を崩さずに微動だにしてないし…。何か"色々とショック"なんだが…?
まぁ、元々握力はもう残っていないけどよ…。
……そういう事にしておこう。
俺はシュンとして目線を僅かに下げた。
すると、国王の膝上に置かれていた指先まで正しく整った両手が、極々僅かに震えていたんだ。
"全力で耐えてるのか"…?
……どうかな…。"聞きたくもねぇ"…。
俺は龍影の方に振り向いたんだ。すると、龍影の顔は少し青ざめていた。
「ん?龍影、どうした?」
龍影の顔がここまで青くなるの、珍しいぞ?
「地下牢…。"2人に処理させるのは賛成でございます"が……、最後の囚人を入れてから、約1億年放置してますよ…。奴らは我々から漏れているオーラを食べている為、"それなりに進化していると思います"が…。」
生物は皆、オーラを宿している。だが、この家族は全員元各国の王や王妃で、制御しても無意識に漏れている部分はある。それが下に溜まり、奴らはそれも喰らっている。勿論、"新鮮な肉は大好物"だがな…。大昔に地下牢を作って、遺伝子組み換えをした毒生物を入れていたが……、今、どうなっているんだ?
「……一応、"平和だったんだな"…。」
ついポロッと言ってしまった…。
でも、それが事実だった…。この言葉に、全員の顔が青ざめたのが良く分かった。
龍影は勿論、"誰も声を発しようとは思えなかった"。
俺は国王の方に振り返り、左手の触手とは別に、左肘から触手を出し、結界モニターのフレームとして結界を囲み、結界の端を触手フレームに入れ込んだ。
これで、結界の全方位から触手を伝ってオーラ信号を送れる…。と、思う。
そうだ…。ついでに"モニターテスト"をしよう。
「国王、"地下牢を暗視透視してくれ"。で、見たやつを俺に流せ。」
さて、上手くいくと良いんだが…。
「承知しました。………"生命体、多数発見。進化確認"。……ん?…"地下牢範囲拡大"…していますね…。複数型階層確認。この配置…"おかしい"…。壁素材変異確認。オーラが"意図的に下に溜まるようになっている"と推測致します。主様、"オーラ出力致します"。変換お願い致します。」
「分かった。」
俺は、国王のオーラを頭部から吸収し、変換出力をしようと一旦頭でオーラを読み取ったが、その内容が想像以上にやばかったんだ…。
ブゥン……
結界モニターには鮮明にその姿が映り、全員が絶句した。
昔、地下牢に入れた遺伝子組み換えの毒生物は、蜘蛛・蠍・蛇・軍隊蟻だったが……まぁ、俺が言うのもなんだが、"見事に全部化け物"だな…。
「主様、やはり地下牢最下層はオーラが溜まり、"そこに何かいます"…。体幹、約30mの大きさです。映し出しますか?」
地下にこんな奴が居たなんて…。
「今は良い。…掃除がてら、必要そうなら捕獲しておけ。なければ駆除で良い。……モニターテストはここまでだ。」
正直、身体がしんどい……。寝落ちする前に、"とっととやってしまおう"…。
俺は左腕の触手を切り離し、改めて腕を生やしたんだ…。……凄い再生能力だな…。
30m…普通に考えれば"巨体"だ。だが、"今はそれがどーでも良いと思ってしまうくらい、身体の限界が近づいていた"んだ…。
再び右手に青色オーラを纏わせ、胸に当てた。
……怒気封印、"半解除"。
獣人化にもなっておこう…。
俺は襟から両腕を抜き、帯の部分から上の上半身は素の獣人化として露出したんだ。……60億℃…って、流石に"コレ"も燃えるよな…。
……仕方がない…。正直これになるのは嫌だが、人間の地肌より100倍マシだ。
まさか、“家族を傷つけ、国を滅ぼしたこの姿”でやる事になるとはな…。
正面には結界モニター、後ろには家族…。
まぁ、“ある意味”…、これが今回の正装だな…。
俺は全身を黒い鱗で覆い、角と爪と尖らせ、帯を解いたんだ。
バサッ…
俺が着ていた浴衣が落ちた。だが、家族が用意してくれた浴衣を焦がすよりはマシだ。
“覚悟は出来てる”。
「国王、“見逃すなよ”。それと、依頼していた俺の名前…考えてくれたか?」
カフェオレの盃の時に依頼して、それっきりだったよな…。
国王の口角が上がり、巨大スクリーンの俺の目線の高さに小さく、他の家族には俺が重なって見えない大きさで表示されたんだ。
!…フッ……。
「いかがでしょうか?」
国王の両手はそれぞれ強く握りしめられ、震えていた。
俺は右手に青色オーラを宿らせて結界に触り、その文字を掴んで俺の胸の奥に刻んだんだ。
「“夜神結斗”…気に入った。…“また、名付け親になってくれてありがとうな”…。」
目尻が熱くなる…。泣きたいのに、“蒸発してしまう”。
「はい…。主“夜神結斗様”…、御武運を。行ってらっしゃいませ。」
国王はヘルメットの連結部分が伸び切らない程度で、しっかり深く頭を下げてくれたんだ。
フッ…、ちょっと短過ぎたか?
怒気が上がる中、ちょっと笑わしてくれた。
「ああ、“行ってくる”。」
俺は再び右手で結界に触れ、自分が通れるように一部細工し、墓の水中に入ったんだ。
そして、水ごと宇宙の中心へと転移した。




