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白と黒の世界  作者: 永流
20/25

第20話 償いと依代 (依代3)

挿絵(By みてみん)

ピピッ…。


家族の呼吸と心音だけが聞こえる中、

龍影の通信機が鳴った。


誰も言葉を発しない。

声を出せば、何かが壊れてしまいそうだった。


龍影は通信機のモニターをチラッと見た。



『"完了"、待機中です。』



短文通知。だが、今はこれで良い。

これ以上求めてはいない。


龍影は勿論、他の家族の皆の鼓動が高まる。この通知の意味を、皆理解しているから…。

息を飲み、つい呼吸が止まってしまう。


「主よ、"お待たせ致しました"。」


右手は(わず)かに震え、通信機は手汗でれていた。それだけ、"この私が緊張してしまっている"んだ。


主はゆっくり目を開け、瞳だけこちらに向けてくれた。


「"分かった"。龍影、この墓の水の作り方や材料って、メモってあるよな?」


一応確認しておこう…。これはこれで使える時があるだろうしな…。


「"勿論"でございます。裏庭の人工海水に一手間加えれば、作れます。」


主の口角が僅わずかに上がる。



「そうか。なら、"ここにある分は、遠慮えんりょなく使わせてもらうわ"。」


俺は立ち上がり、左手で浴衣のえりを緩め、右手に力を入れ、青色のオーラを出現させ、胸の中央に当てた。



"怒気封印どきふういん、三割部分解除"ーーーー


ドッックゥンッッ!!


心臓が高鳴り、その音が皆の鼓膜こまくひびく。

胸が熱を発し始め、腕や手、目元の血管が浮き出て、目が充血を始めるーー




俺の怒り…。この城に帰ってきた直後の怒りなんて、"比べ物にならないレベル"の怒りの封印を開けた。


俺の…"積み重なった原初の怒り"だ。



本来は魔神との決戦時に、一気に開放をするつもりだったんだがな。丁度延期になったし、"国王のせいで怒気が漏れていたから、ガス抜きをしつつ、締め直したかったんだ"。


「皆…、"この怒りを皆に向けなくて良かったよ"…。龍影……、俺が国王の心臓を握り潰す前に、"俺を止めてくれてありがとうな"。」


潰していたら、戻れなかったよな…。



龍影は口角を上げた。

「"いえ"…。私は、元々国王を見殺しにするつもりでしたので、"あのタイミングは私の甘さ故の失敗"でした……。"後でしかって頂けませんか"?」

(直訳本音: 怒りで理性を失わないで下さいね?)



「!…フッ…。"ばーか"…。龍華の神として、"それは不問確定"だ。お前はもう、"自分を責めるな"。あれで良かったんだ…。」

(直訳本音: ばーか…。"もう理性は失わねぇよ"…。)


龍影め…。怒気封印一部解除をしたから、"敢えて"、理性をちゃんと保ってるか確認したな?



俺の読みは当たっていたんだ。龍影は俺が叱らない事を分かりきっていて、"敢えて"発言をしてきたんだ。俺を…僅かにでも笑わせ、リラックス出来るように…。より理性を保ち、超繊細な作業が行えるように…。



全ては、"蘇生そせいの成功率を上げるため"。


この会話により、俺はより集中力を上げる事が出来たんだ。



俺は、右手で墓の入口の半透膜の結界の壁に触れ、結界の"用途ようと"を変えた。


「今、この結界を通る事が出来るのは、"氷婆だけ"だ。他は何一つ、''一切通さないからな''。」



……いや、待てよ…?

水ごと転移した方が早いし、力を余分に使わなくて済むよな…。でも、それだと皆は見れないし…。


せっかくだから、見せたいよな…。


俺は左手を顎に当て、ちょっと深く考え始めた。



……ん?"居るじゃねぇか"…。


俺は国王の方に近づき、目の前にしゃがみ込んでじっっと国王の目を見詰めた。


「国王…"お前なら、霊視で俺を見れるよな"?」

向こう側の状況を把握していたくらいだからな…。


「"可能"でございます。ですが、貴方様の高エネルギーを直視しますので、並列で皆様の脳に直接お見せする事は、お勧め致しません。」

特に陽毬…陽毬様にはキツいでしょうし…。


ニッ……


俺は口角を上げたんだ。


「"アンテナ"になってくれたら、それで良い。後は"俺が繋げる"からよ。結界の下に来てくれ。」


????


国王を含め、全員に?マークが浮かんでいた。



そして、俺は皆の疑問を他所に、独り嬉々としてテンションが上がっていたんだ。


怒気封印部分解除により、一気に血流が早くなったからな。龍影に笑わされた今、"心に余裕が出来たし、頭もさっきよりは冴えてる"。…ぶっちゃけ、結構駄目元で部分解除をやってみたが、これはこれでアリだな。やっぱり力が湧いてくる。…まあ、反動はそれなりに疲労として出るがな…。氷婆の蘇生の為なら、文句はない。


それに、去年…だったかな。

まだ結衣だった頃、初めてテレビモニターセットを買ってもらって、自分で映画再生機とかゲームとか色々接続して、楽しんでたからな…。城から殆ど出れなかったから、そういう娯楽で暇を潰してたんだ。


世間を殆ど知らず…教えてもらえなかったから、散々、映画を見たり漫画を読んだり、ゲームをしていたんだ…。


こんな世界があったら良いなって、無力な頃は思っていたが…、"今なら本当に出来そうだ"。



だから、"楽しいんだ"。



俺は国王を結界の右下に座らせ、右手でもう一度結界に触れ、その性能を変えた。


"結界式特大モニター"だ。そして、左手を1本の先が広がる筒状の触手に変えて、国王の頭頂部から目元までを覆った。


「国王、そのまま俺や皆を客観的に霊視し、その見たものをオーラを使って俺に流してみろ。」


さてと、俺の考えが正しければ、コレを利用すれば出来る。なんせ、国王のオーラ色は"オーロラ"だ。全ての色がある。つまり、"そのオーロラ色を利用して、結界モニターにカラーで映し出す"って事をやってみたいんだ。


結界も元はオーラ由来だからな。

国王のオーラを俺が分配・再配列すれば、モニターに映し出せれるかも?って事だ。


正直、ちょっと…いや、かなりワクワクしてる。

まあ、オーラ科学なんて始まったばかりじゃないし、むしろ原始科学だから、龍影達ならもう発明しているかもしれないがな…。この2人だし…有り得る。


俺はチラッと龍影を見た。



キラキラキラキラ…



ん?…んん!?


龍影は目を見開き、瞳どころか全体的に"新しいのキター!!!"みたいな顔してる…。え…?


……まぁ、確かに、全色のオーラを出せるの、国王だけだし…。俺含め、他は青・赤・緑だけだし…。テレビも他の機会も、動力源は皆が扱いやすいように、今は電気が主流だしな…。俺もテレビを接続する時、コンセントを挿したし…。まぁ、オーラを電気に変換する技術なら、この国にはあるが…。


"そんなにか"…?


……


「龍影、"録画したければして良いぞ"…。なんなら、後で国王に観測データを詳しく聞いてくれ。国王、お前も龍影に全面協力してやれ。」


龍影って、昔っからこういう科学実験大好きだったよな…。


国王は口角を上げ頭を下げた。

「承知致しました。私は"全方位同時霊視が可能"ですので、この方法であれば、後々"私の記憶データを開示出来ると思います"。」



ん??!!!!!


この瞬間、"全員の脳内がフル回転したんだ"…。


い、今、どえらい"爆弾発言"をしたよな!?


「主よ!!!」

ビクッッ!!


声を張り上げたのは、龍影だった。


「な、何だよ…?」

一瞬頭がショートしかかったんだが?


「主よ、一緒にこの"メル"に入って直ぐに、主は「お前なら、国王を自由に使って良いぞ"。但し、"肉体的にも精神的にも傷つけるな"。それが条件な。大切に使ってくれ」と仰って下さいましたが、"この条件下なら、この透視と結界モニターの件、詳しく精査や応用会議をしても宜しいでしょうか"!?この能力!!"使い勝手良過ぎ"ですよ!?」


主がこんな状態だが!!流石にこの機は逃せん!!!


「……まぁ…せめて、"食事と睡眠、風呂や休息はちゃんと与えてあげてくれ"…。霊視の規模や見方によっては、"それなりに疲れるだろうからな"…。なぁ、国王?」

俺はチラッと国王の方に向いた。え、だって霊視って結構えげつない集中力がいるぞ?


「主様、"御配慮ありがとうございます"。主様のお考えはまとを得ていますが、補足をするならば、自分が今いる場所から結界や異世界壁越しへの霊視は、条件によっては体力をごっそり減るものもありますが、基本、貴方様が作られたこの世界の中であれば、"霊視距離問わず、全方位霊視の消費カロリーは1分間で約ご飯1口分"です。ただ、ここに"今回用の超精密観測霊視とオーラ出力"を組み込むとなると、外で食されたレックス(家畜獣ティラノサウルス)15匹でも足るかどうかというのが本音でございます。ちなみに、"体内への透視も可能ですが、繊細な透視が必要になるため、これも内容によっては、大幅な体力消費に繋がります"。」



………意外とコスパ良かった!!!



これが、俺達が素で思ってしまった本音だった。



「…国王、龍影達には霊視や透視の事を言って無かったのか?国王の立場なら、龍影に言っても良いと思うが…。」


しまった…。言ってから気づいてしまった…。

国王は口角を上げるのを止め、そのまま下げた。


「貴方様を…いえ、"結衣を監視し、誘拐するタイミングを見計らっていた為"でございます。この霊視・透視能力は、"私の初期能力"です…。生まれて…誰もいない、何も無い空間での孤独の中、自己を認識する為に得たもので、呼吸をするように扱える能力です。ですから、"監視カメラ"の発案のきっかけとして、龍影様には断片的には教えましたが、シナリオが終わるまで…壊れるまでは"この事実の完全公開は秘匿ひとくにしておりました"。」


……俺はゾッとして、全身に寒気が襲い、鳥肌が立ってしまった…。怒気封印を三割とは言え、"開けている"のにだ…。



「国王……"答えろ"。俺の…結衣の通学路にあった大量の監視カメラ…。不自然にあったカメラの穴…。あの穴の場所で"結衣はさらわれた"…。1番油断をした瞬間だった…。…"お前は、霊視で見ていたのか"……?」


通学路の固定監視防犯カメラは、1000台を超えていた…。学校もそうだ…。教室の四隅や通路にもあった…。"ずっと見守っているよ"と、小学部入学前に実際に守衛室に行って教えてくれたのに…。"そういう事だったのか"!?


「"はい"。龍影様や他の方々には"防犯目的として"、通学路や学校の利用場所にカメラを付けると伝えていましたが、本当の目的は"穴を隠すため"。そして、小学部入学前に守衛室を見せたのは、表では"ずっと見ている。危ない事があっても見つけれる"と伝えましたが、本音は"何処に居ても隠れれない"という意味であり、そこまで管理すれば"いつか自由を求める"。だから穴を敢えて開けて、そこから出入りをするように仕向け……"雨が降りそうだった特に暗い冬の夕方に、遊びに行った帰りも、穴を通ると分かっていたから"……、実行させました。」


「私は…今の主様には敵いませんし、奴隷として"全ての命令には従います"…。ですが、当時は何も知らない無垢むくで純粋な13歳…。…"貴方様がゲーム発売日にダッシュで監視カメラの視界から消え、店に行って購入してあの穴の入口に戻ってきた瞬間"……。貴方様は…いえ、結衣は"監視カメラのスリルと購入時の楽しみで優越ゆうえつに浸っていたので、そのすきを狙いました"…。」



ッパアァァァァンーーー!!!


俺はほぼ無意識に、国王の頬を右手で叩いてしまっていたんだ…。


そして、国王を睨み付けたまま、口だけ開いた。


「龍影…、国王の霊視と透視の件、"さっき言った条件で認める"。他の家族達もその会議には全員参加してくれ。元各国の王として、意見を龍影に言って欲しい。だが、氷婆の蘇生が終わって俺が寝落ちから起きるまでは、きぃ婆は自室とは違う部屋で軟禁、国王と龍輝には"地下牢ちかろうの掃除"をさせておけ。中の処刑虫しょけいむしは、もう要らない…。"殺処分"な。この2人なら"丁度良いだろ"?」


右手が痛い…。ジンジンと響いて軽くしびれてるのに、国王は頭部を固定しているとは言え、左頬ひだりほおを赤くするだけで、正座を崩さずに微動びどうだにしてないし…。何か"色々とショック"なんだが…?


まぁ、元々握力はもう残っていないけどよ…。

……そういう事にしておこう。


俺はシュンとして目線を僅かに下げた。

すると、国王のひざ上に置かれていた指先まで正しく整った両手が、極々僅かに震えていたんだ。


"全力で耐えてるのか"…?


……どうかな…。"聞きたくもねぇ"…。


俺は龍影の方に振り向いたんだ。すると、龍影の顔は少し青ざめていた。


「ん?龍影、どうした?」

龍影の顔がここまで青くなるの、珍しいぞ?


「地下牢…。"2人に処理させるのは賛成でございます"が……、最後の囚人を入れてから、約1億年放置してますよ…。奴らは我々から漏れているオーラを食べている為、"それなりに進化していると思います"が…。」


生物は皆、オーラを宿している。だが、この家族は全員元各国の王や王妃で、制御しても無意識に漏れている部分はある。それが下に溜まり、奴らはそれも喰らっている。勿論、"新鮮な肉は大好物"だがな…。大昔に地下牢を作って、遺伝子組み換えをした毒生物を入れていたが……、今、どうなっているんだ?



「……一応、"平和だったんだな"…。」


ついポロッと言ってしまった…。

でも、それが事実だった…。この言葉に、全員の顔が青ざめたのが良く分かった。


龍影は勿論、"誰も声を発しようとは思えなかった"。


俺は国王の方に振り返り、左手の触手とは別に、左肘から触手を出し、結界モニターのフレームとして結界を囲み、結界の端を触手フレームに入れ込んだ。


これで、結界の全方位から触手を伝ってオーラ信号を送れる…。と、思う。



そうだ…。ついでに"モニターテスト"をしよう。


「国王、"地下牢を暗視透視してくれ"。で、見たやつを俺に流せ。」

さて、上手くいくと良いんだが…。



「承知しました。………"生命体、多数発見。進化確認"。……ん?…"地下牢範囲拡大"…していますね…。複数型階層確認。この配置…"おかしい"…。壁素材変異確認。オーラが"意図的に下に溜まるようになっている"と推測致します。主様、"オーラ出力致します"。変換お願い致します。」


「分かった。」


俺は、国王のオーラを頭部から吸収し、変換出力をしようと一旦頭でオーラを読み取ったが、その内容が想像以上にやばかったんだ…。


ブゥン……


結界モニターには鮮明にその姿が映り、全員が絶句した。



昔、地下牢ちかろうに入れた遺伝子組み換えの毒生物は、蜘蛛くもさそりへび軍隊蟻ありだったが……まぁ、俺が言うのもなんだが、"見事に全部化け物"だな…。


「主様、やはり地下牢最下層はオーラが溜まり、"そこに何かいます"…。体幹、約30mの大きさです。映し出しますか?」

地下にこんな奴が居たなんて…。


「今は良い。…掃除がてら、必要そうなら捕獲ほかくしておけ。なければ駆除くじょで良い。……モニターテストはここまでだ。」

正直、身体がしんどい……。寝落ちする前に、"とっととやってしまおう"…。


俺は左腕の触手を切り離し、改めて腕を生やしたんだ…。……凄い再生能力だな…。


30m…普通に考えれば"巨体"だ。だが、"今はそれがどーでも良いと思ってしまうくらい、身体の限界が近づいていた"んだ…。



再び右手に青色オーラを纏わせ、胸に当てた。

……怒気封印、"半解除"。

獣人化にもなっておこう…。


俺はえりから両腕を抜き、帯の部分から上の上半身は素の獣人化として露出したんだ。……60億℃…って、流石に"コレ"も燃えるよな…。


……仕方がない…。正直これになるのは嫌だが、人間の地肌より100倍マシだ。



まさか、“家族を傷つけ、国を滅ぼしたこの姿”でやる事になるとはな…。


正面には結界モニター、後ろには家族…。


まぁ、“ある意味”…、これが今回の正装だな…。



俺は全身を黒い鱗で覆い、角と爪と尖らせ、帯を解いたんだ。


バサッ…


俺が着ていた浴衣が落ちた。だが、家族が用意してくれた浴衣を焦がすよりはマシだ。



“覚悟は出来てる”。



「国王、“見逃すなよ”。それと、依頼していた俺の名前…考えてくれたか?」

カフェオレの盃の時に依頼して、それっきりだったよな…。


国王の口角が上がり、巨大スクリーンの俺の目線の高さに小さく、他の家族には俺が重なって見えない大きさで表示されたんだ。


!…フッ……。


「いかがでしょうか?」

国王の両手はそれぞれ強く握りしめられ、震えていた。


俺は右手に青色オーラを宿らせて結界に触り、その文字を掴んで俺の胸の奥に刻んだんだ。


「“夜神結斗やがみゆいと”…気に入った。…“また、名付け親になってくれてありがとうな”…。」


目尻が熱くなる…。泣きたいのに、“蒸発してしまう”。


「はい…。主“夜神結斗様”…、御武運を。行ってらっしゃいませ。」

国王はヘルメットの連結部分が伸び切らない程度で、しっかり深く頭を下げてくれたんだ。


フッ…、ちょっと短過ぎたか?


怒気が上がる中、ちょっと笑わしてくれた。


「ああ、“行ってくる”。」

俺は再び右手で結界に触れ、自分が通れるように一部細工し、墓の水中に入ったんだ。


そして、水ごと宇宙の中心へと転移した。

挿絵(By みてみん)

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