第2話 絶対服従の対価
国王はテレビ局のヘリに対し、降りて来るように指示を出した。
テレビ局のスタッフは、怪物と王家関係者を撮影し、この星の全土生放送で放映し始めた。
視聴率は95%を超えようしていた。
王家の面々は国王を筆頭に、俺に跪き、頭を垂れた。
「春華大国国王として、貴方様に"無条件降伏"をさせてください…!」
この星の人々を、"我が子の餌"にすることは言わないし、”今”では本当は想ってもいない。むしろ、この46億年という時の間に、”情”が入ってしまった…。
国王として、この星の人々を守るのが、”最大の役目”なのは分かってる。
だけど、この子にすれば…この子の中の”母親”はもう…、いないでしょうね…。今のこの子には…、いえ、貴方様には、私は”悪魔の国王”に視えるのでしょうね…。
だったら…、私の取るべき道は一つしかないよね…。
覚悟は出来てる…!
結衣…、ごめんね…。
…これが、…私が描いたシナリオです…。
後は…貴方様の、お好きにしてください…。
「…国王、お前に、(もう)一度だけ問いたい…。この星の人々のことを、本当はどう想っているんだ?」
国王は、わざわざ上にいたヘリを呼び寄せたんだ…。
口が滑っても、”餌”の発言はないだろう…。
お前は…どうしたいんだ?
「何物にも代え難い、”宝”でございます…!国王として、この”宝”を守るのが”最大の役目”と、心得ております…!ですから、”条件”ではなく、”お願い”が一つございます…!」
家族、ごめんなさい…。
この星の人々を守るには、私には…こうすることしかできないの…。
家族も…一緒に来てくれる?
「…言ってみろ…!」
良かった…。やっぱり”情”が沸くよな…。
46億年も…この星にいて、この星で生まれた人々と一緒に暮らしたんだ。
本当は俺を…”情を持った、魔神と戦える戦士”に、したかったんじゃないか?それが、理想なんだろ…?
だが、あんたには、それが実現出来ないぐらい、”外の世界”の時間が無い事が分かっているんだろ?
「私のことや、私の家族のことは、お好きにして頂いて結構です…!ですが、その代わり、この星の人々には…手を出さないで欲しいのです…!」
王家の関係者全員が、俺に深く、深く頭を下げた。
流石、"元国王経験者達"…俺が認めた八獣王だ…。
これで、この星の人々に手を出さない理由ができた…。だけど、まだ…足りない。
…分かってるよな??
「人々"全員"か?!ふざけるな…!たった10人のお前達に、これ程多くの人達の代わりが務まるのか?!俺にとって、お前達は、この国を滅ぼす"手段"の1つに過ぎない…、それだけ小さな価値に過ぎないんだよ…!言ったはずだ…、俺にとって、"この星の人々"は、適正食材だと…!お前達は空腹の状態で、飯を前にして"食べられない状態"に耐える事が出来るのか!?」
国王よ…、俺にした事、俺の身体にした事を…覚えているよな??
天秤にかける量にしては、今のお前達では軽すぎる…!!
「…では、何がお望みなのですか?」
やはり、そう来ましたか…。
私は…、もう二度と…、貴方様とは親子にも、家族の関係にもなれないのでしょう…??
"天秤にかける量"が少ないのは分かっています…。
「お前やその家族には、俺の"奴隷兼家畜"になってもらう!あと、今後もこの国の法律は、春華大国憲法を使用するが、この法律に該当する罪人で、現在いる死刑囚や終身刑囚は近いうちに俺が喰わせてもらう!なお、今後死刑や終身刑を言い渡された者も、この適応とする!また、春華大国憲法に該当しないが、俺の気に触れた者も俺が直々に裁かせてもらう!まぁ裁くとは言え、勿論全員を、俺が喰う訳ではないが、それなりの刑罰は考える!その刑罰の中で最上位の刑罰が、俺の食材となる事だ!!」
「これを受け入れなければ、この話は無かった事にし、俺はこの星の人々全員を家畜にするが…どうだ?」
俺は、春華大国の法律に穴があるのは理解している。
裁けない者が存在してしまう法律だ…。
この国が"俺の物"となった今、俺が命令することは絶対になる。俺は、この国の国王としてではなく、神として君臨しよう。
政治に関しては次の国王に任せ、俺は気になった時だけ、介入しよう…。わざわざ、面倒臭いことはしたくないしな…。
それに、国王の適任者は目の前にいる。
母親の資格はないが、国王の資格はまだ持っているからな…。国王が俺の奴隷か…。これが、あんたが描いたシナリオだろ?
国王は家族の方に振り向き、全員が頷いた。
この世界と、この星の人々を守るため…自分達が犠牲となる。これが、"家族の総意"だった。
「その申し入れ、受けさせて頂きます…!」
王家の面々は、もう一度俺に深く、深く頭を下げた。
「この国は、これから"春華大国"ではなく、"龍華大国"と改名する。"春華城"も同様に、"龍華城"と命名する!」
これで、この国は事実上…滅びた事になる。
「国王よ…この城、貰うぞ。お前達はもう、"俺の奴隷"だ。"奴隷"は主の世話をし、"道具"として役に立つのが"使命"だ。よって、お前達も龍華城に住む事を許す。せいぜい、俺の為に働け…"奴隷共"…!」
まさか、自分の家族を奴隷にする日が来ようとはな…。
一緒に暮らすが、家族ではない…。
目の前に、自分の奴隷がいるだけだ。家族はいない…。同じ食卓に座って、一緒に笑うことはもう、ないかもしれないな…。
少なくても、俺の心が落ち着くまでは無理だ…。
「「ははー!!」」
奴隷達は額が地面にめり込むぐらい、深く深く深く…頭を俺に下げた。
「それと、俺はこの国の国王になるつもりはない。その代わり、元国王であるあんたには、また、この"龍華大国"の国王になってもらう。俺は…そうだな…、お前より立場が上だからな…。俺はこの星の"神"として君臨しよう。この国の運営は、基本的にお前達に任せるが、俺が気になった時は介入させてもらう。その時はこの国の憲法よりも、俺の命令に従ってもらう。…良いな??」
カメラの前で、俺が元国王を国王と認め、公言することで、全土の共通認識となる。
テレビの前の人々は、俺が"ディオラ"であったことを知らない。得体の知らない"怪物"が自分達の"神"になり、国王達を奴隷にして、自分達は支配されると…人々はそう思っているんだろうな…。
…俺はもう、虐殺やキツい独裁は考えていない。
俺だって、この星の人々を守りたい。
だからこそ"神"なんだ。
国王は泣いていた。
「…その任、有難く頂戴致します!」
まだ…、私は貴方様の視界に入っていても宜しいのですか…?
私は、貴方様を苦しめた"黒幕"ですよ…?
私は…永遠に地下牢にでも入れられて、ただひたすら拷問を受け続けながら、貴方様の家畜として過ごし、私の世話は龍影にでも任せ、もう二度と、貴方様にはお会い出来ないと思っていたのに…。
…何故にでございますか…?
「奴隷共…、もし俺に逆らったら、この星の人々を喰らってやるからな…!お前達にとって、この星の人々は"人質"だ!"元各国の国王"なら!この星の人々をしっかり俺から守ってみせよ…!」
これで、この星の人々はこいつらに辛く当たらないだろう。
俺にとって奴隷は”道具”で、俺が奴隷共をどう扱おうが俺の勝手だが、他人に自分の道具を悪く言われるのは不愉快だ。
それに…、こいつらは”元家族”だ。誰だって、自分の家族や親族の悪口を言われるのは嫌だろ?
…俺だってそうだ。俺にだって、目の前の奴隷達に”情”はまだ持っている…。
…いや、”情”の塊だろう…。
本当はまだ、こいつらの事を”家族”だと思っている。
こいつらと一緒に居たいから…。
永い永い孤独の中で、やっと見つけた”自分の横にいる存在”なんだ。
手放せる訳がないだろう…!
俺はこいつらが”大好き”なんだ…!
だけど…、俺は”家族”に手を出し、傷つけ、自分の家族を”奴隷”にし、俺はこいつらの”主”となった。
だから、俺には守る”義務”がある。
国王だって例外じゃない…。
最初から一緒にいた、”唯一の存在”なんだ。
母親に嫌な事をされ、言われても、…それでも俺は自分の母親の事が”大好き”なんだ。
心の傷はそう簡単に癒え事はないけど…
それでも、一緒に居たいんだ。
そして…
叶うのなら、いずれ…もう一度あんたを”母さん”って呼びたいんだ…。
…でも、それまでは…表向きは”冷酷な情緒不安定な神”に見えるんだろうな…。
「あ、そうそう、この国の軍隊のやつらも俺の奴隷になってもらおう。」
「"防衛"としては全く役に立っていなかった軍隊だ。正直、ここまで弱いとは思っていなかった…。がっかりだ…!だから、俺の奴隷にする。“奴隷”なら、姿形を変えてでも、俺の役に立つだろ?」
俺は尻尾を伸ばし、分裂させ、正門からここに来るまでの道のりにある血液と肉塊を吸収した。
国王と龍輝以外はゾッとしていた。
かつての“主”が、この“国の衛兵”の死体を目の前で喰らっている。
…もう、我々が知る、あの、お優しいディオラ様はいないのですね…。貴方様と出会った、最初の頃を思い出しますよ…。
あの冷酷で、全く隙のない…人間界の春華大国の初代国王の時の姿だ。
あの時も、自分達はこの人に負け…、気づいたら、両世界の和平交渉を成立させていた。
俺達は、この人を最初から恐れていたんだ…。
この人のオーラーを感じてからずっと…“死の恐怖”があった。
俺達は…ただ、ずっと怖かったんだ。
この人は…この人には“情”がないんだ…
だけど…、何故、俺達と過ごして、笑うようになったんだ?
俺達はそんな貴方様を見て、安心していたんだ。
そして“家族”になった。家族皆で、この星の人々を護り、導こうと約束したのに…。
また…昔の冷酷無慈悲な貴方様に戻られたのですか?
ーー俺は尻尾の操作に集中していた。
何せ、まだ慣れていないこの身体で、全ての衛兵の身体を治し、生き返らせようとしているのだから…。
全ての血液と肉塊を遺伝子レベルで照合し、1つづつ繋ぎ合わせ、変幻自在の奴隷として作り替えていた。
他の人間達には1分程の時間しか経っていないだろうが、俺は何気に、結構頑張って作業したんだ。
頭が熱い。
この身体は、これぐらいの治療にも負担がかかるのか…。
…少し、特訓をしないといけないな…。
多く分裂した尻尾は結合し、車が走るトンネルのように大きく、長く伸び、正門の手前まで続いていた。
そして、時折尻尾はぐにょぐにょと動き、先端を広げた。
…無数の隊員達が群がり出てきたその光景は、後に、“神の奇跡”と言われ、怪物は“神”として、この星の人々に畏れられた。
隊員達は怪物の方に向いて跪いた。
「隊員達よ!今回の戦いで国王は俺に“無条件降伏”を宣言し、この国は滅んだ!!お前達は!俺から、この国を守れなかった役立たずだ!そんな奴らは俺もいらん!」
「かと言って、お前達は俺に向かってきたんだ!だから、お前達も俺の気に触れている!よって!お前達を俺の奴隷として作り直した!お前達も精々俺の役に立ちやがれ!そして、もし!役立たずの奴隷がいたのなら!俺が喰ってやる!」
奴隷軍も怪物に深く頭を下げた。
「さて…、奴隷共…!俺は国王と二人で10分程話がしたい!その間に、お前達はこの広場に、城の従者を全員集めろ!集まったら、国王の執務室に知らせに来い!」
城の従者を、奴隷や食材にするつもりは全くない。
…生前はなんとも思わなかったが…
こいつらにも"家族"がいるんだろ??
失って分かったさ…
"家族"と一緒にいられる事が、どれだけ"幸せ"なのか…。
俺は、雇い主として、”従者が家族といられる時間”を確保してやりたい。
それに、自分の家にずっと”家族ではない者達”がいたら…正直、気が休まらないんだよな…。せめて、夕食から朝にかけてぐらい…気を休めて、ゆっくりしたい。
だから、お互い都合が良いだろう?
「国王、お前の執務室に案内しろ。誰も、俺達について来るな。」
はー…疲れた…。身体を使い過ぎて、力が入り辛いのに、テレビに映ってるから、弱さなんて見せられないしな…。
テレビに映るのも、楽じゃないんだぞ?全国ニュースの生放送だぞ?
緊張するわ…マジでさ。
でも…これで、世間の人々には俺を恐れるし、国王や他の奴らの事を敗けたからって非難しないだろう…。
これで良かったんだ…。
…どっと疲れた…。ボロを出したら、おかしく思われるしな…。
いきなり城を襲撃した怪物が、国王の執務室の場所を知っていたら、皆”?マーク”浮かぶんだぞ。
しかも俺は、国王と星の人々にめっちゃ気を使って言葉を選んでたんだ…。ちょっと休憩させてくれよ…。
俺は…実は、結構限界だったんだ。
慣れない体で、慣れないことをして…
”冷酷な神”として、振る舞ったんだ。
体力的にも、精神的にもホント…マジで疲れた。
今日は城の従者達に言うこと言ったら…風呂入って、普通のご飯を食べて寝たいな…。
てか、マジで一刻も早く風呂に入りたい…。
実質半年ぐらい風呂に入っていない…。
それに、俺の手足についた血も治療に使ったとは言え、俺は”裸のまま血まみれ”になったんだ。
それで、自分の家を歩き回るんだ。
出来れば城の外で体を洗いたいぐらいだが、流石に”今”は無理だ…。
俺はそんな事を思いながら、国王の執務室に入った。
国王は入り口の扉の前で俺に跪き、俺の言葉を待っていた。
俺はそれを少し無視しながら、ポットで湯を沸かし、国王愛用の”カフェオレ”のスティックの中身コップに入れた。
そして、氷も入れた。
勿論、薄まらないようにお湯の量の調整はしてある。
…俺は…、昔から猫舌なんだ…。よく舌を火傷して、ちょっと痛い目を何度もしていたんだ。
以前はアイスコーヒーも飲んでいたが、ここにカフェオレのスティックがあることを知ってから、一度飲んでみたいと思っていたんだ。
何せ、ディオラの時はまだ、コーヒーしかなくてな…。俺は甘党で、こっそり砂糖を入れていたぐらいだ。
そして、昔の記憶が戻った今、俺はこれに興味深々なんだ…。
俺は国王の玉座に座り、カフェオレを口にした。
…思わず「美味っ…!」って言ってしまった。
そうじゃない…。そうじゃないんだ…!
第一声でこれを言うつもりはなかったんだが…
マジで美味しかったんだ…仕方がない…。
後で他の種類と飲み比べてみよう…、そう思ったのはここだけの秘密だ…。
それに、さっき頭をフルで使ったから、糖分が欲しかったところだ…。
…むしろ、助かった…。
俺はもう一口飲んでから、本題に入った…。
「国王…これで、良かったんだろ?…これが、この星の人々に"情"が移ってしまった…"世界の傍観者のシナリオ"だろ?」
俺は、もう一口飲みながら聞いた。
「…私が考えたシナリオ以上でございます。」
「"情"が入ってしまったのは事実ですが、再び国王となり、今も貴方様の前にいられることは…"予想外"です。」
「"予想外"か…。確かに、お前がさっき通話した時のままだったら…、"決戦にしか目のない傍観者"だったら…、"今"、お前は俺の前にいないし、国王にもなっていない。」
「だが、お前は"情"を持って、"春華大国最後の国王"として民を守るために、俺に頭を下げた。…俺は、お前には"俺の母親としての資格"も"国王としての資格"もないと思っていた…。」
「だから、お前と会って直接話を聞いても尚、お前に"情"が無かったら…、俺は直ぐにでも"この世界"の全てを喰らい、閉じて、魔神を倒して、自分の魂を消そうと考えていたんだ…。それが、"この世界の創造者"として、大切な者達に手を出してしまった"責任"だと思っていたんだ…。」
「…だから、俺はお前が「この星の人々を守るため」と言った時、嬉しかったんだ…。」
「まだ、この女には"国王としての資格がある"ってな…。だから、お前に"この国の国王"を任せた…。」
「それに…俺もこの星の人々に"情"が入ってしまったんだ…。俺もこの星の人々を…この世界を守りたい。あんたは…本当は俺を"情を持った、魔神と戦える戦士"にしたかったんだろ?」
「だけど、それが実現できないくらい、"外の世界"が切羽詰まってる状態であると、お前は分かってしまった…。」
「だから、あんたは"春華大国最後の国王"として人々を守り、傍観者として、そして…俺の"元母親"として、俺に跪いき、頭を下げたんだろ?」
国王は頭を下げたまま、泣いていた。
「全て…分かっておられたのですね…。仰る通りでございます…!」
「…魔神には必ず勝ってやる!だから、頼む。…もう、俺の知らないところでコソコソしないでくれ…!」
「…!…はいっ…もう二度と、致しません…!」
「…それとな…、国王…。俺はあんたに"化け物"と言われて、もの凄くショックだったんだ…。…だけど、そんな今でも…、あんたの"子"として、あんたの事はまだ…大好きなんだ…。だけど、俺に”化け物”と言ったことも、俺にしたことも許した訳じゃない。…だから、まだあんたを以前みたいには呼べないし、それまでは俺の中に"母親"はいない。」
「…だけど、今…1度だけ、言いたい…」
ーー「母さん…、ずっと俺の母さんでいてくれて…俺を産んで、育ててくれてありがとう。俺は"母さん"を恨んでいるけど、素直に感謝してる。」
「永い間、俺を育てるために、決戦に向かわせるために、ずっとこの”怨まれ役”になることを覚悟していたんだろ?俺に殺されても仕方がないぐらいの怨まれ役になる覚悟をさ…。」
「俺は、ずっとあんたと一緒に過ごしていたんだ…。今は…、あんたのその”覚悟”が痛い程伝わってくるよ…。」
「…俺は、あんたの”重荷”を軽くすることはできないかもしれない…。だけど、これからは俺にも背負わせてくれ…。」
母さんは何も返事してこなかった…。
かなり号泣していたみたいで、”声”が出せなかったんだろうな…。
「…っ…辛い思いをさせてしまい!申し訳ありませんでした…!」
俺は、母さんの前にしゃがみ込み、…抱き寄せた。
母さんは大きな声でしばらく泣いていた。
…俺も少し泣いた。こんな身体でも涙は出るんだな。
「母さん…あんたも、かなり辛かったんだろ?」
「俺より、永い間苦しんだんだろ?」
「少しは、溜まっていたもの…吐き出せたか?」
「はい…。本当に…ありがとうございます…!」
「…国王、お替りを入れてくれ。後、俺と同じ物をもう一つ入れてくれ。」
「…一緒に飲もう…」
「!…かしこまりました…!」
俺は、応接用のソファーに座り直した。
国王は涙を拭いながら、嬉しそうにお湯を沸かしていた。
カチャ…
「…どうぞ。」
国王は俺の前にカフェオレが入った新しいカップを置いてくれた。俺のカップの中にも氷が入っていたが、国王のコップの中にも氷が浮かんでいた。
「!…氷、お前も入れるのか?」
「はい…、その…私も、猫舌なのです…。」
「えっ!?…そうなのか!?」
…そういえば、母さんに出された食べ物や飲み物が熱すぎたことは一切なかったな…。
俺としては丁度良い温度で、全く気にしなかったが…
「はい…。私も、熱いモノは苦手で…。ですが、人前で飲食をする時はそうもいかなくて…。熱いモノを頑張って口にしてはいたのですが、毎回2日程火傷でヒリヒリ痛いのです…。」
国王は恥ずかしそうに言った。
「!…あっははは…!そうか…!俺も同じだ!」
「…実は、私は貴方様がカップに氷を入れるまで、恥ずかしながら、貴方様も熱いモノが苦手だとは知らなかったのです…。」
「ん?…そうか…!俺に出してくれてたモノは、いつも丁度良い温度だったからな…。」
「まぁ、突っ立てないで座れよ。」
「はい…、では、失礼します」
国王は大きなソファーにちょこんと座った。
「フッ…!!おい、国王!ハハハッ…。もう少し、楽に座れよな!」
そうだよな…!そうなるよな…!俺の奴隷になったんだからな…!あまりのギャップに、思わず吹き出してしまったわ…。
…ん?と言う事は…他の奴らもそうだよな…
俺、耐えれるかな…。
辛いのは耐えれるけど、笑いはちょっとな…。
もし無理なら、奴隷達にタメ語の許可を出そう。
「…あ、も、申し訳ありません…!」
国王は焦りながら、楽な姿勢に直した。
…ダメだ…!…面白すぎて無理だ…!
「なぁ、国王。2人きりの時は、なるべく堅苦しい体勢は止めてくれ…。ここは俺の家なのに、笑えて、休まる気がしない…。」
「…分かりました。御命令であれば従います…。」
え、そんなに…面白いですか?まぁ、私の事で気が休まらないのなら…仕方ないですよね…。
「…なぁ、国王。これから俺達は”主従関係”だ。”親子”ではないが…、これからも宜しく頼む」
俺はカップを国王に突き出した。
「!…こちらこそ、宜しくお願い致します。…ご主人様…!」
カチンッ!!
お互いのカップを当て、一気に飲み干した。
これが、今の俺達の関係。俺なりの…国王との、主従関係の盃だ。もう、親子じゃないけど…、離れるわけじゃない…。
半年前に実父に誘拐され、そのまま約半年間…レイプされたり、身体を炙られ、手足を斬られ、自肉をたべさせられた…。そして、何故か最強の家族は助けに来てくれなかった…。殺されて…決戦の為にこの身体にされた…。この一連の闇の計画者が、"母さんだったんだ"……。本来はもっと怒るべきなんだろうが…、決戦の原因は俺も関係してるしな…。あまり…もう、正直母さんを責めたくはないんだよな…。…まぁ、かと言って、直ぐに全部を許すわけじゃないけど…。
だから、今はこれで良い…。
盃はお酒が基本なんだろうが、今はこれしか無いし、”これ”で良かったんだ。
「おい、国王。二人きりの時は”ご主人様”と言うのはやめろ。何かむず痒いようで変な感じだ。」
「…そういえば…、今の俺は名前が無いんだったな…。なぁ国王。今すぐじゃなくて良いから、俺の”名前”考えといてくれ。」
「!!?…それは…有難い御話しなのですが…、その…、本当によろしいのですか?」
「ん?何がだ?」
「私が貴方様の名前を考えるということは…、私が貴方様の”名付け親”という事になりませんか?」
「ん?何を今更…。構わねぇよ。大体、あんた以外に名前を付けられるのは嫌だし、なにより、俺はあんたが良いんだ。」
俺はつい、口元を緩めてしまったんだ。
「!!…わ、分かりました。喜んで、お受け致します。」
「ああ…頼む。」
貴方様は、私を”母さん”と呼べないと言いながら、それでも尚、”母親”を求めるのですね…。
本当は…私のことを”母さん”と呼べないのが、お辛いのですか?
…確かに、今の私には、貴方様にそう呼んでもらえる資格ありません…。
それとも…、貴方様は我が子を失った私に、気を使って頂いているのですか?…まぁ何にせよ…、全身全霊で貴方様にお仕えさせて頂きます…。
俺は久しぶりに笑えて、少し気が楽になった。
さて…そろそろ従者の皆は集まったかな…。
コンコン…
扉のノックの音だ。扉が開かないまま…
「龍影でございます。従者達が集まりましたので、ご報告にあがりました。」
「ああ…!分かった。直ぐに行く。」
俺は国王に頷き、一緒に広場に向かった。
――城の前の広場。
そこには、高台が設置されており、その前に城の従者達が、グループごとに整列していた。
俺は、改めて、緊張した。
とういうか…若干…いや、かなり恥ずかしい気持ちもあるのだが…。
誰も気にしていないと思うけど、俺、今…裸なんだぜ?
そんな恰好で、皆の前で、しかも生放送で、言わなくちゃいけないのかよ…。まぁ…鱗があるからセーフか?
人間じゃないし、素肌ではないし…うん、セーフか…。
…かなり恥ずかしいけどな…。
ああ…、早く終わらせたい…。
城の従者達は、恐怖で満たされている者や、解雇を心配している者がほとんどだった。
私達は、一体どうなるんだ?
目の前の高台に、”神”となった怪物と、”奴隷”となった元王家の面々が上がった。
「皆、よく集まってくれた。」
「この城はもう”春華城”ではない!”龍華城”として改名し、城主は俺となった!!」
「皆は解雇を心配しているようだが、それはしない!勿論、奴隷にもしない!ただ、”再雇用”をし!今まで通り、仕えてほしいだけだ!」
「だが!それでも俺が嫌な者は即刻立ち去れ!止めはしないし、害を与えるつもりもない!残ってもらった者は今まで通り、この城で仕えてもらう事になるが、少し労働時間を変えたいと思う!」
去る者は誰もいなかった…。
皆、奴隷達が心配なのだろう。有難い奴らだ。
「全ての従者は、9時~17時の勤務で、1時間の
休憩を与えたい!給与は全員、今まで通りだ!」
「残業は原則禁止だ!もし、残っている仕事があれば、後は奴隷達に引き継がせる!これは、今からの適応となるが!今日だけは、各リーダー以外、もう帰ってくれ!お前達も精神的に疲れているだろうし、お前達の家族も心配していただろう!」
「王家をぶっ潰した俺が、お前達の家族の話をするのは可笑しいかもしれないが!せめて!今後は夕食ぐらい、家族と一緒に食べて過ごしてくれ!!」
「各リーダーには、今日の残っている仕事をこいつらに伝えてもらいたい!それが終わり次第、今日は帰って構わない!」
「それと、”城主”は俺だが、奴隷達には今まで通り接してもらいたい!こいつらは、この星の人々を俺から守るために、奴隷になったんだ。俺はこいつらを酷い扱いをする時もあるかもしれないが、皆は奴隷達の味方でいてほしい!」
「従者達よ…!今日は怖い思いをさせて済まない!!これからはよろしく頼む!そして、今後もこの城を頼む!俺からは以上だ!」
割れんばかりの拍手。
俺が従者達の味方だってことは伝わったかな…。従者達にも家族が居る…。家族と自分が生きて生活する為に、此処に来てくれているんだ…。…自分達の家族を大切にしているからこそ……、俺としては、雇い主として"当たり前の配慮"なんだ…。
はぁ…、今日は血まみれの1日となったが、蘇生し、今は皆生きている。上出来だろう。
今日はこれで”よし”としよう。
テレビ局のやつらも帰っていた。
やっと…お風呂に入れる…、と思う。
俺はやれやれと思いながら城に入っていった。
国王以外は城の従者のリーダー達の相手をしている。
今は、国王と二人きりだ。
「あの…、今、よろしいですか?」
国王は凄い遠慮がちに言ってきた。
ん、何か凄い深い事を言い出しそうなんだけど…。
「何だ?…言ってみろ。」
俺はちょっとドキドキしながら聞いた。
何せ、このタイミングで言ってきたんだ。
しょうもない事なら言うなよ…?
「実は”知里”から、貴方様に…いえ、”結衣”に手紙と荷物を預かっているのです。お持ちしても宜しいでしょうか?」
「!!知里だと!?…それはどこにあるんだ?」
知里は結衣の時の親友だ。ごめんな…。本当は会いたいけど…こんなんじゃ会えないだろ…?
「”結衣の部屋”でございます」
…生前の俺の部屋か…。それこそ、風呂に入ってから部屋に入りたいんだが…。
けど、そういえば、風呂の準備ってできてないよな?
なんなら、飯の準備もしてないよな…?
「分かった。俺が行く。国王、奴隷達に俺の風呂の準備を最優先にするように伝えてくれ。」
「”女湯”の看板を外し、臨時の俺の風呂として用意してほしい。準備ができたら部屋に知らせに来てくれ。”男湯”は奴隷達に使わせろ。奴隷達だって、流石に風呂に入りたいだろ?」
「あと、龍影には俺と、奴隷達の飯を用意するように伝えてくれ。久しぶりに…、同じ食卓で皆と食事がしたいんだ。」
「これらを伝えたら、部屋に来てくれ。」
「かしこまりました。早急に伝え、なるべく早く用意させます。」
国王は俺に軽く礼をし、走っていた。
うん、これくらいだったら楽だ。
目の前で跪つかれるより、よっぽど良い。
いらない気を使わなくても良い…。やっぱり他の奴隷達にもそうさせようかな…。
そう思いながら、俺は生前の自分の部屋に向かった。




