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黒ギャルと委員長。水禍村はスイカ禁止です!

作者: まけない犬
掲載日:2025/10/14

ノベルアップ+で開催された「お題:①ギャル ②スイカ ③因習村」に投稿した短編です。


 ここは“水禍村(すいかむら)”です。

 人里離れた山の中にある小さな村ですが、車で一時間も走れば町があります。

 不自由はそんなにありません。

 電車は一時間に一本しか来ないですが……十分なんです。利用する人がいませんからね。

 学校ももちろんあります。小中高一貫です。

 一クラス二十人ほどです。少ないですか?

 多いとは言えませんが、少なくもないですよね?

 

 申し遅れました。わたくしは如月(きさらぎ)紅葉(もみじ)と申します。

 高校二年生で学級委員長をしています――クラスのみんなには「委員長」って呼ばれてます。

 眼鏡……掛けてそうですか?

 はい、掛けています……目が悪いので……。


 最近、転校生がやって来たんです。

 明るい方です。星野さんって言うんですけど、星みたいに明るいです。

 それに比べるとわたくしは月ですね……名前にも月って入ってますしね。


 脱線しました。

 星野さんは都会の方だし……最近の言葉でいうと“黒ギャル”というんですかね?

 自由奔放っていうか……クラスの風紀が乱れて困っています。


 ***


「ひぃ~~! 何を食べているんですかぁ!?」


 叫び声とともに、教室の空気が一瞬で張りつめた。

 机の上には、大きなタッパーがドンと置かれている。

 その中には、赤くみずみずしいスイカがずらりと並び、きらきらと滴をこぼしていた。


 夏の太陽、焼けたトースト――それらを思わせる褐色の肌。

 口いっぱいに頬張り、膨らむ頬はリスを想像させる。

 咀嚼のたびに「シャクシャク」と音がなり、明るい金髪が揺れていた。


「ん~? あっ! さいあくーみつかったー!」


 突如、水禍村(すいかむら)に転校して来た黒船……ならぬ黒ギャルは言った。

 三白眼気味の目を細め、バツの悪そうな表情を浮かべている。

 ただし、その言葉に反省の色はなかった。


「この村では夏にスイカを食べちゃいけないんですっ!」


 水禍村(すいかむら)には“夏にスイカを食べてはならぬ”という“掟”がある。

 委員長は細かい理由を知らないが……ただ、そう“決められて”いる。


「はぁ~? スイカって夏にしか食わんくねぇ? てか、うち。夏はスイカしか食わないんよねぇ!」

「さきほど菓子パン……食べていましたよね?」


 黒ギャルは平気で嘘を言う。

 いや、本人的には嘘のつもりがないのかもしれない、ちょっと話を盛っているだけ。


「え~? みてたん? いいんちょースケベじゃねぇ?」

「何でですか! いや、そうじゃなくてスイカ食べちゃダメです!」

「なんでー? スイカ食うっしょ? ギャルはスイカ食う」


 ギャルだけじゃなく、老若男女……イケメンもオタクもスイカは食べる。


「わたくしだって食べます。でも“夏”はダメなんです。これは村の決まり……“掟”なんです!」

「はぁ~? なんで夏にスイカ食べちゃダメなん? 意味わかんなくねー?」

「そもそも、今は授業の合間の休み時間ですからね! 昼休みは終わってるんです! スイカに限らず、何も食べちゃダメなんです!」

「わーかった、わーかった。そんなおこんなし~いいんちょー?」


 黒ギャルはそう言いながら、机の横に引っかけていたバッグをガサゴソと漁り始めた。

 ピンクのもふもふが付いたポーチ、香水の小瓶、デコられ過ぎたミラーケース……謎のキーホルダー。


 彼女の辞書に整理整頓という言葉は存在しないのか――委員長はそんなことを考える。

 黒ギャルがあれでもない、これでもないと、鞄をまさぐり続けた後、水筒がひとつ顔を出す。


「……? それは?」

「水筒だけど? 田舎にはないの? 水筒?」


 黒ギャルは、水筒をひょいと顔の横に持ち上げる。

 首をかしげてきょとんとした表情を魅せる――化粧っ気は強いが、顔立ちは整っている。


 ギラついたネイル、ラメ入りのボトル、軽く揺れたストラップがじゃらっと音を立てる。

 そのすべてが喧しく、教室の中でひときわ目立っていた。

 委員長は思わずこめかみに手をやる。

 服装、言葉遣い、校則違反の数々……注意しないといけないことは山ほどある。

 だが、今はひとまず水筒だ。


「水筒あります! 田舎にも水筒ありますよ! 何をする気かって聞いたんです!」

「水分補給じゃね? 田舎だと、ワンチャン使い方違う……? 筆箱?」

「一緒ですよ! 田舎でも水筒には飲み物を入れます!」


 田舎と言われる度にバカにされてる気がして、委員長は声を荒らげた。


「……麦茶?」

「ダケじゃないですよ! 色々入れますよ!」

「へーそうなん? あっ、とりま水分補給は問題ないよね?」

「はい……水分は補給してください。熱中症になってしまうので――」


 委員長の言葉を待たずに、黒ギャルは「ごくごく」と喉を鳴らす。

 椅子に座ったままだが、風呂上がりの牛乳を一気飲みするかのように、片手を腰に当てて水筒を掲げていた。


「かぁー! うめー!」


 黒ギャルはご満悦の表情。水筒をドンと机に置く。


「あの……ちなみに何を飲んでいるんです? 学校に持ってきて良い飲み物は……お茶かお水……この時期ならスポーツ飲料でも」


 委員長がおそるおそる尋ねる。


「スイカ汁」

「スイカ汁っ!?」


 黒ギャルはさらりと答え。委員長の声は裏返る。

 人気の少ない教室に、一瞬だけ微かなざわめきが走った。


「早起きして絞った」


 黒ギャルのドヤ顔。


「手絞りなんですか!? ジュースだしスイカだし、校則としても掟としてもアウトですよ!」


 委員長はつい机をバンと叩いた。自覚はない。


「んぐんぐっ」

「ダメって言ってるのに! 堂々と飲まないでっ! 転校生さん!」

「いいんちょー? うちには“翠花(すいか)”っていう立派な名前あんのねー? ちゃんと名前で呼んでくんねー?」


 黒ギャル――“星野(ほしの)翠花(すいか)"はニヤニヤと笑い、飲み干した水筒をフリフリと振った。


「知ってます! でも、この村は掟でスイカ禁止なんですっ……だから……呼びづらくて……」

「なんでなん? てか翠花(すいか)って名前が呼びにくいなら星野(ほしの)って苗字で呼べば? てかさぁ――」


 翠花(すいか)は机に肩肘をつき、のんびりと話し続ける。


「名前と食べ物は別っしょ? 犬って名前なら犬食うん?」

「食べませんっ! というか犬なんて名前つけませんっ!」


 委員長は思わず張り上げた自身の声に、ハッとする。

 急に我に返った。自分でも変なことを言ってしまったと気づき、赤面する。


「その例えは変ですけど、言いたいことは何となくわかります……今のはわたくしがおかしかったです。名前は関係ないですよね……すみません」


 しゅんとし、肩を落とす委員長。


「頭がたかいぞー」


 椅子の背もたれにふんぞり返り、グイッと胸を張る。

 翠花(すいか)の着崩した制服、ゆるく開いた胸元から、はりのある谷間がちらりと覗いた。


「両親のどちらかがこの村の出なら、その名前、避けたらよかったのに!」


 “黒ギャル”……と言うには主語が大きすぎるかもしれない。

 だが、少なくとも翠花(すいか)を相手にするなら、引いてはいけない。

 委員長は、そう自覚していた。


「とにかく……スイカは村の掟で禁止なんです……スイカもスイカ汁もやめてください……」

「たくもー、なんなーん? 田舎って謎くねー?」


 翠花(すいか)は腕を組み、ため息をついた。


「掟なんです」

「郷に入れば郷に従えってことー?」

「そうです! 翠花(すいか)さん、難しい言葉知ってるんですね!」

「さいあくー! ギャルはみんなバカだと思ってるんでしょー?」


 口をとがらせて、ちょっと睨むような目つきで言う。

 桃色のリップが光を受けて艶めいている。


「うっ……そんなこと……」

「みんなビッチで非行に走ってるとか思ってるんでしょー?」

「思ってません! でも翠花(すいか)さんは、さっきからずっとスイカ食べてますけどね!!」


 ビッチだとは思っていないが、非行には走っている。

 委員長はそう感じた。


「とにかくです……もうスイカ持ち込んでませんよね?」

「ないよー」

「スイカチップスとか持ち込んでないですよね?」

「んー? もってきてないよー!」

「白いワタの部分とか、皮ならセーフとか思ってませんか?」

「流石にソレは食わねーし! もうないってば! いいんちょー!」

「そうですか……とにかく“掟”なんです。わたくしだってこんな口煩く言いたくはないんです……でも、“掟”は守らないと翠花(すいか)さんにスイカの“祟り”が……」

「はー? 祟りって何ー? 腹でも壊すんかぁ!? 田舎まじヤベーんだけどぉ? 教室にクーラーすらないのも考えられん」


 胸元をパタパタと仰ぎながら、翠花(すいか)は不満そうにつぶやいた。

 ブラの隙間からチラリとのぞく素肌さえ焼けている。こんがりと一分のムラもない。

 汗の滲む褐色の肌は、同性である委員長から見ても、どこか生々しく映った。

 匂いは感じない。いや、強めの香水がすべてを上書きしていた。

 委員長は、例えようのないむず痒さを覚えながら、「どうやって肌を焼いているんだろう?」そんなどうでもいい疑問で、思考をそっと塗りつぶした。


 だが、気づいてしまった。


「何ですかコレは!?」


 委員長はずいっと黒ギャルに迫り、たわわに実った房を持ち上げた。


「ん? おっぱい?」

「そうですけど違います! 下着のことです!」

「あー! これ可愛くねぇ? スイカ柄になってるんよぉー!」


 翠花(スイカ)は自らの手で、制服のボタンをプチプチと外した。

 そして、ためらいもなく胸元をグイッと広げる。


 今回は、さすがに教室内がハッキリとざわついた。

 だが、そのざわめきはすべて女子の声だった。

 男子たちは、一様に何も見えていないかのような顔をしている。

 見えていない――そんなことはあるはずがないのに。


「ちょっと! そんな破廉恥な行為やめてくださいっ! 恥ずかしくないんですか!?」


 慌てて黒ギャルの胸元を隠そうとする委員長。

 刹那――別の考えが脳裏に走った。


「あっ! もしかしてっ!」


 椅子に座ったままの黒ギャルに向け、膝を折る委員長。

 校則などお構いなしと言わんばかりに、短く履かれたスカートをヒラリとめくる。


「やっぱり下の方もスイカ柄になってる! ダメですよ! こんなの!」


 程よく引き締まった健康的な両脚。

 その奥にのぞくのは、一見ヒョウ柄にも見えるスイカ柄の下着だった。

 およそ女子高生が学校に履いてくるには際どすぎる、最小限の布面積。

 だが、ムダ毛のはみ出しなど一切なく、きっちりと手入れが行き届いている。

 ……いや、もしかすると、その白い……ならぬ、褐色の恥丘には、不毛の大地が広がっているのかもしれない。


「そりゃそーでしょ? うちギャルだよ? トータルコーディネイトは基本じゃね!」


 笑って返すその顔に、なぜか薄く朱が差していた。


「てか、委員長……流石にスカートの中に顔ツッコまれるとハズカシ……」


 気づけばスカートの中に顔を突っ込んでいる。

 黒ギャルはもじもじと内股になり、それ以上の侵入を拒もうとする。

 委員長は汗ばむ肌が吸い付く感触、こもった湿り気、香水ではない匂いを感じていた。


「はっ! すみませんっ!」


 ハッと、我に返った彼女は、弾かれるように立ち上がった。


「と、とにかく……翠花(すいか)さん。“校則”も“村の掟”もちゃんと守ってくださいね?」

「えぇ~」

「えぇ~じゃなくて。わたくしは委員長として校内の風紀を守る義務があるんです!」

「そりゃわかるけどぉ? でもさぁいいんちょー?」


 翠花(すいか)はずっと気になっていたことがある。

 だが、そのことに触れることはしなかった。

 なぜならギャルは気遣いができるからだ、本人が気にしていそうなことをズケズケと指摘したりはしない。

 だがもう、踏み込むしかなかった。


「えっ……ちょ、翠花(すいか)さん!?」


 翠花(すいか)は委員長の背後に周り込むと、バカげた大きさ――まさにスイカのような両胸を持ち上げた。

 肩にズッシリとした重さを感じる。


「この胸さぁ大きすぎん? スイカじゃんこんなの! こんなバカみたいな胸こさえて“風紀”とか“掟”とかヤバくねぇ!?」

「ちょちょちょ! やめてください!(//」


 少年達を惑わし、すべてを捻じ曲げる重力。

 成長を続ければ、いずれその質量はブラックホールと化し、あらゆる理を呑み込むだろう。

 すべての視線を引き寄せ、飲み込む教室の特異点。

 村一番の“掟破り”は、初めから“教室(ここ)”に在った。


「これがホントの“淫習村(いんしゅうむら)”つってね!」

「揉まないでください~!(////」


 ギャルはオチもサービスも抜かりない。


 夏にスイカを食べてはいけない――”水禍村(すいかむら)”に伝わるこの決まり。

 もともとは「食べすぎてお腹を壊さないように」という、ただそれだけの話だった。

 だが、いつしか“教え”は“祟り”へと姿を変え、気づけば因習として定着していた。


 そうして残るものが“掟”だとしたら――因習村とは、えてしてそうやってできあがるのかもしれない。

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