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第9話 心の感じ方

 人の放つ魔力には、意思や感情が宿る。魔術を行使する場合は特にわかりやすい。銀の魔女になって、レンの指導をうけて、それが少しずつ理解できるようになったばかりだ。

 だから、私は今の状況が決して良くないということを、はっきりと認識できる。


「うわぁ……」

「ああ、わかるようになったみたいだね」

「少しは」

「教えた甲斐があったよ」

「それはどうも」

 

 私が把握できたのは四つ。突き刺すような魔力は包囲を狭めてきている。互いに連携しているのか、ゆっくりジリジリと私たちに近付いていた。

 

 近くにある村は、私の故郷よりは大きいけどお世辞にも都会とは言えない場所だ。こんなところにいる魔術師なのだから、目的は予想がつく。

 村を襲うつもりだったけど、とんでもない魔力を感じたので警戒しつつ様子を見ている。たぶんそんなところだ。

 冷や汗が背中を伝う。レンが警戒していたのはこれなんだろう。


 どう考えても完全に私が悪い。時と場合を考えず感情を爆発させて、見つかってはまずい連中に見つかってしまった。

 このままでは、レンも私も無事ではいられない可能性が高い。これはさすがに酷すぎて笑えない。


「これって、私のせいだよね」

「それはもう」

「後で謝るね」

「うん、期待してる」


 口元だけ笑ったレンの視線は、止まることなく周囲を見回している。私の無理矢理な冗談に軽口を返せるあたり、なにかしらの対応手段を考えているようだった。

 私は身をすくめるだけだ。こんな状況では何もできないし、何もしてはいけない気がした。


「囲んでいるのはわかっている! 何の用だ?」


 レンの声は澄んでいてよく通る。聞こえていないはずがないけど、しばらく経っても反応はなかった。少しずつ近付きながら、こちらの様子を窺っているみたいだ。

 正面にふたつ、左側にひとつ、後ろにひとつ。四つの魔力は等間隔ではなく、私から見て右側に広めの隙間があった。今ならまだ走り抜けられるようにも思えた。


「ねぇ、右」

「あれは罠だな」


 提案はすぐに否定される。私の浅知恵なんて、レンも見えない相手もわかっているのだろう。情けなくて恥ずかしくて、唇を固く閉じた。


「正面から対応する。君はなるべく姿勢を低くして、顔を守ってて」 


 あくまでも冷静にレンが呟いた。きっと慣れている。私の知らない彼がそこにいた。


「あ、うん」

 

 まともな返事なんてできず、指示に従った。今はそうするしかないと思えたからだ。


「あと、できれば見ないでほしい」

「えっと……」


 聞き返す前に、隣から気配が消えた。言葉の意図が理解できないまま、私は唐突にひとり取り残された。


「レ、レン?」

 

 私は慌ててレンの魔力を探した。顔を伏せたまま、彼の動きを探るにはこれしかないと思ったからだ。それに、見ていることにはならない、なんて言い訳も浮かぶ。

 レンはすぐに探り当てられた。私を抱えていた時よりも遥かに早く、一直線に走っている。戦う意思を乗せた魔力は、正面にいるふたつのすぐ近くへと迫った。


「え?」


 本当に一瞬だった。

 

 光と熱を放つ魔術をレンは頻繁に使う。魔物を文字通り塵にするのも、薪に火をつけるのも、同じ魔術の応用だ。

 そして今、彼はそれを人へ向けた。

 ふたつの魔力が消えた。それはつまり、そういうことだと直感する。

 

 レンは流れるような動作で左側へ近付き、魔術を放つ。反撃どころか、反応する時間さえ与えられず、魔力がひとつ消えた。

 最後のひとつは少しだけ動く余裕があったみたいだ。ただし、魔力を収束し始めたところで、他のみっつと同じように消えてしまった。


 決して友好的ではなかったけど、明確に敵対していたわけでもない。そんな相手だったけど、レンは容赦しなかった。 

 直接見てはいない。それでも、私のすぐ近くで四人が塵になったことだけはわかる。私はただ単純に事実だけを受け止めた。混乱することさえもできなかった。


「終わったよ」


 頭上から声がする。軽薄にも感じるような口調だ。私はうずくまったまま顔を上げることができなかった。


「見ないでって言ったのに」

「見てない」


 軽く責めるように言われるけど、私は本当に見ていない。見なくてもわかってしまっただけ。

   

「屁理屈だね」

「うるさい」

「はいはい」


 レンはいつもの調子を崩さない。彼にとって、これは特別なことではないのかもしれない。

 普通ならば怯えるところだ。叫び逃げようとしても不思議じゃない。人を殺すことにためらいがない人なのだから、怖くて当然だ。

 ただ私は、そうは思えなかった。だって、魔力には意思や感情が宿るのだから。


 レンからは揺るがない意志を感じる。目的のためであればどんなことでもやる、なんて思われても仕方ないくらいだ。実際、レンはあっという間に四人の命を奪った。

 しかし、銀の魔女にはわかってしまう。強い決意の裏には、頼りなげに揺らめいている感情があった。

 理由はわからないけど、レンはどこかで無理をしている。それだけは断言できた。


 赤茶色のくせ毛と共に、私からまともな感覚がなくなってしまったのかもしれない。消え去ってしまった見知らぬ魔術師よりも、今近くにいる殺人者のことを気遣っている。

 

「ねぇ」

「ん?」

「ごめんね」


 多くを言葉にする気にはなれなかった。一言だけで通じてくれると信じていた。


「気にしないでいいよ」

「うん」


 見上げた先には、薄く笑みを浮かべたレンがいた。整いすぎた彼の顔を、これまでより少しだけ近くに感じられた。


第2章『魔術師は語らない』 完

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