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転生探索者のすべき事  作者: 寿司
第零章 知らない人

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邂逅

下山と言っても、俺達はこの地形を知らない。等高線も方角も分からない。ひとまず道なりに下ろうとは思ったが、既に蝕まれかけた肉体では山道を長く歩ける自信がない。そこで思いついたのが、無茶なアイデアだった。


「重イ…こんなの無茶ヨ!」


ヒルトをキックボード代わりにして、俺はその背に跨がり、足で地面を蹴りながら下山している。金属と魔力で出来た魔具の甲高い擦れる音、石に跳ね返る小さな振動が脛に伝わる。ヒルトの甲板は冷たく、握った手のひらに微かな振動が残る。普通なら笑い話で済むはずの光景だが、今は笑えない――ただ必死こいて前へ進むだけだ。


「自動操縦って言ってモ、直接オマエの手を使うわけじゃなイ」

フリートの一言がきっかけになった。彼の声はいつも通り冷静で、でもどこか楽しそうだ。


「へぇ〜どんな感じでやんだ?」

『オマエが魔力を送れば、空中に浮いてオレタチが操作すル』

「…飛距離は?」

『オマエの魔力が続く限りだナ』

「なるほどな。実質投擲物としても使えると?」

『使えはするガ。何する気ダ?』

「お前らの上に乗る」

「ハ?」

「分かったらさっさとやんぞ」

『マジかコイツ』

『ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ーー!!!』


山道に、俺と金属の塊――ヒルトが滑る。草の匂い、湿った土の匂いが風と一緒に流る。速度が上がると空気が耳の奥を押し、視界の端から草葉が流れ去る。ヒルトは若干不満げに叫び続けるが、必要経費だ。許してくれ。


『死んじゃウ!貴方死んじゃうわヨ!』

「問題ない。受け身は取れるし、何かあってもヒルトが何とかしてくれるでしょ」

『バカじゃないノ!?』

「あー早いなこれ、恐らく俺を乗せなくて平地なら最高速度時速400km辺りまで行けそう」

『呑気に分析してんじゃネェ!』


そんな会話をしながら、俺たちは無事に山を下りた。だが下りた先は、期待していた安堵とは違った。草原が続き、ところどころに人の気配を示すものはない。村の残骸、崩れた屋根、折れた旗竿。風が抜けるたび、空き家の扉がギシリと鳴る。時間の経過とともに、原因は人災だと結論づけていった――整然とした破壊の形跡、焦げた柱、矛で壊された門。自然災害ならもっと無差別で、瓦礫の積み方が違う。


黙々と歩き、思考を巡らせながら30分ほど進むと、ようやく人工物が視界に入った。遠目には城壁が続き、堀が光を反射している。

小さな町を予想していたが、想定外の城砦都市を見て一瞬言葉を失った。煉瓦と石が夜の淡い月光を拾い、塔の影が低く伸びる。嬉しい誤算だ。人がいれば情報がある。人がいれば飯もある。何より休める。


だが備えあれば憂いなし――ここからは目立たないように行動しなければならない。ヒルトから降り、装束を整えた。俺の見た目は貴族風だ。剣など持っていれば、どんな衛兵でも怪しむだろう。ヒルトはそれを鋭く指摘する。


『構わないけド、貴方の見た目で剣を持てバ、どんな衛兵でも怪しむと思うわヨ?』

「んな訳無い」

『あるのヨ』

『無策であの検閲を潜り抜けられるノ?周囲の状況を考えテ、かなり警戒されるわヨ?』

「一応策はある.............正直色々終わってるがな」


 





時刻は深夜。城壁は一見無人であるように見えるが、ところどころで焚かれた松明の赤い点が輪郭をなぞる。影が深く、見張りの気配は直接見えない。俺はフリートとヒルトに魔力を送ると、彼らを宙に浮かせ、壁上へと慎重に乗せた。


一切音が鳴らず、更に駄目押しで事前に霊視で確認もした。流石の彼らでも気づけないだろう。

魔力を流すときの感触は、冷たい金属の脈を撫でるようで、少し痺れる。ヒルトは浮遊してもなお文句を言っていた。


『扱い酷すぎなイ?それでどうするのヨ?』

「野宿だ」

『嘘でショ?』

『良いネェ』

「うっし、なら二対一で決定で」

『本気?野生舐めたら死ぬわヨ?』

『うっせぇ無機物。それに野宿は今日だけだ。明日からしっかり情報収集を…』


城壁の上は思ったよりも広かった。夜風が骨の隙間を抜け、遠くで水の音がする。背を壁に預け、剣は見えるところに置かないようにしておく。足元には石の冷たさが伝わり、月明かりが服の縁を滑る。安心はしていないが、今はとにかく休む必要がある――魔力の消耗を抑え、翌朝に備えるためだ。


寝落ちかけたとき、フリートがささやくように言った。


『客人だゼ?』

『お前転生者だろ!僕と戦え!』


――思考が徐々に蝕まれ、微睡んでいく

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