追憶
気が付くと、天変地異ような景色を背景とした堤防だった。
空を見れば、天気は良い筈なのに雷の音は止まず、海を見れば、全てを飲み込むように津波が迫っている。そんな異世界のような景色。
体の自由は効かず、口も動かない。考察するにただの走馬灯か幻覚のようなものだと、人間《探索者》は認識する。
『ねえ!助けてよ!貴方魔法使いなんでしょう!?それなら早くお父さんとお母さんを治して!』
右を見れば、名も知らない少女が倒れ込んでいる彼女の両親を抱き抱え、俺を問い詰める様に怒鳴り散らしている。
『ウルセェ!お前の両親助けるよりこっちが先だ!コイツが居なかったら全員死んでったんだぞ!』
左を見れば、10代後半ほどの男が、同じ制服を着た女を人工呼吸などの応急処置を行いながら、少女を怒鳴り散らしていた。
二人の希望《俺》は残酷だった。
「俺の治癒は、死んだ人間には効果は無い。知ってるだろ?切り替えて、お前らだけでも生き残れ。もう時間は無いのは分かってるはずだ」
弱者《探索者》は憎まれ役を買って出てまで、二人の人間を救いたかった。
生存 1名 習得魔術 治癒
『オイ!起きろっテ!』
合成音声の様な声で再び森の中で目が覚める。
違いは、もう日は昇っている事くらいか。魔術の詠唱文を思い出せたのは収穫だが、気分が悪い。
『調子はどうダ?』
「最悪だ、人殺した後に気分が良い訳ねぇだろ」
つうか誰だコイツ?周囲を見渡してみても、辺りにはあの女が残した刀が腕毎落ちている以外、木々や動植物しかいない。
死んだ二人を土に埋めようと立ち上がったが、死体が無かった。
恐らく王が話した魂関連の話を考えるに、異世界人は死んだら何も残らない。改めて人を殺した実感をする。
...刀が喋ってるやつか?失った記憶の中でも経験が無い訳じゃない。無機物は稀に喋る。
返り血が滲んでいるというのに狂気を感じず、神秘性すら感じる美しい刀。
「話てるのはお前か?」
突き刺さってる剣に問いかける。
『驚かねぇのナ。まあいいヤ。オマエよくあの女を殺したナ?強かったロ?』
「...ああ、強かったよ。」
正真正銘、二度と戦いたく無い相手だ。
『そうかそうカ!そいつはオレとしても鼻が高イ。んじゃ、俺の新しい主お前ナ』
「元から使うつもりだったが、良いのか?一応元々の主を殺したんだぞ?俺」
刀を手に取りつつそう聞き返す。まだ刀握ってるよ、コイツ。いくら得物を離さないって言っても限度があるだろうが。
『無い、といえば嘘になるが、異存はねえヨ。勝者に従うのが、オレらの定めダ。』
「そうか、ならいい。さっさとお前の出来る事を教えろ。全部」
『...徹底してるネェ。けどまズ。』
コイツの纏う雰囲気が変わる。
『オマエは何をしたイ。それを聞いてからダ』
「...それを聞いて何になる?これから殺し合いをするんだぞ?正義も大義もクソも無い。そんな状況で欲を出しても仕方ないだろ」
『つまんねぇナ、オマエ』
「"あ"?」
『そう怒るナ、オレが聞きたいのはそんな建前じゃ無イ。本心《欲望》だ。オマエは何をやりたいんダ?誰かの願いでは無ク、自分の願いを話セ』
願い、欲望?何がしたいんだ?俺は、ただ生き残るだけじゃ無く、俺が自分の意思でやりたい事。俺だけの欲。
【------------------】
【------------------】
【--、----、赤髪!それでいいんじゃない?】
知りたくはあるかな...自分の出生。
「決めたぞ。俺の野望、を」
『では聞こうカ、何ダ?オマエの欲望ハ』
決まったよ、俺の野望は
「記憶を取り戻し、俺を知る事。そして出来れば俺の記憶にあった人達に、会いたい。これが俺の野望だ」
『...欲望とも呼べない戯言デ、出来ればなんて言う雑魚の言葉を使っているガ、まあいイ。次聞く時はもっとマシな事言エ。ギリギリ及第点ダ』
「そりゃどうも、ならさっさと情報交換するぞ」
『アイアイ』
『...だがその前ニ、オレの事ずっとコレとかソレで呼ぶのカ?』
「何か問題あるか?」
『ダメですダメです!熟練夫婦じゃないんですヨ!』
何だコイツ、急に敬語使い始めたぞ。
『だかラ、コイツとか言うナ!』
「うるせえ思考を読むな!...いや思考を読むってのは便利な能力だな」
『アー失礼失礼ィ、ちょっと別の人格が出てきてたワ』
「....一旦出来る事全部俺に話せ」
まとめた結果、フリートとヒルトは、元々は双剣の兄弟剣、少し短い日本刀みたいな見た目をしていた。彼らの正式名称は、リカッソ。
彼女ら暗技使いは、両刃の剣を得物とする?だそう。
なぜ一つの剣に人格が二つあるのかというと、ある時片方の剣が、イリス・マルトの連撃に耐えきれず、折れてしまったらしい。その時に、無理やり二つの人格を一つの器に入れてしまった為、現在の形になったらしい。
ここからは余談だが、以降イリス・マルトは剣を折った自分を恥じ、以降双剣を握る事も無く、彼らの異能を使う事を無かったそうだ。
つまりあの時は本気ではあっても全力じゃ無かった?嘘だろ?...考えない事にしよ。
そして彼らの前の世界でのポジションは、かなり高名な剣だったらしい。
実はかなり強力な剣で、片や聖剣、片や魔剣、そんな感じの凄い剣だそう。
まあ現在は暗技使いでは無い俺が持ち主だから自動操作としょうもない小技しか出来ないらしいが。
彼らの情報は以上。
他に、気になっている事がある。
なぜ遭遇した異世界人2名は、俺の知らない情報を持っていた?
まずあの名も知れない男。あの時計は口ぶりから察するに、おそらく彼の女神の寵愛では無い。では何処で拾った?
そしてイリス・マルトの言動にも、違和感があった。
『ありがとう!一度やってみたかったの!』
『乗りは騎士道として、一騎討ちを行う前のマナーなんでしょう?』
彼女の世界は騎士道やマナーとゆう名称が、この世界と同じだったのか?
これについて、フリートに確認してみたが、曰く。
『知ってるガ、そんな名称では無イ。それニ、イリスは暗技使いダ。そんな事知る由も無イ』
のだそう、これはあくまで仮説だが、一つの仮説に行き着いた。
転生者召喚はあの国だけが行なっているものだけではなく、自分が思っているより広範囲に転生者は散らばっているのでは無いか?
そしてこの仮説が正しければ、新たに一つの仮説も浮かぶ。
国毎に異世界人のサポートが異なる。
例えば、自分が転生してきた国、あの国の特典は、自身の女神の寵愛の把握だ。
次に名も知らぬ彼の特典。時計での異世界人の探知。
最後にイリス・マルト、恐らく異世界の常識などの基礎教育?
...少し無理があるかもしれない。だが、これでまた一つ知れただろう。
『オイ!色々考えてないで、荷物を纏めたならさっさと行くゾ』
「そうだな、さっさと向かうか」
――臨時主従結成




