柴田恵都
「〜〜〜〜」
『お前、柴田って奴の事になると早口になるよな』
きっかけはある日の集会帰りの、強欲の一言だった。
「...そうですか?」
『ああ、正直気持ち悪りぃ...何故そこまで柴田を警戒する?話を聞く分に、全盛期とは比べものにならないんだろ?そんな長時間分析して慣れなくちゃいけない相手なのか?』
「ええ、勿論。彼/彼女の強さは単純な戦闘力じゃ測れません...例えば貴方は、無敵になれる女神の寵愛を持った人物を、脅威に感じますか?」
『感じねぇな。そいつ本人が無敵でも心を壊したり、無敵のカラクリを探ったり、仲間から先にすり潰せば問題は起きねぇ』
強欲はクイーンを動かす。その動きに、イスは少し小馬鹿にしたように笑うだろう。
「そこなんですよ。私が思うに、本当に強い人間の強さとは、〇〇が出来るから強い、〇〇の力を持っているから強いのではなく、彼/彼女だからこそ"強い"...と言えるような人の事を言うのでしょう。あ、チェックメイト」
『(...強すぎだろ)まあ、言いたい事は分からなくもねぇ...だがこれは過剰だ。俺と暴食とあの陰陽師だろ?』
「彼/彼女の弱点はこの前言いましたよね?」
書類を渡す。少し引いたような視線をイスに向けながら、強欲は答えるだろう。
「体格差、心、能力を封じて素の格闘戦に持ち込み、多人数で戦う...だったか?それって戦闘において当たり前の有利条件じゃないか?何かコイツ個人の弱点はねぇのかよ...」
『無いです。そもそも、彼/彼女の戦闘スタイルが治癒・改メインな以上、即死以外では殺しづらい上に、生け捕りとなればさらに難易度は上がります。さらに戦闘中に発揮する読み合い及び分析能力も全盛期程では無いとはいえ一流。格闘戦に至っては単純な技量勝負では絶対勝てませんし、フィジカルが優っているのは絶対条件としても、一対一なら初見の技でも勘で防がれて対応されたら終わりです。それに何度も技を見せたら対応される...よって、今の柴田恵都を相手にするならば...初見の技で攻撃し、体格差と人数差で抑え、切り札を封じさせて疲弊させつつ倒す。これがベストでしょう?』
「....そうだな。擦り合わせはこんなもんで十分だろ?俺は帰る...暴食――お前は?」
長文詠唱に引いたのか、もう情報は十分と思ったのか。強欲は話題を終わらせ帰ろうとする。異なる世界の同僚同士ならば、相手の地雷を踏む前にさっさと会話を切り上げるのが吉。
相手の心の深い所を否定する事になれば、それはどんな人でも快い心境にはならないのだから。
『私もそろそろお暇させていただきましょう』
『お待ちください。最後に一つよろしいですか?』
『「何だ(ですか)?」』
『招来の呪文を聞き出す上で記憶を戻す時に絶対に保険を掛けてください。万が一があっても良いように...』
『君の権能は絶対では?』
『それでもです...記憶を取り戻した"彼"なんて相手にしたくありません』
声のトーンが変わる。軽口を叩くのではなく、重いトーンで本気で警告している意思が分かった。
「...仮の話だが、もしも戦う事になったらどうする?」
『生け捕りなんて考えずに、全力を持って殺しなさい』
震えながらイスは答える。
『記憶を取り戻したのなら、現世の人類において彼女は間違いなく最強に相応しいでしょう』
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魔力は全て吸った。持ち物も無い。それなのに...先程より目で追えない。
恐れていた事が起こってしまった。
『その動きは...まさか!?ローラン!権能を!後は...!分かってますね!?』
「外典――傲慢」
―――繧オ繧、繝溘Φ
『....?』
「『"堕解"!』」
『錬金!』
――ヒプーノーシス《ミ=ゴの催眠術》
羽ばたく音が鳴り響く、同時に物体が流動し棘のように蠢き、暴食のマントの隅から出た触手が柴田を狙った。
―[鉄拳・硬]
手を使って触手を弾く。同時に、懐に入り込んだ。
―[発勁《一インチパンチ》]
「カハッ!!」
この技は!まさかアンジェラが言っていた...東洋の内部破壊技!?
『(恐れていた事が起こりましたが、魔力は奪った!恐らく大した魔術は使えない!ならば短期決戦を目指しましょう!)』
『...ええ』
『"神速"..."猿飛び"』
少し悩んだような素振りを見せている柴田。読心は通じないが、恐らく記憶が地続きになっていないと考えるのが妥当だろう。
半開きになった目、開かない口を見るに完全な覚醒状態には見ないが...ステップを踏みながら格闘戦を仕掛けた所を見るに、完全に催眠が効いている訳ではなさそうだ。一応、イスは名乗るのが趣味なので内心冷や汗を掻きながら名乗りを行う。
『ああそういえば、自己紹介がまだでしたね...私は元徳旧栄神――傲慢の理を示す者――イスと申します』
「同じく元徳旧栄神――暴食の理を示す者――役職名で言えば、ショゴスと申します。以後、お見知りおきを」
恐らく、彼女の催眠は通じなかった。あるいは何らかの手段で無効化されたのかもしれない....どちらなのかは分からない。が、当然ながら何らかの対抗手段があるのだろう。
そしてそれは、彼女自身も理解していた。だからこそ堕解を行った。最高の判断では無いかもしれないが、致命的失敗が無い判断を、イスは下したのだ。
特に言葉をかわすことはなく、柴田は構える。
双方から笑みが消え、冷や汗が流れる。ついに本当の戦いが始まった。
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これは1490〜年頃にン・ガイの森周辺で書かれた。とある文献を翻訳したものを彼/彼女が加筆を加えたものだある。クトゥルフ神話興味ない人は読み飛ばし推奨。
|シュブ=ニグラス《千の仔を孕む森の黒山羊》:外なる神
その姿の詳細は原典ではほとんど語られていないが、無数の仔(spawn)を持つ存在として言及されている。この異名から、多数の子を生み出す存在として知られている。
作品中では主に名前や称号として言及されることが多く、具体的な行動や明確な姿の描写は少ない。また、人類に対する態度や目的についても明確な記述はほとんどなく、外なる神の一柱として崇拝される存在として扱われている。
⚠︎ちなみにこの世界では基本 外なる神>旧神=旧支配者(この場合はグレート・オールド・ワンと完全に同一として)>大いなるもの
アブホース:神話生物の源とされる存在 ウボ=サスラと関連がある神格?
巨大な粘液状の塊のような姿をしており、常に体表から無数の生物を生み出し続けている存在として描かれている。生み出された生物の多くは未完成で歪んだ姿をしており、その多くは誕生直後に死ぬか、アブホース自身に再び吸収される。
アブホースは地下の巨大な洞窟に存在しているとされ、そこから神話生物の祖となる存在を次々と生み出している。そのため、多くの怪物や異形の存在の源流とされることがある。
この存在が人類に対して特別な関心を持っているという描写はなく、基本的にはその場に留まりながら無数の生物を生み出し続ける存在として描かれている。
ちなみにアブホースの肉片を利用すればホムンクルスとかも作れたりする。
作者の独自解釈としては ウボ=サスラ>アブホース>ショゴスと言った感じ(実際ショゴスを作った古えのものという神話生物は、南極にいたウボ=サスラを元として作った説がある)




