舞踏会 ②
奥義、マジかよ。だが悪くはないな。きっと後隙も多いはず。
つうかそんな希望的観測を考えなくちゃやってらんない。クソッタレ!
横薙、そして急所を突く連撃。
考えに囚われず、反射で動け!そうしなくちゃこの肉体でこの速さの連撃を捌きき切れない。
恐らくこの女の戦闘スタイルを考えるに、狙いは恐らく急所。
連撃と考えるは、守るべきは顔面以外だと首、脇下、膝裏、腱。この4つ、死ぬ気で守る!
1発目
警戒していた首に来た。これなら予測していた分防げる。
2発目
次は横薙、想定外だ。が、何とか被害を肉までに抑える。
3発目
やはり膝裏に来た。これも何とか弾いた。
4発目
低い姿勢になった。予想通り、そのまま跳躍で回避。
『残念♡』
は?切り上げ?つまり今までのこいつの狙いは…フェイント?
咄嗟に見えざる刃を真後ろに捨て、後ろに仰け反って回避を行う。
「ッ!」
かわし切った、これで俺の勝ち...違う。これは、体勢を崩す為の技だ。
『フフッ』
息継ぎを全て消し去り、無呼吸で初めて辿り着ける境地、正に神速。
低くした姿勢を一瞬にして飛ぶように重心を上に、彼女の思うまま、蝶のように舞い、蜂のように突く。
それを体現したかのような一撃。
何でお前は人を殺す時に!そんな顔が出来んだよ!
今までの連撃はこの為のものか!
突き技!俺が初見殺しを狙ってるように!この女も初見の強みを理解している。
だが間合いが足りない。お前の体躯じゃ絶対に突けない!その為に仰け反ってまで下がったんだ!
『やっと、油断したわね♡』
何故だ?間合いが伸びた!?いや、錯覚するように振ったのか!
俺の判断を少しでも遅らせる為に!まずい、俺にアイツの刃がッ!
――死
「止めたぞ、イリス!」
一か八か、咄嗟の白刃取り。手が血だらけで肉も一部裂けたが、捉えたぞ!
が、それは同時に彼女達の力比べが行われる事を意味する。
やはりこの女、俺の抵抗を無視して無理やり突く気だ。
それも、念入りに上から体重を掛けて。
...分かってるよ、俺の肉体が貧弱な事くらい。こんな力比べ、しかもお前有利な状況で勝てる訳ねぇ。だからこそ、俺はこの一瞬に賭ける。
タイミングを見極め、手を離す...同時。
白羽取りが解かれ、刃が通る。同時...イリスの刃を横に避け、そのまま至近距離に至る。
曰く、その道の達人は絶対に自身の得物を離さないらしい。剣道や西洋の剣士、あるいはスキーなどの戦闘に関係無いスポーツまで、プロは絶対に得物を離さない。
この女は、絶対に自分の武器を離させない。
懐に滑り込ませるように接近した後、あえて俺は日本刀もどきから足を放した。
至近距離なら、即座に切りつける...というのは人体の構造上、かなり厳しい筈だ。予想通り、向こうの世界でもそんな便利な技は知られていなかったらしい。
その瞬間を見逃さず、俺は迷わずイリスの襟を掴んだ。
「掴みやすい服でありがとよ!」
相手の重心は今かなり上に寄ってる、更にこの身長差、体勢も悪い。行ける!
実践で多用される打撃は、今の俺には向いていない。
ならばこれで決める。かつての俺が、使っていた技術。
姿勢を低く、強すぎる力は不要。
武道:総合格闘技
これは、まだお前に見せてないだろ。
そのまま、真後ろに投げる。
肉が裂ける音が聞こえた。
さっき真後ろに置いた見えざる刃に、しっかり刺さった様だ。
腕を持ったまま、見えざる刃でトドメを刺しにかかるが、やっぱ動くよな、お前なら。
そのままの体勢で、背中を裂かれながらも、幼女《赤髪》に対して刃を振るう。
「詠唱省略...|見えざる刃」
俺の勝ちだ。イカれ女。
刃は再び風を切った。
『おめでとう、貴方の勝ちよ』
「ハァ...ハァ...」
落ち着け、息、ゆっくりで良い、吸え。
『驚いちゃった、最初の魔術の時からこれを考えてたの?』
両腕を切られた女が、少女《赤髪》に問いかける。
『狡いわよ、ずっとそこにあるなんて』
「...殺し合いの世界に、狡いもクソも無いだろ」
「作成時間を省く為に、周囲に生成しっぱなしにしていた...初手のアレを...使っただけだ。そもそも...一度展開した物を出し続ける事は出来ないとは言ってない。僅か一呼吸の差でお前は...負けたんだ」
『屁理屈ね、大方私に悟られたくなかったのでしょうけど』
お互い死にそうな呼吸をしながら、なんてことの無いように会話を続ける。
『結構早く終わっちゃったけど、貴方とヤレて良かったわ』
「...戦闘狂の相手はもうゴメンだ」
もう、意識が持たない。血を流し過ぎた。
「最後に一つ...いいか?」
『何?』
「人を殺すのって...気分が悪いよ...な。即人殺しなんて...普通は出来ない。俺達は...怪物だ」
自身の気持ちを、自分の感覚を、他人に共感してもらいたいのか。それとも、ただの独り言だったのか。変な呼吸になりながら、言葉を発す。
『やっぱり貴方...初々しい...わ』
少女《赤髪》が気絶した後、女の魂は溶けた。




