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転生探索者のすべき事  作者: 寿司
第一章

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35/35

価値

『初めに言っておくけど、君を気絶させたのは私だ。すまない』

「...そうか――まあ大方理由は静止だろ?なら良い」


そう言う柴田の姿には覇気が無く、年相応に弱々しい。


『疲れてるのかい?寝たら魔力は回復すると聞いたが』

「...心が疲れたよ」


小声で言うつもりが無かった言葉が自然に流れる。

どうやら、想像以上に目の前で人が自殺したのが堪えたらしい。

人の死を――理解してしまったらしい。


『...すまない。私が行ってれば』

「良いよ別に、多分だけど...お前も"コッチ側"だろ?」


表情が変わる。一瞬の思案の後に答えた。


『ああ――私も人が死んだ後に純粋には喜べないね』

「なら良い。戦うのが俺で良かったよ」

『....すまない』


溜め息を吐く、色々諦めた表情だ。


「気を取り直すが、あの後どうなった?」

『...特には、君起きるの早かったからね...あーーいや、収穫はあったよ?』

「何?」

『彼は星の智慧派の構成員である事、恐らく異世界人である事...と言っても推察はついてたみたいだね』

「...まあ大方...で?あの王女様?は?」

『あっちだけど...』


何だあれ...祈ってる?じゃなくて...


「違う。聞きたいのは彼女の身の上の話だ」

『……ああ!そっち?』


微妙な顔で視線を逸らす。


『彼女――いや、アイリス様は、隣国の王家の血を引くお方だ』

「対応、完全にミスったな」


ついカッとなってしまったが、あれはどう考えてもアウトだ。


『ああ、安心したまえ。そこはノアがうまく取り繕ってくれたそうだ』


少しだけ、柴田の口角が上がる。


「なら一旦良いか...んじゃあ、星の智慧派の構成員ってのは?」

『これは近衛からの又聞きなんだが、名乗りが“星の智慧派”だったらしい。誰も知らない組織でね――君には、何か心当たりでもあるのかい?』

「あるにはある...が、協力者?ってのが聖都にいるんだろ?なら全員居る時に共有する...他には?」

『無いけど...良いのかい?』

「...何がだ?」


えらく畏まった態度だ。新倉の瞳が揺らいでいる。


『もっと私...いや私達に言う事が...』

「ねぇよ...つうか気にすんなって言ってんだろが...まあ気にしてくれんだったら...ちょっと一人にしてくれ」

『...かまわないよ』

「十速」


瞬間移動のように、新倉の視界から柴田が消えた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


森の奥深くを流れるその川は、現実と幻想の境目にあるかのようだった。水面は淡く青白い光をたたえ、流れに合わせて星屑のような輝きが揺れている。岸辺には銀色の草が風にそよぎ、葉先から落ちる雫が、触れた瞬間に小さな光となって消えていく。耳を澄ませば、水音に混じって低く優しい旋律が聞こえ、この川そのものが長い時を生きる存在である事を語りかけてくる。


先程までの喧騒が嘘のようだ。


「...何やってんだろな」


人を殺した事...それ自体はちゃんと苦しんでる。だが同時に...感じる。


戦いに勝った高揚感、獣性を。読みを通した気持ちよさを...自身が傷つけられた苛立ちを...罪悪感を。

俺は殺すのが好きなのか?それとも戦うのが好きなのか?この体の持ち主やマハトを殺して...気持ち(気分が)悪いと思ったのは...一体どんな感情なんだ?

人を殺したから?その人の全てを踏み躙ったから?それとも...ただ罪悪感を感じただけ?


"普通"ならもっと...取り乱したりする筈なんだ...だって人を殺したんだぞ?


――待て


普通って何だ?

普通って...誰の普通だ?どの世界の普通なんだ?



分からない...何も...知らない...記憶も無い...体も無い...俺はこのまま...死にたくないって思いだけで...また...殺すのか?


俺は本当に...柴田恵都なのか?


『そりゃ、お嬢が憑依型だからだろうな...多分倫理観や死生観が混ざって自分でも訳分かんないだろ?』

「...一人にしてくれって言ったよな?」


気づけば、ノアが後ろに立っていた。


『何か思い悩んでそうだからな...様子見に来たって訳よ。かうんせりんぐって奴?』

「...」


目線を無視して、横に座る。


『まず俺ちゃんが言いたいのは、お嬢は良い奴って事と、考えすぎって事だ。前者は絶対お嬢が否定しそうだから、先に後者から言うぜ?』

「...ああ」


少し視線を下げて、ノアが語る。


『お嬢ってさ、相手を人間って考えてんだろ?そりゃ殺し合いの心構えとしちゃ最悪だ。そんな考えじゃすぐ死ぬ...』


やっぱり、俺は


『けど....同時に、お嬢は優しいって事だろ?だって常に、お嬢は相手の事、周りの事を思って...ほぼ初対面の人の為に、やりたくない人殺しをやってきた...違うか?』

『...』

「はぁ〜お嬢はお人好しすぎんだよ、戦うのに向かなすぎる」


その声色からは憐憫の気持ちが伝わる。可哀想、哀れ...詳しくは知らないが、この見た目も相まって、今の俺は酷く哀れ見えるのかもしれない。


『だが、悪いがこのままじゃ"駄目"だ。少なくとも、死にたくないならな...お嬢は死にたくないんだろ?』


心を読まれているという感覚は、ここまで不快になるものなのか。まるで、反論の余地を徹底的に無くして、自分の意見を押し通すような話し方...と、無意識的に彼女は感じていたのだろう。

ノアの眼が、彼女ですら分からない深層心理を読みっとっていなければ、こんな言葉は出てこない。


その僅かな違和感が、ノアの眼ですら読み取れない彼女の内のナニカを...刺激していた。


「ああ...お人好しも善人なんて言われるのはイラつくが...死にたくない。それが今の俺の"原動力"だ」

『だろうな。うっし、ならこっからは魔法使いとして話すぜ?』


サングラスを付け直す。


『お嬢、人間の辞め方って知ってるか?』


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