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転生探索者のすべき事  作者: 寿司
第一章

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34/35

歪曲

惨めだ



































俺は"弱い"......結局はマハトの時から何も変わっていなかった。結局俺は何も果たせず、ただ漠然と今生きているだけの屍だ。


『それはどうかな?』


気がつけば、周囲は白い空間で満たされていた。

その中心で蹲る俺に重たい気配が覆いかぶさる。

見上げると……翼を持つ怪物が、まるで獲物を観察するように柴田を見下ろしていた。


「...誰だ?」

『?? 分かってるでしょ......天使だよ、天使』


一瞬にして警戒の姿勢には移る。が、数コンマの思案の後、無意味だと理解した。


「...お前には聞きたい事が山程ある。答えてくれ、お前は一体」


                テンシガミエル


――精神力対抗《権能》――失敗


『改めて...私は天使、ただの天使だよ。勿論、貴方の親友でもあるけどね』


ああ、あの時のアイツか。

ゾーン状態になる時に神様などオカルト的存在が現れ力を与える...俺の友達ってそんなに凄いやつだったんだな。ならコイツに頼れば...


「なぁ、一つ相談なんだが...」

『何かな?』

「成長はした...強くもなってる...でも、それが何だ...周りで人が死んでる。結局俺に...生殺与奪の権は無い」

『だろうねー』

「....そうか」

『ごめんごめん、私が否定したのは"弱い"の所ね』

「あん?」

『そもそもの話、強くなろうとして無いでしょ...君風に言えば、強くあれていないって所』


何の話だ?


「...強くあれ?そんな事俺は言って――」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


(思ってるより自我強いね...)


「"そこ"」


人差し指で柴田のおでこを突く。同時に、精神を弄り無理やり精神を安定させる。


「君、色々考えすぎ。もっと頭空っぽにして戦った方が良いよ」


...まあ流石に"前"と比べるのは可哀想だけど。


『考えるな?俺がチート抜きで今まで死にきらなかったのは...考えて足掻いてきたからだろうが...!』

「だからさぁ――君戦う時まで余計なこと考えすぎだって、そんなじゃいつまで経っても繰り返すだけだよ?」


天使?らしく啓示を与えに来たかのように、アドバイスを行う天使。

だが結局、彼女が口に出す言葉は何処までも他人事。


「そもそもさぁ、何で君強くなりたいの?」

『...人を助けたい――』


一種の強迫観念のように、現実から目を背けるように言葉を紡ぐ。


「違うでしょ、"死にたくない"――それが今の君の原動力でしょ。そもそも相手がどういう目的で何をしたいかなんて分からないんだからさぁ、助けるクソも無くない?」


額に人差し指を指す力を強める。血がわずかに滴った。


『イッ!』

「そもそも何度も殺されかけてムカつかないの?普通なら殺意湧くと思うんだけど」

『...あ...え"?』


彼女の目が潤み、過呼吸になっている。大方、今まで|殺してきた人間の幻覚でも見ているのだろう《フラッシュバック》。


はぁ〜相変わらずだね。こういう所。


「本当、損な役回りだよね」


左手をこめかみに人差し指を捩じ込む。それでいて左手では少女を抱きしめた。


『ん"...お"?』


流石だね...君の精神力《POW》...いや、もしくはもっと別の呪いか...まっ今の君じゃ、流石に権能耐性くらいに収まってるけど...めんどくさいなこれ。


『私の前くらい、我慢しなくても良いんだよ?気張らなくても良いんだよ?』


「え?あ"あ"...う"?オ"マ"あぁああ" ッアアアア"!」


グチュグチュと、左耳から気色の悪い音が聞こえる。彼の精神力の都合魔術を使うのは面倒な為、今こうして脳を直接イジっている。


『俺?私?僕?我?朕?吾輩?某?麻呂?余?...だ...れ"..ぇ"?』


体が痙攣し、何かを拒絶している。青が青白くなり、動悸が揺れ、何故か額が嫌な汗に触れ、挙句の果てには何故か涙を流している。

































『怖い...死にたく...ない...!そもそも、どうしてこんな目に遭わなきゃいけないんだ!!勝手に異世界に連れてこられて!勝手に殺し合えって言われて!散々嫌な思いさせられて!!意味分かんない奴に殺されかけて!記憶を奪われて!!俺は何も分かんねぇよ!!!言われなきゃ分かんねぇよ!!転生者同士を殺し合わせる目的は!?イス達に狙われている原因は!?俺の"前世"に何があったんだよ!!!?俺は俺だ!!別に俺はお前達が知ってる柴田恵都じゃねぇ!!ただの一人の人間なんだよ!!!なのにぃぃぃ!!どうしてこんな酷い事しなくちゃいけないんだよぉぉ!!!』

「...可哀想に...で?次は?死にたくないんだよね?」

『――次?』


信じられないようなものを見る眼で天使を見つめる。だが、天使にとっては些細なことだ。


「だってそうでしょ?泣いてるだけじゃ何も変わらない。誰かが都合良く助けてくれる訳がないって、君《柴田恵都》が言ったんじゃないか」

『だから!俺はお前達の知ってる柴田恵都じゃないって――!』

「いや?君は柴田恵都だ。混ざっているが、君の魂は私が知ってる柴田恵都の魂そのものだ」

『違う!俺は...俺は...』

「何が違うんだい?」


左胸《心臓》に手を当てる。心臓の音を確かめるように、柴田の左胸を天使は強く握った。


「ああ、強さか。君は弱いもんね」


当たり前の事すぎて言うの忘れてたよ。


『強いのがそんなに...良いんだろうな』


あーまた飲み込もうとして...まあいっか。

さて、仕事仕事。


「では、改めて最後に啓示を与えます」


声色が変わる。本来の職務を果たすために、声を作った。


「弱さとは、心が未熟な証。けれど心が満ち、"探索者"としてのあなたが完成したとき……"貴方"は、自我を世界へ響かせる力を得るでしょう。」


――視界が静かに落ちていく。

薄れゆく意識の淵で、最後に焼きついたのは──絵画の一枚のように、凛として美しい、天使の姿だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――柔らかい。

最初にそう思った。

冷たい地面の感触を覚悟していたはずの頬は、なぜか温かく、ゆっくりと揺れている。


薄く目を開けると、光が滲んで形を成す。

視界の中心にあったのは、こちらを覗き込む女の顔だった。


艶のある髪が頬に触れそうなほど近く、呼吸に合わせて微かに揺れている。

彼女の太ももに頭を乗せている──膝枕だと理解するまでに、数秒かかった。


『...起きたかい?』


静かな声。

その指先が、まるで確かめるように額の汗を拭った。

状況は分からない。ただ一つ確かなのは――

冷たいはずの世界で、彼女の膝だけが不自然なほど温かいという事のみ。


「ノアは?後...皆」

『無事だよ。祝勝会してる』


立ち上がる――何だか夢をいていた気がするのは、気のせいだろうか。


『おはよう。柴田君』

「...おはよう」

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