勝利
林が燃えていた。木々は悲鳴を上げるように弾けて崩れ落ちる。
乾いた枝葉が火を吸い込むように燃え広がり、赤橙の光が風に煽られて揺れた。
焦げた樹皮の匂いと、油のように濃い煙が肺に刺さる。
――こんな環境で、あいつはまだ平然と立っている。
コイツの弱点?及び突破法はいくらか考えた。
多分、酸欠だ。
筋肉が常人の数十倍あるなら、そりゃあカロリーも酸素もアホみたいに必要になるだろう。
火の粉を浴びて笑ってやがる場合じゃない。呼吸ができなきゃ、どれだけ化け物じみた腕っぷしでも倒れる。
なぜ呼吸が増える?
答えは単純だ。筋肉は動くためにATP――要はエネルギーを燃やす。その燃料に酸素がいる。
つまりだ。
筋肉=酸素を食う怪物
筋肉量が跳ね上がれば、それだけ肺も心臓も血液も馬鹿みたいに働かにゃならない。
常人が100%なら、あいつは500%、いや3000%でも足りねぇかもしれない。
酸素消費量は5倍?10倍?知らねぇが、少なくとも常識の外側だ。
もし筋肉だけバカみたいにデカくて、心肺が普通なら――
すぐ息切れ、ダウン。
血中酸素枯渇、失神。
筋繊維は維持できずに自壊。
脳にも酸素が回らず、思考は泥の上を這うように鈍る。
筋肉だけ強い?
笑わせんな。そんな生き物、法則が許すわけねぇだろ。恐らくコイツは...
超筋肉 → 超循環器 → 超肺容量
この三つが揃って、やっと存在が成立する。
じゃなきゃ筋肉の塊なんて、ただの酸欠死予備軍だ。
一応新倉の品みたいにただのバグである事も考えた...が、多分そんな"世界観"じゃねぇ。それにこれはただの"人間共通"の弱点だ。
――で
燃え盛る林の中、煙すら意に介さないあの化け物を見ていて思う。
多分アイツは肺活量も常人の枠外だ。
この地獄みたいな空気の中で息一つ乱れねぇようにしか見えねぇ。
そんな奴をマトモに戦闘不能にしろって?冗談じゃねぇ。
ただ――弱点は見えた。酸欠《一酸化炭素中毒》だ。
呼吸を奪えば、どれだけ戦闘力が高かろうが倒れる。
問題は……アイツの異能
推察では二酸化炭素の冷却or操作、もしくは両方。つまり、空気中の一酸化炭素の割合が増えれば、実質的に周辺の二酸化炭素の割合が減る...しかも、恐らく周囲の温度が高ければ高い程アイツは体温上昇のリスクを負う筈。
加えて武器も奪った。純粋な格闘性能も体格差込みでも俺のが上、加えてノアもいる。
多少の隠し玉も想定に入れ、伏兵も想定しながらノアと連携して確実に潰す。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
十速は実質もう使えねぇ。制限時間も誤魔化し効かない。
が、多分先にくたばるのはあっちだ。つまり攻めざるおえないのはアチラ。
戦術も個人戦でもそうだが、戦闘で後手に回れるってのはメリットだ。
逆に言えば先手に回らざる負えないのはデメリット。
魔改造ナイフを構える。
肉の弾丸
――鮮血
筋肉の動きに合わせて最低限の動きで回避し、ただナイフを置く。
そうすれば相手の力で勝手に腕が、切れた。
格闘戦に移行する。片や左手にナイフ、右に拳銃。片や、素手。
男の打撃技を回避する。そもそも回避する場所があれば、受け流す必要なんて無い。
至近距離での滅多刺し。が、一発急所に当たった以外全て体を逸らされて回避される。
...チートを使って来ない。やっぱ周り燃やしたのが効いてるな。
仮に生成しても燃やしまくってチートと拮抗してもらうつもりだったが...嬉しい誤算だ。
『フッ!』
恐らくCQCのように、近距離制圧に特化した技。
どれも一撃でも当たれば終わりの打撃。
だが、それだけだ。
武術なんて|崇高な物でなくても、軌道を逸らせば良い。《体格差で組めない》
攻防戦の一瞬の隙を突き、姿勢を極限まで下げる。
三節火球連射魔法
『ッ!!!』
炎に焼かれ、刃に刺され、多人数にリンチされていると言うのに...まだコイツの眼は...死んでない。
何故だ?俺が...俺達がお前を殺しはしないってのは分かってるんだろ?
分からない。どれも推測の域を出ない。
俺はお前の価値観を知らない...知らないから、理解出来ない。
――知らない人なら知れば良い。理解出来れば分かり合えるかも知れない
狙うは勝利。完全な勝利。
『フッ』
拳では無く、手を開いている。掴みに来たか。
怪力射手の手が伸びる。柴田が取った行動は、回避。
――フェイント
狙いは右手、拳銃。
読んでたよ。あんなバカみたいに強い奴が、無策な訳ねぇもんな。
右手を使い上に投げる。決して威力が高い訳でも、高度が高い訳でも無い。
本当に少しの力で投げる。
当然、拳銃を取る為集中した男は想定外の事態に対処が遅れた。
だが、リカバリー出来る程の僅かな隙、それさえあれば、彼女にとっては十分。
使用するは左手、踏み込み。
出来るだけ反応しずらいように、拳銃の反対側に逸れて踏み込む。
凶刃が男の横腹に突き刺さった。
酸素はエネルギーを作る燃料。二酸化炭素はその燃えカス。燃料を吸って、燃えカスを吐いているだけ。
基本的にその酸素《燃料》を取り入れる作業は肺が担当する。
「は?」
なら何故、手ごとナイフが凍ってるのだろうか。
咄嗟に自己防衛を行う...が男はナイフを刺したまま走り出した。
肉の弾丸
狙いは...ノアか!?
「見えざ―――」
クソッ!間に合わねぇ!
二節強風局所発生魔法
弾丸を避けた。安堵感でノアの顔に安堵が宿る...が柴田の表情は蒼白。
哺乳類は肺で呼吸し、生を維持している。
肺胞という無数の小部屋を使い、酸素を取り込み、二酸化炭素を捨てる――
それが私たちの根幹となる生命維持機構だ。
しかし、実はこの体にはもう一つ、忘れ去られた呼吸の名残が残されている。
進化の過程でほとんど退化し、今では影のように潜む古い呼吸形態。
機能は微弱で、肺呼吸の前では取るに足らない……だが確かに存在する。
肺が生命のエンジンなら、もう一つのそれは、かつて必要だったはずの予備装置。
人類が水と陸の境を越えて歩き始めた頃の、遠い記憶の痕跡。
体に纏ったCO₂を利用して放つ、今世最大の奥義。
――絶対零度
全身凍結。この状況でも至近距離なら発動可能。
同時、男の両足を不可視の刃が切り裂いた。
「動くんじゃねぇ!!!」
左半身が凍結しかかった柴田が威嚇する。
先程の技を警戒し距離を取る、勿論見えざる刃を構えるのはやめない。
「...もう良いだろ.....投降してくれ」
懇願、正直これ以上争いたく無いと言う態度を全面に示す。が、男はそんな柴田の様子には目もくれない。
『あ......マジ...な...か...た』
「あん?もっとでかい声で言え!」
『や...ぱ』
小声でボソボソ言ってるせいか、聞こえない。
『アンタは...俺みたいになるなよ』
銃口をこめかみに構える。
「待て!!!」
距離を取る...その事自体には決して非は無い。
だがあくまでそれは、自身の身を護る事に関しては...の話
意味が分からない。自決する理由なんて...知らない。
少女と男の判断は、男の方が早かった。
少女が最後に見たのは、恨みが籠った瞳。しかし恨まれているのは彼女では無く、きっと別の人間。むしろ自分に、何かを託そうとしているようにも感じた。
――俺みたいになるな
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「...え....は?」
意味が分からない。何故?何故?なんで?
呆然としている。脳が現実を飲み込めていない。意味が分からない。
まだ、何も...話して無いじゃん......
気づけばへたり込んでしまった。
機械の駆動音と同時に新倉?達がやってくる。
『――!!――!!』
何だ?何言って...
『ノア!』
四節消火魔法
周辺の火の手が止まる。気づけばノアは自力で凍結を解除していた。
『その...先程は取り乱してしまって申し訳ありませんでした』
先程の貴族風の少女だ。年代的には柴田の肉体より少し年上に見える。
『彼らの仇を取っていただき、本当にありがとうございました』
「いや違」
『きっと彼らも、貴方をあの世で讃えています。改めて、感謝を』
異世界式の感謝の方式なのだろうか。少なくとも、彼女は本当に柴田に感謝している。
それに対する返答は
全身で体が震える。最初は小刻みだった筈なのに、徐々に震えが大きくなる。
感情を抑えられなくなったのか、脳が理解を追いついたのか。
――理解出来ない
これは、価値観の違いだ。
「オマエ.....オマエエエエエエ!!!!」
胸ぐらを掴もうとした瞬間、首筋に痛みが走った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
年齢出来事
0歳大国と地球外生命体との実験で生まれる。初のゲノム編集で超人を完成体として生を受ける。
7歳特殊部隊、『ラット』にて鍛えられ。銃器の扱いと軽いCQCを心得る。
12歳 試験的に実践向け訓練を実施、超耐久の他に射撃と潜伏の才能が評価される。
14歳人生初のゲリラ戦及び、戦争を少年兵として経験。同期の過半数を失ったが、特に何も感じなかった。
16歳戦争が終結、それにより正規軍に志願。射撃と潜入の才能が評価され、特殊部隊へ正式に配属される。
18歳特殊部隊にて紛争地帯で暗殺・救出・破壊工作に従事。
19歳初めての国外任務で仲間を失う。この出来事が彼に心を与えた。
20歳敵軍の捕虜となるが、脱走に成功。数か国を放浪しながら戦場の現実と人間の狂気を知る。
21歳放浪の旅の中、港町のとある女性を中心に交友を深める。
22歳 すっかり人の暖かさを知る。どうせ本国には戻れないし、ここで一生を終えても良いのでは...と思い始める。
22歳仲間と偶々再開、仲間とが言うに本国の危機だそう。様々な説得、介入の末、本国に向かう。
22歳向かう直前、女性に告白される。返答は帰ってから、必ず帰ると約束した。
26歳 後の最悪の戦いと言われた戦争を、同期を失いがらも五体満足で生き延び、帰還する。
26歳 正式に結婚。初めて白い服を着た。
27歳 子供も生まれ、父親として第二の人生を歩む。
34歳 妻子共に異世界へ召喚され、イスに敗北。イスの言いなりに
34歳 イスに妻子を理由に脅され、転生者狩り
俺の氷の心はもう溶けちまった。溶けた氷は戻らない。鉄の心にもなれなかった...それでも、アイツらの為なら餓鬼一人殺したよ...でも、皆もう死んだって?なら俺は今まで...何をやってきたんだよ




