調整
昼食を済ませた後、ノアに連れられて郊外へ向かう。目的は無論魔法だ。
『いや〜良かった良かった。朝倉ちゃんと仲直り出来たんだな。仲良さそうで良かったよ』
「別に喧嘩でもないだろ。アレは...それにお前らは良いが転生者どもと余り関係を近づけたくない」
『何でよ。俺ちゃん達は"パーティ"だろ?』
「最後に殺し合う奴らと真の意味で仲間になんてなれるのかよ」
見えざる刃の威力確認を行いつつ、会話を続ける。
『殺し合うかどうかなんてまだ分からないぜ?』
「...分からないこそだろ。何も分からないんだよこっちは...殺し合いをさせる理由はあっても、不自然な所なんていくらでもあるこの..儀式ってやつに振り回されているだけだ。それに、分かってんだぞ?」
不可視の刃が大岩と真っ二つに断ち切る。明らかに前よりも殺傷力が上がっていた。
...無詠唱で魔術が使えねぇ。やっぱあの時の超集中の感覚を思い出しながら鍛えるしかないな。
「お前だって、この儀式を利用して果たしたい目的があるって事を」
彼の視線は静かに彼女を捉えた。言葉の裏に、疑念と期待が混じる。
『そりゃそうだろ。このパーティの目的忘れたか?』
「違う、俺が言いたいのはこんな儀式をある程度知っていて、何も行動しなかった所だ。もう四回目なんだろ?あんなにも詳しく知ってそうなお前が、何か動けないは筈はない」
『それは無茶振りだぜお嬢。お嬢も知ってるんだろ?儀式は複数の国単位で行われているって事を、俺ちゃんっていう一個人が行動しても何の意味もない』
「だから傍観者でいるってか?お前絶対クソ強いだろ」
それは彼女らしくもない、曖昧な言葉だった。
普段なら、もっと直線的に、迷いなく相手を射抜くような物言いをするはずなのに。
『どうしてそう思ったんだ?別に隠してるつもりなんてなかったが、お嬢に魔法の良し悪しなんて威力くらいでしか分からないだろ?』
「魔法じゃねぇ、俺が強いって思ってんのはお前の加護ってやつと頭の回し方だ。このパーティってやつだって、合理的にお前の目的を果たす為の駒にすぎねぇんだろ?」
『面白い考えだなお嬢。どうしてそう考えた?』
「...言って何になる」
『安心しろって、悪い事にはしねぇよ』
...正直、今まで比べて根拠に欠ける。論理的じゃない事をさも真実みたいに語ってカマかけたが...あっちもそれは気づいてるだろうな。大方性格考えると理由は、面白そうだから...か?
『まず、お前はこの儀式を知った。で、何かを成すために利用しようと考えたのか――正直、俺にはよく分からない。
全く手掛かりがないわけじゃないが、確信もない。だが想像するに、お前は必ず損得を勘定したはずだ。
あの道化が言うことが本当なら、召喚は複数の国にまたがる大規模なものだ。
リスクはとてつもなく高い。だが裏を返せば、そんな危険を承知で踏み込むほどの目的があるからこそ、お前は今になって動いた──そう考えるのが自然だろ?』
口笛が鳴る。どうやらお気に召したみたいだ。
『良いねぇ〜中々悪くはないんじゃねぇ〜の?
憑依型ってのは、精神が肉体に引っ張られるって話だろ?その見た目で色々考えてんの、ちょっと意外だな。まあ、お嬢の考えを否定する気はねぇよ。
けどな――お嬢が本心でパーティの連中と仲良くなってほしいってのもマジなんだぜ?変に繕わずに、素直に仲良くしてみろよ』
「...その気持ちは嬉しいよ。けど俺はさ」
彼の言葉に、彼女は一瞬だけ表情を歪めた。ノアへと振り返る。夜の焚き火が彼女の輪郭を赤く縁取り、顔の陰影を深くした。
「死ぬなら知らない人のまま死んで欲しい。その方が罪悪感が湧かないから」
それは彼女の本心だった。ここ数日、自分の手で人を殺めてきた経験と向き合い、導き出した結論だ。情を深めれば、罪悪は増幅する。合理を保つためには、距離という麻酔が必要なのだ。
『...』
「先に言っとくが、これは俺の我儘だ。お前という勝ち馬の善性を信じて乗る上で、俺の超えて欲しくない一線だ...ごめん」
短く、しかし揺るがぬ口調でそう言ってから、彼女は核心を吐き出した。
「知らない者なら、心が深く傷つかなくて済む。合理的に判断できるから、情に流されずに命を断つこともできる。だが安心してくれ──俺はパーティの命を何より優先する。死ぬ間際まで命を賭けるし、必要なら血反吐を吐く覚悟もある。現地人とも、関係を築くつもりだし、そっちが望むなら深い交友だって拒まない。転生者に対しても最低限のやり取りはする。だが、もし殺し合いの可能性が僅かでもあるなら、俺は転生者と交友を深めない。それが、お前たちと組む上で俺が守る最低限の配慮だ」
『......それは無責任なんじゃないか?』
「...何?」
『それは、知る事を放棄して見捨てるって言う心の逃げだ。責任から逃げているだけだ』
「逃げ?逃げだと?...これは俺なりの合理的判断だ」
言葉に少し怒気を含めて言葉を紡ぐ。
『怒るな...図星だと思われるぜ?別に俺ちゃんはお嬢の考えを100否定してる訳じゃねぇよ。相手を知るってのも一種の合理性であって優しさでもあり、弔いなんだぜ?』
「んだそれ...俺は別に騎士道精神がある訳でも無ければ、非道な事も平気でする人間だ」
『結構あるだろってのは置いといて...これは俺ちゃん個人の意見な?』
声のトーンが徐々に落ち着いた物へと変わっていく。
『俺ちゃんは、見殺しにするにしても殺すにしても最低限そいつの生き様を知るべきだと思ってる。知るのはどんな方法でも良い。知ってから殺すのと、知らない奴のまま殺すのとじゃまるで違う。殺すなら、相手の信念を否定するなら、知ってから殺せ』
「....」
反論を口にしない。少なくとも"殺す責任"に関しては、ずっと彼女が悩んでいたものではあるからだ。
『まあ、俺ちゃんが言いたいのはな――殺すとき以外はフランクで、殺すときは合理的に。そう考えたほうが楽だし、人を無下にしないって事。どうしても殺すなら、最低限の責任を持って殺せよって言いたかったんだ。まあ、お嬢のメンタルが見てられなくてな……軽〜く覚えといてくれたら嬉しいわ。』
「......ああ、覚えとく」
『ならさっさと、魔法ちゃんを教えちまいますかぁ!』
二人とも、隠した腹の内はあっただろう。しかし結果として、異世界からの探索者と若き天才と言われた男は、お互い魂の深いところで、何かを交換するに至った。
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『んじゃ、お嬢。四大元素って知ってるか?』
「いや、ほぼ知らない」
『じゃあ、まずそこからだな。俺たちには、生まれつき“精霊”との相性ってもんがある』
「精霊って……サラマンダーとか?」
『そうそう。サラマンダーは火の精霊で、残りが水、風、土。でな、魔法を使うには、その精霊との相性がかなり大事になる。まあ、抜け道がまったくないわけじゃねぇけどな』
「なるほど。それで……俺の適性は?」
『ちょい待ち……あー、なるほどな』
ノアが少し顔をしかめた。何か良くない結果でも出たのだろうか。
「何だよその反応。何かあったのか?」
『いや、別に。良かったな。お前は“風”と“水”の適性がある』
「風と水……か。笑えねぇ偶然だな」
――その適性は、奇しくもマハトと同じ適性。
『そんで、こっちも重要。魔法ってのは“詠唱”と“イメージ”で発動し、加えて“信仰”をブレンドすれば、魔法は完成する。たとえば、こんなふうにな』
ノアが軽く息を整え、一節を紡ぐ。
『一節単詠唱――《アクア》』
次の瞬間、彼の手から水が流れ出した。勢いは強くないが、確かに魔力で水が生み出されている。
『これは一節。まあ初級魔法ってやつだ。で、次が二節……って感じで、四元素それぞれに五節まである。ちなみに俺ちゃんは――この大陸で十人しか使えない“五節詠唱”を、“二重詠唱”で使える。ちょっと凄い人なんだぜ?』
ノアが軽く指を鳴らした瞬間、水の勢いが一気に増した。何かをしたようには見えないのに、明らかに威力が跳ね上がっている。
「....凄いな」
『んじゃ、お嬢もやってみろ。“無詠唱魔法”難しかったら詠唱短縮からでもいいぜ?後最初に覚えるの風魔法で』
「え?」
『魔法ってのは応用だ。お嬢も二つの元素に適性があるんだろ? 慣れてきたら、水を海水にしたり、いろいろ試してみると良いんじゃね?』
――普通に無理




