幻魔
「錬金 」
自身の権能で姿を変える。その姿は今までのものとは違い、人と昆虫が融合したような異形の姿だった。
無茶苦茶な機動で動き回る。想像するは人間大の馬大頭、空中でホバリング、急停止、バック飛行、それでいて2万個の複眼による圧倒的超視力。
そんなものを権能で最適化しようものなら、当然化ける。
『ヒュッ』
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
蹴り飛ばされて山肌に激突する。|壊れちゃいけない所が潰れた《内臓が潰れた》。
「テン...ア...オグ」
治癒・改
肉体が再度再生する。
痛覚が麻痺し始めたな、まあいい。イスの弱点はとっくに見えてる。つまり殺せる。
高速で彼女の周囲を動き回る傲慢、機動が無茶無茶で、捉えるのは不可能だろう。
――見えざる刃
考えるよりも先に、体は動いた。
「一発て十分だ」
無詠唱、不可視、風を切る音すら置き去りにした一撃が、上空のイスを貫いた。
『ッ錬金!』
一発で当てられる事は予想外だったのか顔を歪めて権能を使う、肉体《機体》を再生したがそのまま地面に打ちつけられた。
十速+身体強化
地面に落下したイスに高速で接近する。
『錬金!!』
表情を歪めたまま、爆発物や銃火器を彼女に向けて撃つ。
カスの弱点1、動揺すると手グセ行動の肉体再生と爆発物と銃に頼りがち、人間と同じで焦ると視野が狭まる。つまり焦らせればこいつの|マルチタスク《戦闘中、権能での物質の生成》は乱れる。
「捧ぐ」
ゴミの弱点2、飛び道具は十速の適応外、ブラフを疑ったが自分で見えざる刃を撃って確信出来た。
「奥義」
クズの弱点3、駆け引きが経験不足で雑魚。スペックに頼りすぎてる。
『間違いですよ、それは』
折れた魔剣で、あの技を模倣しようとしている。歓喜に震えた...彼女《赤髪》の可能性に
しかし、"それ"への対処は知っている。赤髪に言った通り、彼女達の戦いを見ていたのだから。
「幻魔」
――刹那、空気が変わった
アホの弱点4、人を舐めている。本来なら俺達《人間》より絶対頭が良い筈なのに...
手の内を知られているからこそ、成立する駆け引きも存在する。
俺は幻魔の構えのまま、魔剣を投げた。
『クッ緊縛!』
ギリギリの所でイスは投擲を回避する事には成功する。しかし無茶な避け方をした為姿勢が乱れたが、それを補うように緊縛で相手の動きを止めた。
...お前があの時震えて闘志を燃やしていたのなら、もう一度だけ俺に力を貸してくれ
【仕方ねぇナ】
突如折れた魔剣が物理法則を無視して機動が変わる。意志を持っているかのように。
『ガッ!』
左腕に折れた魔剣が突き刺さる。姿勢が崩れ、仰向けに倒れかけた。当然視線が外れる。
クソの弱点5、こいつの権能は
『ン"グ"ッ!』
言葉に出さなきゃ何も出来ない。魔術と同じだ。
拾った爆発物を右手毎、イスの口に捩じ込んだ。
そのまま突き刺さった魔剣を足場として体格差をカバー、そのまま首を絞め、顎が開かないように全身で頭を固定する。
武道:総合格闘技 後三角絞め
頭のどっか弱点なら、頭を消し飛ばせば物理的に死ぬだろ。
鈍い音が鳴って二人が倒れる。衝撃で灰が舞った。綺麗に決まった締め技に、必死で抵抗して赤髪の顔面に打撃を加えているが焼け石に水だろう。
『ッ"ウ"!』
当然抵抗される。だが相手が使えるのは片腕、それに権能の発動は口を塞いで実質封じた。
「やっぱお前は
覚悟を決めてイスの耳に中指を捩じ込む。瞬間、自然と口を開いた。
神格じゃない」
――見えざる刃・乱
爆発の直後、散った肉片を不可視の刃が切り刻んだ。
同時、中指を初めとして彼女の肉体が抉れる。至近距離に密着していた為か、全身に爆発の影響を受けた。
...フリートヒルトは?
改めて周囲を確認する。しかし、確認出来たのは鍔だけだった。
折れる寸前だったのに、最後まで無理させて悪かったな。それでも、最後まで使われる選択が、お前らにとって少しでもマシな未来だったら嬉しいよ。
鍔を拾う。まだ終わりでは無い。マハトや牙竜の生存確認を、死にかけてても最悪治癒で助けられる。残りの魔力は...治癒一発分程度か、使いすぎたな。
そんな事を考えていれば、何故か心は捜索ではなく周囲の警戒をしろと危険信号を発している。何故?
「ウ"ァ」
関節全てが悲鳴を上げ、歩けない程全身が痙攣する。
無理に十速と身体強化を使った反動、これぐらいで済んだのが奇跡だな。
何故だ?何故違和感を感じる?いや、一つだけ感じる違和感はある。それは
牙竜は堕解で権能の効果が切れて催眠が解かれたのに、何故マハトからは何の音沙汰が無かった?もう少し何かリアクションがあってもいいはずだ...考えすぎであって欲しいが...
まあ、
良くねぇ
想定するは最悪。期待するは最良
『大丈夫でしたか?師匠?』
「殺しにくるのが案外遅いじゃねぇか」
ああ、最悪だ。
ブレードを横に避け拳を顔面に捩じ込んで殴り飛ばす。
『ひどいじゃないですか....弟子に対して』
即座に立ち上がって距離を取られる。
「..クソみたいな演技やめろ」
『なら名乗りましょうか?』
「いい、手早くやろう」
牙竜が相手の能力を見間違える可能性なんていくらでもあったよな。確定した情報と考えた俺のミスだ。
見えざる刃
不可視の刃と同時に距離を詰める。
『疲労、見えてますよ。もう休んでは?』
腕に向けた斬撃をあらかじめ権能で強化された腕で弾き飛ばした。
見えざる刃・乱
武道:極真空手 飛び後ろ蹴り
全方位から不可視の斬撃を生成しつつ、全身の力を込め飛び上がり水月に向けて蹴り込む。
しかし、戦闘において飛び上がりとは
『だからぁ、無理しないでください、よぉ!』
大きな隙を晒す事を意味する。
やっぱ威力が足りねぇか...!
受けきった後、足を掴まれそのまま地面に叩きつけられる。手足の力が入らなくなった。
『殺す気だったら私に勝てたのに、自分が一番では無かったのではないのですか?』
何でお前が俺の考えを語るんだよ。
『まあいいです。最後にしっかり現実を見てもらって、"次"に繋げてもらいましょうか』
ボロ雑巾のように頭を足で踏みつけられる。
「私たち元徳旧栄神は、“堕解”を行うことで通常時の能力は消失します。ですが、精神の乗っ取りという行為は、能力とは別に、私たちが本来持つ性質――いわば種族特性のようなものなのです」
...つまり、何が言いたいんだ?ただのイキリ自慢したかっただけか?
『口が減りませんね。なら言い方を変えましょう』
イスが足を再度上げる。一瞬痛みが和らいだ。
『お前の判断ミスだっつってるんですよ!何を思い上がってやがりますかぁ!?』
顔面を強く踏みつけられる。嫌な音が鳴った。
んな事知ら!?
『貴方は探索者なのでしょう!?何故私達《神話生物》に勝てると思い上がった!自惚れるなよ地球人風情が!一人逃げるなら訳無かったでしょうに!貴方は本能に従わずに良心に従った!それが敗因です!』
連続して強く踏みつけられる。気づけばうめき声すら発さなくなった。
『最後の一人まで殺し合わされている異世界で、他人を庇うバカが何処にいますか!?それを!
傲慢と言わずして何て言うのですか!?』
渾身の踵落としが背中に入った。
「お"...へ"...」
『生きてますね。良かったです。では、熱くなってしまいましたが本題に』
一泊置いてイスが語る。
『王都へ来なさい。詳しくはサバト跡地の領主本家にありますが、それを知ったなら貴方は絶対に来ざるおえなくなる』
返事は無い。
『...返答無し。流石に限界ですか。それでは王都で待ってますよ』
――立ち去ろうとするイス、何故か突如動きが止まった。
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「足手纏いでごめんなさい。無茶を言ってごめんなさい。色々ごめんなさい。僕は今から、貴方にひどい事をやらせます」
支配に抵抗し、しかも一時的に記憶共有もされてますね。ですが数分程度の一時的なもの。それもひどくお粗末、三十秒あれば余裕で肉体の主導権を取り戻せる。
「起きてください。師匠...いえ、探索者柴田恵都、起きてください」
無駄です。もう肉体の限界は超えている。彼女が彼女である事を考慮して念入りに痛めつけた。彼女は君の想いに答えられない。
ピクリと、柴田の体が痙攣する。
治癒・改
いくら何でも、貴方でもおかしいでしょうそれは...
『 勇者に、なるんだろ?』
立ち上がった。一歩一歩、確実にマハトに近づく。
「僕みたいなサバトの役立たずでも、最後に出来る事がある」
息を大きく吸うマハト、顔を青くしてそのまま大声で叫ぶ。
「イスの記憶を一部見れました。彼女の乗り移りは周囲に人が居ないと使えない。射程制限があります!僕毎でいい!サバトの皆の仇を取ってください!お願いします!」
『お前は、役立たずなんかじゃない』
か細く絞り出すような声、それでも声はマハトに届いた。
「貴方は探索者なのでしょう!このまま操られる方が嫌です。躊躇せずに終わらせてください!」
残された時間は有意義に使えましたか?
時間切れですよ。少年。
「酷いですよねぇ、貴方は子供は殺せないというのに」
意識が切り替わる。しかし体は動かないままだ。
話している間も一歩、また一歩彼女が進む。
少年が抵抗されているのか...体を取り返すのに最低十秒強かかりますね...ならばここは会話で時間を稼ぐ。
「甘い貴方は人を見捨てられない。今も彼を救う方法を考えている。違いますか!?」
とうとう至近距離まで近づくき、再度向かい合う。
『俺は、探索者だ』
マハトの首が不可視の刃に切られた。
「なっ!」
【...それでこそ、貴方《探索者》です】
『...クソが』
酷く冷酷な顔で、正気で殺す。約束も守らず、無力な少女が
――笑顔の首を断ち切った




