歯車
「...何ですって?」
思わずそう聞き返す。恐らく思い違いだろうが、前世でも知っている名称だ。もう聞きたくもない言葉の羅列に、心拍が早くなる感覚を覚える。
何故だ?どんな組織か、どんな存在か。記憶の限り覚えは無いのに、まるで前《前世》に聞いた事があるような名のように感じる。
『外なる神である1000の顔を持った邪神、かの邪神ニャルラトホテプを信仰するカルト宗教、星の智慧派。こう言えば...いや、どうやらお気に召したようだね』
アテが当たったとでも言いたげな男が、紙のように薄い笑みを浮かべる。
乗せられた感は強いが、乗るしかない。本当に乗るしか無いのか?...まだだ、もっと情報を集めてからでも...
「その護衛の依頼、引き受けますよ」
『そうか。ありがたい』
「ですが」
「星の智慧派。彼らについて知っている事を今直ぐに、全て教えていただきたいのです」
いや、対策は取っておきたい。どうせ碌でもなさそうだからなるべく関わりたくもないが、知っておいて損はないだろう。
数秒男は悩んだ素振りを見せた後、答えを出した。
『ふむ。少し長くなっても良いなら、構わないよ』
「ありがとうございます」
『星の智慧派。彼らは、邪神を崇拝している教徒達を主として構成されている。この大陸にも支部を構える、30年程前に突如現れた新興宗教組織さ』
「崇拝している神格は?」
元の世界の彼らは、邪神ニャルラトホテプを信仰していたはずだが、この世界でもそうとは限らない。
『すまないが...それは私にも分からない。ただ一つ確かなのは、彼らはこの世界にない、完全に新しい神を信仰している。それだけは確かだ』
「...根拠は?」
『呪文の違いだ。彼らはこの世界の魔法を使わない。4大神を信仰しなくては、魔法は使えないからだ。だが、彼らは魔術と名称付けた何かを使っていた。これは神々の信仰を元として魔法を使う原理が、彼らも同じであったら説明がつく』
「信仰する神々によって、得られる超常的力が違う、という仮説ですか。確かに同じ論理だったら説明がつきますね」
「ですが、その論理が保証されている訳ではないでしょう?」
納得は出来る。だが、あくまで仮説だ。
『そう、だね。確かに仮説だ。普通ならね』
「普通なら?」
思わずそう聞き返す。まるで普通じゃないかのような言い方だ。
『数年前、我が長兄が星の智慧派に討たれた。先程まで私が話した仮説は、彼の仮説だ。実際に戦った者の考えなら、かなり信憑性が高いと思うが?』
「....勇者、でしたっけ?」
勇者とは、転生者だけの称号じゃないのか?
『勇者の加護を得た者。というなら正解だ...ヤツはそんな器ではなかったが』
想いを追憶するように、目を少し細めながら、問いに答える。
「...ごめんなさい」
『いやいや謝らないでくれ。もう割り切っている事だよ』
『分かっている事は、勇者は星の智慧派の前に敗れた。悪いが私はこれ以外知らない。すまないね』
「いえ、貴重な情報に感謝を」
『そう言ってくれるとありがたい。それで、護衛の依頼。引き受けてくれるかい?』
子供である俺に護衛の依頼なんて正気の沙汰じゃない。しかし、男の目は酷く焦燥していたが、いたく正気だった。正気で狂っていた。
故に、俺は彼の判断を信じる。
「勿論、命を賭けて受けさせて頂きます。ですが、子供扱いしてくださった貴方の甘さを信じて一つ、ワガママを言ってよろしくて?」
『何でも言ってくれ、なるべく叶えるさ』
なら、お言葉に甘えさせて貰おう
「最後まで、生き残る事を諦めるつもりはありません。それだけは、お許しください」
信じたのなら、答えよう。
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「ハァハァ...まあ、こんなもんか?」
体感3km程走りきって、ようやく足も止める。並列思考様様だな。汗だくになった全身に鞭を打ち、治癒・改をかけつつ近場の岩に腰掛ける。
治癒・改は疲労は回復出来ないが、千切れた筋肉の修復を補助する事は出来る。効率的な筋トレだ。
「本当に、マハトと一度しっかり話せよ...」
あれは一度過去に何かあって、親子関係が悪くなっているやつだ。マハトも父親に関してあまり言及も無かったしな。
きっと理由があるんだろうが、パッと見幼女の俺に護衛を任せた理由を、後で聞かなくちゃな。
それに、マハトは俺に殺気を向けている。何でかは大体予想はつくが...それにしたって気がかりがある。
何でマハトはあんなに従順なんだ?あんなに殺意があるならもっと反抗してもいいはずだ。何故?何の意図で?
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...まあいいか。
あー疲れた。そろそろ夕飯の時間だし、水浴びがてら魚でも捕まえて帰るか。
比叡陰陽流 緊縛
全長30cm程の魚が動きを止める。
比叡陰陽流 緊縛。師範が言うには、金縛りのような技らしいが、強い奴に使っても大体意味は無かった。絶対に使い方を間違えているがこれで魚を拘束して、捕まえる。
捕まえたはいいが、まずいな。目から血が出た。おそらく結膜下出血か?治癒・改で治療したが、これは多用出来ないな。すぐ貧血になる。
自分の限界も知れたし、そろそろ日も落ちる。帰ろう。
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『意外と上達が早いですね』
「師匠!?」
いつのまにか、師匠が手元のタオルで額を拭きながら僕達の真後ろに佇んでいました。少し怖いです。
『本日はお疲れ様です。夕飯にするので、適当に雑談でもして待っててください』
『ダッテヨ。つってモ、何喋るカ』
「そうですよね...何か...」
少し悩む。そういえば、僕は彼らの事を何も知らない。昨日会ったばかりだ。
『あっ、そうダ。良いのがあったゾ』
「ん?何ですか?」
『オマエ、好きな子とかいル?』
「センスがおっさんすぎませんか??」
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何か楽しそうだなあっち、まあちゃっちゃと終わらせますか。
「チタタプチタタプチタタプ……」
トントンと肉を刻み、まとめてまた肉を刻む。
木の板の上のチタタプを一口サイズに丸め、汁の中に投入していく、ここ火にかけた野草も投入。ちなみにマハトに魔法で火を出してもらった。
『んん〜いい匂いでありますな』
いい感じだな、オハウもどきって所か?偶に無心で思考したい時にいいんだよな。これ
『こちらは何という料理なのですかな?お嬢さん』
気づいたら、そこには迷彩服を着た。ムキムキの巨漢の男が....ん?
「....誰ですか?貴方」




