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「リョウ!俺は一生お前についていくぜ!!」

村での生活は、リョウにとってかけがえのないものとなっていた。

リオンをはじめとする村人たちは温かく、異世界での不安を和らげてくれた。

しかし、彼はこの世界についてもっと知りたいと思うようになった。

( 俺はどうしてここにいるんだろう?あの金色の光は、一体何だったんだ?そして、この屋台のスキル、本当にこれだけなのか? )

自分がどうして来たのか、なぜこの世界なのか、そしてこの「スキルの種」の本当の力とは何なのか。


[鮎の塩焼き] が連日盛況なある日のこと、リョウは村の広場でいつものように屋台を広げていた。

その時、広場の入り口から、ひときわ大きな獣人が現れた。

全身を覆う筋肉質な体躯、額に生えた太い角、そしてどっしりとした足取り。

彼は牛の獣人だった。


( うわ、でかいな!まるで闘牛みたいだ……突進されたら終わりだ! )

「おお、リオン!久しぶりだな!お前も旅から戻ったのか?」

牛の獣人は、リオンに気づくと、大股で近づいてきた。

その声は、体の大きさに比例して深く、よく響く。

( すごい迫力だ…… )

「ガウル!ちょうどいいところに来たな。お前にも紹介したい男がいるんだ」

ガウルとリオンは旧知の仲のようだった。


( リオンの知り合いなのか……なんか、強そうな友達がいるんだな )

ガウルはリョウと、彼が立つ屋台に視線を向けた。

その大きな鼻をひくひくさせ、何かを嗅ぎ取るように空気を吸い込んだ。

「ん?この匂いは……何だ?魚を焼いているのか?」

ガウルは訝しげな表情で尋ねた。


リョウは [鮎の塩焼き] を差し出そうとしたが、牛の獣人のガウルを見てふと、彼の脳裏に別の料理のイメージが浮かんだ。

( 魚はあんまり、この人に合わないかな?もっと、ガツンとくるものがいいな! )

ガウルの堂々とした体格と、どこか大らかな雰囲気に合う、魚ではなくもっとボリュームのある、そして彼がきっと喜ぶようなものはないか。

( そうだ、 [お好み焼き] だ! )


小麦粉をベースに、たっぷりのキャベツと肉を混ぜ込み、鉄板で焼く。

ソースとマヨネーズ、青のりと紅生姜、そしてかつお節。

( これなら、鉄板で作れるし、材料もきっと引き出しに出てくるはずだ!いけるぞ! )

食べ応えがあり、見た目も賑やかで、何よりも美味しい!

これは、ガウルだけでなく力仕事の多い獣人たちにはたまらないはずだ。

リョウは心の中で強く願った。


( 屋台、 [お好み焼き] ! )


すると、再び屋台が淡い光の粒子に包まれ、その形を変えた。

[鮎の塩焼き] の炉は消え、大きな平らな鉄板がせり上がってきた。

「よし!鉄板になったぞ!やったー!」

暖簾は「 [お好み焼き] 」と変わっている。

( ちゃんと表示も変わるんだな。至れり尽くせりすぎるだろ、このスキル! )


引き出しからは、小麦粉、卵、大量のキャベツ、薄切りの豚バラ肉、桜エビ、そして [お好み焼き] ソース、マヨネーズ、青のり、かつお節、紅生姜が完璧に揃って現れた。

さらに、リョウの目に留まったのは、見慣れない袋に入ったごつごつとした長芋のような根菜、そしてもう一つ、琥珀色の液体が入ったボトルだった。

(これは……もしや、山芋と出汁か!?)


「完璧すぎるだろ!このスキル!俺、これなら商売マジでやっていけるかも!」

「こ、これはまた……!今度は一体何を作り出すんだ、リョウ?」

リオンも驚き、目を丸くしている。

「驚かせてごめんな、リオン。でも美味いもの作るから期待しててくれ!」

ガウルは、目の前の変化に目を見張り、口をあんぐりと開けていた。


( あんな巨体の人が、口開けっぱなしにするほど驚くなんて……これは期待大だ! )

( さぁ、作るぞ!フワッと濃厚!俺流 [お好み焼き] ! )

リョウは手際よくボウルを取り出し、材料の下ごしらえを始めた。

まず、丸ごとのキャベツを豪快に手に取り、専用の包丁で細かくザクザクと刻んでいく。

細かすぎず、粗すぎず、食感が残る絶妙な大きさに。


次に、薄切りの豚バラ肉をまな板に広げ、食べやすいように細かくカットする。

そして、例の長芋のような根菜を手に取った。

表面の薄い皮を包丁で剥いていくと、中からとろりとした白い身が現れる。

ぬるぬるとして掴みにくいが、リョウはスキルの効果?か慣れた手つきで皮を剥き終え、おろし器の上で丁寧にすりおろしていく。

滑りながらも、あっという間に真っ白なフワフワのペースト状になった。


ボウルに小麦粉を入れ、卵を割り入れ、琥珀色の出汁を少しずつ加えながら、粉っぽさがなくなるまで丁寧に混ぜ合わせる。

この出汁は、ほんのりと海の香りがする、風味豊かなものだった。

そこに、すりおろした山芋ペーストを投入し、さらに混ぜ込む。

「これでフワッフワで、さらに旨味がアップするはずだ!」

リョウは期待を込めて生地を混ぜた。


刻んだキャベツと豚バラ肉、そして色鮮やかな桜エビも加えて、全体が均一になるようにしっかりと混ぜ合わせる。

油を引いた熱々の鉄板に、この特製生地を豪快に流し込んだ。

ジュワァ、という音とともに、香ばしい匂いが辺り一面に広がる。

「うわ、やっぱりこの匂いは反則級だな!嗅覚テロだ!」

「おお、なんだこの匂いは……!食欲をそそる匂いだな!」

ガウルはたまらず、鉄板に顔を近づけ、鼻をひくひくさせている。


( よしよし、期待してくれてるみたいだぞ!さあ、美味しくな〜れ! )

リョウはヘラで丸く形を整え、表面が焼き固まったら一気にひっくり返す。

ジュワァ!と再び音を立て、裏面をじっくりと焼いていく。

やがて、こんがりと焼き色がついた [お好み焼き] に、濃厚な甘辛いソースをたっぷりと塗り、マヨネーズを網状にかけた。

「完璧な焼き加減だ!我ながら素晴らしい!」

「さあ、できたぞ!」

リョウは熱々の [お好み焼き] を皿に盛り付け、風味豊かな青のりとかつお節、そして鮮やかな紅生姜を散らした。

湯気を立てる [お好み焼き] は、見た目もボリューム満点で、ガウルを魅了するには十分だった。


リオンもリョウから [お好み焼き] を受け取ると、慎重に一口食べた。

瞬間、彼らの顔に驚きと喜びが混じった表情が浮かぶ。

「これは……! [焼きそば] とも、鮎とも違う、なんという奥行きのある味だ!ふわふわで、それでいて野菜の甘みと肉の旨味がぎっしり詰まっている!」

周囲の村人たちも、リオンの反応を見て、我先にと [お好み焼き] を求め始めた。

一口食べると、皆、一様に目を見開き、言葉にならない感嘆の声を上げる。

「もぐ……もぐ……!!」

ガウルは、その大きな手で [お好み焼き] の皿を受け取ると、大きく一口頬張った。


彼の瞳が、かつてないほど大きく見開かれた。

口いっぱいに広がる、ふわっとしながらも奥深い旨味を感じる生地。

その後に続く、シャキシャキとしたキャベツの食感と、豚肉の旨味。

そして、濃厚なソースとマヨネーズのコクが、すべての味を一つにまとめ上げる。

そして、次の瞬間、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受けた表情で、彼は叫んだ。

「う、う、うまいっっっ!!なんだこれはぁぁぁ!!こんな美味いものがこの世にあったのかぁぁぁ!!」

ガウルは、大粒の涙を流しながら、夢中で [お好み焼き] を頬張った。


その食べっぷりは、 [焼きそば] や [鮎の塩焼き] に熱狂した村人たちを遥かに凌駕していた。

「すごい食欲だ!よっぽど気に入ってくれたんだな!よかった、胃袋掴めたぞ!」

リオンも呆れるほどの勢いで、ガウルは [お好み焼き] を平らげた。

「リョウ!お前、天才か!!」

ガウルは、空になった皿を抱きしめるようにして、リョウに熱い視線を送った。


リョウは、ガウルの心からの感動に、思わず笑みがこぼれた。

「こんなに喜んでもらえるなんて……よかった、作って!」

ガウルの [お好み焼き] への熱狂ぶりを見たリョウは、彼の胃袋をさらに掴むべく、あるアイデアを思いついた。

( そんなに気に入ってもらえたなら、さらにガツンとくるやつをぶち込んでやるか!次はスペシャル!俺流広島焼きだ! )


リョウはガウルに声をかけた。

「ガウル、お前、まだ腹減ってるだろ?もっとすごいもん作ってやるよ!」

「な、なんだと!?そんなものがあるのか!?」

ガウルの目がキラリと輝く。


リョウは再び鉄板を熱し、広島焼きを思い浮かべるとスキルで新たな具材、モヤシと麺を引き出しから取り出した。

その麺は、 [焼きそば] の麺よりも細く、少しちぢれている。

「これを使えば、もっと食べ応えが出るはずだ!」

彼はまず、薄く生地を広げ、その上にたっぷりのキャベツとモヤシ、そして豚肉を炒めてのせる。


その横で [焼きそば] の麺とは違う、ちぢれ麺を炒めてから山のように上に乗せていく。

その麺の上に卵を割り広げ、その上にふたたびキャベツと豚肉、そして青ネギを散らす。

「これだ!この層のハーモニーがたまらないんだ!」

リョウは、二本のヘラを巧みに操り、すべての具材を丁寧にひっくり返していく。


ジュワワワァ!と、今までにないほどの香ばしい匂いが立ち込め、広場中の人々がその匂いに誘われて集まってくる。

焼き色がつき、香ばしくなったところで、特製のソースとマヨネーズをたっぷりとかける。

「さあ、ガウル!これが、お前へのスペシャル [お好み焼き] だ!」

リョウが差し出したのは、通常のそれよりもさらに高く積み重なった、まさに「スペシャル」な一品だった。

ガウルは、目の前に現れたその巨大な [お好み焼き] に、感嘆の声を上げた。


「こ、これは……!まるで丘のようだ!リョウ、お前、実は神様か!?」

ガウルは、もはや言葉を失い、無我夢中で [お好み焼き] を頬張り始めた。

ふっくらとした生地と、シャキシャキの野菜。

そして、香ばしく焼かれた麺が、すべての具材とソースの味を完璧に調和させている。


「うおおおおおおお!!麺が入ってさらに美〜味いぃぃ!!これはもう、俺の人生の最高傑作だぁぁぁ!!」

ガウルは、皿を抱きかかえるようにして、あっという間に完食した。

彼の心は、リョウの「食」によって完全に満たされた。


「リョウ!俺は一生お前についていくぜ!!」

ガウルの登場と、 [お好み焼き] 、そして広島焼きの衝撃は、村に新たな活気をもたらした。

リョウの「屋台」スキルは、彼の想像を超えた可能性を秘めているようだ。

彼の異世界での生活は、食を通じて人々を繋ぎ、新たな絆を育んでいく。

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