先生ごっこ
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
――何もすることがない。
いつも通りの夢の中。
俺は自分の席に肘をつき、ぼんやりと外を眺めていた。
遠くの空に浮かぶ雲を、ただ、なんとなく目で追っていた。
隣では、美香が机に両肘をつき、顎を両掌の上にのせて、ボーっとしてる。
ふたりとも会話もなく、ただ、時間が経っていく。
(……暇だな)
ふと、そんなことを思ったときだった。
カタン、と小さな音がして、ふと横を見ると、美香の姿がなかった。
教室の出入口の方を見ると、彼女がひらりとスカートを揺らしながら、廊下に出ていくのが見えた。
「……どこ行った?」
何も言わずにどこに行ったんだろうか――
そう思っていた矢先。
ガラッ。
美香が出ていった前の教室のドアが勢いよく開いた。
そしてそこに立っていたのは、なぜかチョークを片手に持ち、真面目な顔で立つ、美香だった。
伊達メガネをつけて、制服のリボンもきっちり結び直している。
髪もいつものサイドテールではなく、後ろで一つにまとめている。
背筋も伸びていて、いつものふわっとした雰囲気とはまるで別人だった。
美香は一歩、教室に足を踏み入れ、スッと手を上げる。
「おはようございまーす、生徒諸君」
その声は、思いのほかしっかりと教室に響いた。
そのまま、美香は迷いなく教壇へと歩いていく。
まるで、最初からそこに立つことが決まっていたかのように。
「……なにしてんの?」
思わず漏れた俺の声に、美香はくるりと振り返り、にこっと笑った。
「先生ごっこ」
「先生ごっこ……」
「そ。今から日本史やりまーす。あ、これからは“先生”と呼んでくれる?」
突然ふざけたことを言ってのけるもんだから、俺は苦笑しながら頭をかいた。
彼女は教壇にチョークをトンと置き、スカートの裾を軽く押さえながら、お辞儀をする。
「それではこれより、日本史の授業を始めます」
完全に巻き込まれてる。
美香はふふっと笑いながら、黒板に「明治維新」と書きつけると、くるっと振り返って言った。
「尚人くん、ノートを出しなさい。ちゃんと板書を写すように」
「……マジですか?」
「はい、大マジです」
軽く目を細めて、イタズラっぽく笑う。
俺は肩をすくめながら、仕方なくノートをイメージする。
完全に巻き込まれている。
でも、嫌じゃなかった。
こんな突発的に面白そうなことを思いつき、実行するのが美香なのだから。
そして、俺はきっと、そういうところに惹かれてしまったのだろう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
コメント・誤字脱字報告・改善点の指摘など、頂けると励みになります。
続きのお話はできるだけ、一週間以内に上げたいと思います。