真似事
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
体感三十分くらい経っただろうか。
美香は静かに机の上に積まれた漫画を手に取ってパラパラとめくっている。
俺は何をするでもなくぼんやりと空を見上げてた。
「ヒュー」
突然、美香が口笛を吹いた。
「何かあった?」
「うん。ここ、見て!ここ!」
ぐいっと漫画を差し出されて覗き込むと、男女のキャラがぎこちなく手をつなぎながら、照れている場面だった。
「……あー、あったなそんなシーン。で、なんでそんな興奮してるんだ?」
「いやー、やっと聡が漢見せたなって思って。で、この栞の反応も、鬼可愛いからさ」
「あー……」
聡はこの漫画の主人公で、栞はそのヒロインだ。
まったく素直じゃない二人の関係が、ようやく進みはじめた場面だった。
「……こういうの、なんかいいよね」
美香が少し笑って、漫画に視線を戻す。
――その横顔を見ていたら、なぜか言葉がこぼれていた。
「……やってみる?」
「え?」
「ほら、夢の中だし。現実じゃノーカンというか……なんというか……」
言いながら、自分でも何を言ってるんだと頭を抱えたくなる。
けど、美香はあっけらかんと笑って――
「やろう!」
そのまま、すっと手を差し出してきた。
「……いいのか?」
「うん。尚人が嫌じゃなければ」
ためらいがちに、そっとその手を取った。
細くて、やわらかくて、ほんのりあたたかい。
夢なのに、ちゃんと温度があって、それがなぜか胸の奥をじわりとさせる。
「……なんか、ちょっと恥ずかしいな」
そう言って俺が苦笑すると、美香もふっと笑った。
「うん、ちょっとだけ……ね」
言いながら、ほんの少しだけ頬を赤らめて視線を逸らす。
普段は元気溌剌、天真爛漫、という言葉がぴったりの彼女の、乙女チックな表情、仕草が珍しくて――
見てはいけないものを見てしまった気がして、俺も慌てて目をそらした。
この雰囲気も、美香の表情も、ほんの一瞬のぬくもりも。
――もし、これが現実だったら
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
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