温かい世界
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
気づけば、またあの教室だった。
いつも通り窓の外は淡くオレンジが差していて、時間の流れがゆるやかすぎて、何をするでもなくぼんやりしてしまう。
暇だった。
なので、ふと現実で読みかけだった漫画のことを考えた。
あの続きを読みたいな、となんとなく思っただけだったのに――
気がつくと、机の上にその漫画が置かれていた。
一、二、三……八巻。
今、出ている最新刊まで揃っている。
「……マジか」
呆れたように笑って、漫画を手に取り、ページをめくる。
夢の中とは思えないほど、紙の感触も、匂いも、本物みたいだった。
「なにそれ?」
声に振り向くと、いつの間にか美香が背後に立っていた。
制服姿のまま、俺の方に手を置き身を乗り出して、俺の手元を覗き込む。
甘い匂い、若干当たっている身体の柔らかい部分を意識してしまって、今に心臓が破裂しそうだが、必死にいつも通りを演じる。
「漫画。現実で読んでたやつ」
「へぇ……初めて見た。これ、人気なの?」
「まぁ、最近ちょっと話題になってる」
「ふぅん……」
興味深そうに表紙を見ていたかと思うと、唐突に美香は俺の前に腰を下ろして、そのまま漫画を手に取った。
「ちょ――勝手に読むなよ」
「いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃないし。ほら、こういうのって共有した方が楽しいよ」
そんな屁理屈を言いながら、美香は表紙をなでるようにして、1ページ目をめくった。
「……わ。絵、綺麗。これ、好きかも」
そう言って読み始めると、美香はすぐに物語に引き込まれていったらしく、しばらく無言になった。
ただ、表情はころころと変わっていく。
笑ったり、眉をひそめたり、ふっと息を漏らしたり。
そんな美香の様子を、俺は静かに見つめていた。
感情の細やかな動きが、そのまま顔に映るのが、なんだか愛おしかった。
夢の中でしか見られない、今、この瞬間。
ほんの少しだけ、世界が温かく感じられた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
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