教室じゃない場所へ
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
夢の中の教室で、美香と向かい合っている時間にも、だんだん慣れてきた。
でも、どんなに楽しくても、同じ風景ばかりじゃ、さすがに飽きてくる。
今日もまた同じ夕日の差し込む教室、俺と美香以外誰もいない学校。
何気なく窓の外を見ながら、ぽつりとつぶやいた。
「なあ……これ、他の場所とか行けたりしないのかな」
美香が顔を上げて、きょとんとした顔をする。
「他の場所?」
「ずっとこの教室だろ。夢の中だし、もっと景色変えられたら面白いなって思って」
「無理だよ。私もやってみたけど、全然無理だった」
「無理か……でも、一回、一回だけ試してみる」
試しに目を閉じて、頭の中にグラウンドを思い浮かべてみる。
半年ほどしか在籍していなかったが、思い出が詰まった場所だ。
約五メートルほどの大きさの、俺専用のステージから見る周りの景色。
キャッチャー、バッター、審判の顔。
後ろを守る味方の掛け声。
今でも鮮明に思い出せる。
もし、ご飯のときと同じように自分の想像力が大事だというのなら、一番可能性があると思った。
……でも、何も変わらない。
教室は教室のまま、静かにそこにあった。
「……無理か」
ため息まじりに言うと、美香が小さく笑った。
「……ちょっと、やってみよっか」
急に言い出した美香に、思わず聞き返す。
「え?」
「一緒に同じとこ、思い浮かべてみようよ。もしかしたら、行けるかもしれないよ?」
いたずらっぽく笑いながら、美香は机に肘をつき、こちらを覗き込んでくる。
その目は冗談めいているようで、どこか本気だった。
「やってみるか」
「うん。で、尚人はどこを思い浮かべたの?」
「グラウンド」
俺の言葉に、美香は少し目を丸くしてから、ふふっと小さく笑った。
「グラウンドかぁ……あんまりグラウンドに思い出はないけど、頑張ってみる」
どこか申し訳なさそうに笑う美香に、俺は首を振る。
「別に違うとこでも」
「大丈夫だよ。さぁ、やってみよ」
美香はきっぱりと言って、にこっと笑った。
「あぁ」
「……じゃあ、『せーの』でいくよ」
「あぁ」
「せーの」
二人でそろって目を閉じる。
想像するのは、投げたボールがキャッチャーミットに収まった時の快音、夕日に照らされた白線、そして──
ふっと風が吹いた。
目を開けると、そこはもう教室じゃなかった。
オレンジ色の空の下、見渡す限りのグラウンドが広がっていた。
「……成功、した?」
「……したっぽいな」
さっきまで窓越しにしか見えていなかったグラウンドに、今、俺たちは立っていた。
風が吹いて、どこからか土の匂いが鼻をくすぐる。
懐かしさが、胸いっぱいに広がった。
「本当に変わるんだね」
美香は、風に髪を揺らしながら笑った。
何故かはわからないけど、その笑顔がやけに印象に残った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
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