二度目の教室
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
次の日の夜。
また夢の中で、あの教室に戻っていた。
木の机の手触りや、チョークの匂いすらちゃんと再現されていて、夢だとわかっていても、どこかほっとする。
「やっほー!」
振り返ると、そこにはまた美香が笑って立っていた。
昨日と同じ笑顔。
変わらない声。
「……また会えたな」
つい、そのままの気持ちを口にすると、美香もふわっと笑った。
「うん、続けて会えるなんて……夢みたい――あ」
自分で言った言葉に気づいたのか、少し困ったように笑う。
「夢か」
「夢だろ」
二人で同時に突っ込んだ。
そのタイミングがぴたりと重なって、おかしくて思わず笑い声がこぼれる。
笑い合いながら、美香は前の席に机に座る。
体を百八十度回転させ、後ろの机……俺の方に体を向けてくる。
顔が近くて緊張するが、今日は少し慣れてきたのか、少しだけマシだった。
「……なあ、美香」
高校を卒業してから二年。
お互い別々の大学に進んで、それ以来ほとんど会っていない。
だからこそ、気になることがあった。
今日はそれが聞きたくて、少し楽しみでもあった。
「んー?」
「大学、楽しいか?」
「え、大学? ……まあ、そこそこ?」
「そうか。サークルとか入ったの?」
何気ない会話を装って、自然に近況を探ろうとする。
「うん。写真サークル」
「へぇ、どんな写真撮ってんの?」
「景色!一年の時は、夏に沖縄、冬に北海道に行ったんだ!」
「……いいな」
思わず本音がこぼれる。
美香と同じサークルで、一緒に景色を撮りに行ける人たちがうらやましかった。
たぶん、美香がいるだけで、その場所は明るくなる。
笑い声が増える。
けど、俺はその場にいない。
それを思うと少しだけ、心臓が握られるような感じがした。
「そっちは?サークルとかやってるの?」
「まぁな」
「何やってるの?」
「ソフトボール」
「いいね!ソフトボール!授業でしかやったことないけど、楽しいよね」
「……そうだな」
「?楽しくないの?」
反応が微妙だったのが気になったのか、美香が楽しいかどうか聞いてくる。
「いや、楽しいよ。野球やってたから、戦力になれてるし」
「あ、そっか。確かに野球部だったもんね」
「ああ」
「一年生の時はすごい人気だったもんね。『期待の新人』とか『甲子園へのラストピース』だとか、野球に興味なかった私にすら、そんな声が聞こえてきたもん」
「あの時はすごかったよな」
あの頃は本当に持ち上げられていた。
王様扱いなんて大げさだけど、似たような空気は確かにあった。
でも、一年の地区大会決勝前に肩を壊して、その後は一気に転落した。
仲間だと思っていた連中も、結局離れていった。
あのとき、どん底の自分に声をかけてくれたのは、美香だけだった。
それがどれだけ救いになったか、きっと本人は知らないだろうな。
「……」
「……あ……」
美香が、気まずそうに視線を落とした。
怪我のことを思い出させてしまったと、後悔しているのが見て取れる。
けれど、そんな風に気を使われるのも、どこかもどかしい。
「別に辞めたことは気にしてないから、美香も気にする必要ないから」
「え、そうなの?」
「ああ。ってか、ネタにしても全然大丈夫。もう、とうの昔に吹っ切れたから」
「流石にネタにはできないけど、尚人が気にしてないならよかったよ」
安心したように笑う美香を見て、こういう素直でみんなに気を使えるところが美香の魅力だな、と改めて思う。
「それよりさ、美香の大学での話聞かせてよ」
「え、私の?」
「ああ、気になるからさ。友達とか彼氏とかできた?」
「えー……それはー」
美香が少し首をかしげて、笑いながら目を細める。
その笑顔の奥に、どこか曇りのような影が差した気がして、胸がざわつく。
「ヒ・ミ・ツ!」
いたずらした子みたいな声色、表情で、はぐらかす美香。
「え?なんで?」
「なんでもー。それより、もっと楽しい話しようよ!」
笑顔で言いながら、話題を変えようとする美香。
あの頃と変わらない明るさに見えるのに、なぜか少しだけ遠く感じた。
「……そっか」
「そそ! 夢なんだから、楽しいことだけでいいの!」
夢の中でだけ会える彼女に、今のことをもっと知りたい。
でもその一歩を踏み出しても、彼女は一歩後退する。
これ以上、聞いても無駄だ。
もしかしたら、彼女に嫌われてしまうかもしれないと思い、また他愛のない会話を続けた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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