試着
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
デートの行き先は、高校時代に美香がよく友達と来ていたというショッピングモール。
俺も何度か来たことがある場所で、店の配置や匂いがなんとなく懐かしい。
ここなら、二人の記憶が自然に重なる。
そして何より、モールでふたりきりというシチュエーションは、少し照れくさいけど――『デート』っぽし。
だだっ広いフロアに人の気配はなく、歩いても響くのは足音と、時折聞こえる空調の音だけ。
俺たちはそんな空間で、いろんな店を見て回った。
今は服屋の試着室前。
俺が外で待っていて、美香は中で着替え中。
このふたつの状況が合わさると、つまり――そういうことだ。
「まだかー」
ちょっと間の抜けた声が店内に響いた瞬間、カーテンの向こうから声が返ってくる。
「えへへ、お待たせ~」
カーテンが少しだけ開いて、美香がそろそろと姿を現す。
「……お、おぉ」
目に飛び込んできたのは、落ち着いたベージュのワンピースに身を包んだ美香だった。
普段の制服姿とは違って、少しだけ大人びた印象。でも、どこか彼女らしさが残っていて――思わず息をのむ。
「……ど、どう?」
「……似合ってる。すげー似合ってる」
「ほんとに?」
「あぁ。嘘じゃねぇって」
「……よかった」
その言葉に安心したように、美香は頬を緩めて小さく笑い、くるりと一回転する。
ワンピースの裾がふわりと広がって、夢の中のように光を受ける。
「尚人もさ、なんか着てみたら?」
「え、俺も?」
「うん。ほら、どうせ夢なんだし。どんなのが似合うかなって、ちょっと興味あるかも」
そう言って、にこっといたずらっぽく笑う美香に押されるようにして、俺もジャケットとシャツを手に取った。
試着室に入り、服を着替える。
頭の中でこれを着た自分をイメージするだけで、着替えることもできるのだが、それはしなかった。
なんというか、夢でも現実っぽくありたいし。
鏡に映った自分の姿は、思ってたよりも悪くない。
普段はあまり気にしないけど、こうして見ると、ちょっとだけ「ちゃんとしてる自分」になった気がする。
カーテンを開けると、美香がすぐ目の前にいた。
「わ、すごい似合ってる!なんか、ちょっと……かっこいいかも」
「かもってなんだよ」
「ふふ、ちゃんと褒めてるってば」
美香の笑顔に、自然と頬がゆるむ。
服を着ているだけなのに、なんだか特別なことをしているような気分だった。
ふたりだけの、誰にも邪魔されない空間で――ただ、お互いを見て笑い合う。
そんな、現実ではなかなか味わえないような、静かで、あたたかい時間だった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
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