待ち合わせ
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
夢の中。
誰もいない駅前の広場に、俺はひとりで立っていた。
周囲の音はほとんどなく、風も車も人影すらない。
制服のジャケットの袖をそっと引っ張って整えながら、俺はゆっくりと息を吐いた。
「尚人!」
ぱたぱた、と靴音がして、俺の名前を呼ぶ声が響いた。
振り返ると、美香が制服姿で走ってきていた。
セーラーのスカーフがふわりと揺れ、少し息を切らしながらも、笑顔は晴れやかだった。
「ごめん、待った?」
「……いや、今来たとこ。......なぁ、美香」
「ん?」
「......やっぱり、恥ずかしくない?」
何が恥ずかしいか、それはこの一連のやり取り全てだ。
場所や風景を変えるには二人の力が必要なんだから、もう既に美香とは会っている。
それを無かったことにして、待ち合わせで美香が少し遅れてくるという設定で、待ち合わせを演じていた。
演技が苦手な俺は流石に耐えきれなかったから、ギブアップを込めた言葉を美香に投げつけたのだ。
「別に、恥ずかしくないけど。尚人は恥ずかしいの?」
「あぁ」
「ふーん。でも、今日は私の言うことに従って貰うよ」
「.......」
一体、どうしてこんなことになってしまったのか。
それは――
「ほらほら、続き続き!尚人、似合ってるね、制服。かっこいいよ」
「……サンキュー」
「……」
キラキラした目で俺を見る美香。
その目は、「私には言ってくれないの?」と、言葉にしなくても伝わるほどわかりやすかった。
「……美香も似合ってるよ、制服。かわいい」
「でしょ?へへへ」
照れたように、でもどこか嬉しそうに、美香は笑顔を浮かべ、その場でくるんと回って見せる。
「それじゃ、行こっか」
「あぁ」
そう。
こんなことになった原因は、昨日のババ抜きだ。
俺が制服を着させられるという罰ゲームの後、俺は美香に全敗。
つまりずっと罰ゲームは美香のターンだった。
最初の方は腕立てとか、三回回ってワンって言えだとか軽いものだったが、次第に要求は重くなっていき、最終的に『制服デート』というものをすることになってしまった。
……まぁ、俺としてはどんな形であれ、好きな人とデートができるなら願ったりかなったりなのだが。
「罰ゲームじゃなかったらなぁ」という感情が邪魔をして、あまり素直に喜べなかった。
そんなあまり乗り気ではない俺に構わず、美香はすっと手を差し出した。
戸惑いながらも、その手を取る。
小さいし、細い。
本気で握ったら折れそうと思えるような手を、優しく握る。
静まり返った駅前の道を、制服のままふたりで歩き出す。
まるで、時間が止まった世界に迷い込んだように。
だけど、こんな静けさが、俺は嫌じゃなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
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