ババ抜き
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
夢の中。
夕焼け色の光が窓から差し込んで、机の影が長く伸びていた。
そんな中、美香は突然トランプの束を取り出した。
「はいっ、今日はこれで遊びます」
「……トランプか。何するんだ?」
「ババ抜き!」
「ババ抜きて……二人で?」
「まぁまぁ、細かいことは気にしないの」
「俺、けっこう強いぞ?」
「ふふ、上等」
机の上にカードがシャッフルされ、きれいに配られていく。
手札を見て、最初のペアを静かに出し合う。
「じゃあ、私から引くね」
美香が俺のカードに手を伸ばす。
手札の中で微妙に飛び出している一枚を、じっと見つめた。
「これ……」
「やめとけ、それは怪しいぞ」
「……今ので確信した!」
ククッと笑って、美香はわざとそのカードを引いた。
――ジョーカーではなかった。
「ふー、セーフ」
「くそ」
「尚人、顔に出すぎ~」
「マジか……無意識すぎる……」
次は俺の番。
美香の手札の並びを見て、どれか一枚を選ぶ。
今は俺がジョーカーを持っているので、特に警戒する必要はないから、かなり気が楽だった。
そして次、美香が俺の手札を引く番。
手札を机の下に持って行き、軽くシャッフルしてから、今度は何も細工せずに差し出す。
俺は手札ではなく、美香の顔をじっと見て、表情は無表情を意識する。
俺があまりにも美香を見るからか、少し美香はそわそわしているように見えた。
少し落ち着きを失った美香は、何も駆け引きをせずに、一瞬で手札からカードを選んだ。
美香が選んだカード、それは――ジョーカーだった。
「……あっ」
「……」
一瞬の沈黙のあと、俺の口角が上がった。
美香の方を見ると、ムーッと頬を膨らませている。
「今、笑ったね?」
「いや、笑ってない」
「いや、笑った!」
「笑ってない笑ってない」
「いーや、絶対!笑った!」
美香が指を差して、ぐっと身を乗り出してくる。
ふわっとした甘い香りがして、ちょっとだけ心臓が跳ねた。
そんなことを繰り返しているうちに、手札は美香が一枚、俺が二枚にまで減っていた。
「……ふふ、いよいよだね」
「決戦のときだな」
美香が俺のカードに手をかける。
その指先は、ほんのわずかに震えていた。
多分、負けず嫌いな性格が出てきてる。
(……かわいいな)
そう思ったのは、たぶん顔に出てなかったはずだ。
「……これ!」
美香が一気に引いた。
――ジョーカー……ではなかった。
……美香の勝ちだ。
「あっ」
「やったぁぁぁ!」
思わず両手を突き上げて叫ぶ美香。
「おめでとう」
「負けた尚人には~、罰ゲーム!」
ふいに美香が悪戯っぽく、満面の笑みを浮かべて言った。
「そんなの聞いてねぇ!」
「罰ゲームは言ってないけど、お願いごとはOKって決まってたもん。……私の中で」
「ずる!」
「じゃあ、二回戦いこう!今度も私が勝つから」
「そうだな。罰ゲームは?」
一応、確認のつもり聞いておく。
罰ゲームの有無で、勝負への熱中度はかなり違ってくるし。
「もちろんありで!」
カードが散らばった机。
夕日が眩しい教室で、ニコッと笑う美香。
その笑顔は夕日より眩しかった。
笑ったり、不機嫌になったり、ひらすらに楽しそうにしている美香を見て――
こんな時間が、ずっと続いてほしいと思った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
コメント・誤字脱字報告・改善点の指摘など、頂けると励みになります。
続きのお話はできるだけ、一週間以内に上げたいと思います。