尚人の夢
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
「で、尚人の夢は?」
「俺?」
「うん。私の夢は言ったんだから、尚人も言うのが筋ってもんでしょ」
「筋って……ヤクザみてぇ」
「いいからいいから。で、尚人の夢?」
「……夢、か……」
ふいに視線が宙をさまよう。
美香の問いは何気ないようでいて、背中に銃を突き付けられた……は言い過ぎだとしても、急に現実に戻されるくらいの衝撃を受けた。
「うん。あるの?」
俺は少し黙ってから、ゆっくりと首を横に振った。
「正直、まだないんだよな。大学入る時も、俺の学力で入れるところをなんとなくで選んじゃったし。何がやりたいのか、まだ全然わからない」
言ってしまったあと、自分の言葉がどこか逃げみたいに聞こえて、ふと目をそらした。
けど、美香はふっと笑った。
「そっか。まぁ、しょうがないんじゃない」
「え、そんなあっさり?」
「うん。だって、もう夢が決まってる、私の方が特殊だと思うし。まだ、決まってない人もいると思うし」
「……そうか。……でも、焦りはあるよ」
「焦り?」
「あぁ。周りの奴らは次々に自分の夢に向かって努力している。美香も、自分の夢に向かって努力している。それに引き換え、俺はやりたいことがわからず、ずっと立ち止まったまま。それが取り残されてる気がして、焦る……というかなんというか……」
「……」
言いながら、自分でも思っていた以上に、その『立ち止まっている』という感覚が苦しかったことに気づく。
でも美香は、まっすぐな目で俺を見た。
「ま、尚人なら大丈夫でしょ!」
「え」
「うん。私だって、小学校、中学、高校、いろんなことが積み重なって、『なりたい』って思えたんだよ。尚人だって、これからだよ!まだたくさん時間は残ってるんだし!」
その声は軽くて、でもまっすぐで。
不思議とすっと胸に届いた。
「……ありがとな」
「ううん。私は、尚人が何を選んでも応援するから」
その笑顔が、胸の奥がふわりとあたたかくなる。
(……夢の中で話す将来のことなのに、不思議と現実よりもまっすぐに向き合えてしまうな)
そんなことを思ったら、自然と口元が緩んだ。
「なに、笑ってるの?」
「……いや、なんでもない」
「え~、何それ~?教えてよ」
身を乗り出してくる美香に、思わず目をそらす。
でも、顔が勝手に笑ってしまうのは止められなかった。
「だから、ほんとになんでもないって」
「ふーん……まぁ、いいけど」
ぷいっとそっぽを向くふりをしながらも、美香の口元は緩んでいた。
そんな顔を見て、俺もつられて笑ってしまう。
――理由なんて、きっとどうでもよかった。
こうして笑い合えるだけで、今は十分すぎるくらいだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
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