美香の夢
読みにくかったり、表現が分かりにくいところがあったりすると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。
黒板に並んだ丁寧な文字。
内容はシンプルだったけど、話の運び方も、問いかけのタイミングも、なんだか自然と頭に入ってくる感じがした。
「はい、じゃあ今日の授業はここまで。復習しておくようにー」
チョークをトントンと黒板の縁に軽く打ちつけて、美香は満足そうに笑った。
眼鏡を外して、ふぅっと息をつくその仕草まで、それらしく見えてしまうのがなんか悔しい。
「……なんか、思ったよりわかりやすかったな」
「でしょ?」
ふふん、と胸を張る美香。
さっきまでのおどけた雰囲気のままかと思いきや、その次の言葉は少しだけ声が落ち着いていた。
「私さ……先生になりたいって思ってるんだ」
どこか照れくさそうに、けれどしっかりと胸の内を打ち明けるように……その目は、ちゃんと俺を見ていた。
「小学校のときね、私、いじめられてたんだ」
「え……」
あまりに衝撃で漏れ出た声に構わず、美香は静かに話を続けた。
「いじめ……というよりかは無視かな。遊んでた女子のグループが突然、私のことを避けてきたの」
「……」
「一緒に遊んでたグループがクラスでは一軍でさ、わかるでしょ?一軍の人が無視したら、その他の人もその人を無視しなくちゃいけないって風習、というか雰囲気」
「あぁ」
「一軍が無視をし始めた私は当然ほかの人達にも無視されてさ、クラスでひとりぼっちになっちゃったんだ……」
「でも、担任の先生が気づいてくれて、間に入ってくれたの。私のこと、見てくれてたんだよね。怒ってくれて、守ってくれて……それがすごく、嬉しかったの」
少しだけ目を伏せたまま、美香は言葉を重ねる。
「それが、かっこよくて、うれしくて……だからかな……ああいうふうに、誰かの力になれたらって」
教室の空気が、ふっと柔らかくなるのを感じた。
「……そうか」
「……」
その小さな沈黙の中に、美香の迷いや覚悟、いろんな感情が詰まっている気がした。
冗談みたいに見せかけて、本当はずっと心の中で大切にしてきた夢なんだろう。
だからこそ、俺も言葉を選んだ。
「美香は、きっといい先生になるよ」
「ほんとに?」
顔を上げた美香に、俺はうなずく。
「ほんとに。教えるのうまいし、聞き上手だし。なにより、人の気持ちをちゃんと考えられる。……そういうの、大事だと思うから」
その一言に、美香は少しだけ、でも確かに嬉しそうに笑った。
夢の中で初めて知った、美香の夢。
その姿を、少し眩しいと思った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回も読んでいただけると幸いです。
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