タマランド
「ナナちゃん、今週の土曜日、ヒマ?」
コウキにそう聞かれ、あたしは即答してしまった。
「うん! ヒマ!」
そう答えてから、しまったと思い直し、慌てて訂正する。
「あっ……。ほんとうは、そんなヒマなわけじゃないけど……、いいよ? 開けるよ? ほんとうはしっかり忙しいんだけど、コウキのためだったら予定開けるから」
放課後の教室はみんなめいめいにお喋りしたりしていて、その中であたしとコウキは二人だけの世界にいた。
あたしの能書きなんか聞こえてないように、コウキは机を挟んだ向こうで楽しそうに笑った。
かっこいい……。恋してると実際の18倍ぐらいかっこよく見える。
デートの誘いかな? 2回目のデートだ。どこへ連れて行ってくれるんだろう。
期待にワクワクしていると、そのかわいい口を開いて、コウキが言った。
「いいところ見つけたんだ。一緒に行こうよ」
「いいところ? なんてとこ?」
「タマランドってところ」
「タマランド?」
聞いたこともなかった。
コウキは最初のデートでも知る人ぞ知るデートスポットに連れて行ってくれ、空を飛んでるみたいな夜景を見せてくれた。
今度もきっと、知る人ぞ知る素敵なところに違いない。
「かわいいタマちゃんがいっぱいいるんだ」
コウキの言葉に、あたしはかわいい猫ちゃんがいっぱいいる光景を思い浮かべた。猫カフェだろうか?
まぁ、どんなところでもいいんだ。違うタマちゃんかもしれないなとも思ったけど、それはそれでドキドキもする。
大切なのは、コウキがデートに誘ってくれたということなのだ。
コウキと二人きりなら、どんな場所でも楽しいに決まってる。
コウキと一緒なら、どんなタマちゃんでもかわいいに決まってる。
「うん、行こうよ。楽しみにしてるね」
詳しいことは何も聞かず、あたしが二つ返事でそう言うと、コウキはまた嬉しそうに笑ってくれた。
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「ここだよ。ここがタマランド」
時間は夜の2時。あたりはすっかりどころかどっぷり暗かった。
夜のデートはなんて大胆でムーディーなんだろう。
あたしはコウキが両腕を広げて指し示すそのムーディーな場所を眺めて、放心した。
なかなか年季の入った感じの、そこは墓場だった。
「ここって……まさか……」
あたしはそのムードに乗じてコウキの腕に抱きついた。
「ここにいるタマちゃんって……もしかして……」
「あっ、ほら! 出たよ、タマちゃんだ」
コウキが嬉しそうにそう言って、指をさす。
墓石の後ろからたくさんのヒトダマが出た。
ゆら〜りと姿を現すと、踊るように空中を舞いはじめる。
「ほうらほら!」
コウキの声が興奮に大きくなる。
「タマちゃんだ! ヒトダマちゃんがいっぱいだよ!」
「わっ……!」
あたしは思わず声をあげていた。
「かわいい!」
色んな色のタマちゃんがいた。
ふつうに青白いのやオレンジ色のから、ピンク色のも、グリーンのもいる。
すごく珍しそうな虹色のタマちゃんもいた。
秋の夜に花火が舞うように、色とりどりのタマちゃんがあたしたちのために舞ってくれる。
あたしはコウキの腕にしがみついて、うっとりとした笑顔で彼らの踊りを見つめてた。
コウキもあたしの腰を抱いて、瞳をタマちゃん色にして笑ってた。
あたしたち、今、ここにいる。
あたしたち、今、ここにいるんだよね!
「たた……、たまらんどー!」
あたしの口から自然にそんな言葉が飛び出した。
「たまらんどー!」
コウキも心をひとつにして、そう言ってくれた。
「たまらんどー!」
「たまらんどー!」
誰にも教えたりしない。したくない。
誰にもわかってもらえなくてもいい。わかってほしくない。
ここはあたしとコウキだけの恋の楽園、タマランドだ。