五話〜お勉強〜
リリィはギルドの扉を開ける.差し込む光に目を細めた.
太陽が近い為,常に眩しい.
女性の中心でひらひらと手を振るエアハルト.嫌味か.
エアハルトのそんな行動に気が付いた女性達は此方を見ては吃驚した様な顔をして次々と捌けて行った.
僕の横に般若の様な顔をしたリリィがいたからだ.
目元は見えず,口元だけなのにとんでもない怒りを感じる.此処までくると尊敬するものだ.怒りで人が捌けていくのだから.
「貴方ってお方は…!あれほど言いましたのに…!」
「誤解だって.俺は屋台の陰で串食ってじっとしていたんだぞ?」
「目立つのだからそんな透け透けな所で隠れられると思わないで下さいません?」
あぁ,また言い合いが始まった.
馬車から顔を出せば心地良い緑の香り,空気は澄んでいる…とは言えないが迷宮の様に詰まった気は感じない.
「お,入り込んだな.此処で大丈夫だ.」
「あッ,御話は終わっていません!」
「夜にな.」
ガタゴトと馬車に揺られ,僕はリリィの枕になっていた.
枕と言っても膝である.膝を貸せと言われた時は多少驚いたが,エアハルトには慣れろ.と言われてしまった.
多分無理だ.
ちなみに言い合いは続いていた.後半戦は夜に延長.延長戦が決定してしまった
馬車は止まり,エアハルトが降り,当たり前の様にリリィに手を,と言っていた.
「アリアの森なんて面倒な所選んだな…」
「変な所を見せるなと言い出したのは何方?」
だるそうに起き上がったリリィは出された手を取り降りれば,
貴方も,という様に此方に手招きをする.
そしてそのまま御者の方へ向かって行った.
エアハルトに差し出される手を取り,それなりに高かった馬車から降りる.
「此処はアリアの森,気を付けるのは植物全般.
奥地に洗脳系の植物魔獣が居るんだ.その逸れ物がたまに流れてくるからな.」
植物に気をつけて,と言われたのはそう言う事だったのか.
でも洗脳系で最低ランクの任務にあって良いのだろうか?
あまりよろしくない気もするが…
「ギルドで教えて貰いました.何処にでも居るって.そんなに危ないんですか?」
エアハルトは気不味そうに苦笑した
「…危なくは無い.強い危険性が無いから最低ランクでも入れるんだ.ただ,効果が厄介でな…紙に書いてなかったか?」
「アリアの森は見えましたけどその他は見えませんでした.選んだのはリリィさんです」
大きい溜息が聞こえた.
そんな事を話していればリリィが帰ってくる.
「あら,大きな溜息.私が居るとは言え幸せが逃げてしまいますよ?」
帰りの馬車は頼んでいません.と付け加えエアハルトに紙を渡していた.
どんどんエアハルトの顔が引き攣っていく.折角の美丈夫が台無しだ.
「この色ボケが!」
エアハルトの大きく芯が通った声が響き渡った.
「まず素質を確かめましょう.」
前を歩いていたリリィは止まった.
目の前には綺麗な球体の池が浮かんでいた.
「此処は水が澄んでいますね.痛みが引いた気がします.」
…頭に大きなタンコブを2つ装備したリリィは言う.
エアハルトからの贈り物だった.
ちなみに最初は1つだった.
ちょっと泣き掛けた彼女を見て,エアハルトは焦りながら謝っていたがそれを
揶揄った為,1個増えてしまった.
此処に着くまで聖魔法と呼ばれるものをかけていたのにまだ少し腫れている様に見える.それほどエアハルトの力が強いのだ.
「アリアの森は魔素,と呼ばれるものが最も高いのです.高ければ高い程魔法は発動しやすく,薄ければ薄い程失敗します.」
目の前の池に手を入れ,片手に少し掬っていた.
「御覧なさい,此方は普通の水.違いがわかりますか?」
腰のポーチから透明な容器に入った水を出す.
…そういう事か.
「何度見てもわからないな.」
僕の横から覗き込んでくる.この違いがわからない人もいるのか.
俺は相棒でも綺麗にしてるよ.と下がっていき,エアハルトは逆さまの木の枝に腰掛けた.
ここら辺は整備されているのか葉が少なく多少視界も広い.
「キラキラしているか,蠢いた様に見えるか.これで水魔法の素質が分かります.」
僕にはキラキラしている様に見えた