四話〜任務〜
「ライセンスをどうぞ!ライズさんは職が定まっていないようですね.無限の可能性を秘めていると言うことにもなります.」
掌ほどのカードを渡された.白い色で、かなり硬めの素材のようだ.
気になってしまい差し込む光に透かしてみたり角を触ってみたり軽く曲げたりしてしまう.
何処までやったら折れるのか.そもそも折れる様な強度なのか,
燃やしても大丈夫なのか.
水がついてしまったらどうなるのか.
気になる事は沢山あった.
「ふふッ.子供みたいですね.無くさない様に紐でも着けて差し上げましょうか?」
くすくすと揶揄う様にリリィは言った.思わずはしゃいでしまったが,此処はギルド,思い返すととても恥ずかしい行動をしてしまった.
顔が熱い.
「い,要りません…」
後でじっくり見よう.そっとライセンスをポケットへしまった.
それにしても,職が定まっていない…
僕はこれから何になるのだろう.
「ライセンスも貰った事だし,ギルドについて説明しなければな.リリィ,頼んだ.」
「仕方のないお方.借り1ですよ?」
此方へ,とリリィに腕を引かれ,騒つく人集りへと足を踏み入れた.
エアハルトさんを置いて.
「アリス嬢,ここ100年で失踪したチームを調べてくれないか.南の迷宮だ.」
「かしこまりました.」
人集りを抜けると紙が沢山貼ってあるボードがあった.紙を見る限り,依頼だろうか.
「此処では任務を受けられます.民の頼み事から魔獣退治.地図制作なんて物も有りますわ.」
討伐の受付はあっち,それ以外の雑務やお手伝いはこっち,と手で指し示し教えてくれる.
結構面倒見は良い様だ.昨日の面影は全くない…
ボードを暫く見つめていれば,リリィは一枚の紙を取った.
でかでかとアリアの森と書かれていたが,それ以外は見えなかった.
「ライセンスには六つ等級があります.貴方は今白ライセンス,最低です.1人で選ぶ時は簡単なものを選んでくださいね.
今回行くアリアの森は魔獣ほどではない獣が出ますしそれなりに広い.貴重な物も有りますので出だしにはピッタリです.」
…横の男の人達震えたけど本当に大丈夫ですかその森.
「僕,魔法の適正があるかどうかも知りたいです.」
「なら最適です.彼処は魔素が高いので.受けてきますので先に入り口へとお戻りくださいませ.」
そこからのリリィは行動が早く、あっという間に人集りを抜けていた.
「アリアの森に行くのか?」
先程震えていた男性に声を掛けられる.
少し顔色が悪かった.
「え,えぇ…危ない所なのですか?」
最低ランクの任務だ.難しいとは思えないのだが…
「高ランク区域に入らなければ問題はないさ.ただ,植物には注意しろよ…あれは何処にでもいる…」
植物…?寄生してくる様な物でもあるのだろうか?
何にせよ忠告は有難い.
「御忠告,有難う御座います.お名前を教えていただけませんか?」
「嗚呼,俺は遙って言うんだ.敬語はいらねえ.無事に帰ってきた時には一杯奢らせてくれ.」
爽やかに笑った.第一印象いい兄貴と言った感じだ.
「まぁ,『剣聖』様が着いているんだ.無事じゃない方が可笑しいな!」
バシバシと背中を叩く遙.微妙に痛い.エアハルトは更に体格が良いからもっと痛いだろう…
怒らせない様にしようと誓った.
「そうです…そうだね.あ,僕は,ッ」
「あら,談笑中でしたか?話を折って悪いのですが,エアもお待ちです.」
するり,と首元に腕が伸びてきた.何だか後頭部がとってもふかふかだが気にしないことにする.
「これはこれは聖女サマ.メンバーをお借りしてすみませんね.道中お気を付けて.」
「ふふ.お気遣い有難う御座います.この子はライズ.どうか仲良くしてあげてくださいね.」
遙の手を取れば,神の御加護を.と甲に口付けていた.
僕も遙も吃驚していると言うのに,リリィはそれを気にせず僕の腕を引きギルドの入り口へ向かっていた.
…こうして自己紹介のチャンスは奪われたのだった.