三話〜ギルド〜
「ライズ」になって1日が経った.
あの後は危ないから,と言う謎の理由で僕はベッドを独り占め.
リリィの事はなんとなく怖くて,聞けなかった.否…聞かなかった.
「チッ…筋肉ダルマ…身体が痛いじゃ有りませんか.押し潰すなんて.」
「お前が悪い.折角剣聖に入ってくれたんだ.入って早々変なところを見せて如何する.」
「あの時はまだ決まっていませんもの.」
当の本人は元気そうにエアハルトと言い合いをしているが.
今はギルドへ向かう最中.
編成届と言うものを出さなければ行けないらしい.
「見えてきたぞ,ライズ.あれがギルドだ.」
少し遠くに大きな建物が見えた.
あれが,ギルド…
「『剣聖』只今帰還した.ギルド長は居るだろうか.」
あれから数十分とせずギルドに着いた.
エアハルトが扉を開けた瞬間,中はざわついた.
「ギルド長は遠征へ向かっていると攻略前に聞いたでしょう.まだ帰っている訳が有りません.アリス様はいらっしゃる?」
奥の方からハイハーイ!と元気な声が聞こえ,カウンターから何かが飛び出してきたのが見えた.
あれは…妖精?
小さな羽をパタパタと羽ばたかせゆっくりと近づいて来る.
「早いお戻りですね!『剣聖』様!そちらの男性は?現地でサーチャーを雇ったのですか?」
サーチャー…罠の構造や迷宮の構造を知るのに長けた職だったか.
「ちょっと訳ありでな.後日ギルド長と話し合う席が欲しい.それと,編成届を.」
「あら!失礼致しました!彼を御迎えになるのですね.ライセンス取得も同時に失礼します.此方へ!」
小さな身体に袖口を引っ張られる.思ったより強い力だ.何処からそんなパワーが出ているのだろうか.ゆっくりではあるが,二人とも着いてきていた.
連れられるがままに奥の椅子へ座らせられれば,目の前に一枚の紙と万年筆が飛んできた.
「この紙は編成届.既存のチームに新しくメンバーが追加される時,二つ以上のチームが合同で任務を行う時に書くものです!『剣聖』様,契約内容は初期のものでよろしいですか?」
「大丈夫だ.」
契約?何も聞いていないのだが.
それを察したのだろうか.
「編成届,契約書とも言われますわ.大体のチームでしたら…そうね,報酬について,チーム内で不祥事が起こった際の処罰,個人で勝手に任務を放棄した時の処罰等,痴情のもつれが挙げられます.該当する出来事が起こった際,その者を捕える力が働きます.と,言っても仲間に位置がバレる程度ですね.」
それを聞いて少し身震いをした.どう足掻いても逃げられない,と言う事だろう.
悪さは,できない.するつもりも無いのだが.
「大丈夫.『剣聖』の契約はさほど難しいものでは有りません.紙を御覧なさい.」
机の上に置いてある編成届…契約書には
「敵に命乞いをしない…これだけですか?」
「仲間になるんだ.相手に命乞いをするくらいなら俺達を頼ってくれ.」
エアハルトは笑みを浮かべていた.
それほど,力に自信があるんだ.
「『剣聖』様の契約は沢山あるチームでも最低契約数なんですよ.編成届を合同任務以外で受け付けるのは初めてなんです…!問題が無ければ下にサインを…!」
眼をキラキラとさせ紙を見つめられる.
前に浮かぶ万年筆を手に取れば,ライズ,と署名する.
「アリスが受理させて頂きます!新生『剣聖』様の御活躍を心からお祈り致しますっ!」
編成届は光ったかと思えば破裂し,光の粒となって僕達に降り掛かった.
エアハルトとリリィを見れば,優しい笑みを浮かべていた.