閑話 姫を見つめる瞳
私は、レヴォナ王女様の側使いをしているミーナと申します。
レヴォナ様の世話をして、もう早十年となりますね。
つまり、彼女が七才の時に側仕えに就きました。
当時の彼女は小さくて、凄く可愛かったんですよ!!
私を追い掛けて
「ミーナ、まってまって〜」
と、小さな体躯でよたよたしながら近づいてくる姿は、庇護欲を駆り立てられて、とても愛くるしかったです。
以前は花段にある花を見て、天使のような笑みをしていましたから。
今はもう、赤い血を見て、笑みを浮かべるようになってしまいましたけどね…。
ええ、レヴォナ様がああなってしまったキッカケは、恐らくあの時でしょうね。
彼女が九才の時、狩りを覚えた日です。
その日、私は城内でお留守番でしたので詳しくは分かりませんが、帰ってきたレヴォナ様の雰囲気に違和感を覚えたのは確かでした。
最初は、命を奪った感覚で気が滅入ってしまったのかもしれないと思いましたが。
帰ってきた後の覗いた彼女の顔は天使の様でしたが、自分の頭の片隅で、悪魔の様だと不思議と感じました。
その後は、気が滅入っただけでは収まらないような奇行に奔るようになりました。
いえ、奇行とは言えないかもしれません。ただ、それを行う雰囲気が、それだけ異常と呼べる感じだったからです。
あの日からレヴォナ様は魔物の事に興味を持つようになりました。
城中の本を読み漁ったり、魔物を捕りに直接狩りに出掛けられたり。
一回だけ突然、
「人間の死体を持ってきて。」
と、命令された時は、まだ幼いのにとうとう頭がイカれてしまったのだと。
その日の夜、私は枕に顔を埋めて、静かに涙を零しました。
それからおよそ五年程経ち、彼女も落ち着きを取り戻してきたと思った頃。
再びレヴォナ様は狂気に取り憑かれました。
原因は、研究目的で運ばれていた吸血鬼の死体の様でした。
あの時は偶然居合わせる事が出来たので、その場の事を鮮明に思い起こせます。
当時、研究所で吸血鬼の死体が来たときいて、レヴォナ様は取り掛かっていた勉強を置いて、真っ先に城を飛び出しました。
実際の死体を見ると、年頃の少女のような輝いた瞳をしていました。
まあ、見ていた物が物でしたので、私は悍ましいと思いましたけどね。
その後レヴォナ様は、直ぐ様責任者の所長と話をつけました。
どうやら吸血鬼の肉片と、血液が欲しいようです。
とはいえ、所長も流石に直ぐには首を振りません。
しかし、彼女の熱意と権力を笠に、無理矢理説得をしました。
レヴォナ様は貰った吸血鬼の一部を胸に抱きしめ、ニコニコ笑みを浮かべ城に帰りました。
戻った後は、重さを測る等をして色々調べたりし。
大体終わったのか、何か考えた後。
突然、吸血鬼の肉や血を口に含みました。
モキュモキュモキュ ゴクッ
その時の彼女は、天国にいるような、とても幸せな表情を浮かべていました。
その後のレヴォナ様は、魔物への熱意が吸血鬼へと先鋭化しました。
暫くすると、吸血鬼を人類種に組み込む等の政策をし、「賢皇女等と言われましたが、私から見ると、自分の欲望で暴走しているように見えるんですよね。
最近では小さな吸血鬼の子供を拐ってきて、あの拷問部屋の様な場所に連れていきましたが、中でどうしているんでしょうね。
別にあの中を見たいとは思いませんが、少女の無事でも祈りましょうか。
偶に、部屋から悲鳴が微かに響いていましたから、無駄になっていたかもしれませんがね。
そういえば、何故私は今日まで彼女に付き添っているんですかね?。
シンプルに美貌やお金もあるでしょうが、何処か私自身の知らない惹かれる所があるのかもしれません。
それが、悪のカリスマ等と呼ばれる物でない事を願うばかりです。