血液のワイン
蝋燭の光に照らされて、二つの少女の影が浮かびます。
一つは、王女の様にきらびやかなドレスに、それとは少し合わない汚れたエプロンをしていました。
もう一つは、十字架に縛り付けられ、厳重に拘束されています。
拘束された少女の首筋には、不自然にストローが突き刺さり、そこからダラダラと血液が零れ落ちていく。
そんな姿を、エプロンをしたレヴォナは恍惚とした表情で眺めていました。
いや〜。本来、人の血を吸う吸血鬼から血を抜くなんて、毎度思いますけど、こんな皮肉な事はありませんね。
まずは、ストローの口に瓶を置いて、最初の血を詰めておかないと。
再生するので、生きている限りはほぼ無限に取れると言っていいかもしれませんが、弱っていくのかどんどん薄くなるんですよね。
残念なものです。
取り敢えず、仕事終わりの一杯ということで少し飲んでみましょうか。
ワイングラスに注いでっと。
−ゴクゴク
「うん。いつものように、色々混ざりあったような複雑な味。」
ただ、美味しいんだけど少し薄いかな?。
確かこの子は普通の村で拐ってきたんだっけ。
まあ、これはこれでスッキリして良いですね!。
ああ、そうだ。彼女に付けた目隠しを、そろそろ外しても良いかもしれませんね。
吸血鬼には、偶に妙な魔眼を持っている事があるので、向かせる方向に注意して、と。
ついでに、誰も来ないんだから猿轡も外しましょう。
あっ、やっぱり瞳に涙が浮かんでいますね。
これも小瓶に溜めておかないと。
涙はあんまり採れませんが、透明で綺麗だし、血液程ではないけど栄養があるんですよね。
栄養というか魔力ですけど。
でも、やっぱり量が採れませんね。
レモンでもぶっかけましょうか、でも不純物が入るのが嫌なんですよね…。
目を潰したら、血が入っちゃうし…。
他の部位なら、基本的に血が入ってた方が良いんですけど。
涙は、透明が理由で価値があるから難しいんですよね…。
そんな事を考えていると。
「…んで。」
「はい?。」
「何で、こんな酷い事するの…?」
彼女は、自分の心の内が、思わず漏れ出てしまったかのように呟いていました。
そうですねぇ。まあ一言で言うなら…
「吸血鬼が美味しいからですね。」
「えっ…、それだけ?」
「はい。」
そう、唯それだけといえば、それだけなのだ。
まあ、私にとってそれが一番大事なんですけどね。
他に強いて言うなら…
「後は、貴方達の姿は、確かに外見だけなら人にそっくりですけど。決定的に人ではない。それがここまでやれる理由ですかね。」
別に、私には罪悪感が無いわけでは無いんですよ。
ただ、人ではないと思うと、不思議とそう云うのが吹っ飛ぶだけで。
「……」
彼女は、黙ってしまいました。
と、いつの間にかに時間が経っていました。
流石に、遅い時間迄起きている訳にはいけませんからね。
目隠しと猿轡をまた付けてっと。
「では、そろそろ戻ります。朝食と夕食は出して上げますから、心配しないでくださいね。では、また。」
そう言い、重い扉を閉めました。