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新たな日々

 ――ドッ。砂ぼこりを巻いて、鈍い音と共に少年が倒れこんでいた。名前は知らないし、知りたくもない。あぁ。上級生だったか。その割には細くて小さいなとぼんやりと考えながら、私は立っていた。若干拳が痛むのはまぁ仕方ない。手をぶらぶらと振りながら溜息一つ。じろりと辺りを見渡せば同じような顔――私にはそう見えた――の少年たちの肩が揺れる。


 昼下がり。魔法学校の中庭で何をしているんだろう。私。


 溜息一つ。


 大体いつらが悪いのだと頭数を一つ、二つと数える。まぁ数えるほどでも無いが四人だ。


「つ――。お、お前が悪いんだ。色なしの癖に、ここに入学するなんてお門違いなんだよ」


 一人がギリリと歯ぎしりして叫ぶように言った。


 うん。そうだよね。そう言われるとぐうの音も出ないし、私だってそう思う。魔法が使える者が通うから魔法学校なのであって魔力すらない私がここで何を学べというのだろうか。教師達も困惑してたな。というか二度見してきた。だよね。


 居たたまれないわ。


 話は一年前。家出騒動――私はそんなつもりは無かった――まで戻るのだけれど。


 結局私は説教コースとねちねち一日コースの複合をくらった。酷いことにならないと言ったのは誰だったか。と言いたかったが、一緒に罰を受けてくれたので何も言えなかった。……涙目の私の横で、ブライトは終始胡散臭い笑顔だったけど。ちなみに双子とブライトはあまり仲が良くない。理由は知らないけれど、双子が嫌っている感じだ。理由は『アイツが僕らの大切なものを取るから』だそうだ。何したんだ。ブライト。早く返した方がいい。と思った。


 そんな一日を過ごしたのだけれど、二日目の朝。珍しく両親が来て理由を尋ねられた。優しい。双子とは大違いのお父様とお母様だ。嘘を吐くわけにはいけないと洗いざらい吐いたが……信じてもらえなかった。デスヨネ。


おおらかに笑われて『それほどあの子に会いたかったのね』と慰められた。まぁ大まかに言えばそうなのかも知れない。うん。そうしよう。もう面倒だから。


 それにその証拠となるものは私の部屋から跡形も無く消え去っていたのだし。どこ行ったんだろうか。


 ――と言うことで。両親はある結論に至ったらしい。


 ブライトに学校を変えろというのは無理だ。これは国が決めたことで、絶対事項。なら、通わせてしまえばいいじゃないと。


 どんな暴論だろうか。それにと私は少し頭を抱えていた。やることが極端すぎでは無いだろうか。


 今まで家から一歩も出す事を許さず、真綿に閉じ込める様に守ってきた娘をあっさり外に出すなんて。しかも魔法学校にだ。声にならない声を上げたのを覚えている。何がどうなって通うことが出来るのか未だ分からないが、双子によると『世の中金だよね』といい笑顔で言われた。ああ。うん。としか言いようがない。世の中の汚い部分を見た気がする。


 ともかく、理由として『だって。思った以上にレーネちゃん強い子だったから』は母親談である。どういう意味だろうか。ごれでも怖かったのだけれど。泣いたのですがそれは。


 『大丈夫。護衛は付けるからね』は父親談。初めからそうしろと思ったことは内緒だ。私だって皆と遊び――あぁ。色なしだったわ。と乾いた笑いが漏れる。


 そこから一年。徹底的に鍛え上げられ――護衛とは何だったか――ここに至る。世の中頼れないので仕方ない。とは言っても。所詮付け焼き刃が通じるはずが無いと思ってたんだけど。


 魔法に頼りきりのここの生徒――なぜか育ちがいいものが多い――には通じるようだ。私には魔法自体が効かないから。


 ただし。一部のそう――魔法剣士などを目指すものには効かないだろう。そっちが来られたら非常に困るが今のところ、そう言った意味で絡んでくるものは居なかった。


「それについてはなんか申し訳ないとは思うけど――でも、実力行使で絡んでくるのは違うと思う」


 髪を引っ張るのが流行りか何なのか知らないけど、強引に引っ張られ連れてこられた。止まったところで殴り倒してしまったのだけど。助け――は呼んだところで意味はないので特に叫んでもいない。それに、ブライトに見つかるのは避けたかった。


 未だにやりすぎるからね。私の所為で死人を出すのはちょっと勘弁してほしい。幼馴染が犯罪者。嫌だ――いずれなるから犯罪者になっていいとは思わない。


 いや、なるなし。


 少し形が崩れた白い髪を撫でつけてみる。引っ張られすぎて、そのうち禿げるかも知れない。短く切ろうかとも考えるが長い髪がいいとブライトや双子が言うのでこのままだ。


「調子に――」


 伸びてきた手をぱちんと跳ね返し、後ろから羽交い絞めにしようと伸ばされた腕を潜り抜ける。とりあえず倒しておきなさい。と先生(おとうさま)の声が聞こえた気がしてバランスを崩した一人を裏拳で殴りつけ、もう一人には蹴り上げる様にして懐に足を入れた。


 ちらりともう一人に目を向ければ戦意喪失らしい。助かる。持久力はないので。そして相変わらず拳は痛い。


「何しやがるっ。色なしのくせに」


「何って、私に殴りかかろうとしたから」


 小首を傾げながら、色なしは関係ないと思います。と付け加える。もしかして色なしは反撃しないで殴られるべきだとか思っているのだろうか。


 ……ぎりぎりと睨みつけられる目に、それは在りそうで怖い。考えるのを止めて口を開いていた。


「ともかく――先生を呼……」


 言いかける言葉に風を切る音が重なったのは気のせいだろうか。細く。だがどこか低い風を切る音。弾ける様に顔を上げるとどこから持ってきたと言いたげな太い木の棒に、キラキラと氷の破片が乗っている。それはまるで鱗のようにびっしりと木を覆い太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。


 相変わらず魔法は綺麗で。


 そんな事を考えているから一瞬対応が遅れる訳で。頭に振り下ろされているのだと気づいた時にはすでに遅い。なぜか目も閉じることも出来ずに私は食い入るようにそれを見つめるしか無かった。


「死ねっ」


 声がどこか遠くの方で聞こえたのは他人事に感じていた為だろうか。



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